3 / 112
ヴァニタス・アッシュフィールド7歳
03
しおりを挟む俺のやりたいこと、そして最高に楽しいことなんざひとつしかない。
誰にも邪魔をされず、思いっきり小説執筆に没頭することだ。
前の人生ではそれが不可能だった。
就職に失敗した俺は、アルバイトを掛け持ちして食いつなぐしかなかった。
小説を書きたかった。
思う存分書きたかった。
その衝動を抑えなければ生きていけない人生が、苦痛で苦痛で仕方なかった。
死んだら化けて出ると思っていた。
異世界転生するとは流石の俺も想像できなかったが。
だが、今の俺は貧困に苦しむキモオタではない。
超金持ちの悪役令息だ。
そして、このアッシュフィールド家には引きこもるのに最適な場所がある。
森の奥のボロ屋敷だ。
あの屋敷をリフォームして、大英雄御一行が訪れるまで物書きライフを満喫する。
我ながら完璧ではないか。
しかし……しかし、だ。
「何で俺はベッドに寝かされ自室から出してもらえないんだよ」
「記憶喪失なのだから当然じゃないですか、ヴァニタス様」
そりゃそうだ。
確かにそうだ。
7歳の子供が急に記憶喪失になったらそりゃ大人は慌てるだろう。
イイトコの坊っちゃんなら余計にさもありなん。
「スヴェン様。スピルス様がいらっしゃいました」
あ、ちなみにスヴェンってのはさっき俺が小首を傾げた時にデバフを受けなかった方の男の使用人な。
流石ゲームの世界というか、長い金髪を束ね、緑の瞳を持つ、かなりのイケメン執事だ。
いや、ちょっと待て。
今スピルスって言わなかったか?
まさか、賢者スピルス・リッジウェイ!?
いやいやいや、まさか、そんな。
だって、アイツ確か攻略本にイラストがあったもん。
ユスティートよりちょっと年齢高かったけど、20代みたいな外見だったぞ?
ってことは、俺とそんなに年齢かわらねぇんじゃねぇの?
スヴェンが扉を明けると、現れたのはやっぱり俺とそんなに年齢の変わらない子供。
紫がかった銀髪に赤みがかった紫の瞳を持つ可憐な子供が、白と紫のグラデーションに青やピンクの混じる、妖精が纏うような華やかな……しかし、若干大きめのローブをズルズルと引き摺りながら入ってきた。
「スピルス様、ご足労ありがとうございます」
「陛下の命ですから。それで、アッシュフィールド公爵の子息の様子は?」
スピルスがベッドの上の俺の様子を窺いながら、スヴェンに尋ねる。
「お身体には不調はないようです。むしろ記憶を失う前より元気な気すらします。しかし、記憶は戻りません。本人曰く、気づいたら鏡の前でぼんやりと立っていたと」
「……念のため、その鏡とやらも後で見せていただきましょうか?呪いの類である可能性も否定できません」
「ありがとうございます。ナイジェル様もそれが心配で自室に籠ってしまっていて」
息子の一大事に姿を表さない理由はそれかよクソ親父!
あぁ……まぁ、ゲームでも魔物化した王に怯えて保身最優先で動いてたんだっけか。
本当にどうしようもないダメ親父だな。
まぁ、ゲームの悪役なんてそんなモンかもしれねぇけど。
89
あなたにおすすめの小説
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる