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決闘前夜
05
しおりを挟むいや、ちょっと待って欲しい。
これまでの流れだと、スピルスは魔王側の人間ではないのか?
少なくともセオドアはそう読んでいるし、スヴェンやユスティートも同様だろう。
これまでの言動から、俺も正直疑っている。
けれど、スピルスが異世界転生者であれば話が変わらないか?
フィクション上での異世界転生もののテンプレートでは、異世界転生者は魔王を倒す勇者である。
そもそも、異世界転生モノとは「21世紀の日本人がノンストレスで楽しめる物語」として産み出されている。
スライムなどの魔物に転生するという例外もあるものの、基本的には異世界転生者は異世界の人々に持て囃される勇者であり、英雄である。
そして、その派生作品として産み出されたのが悪役令嬢・令息転生モノだ。
こちらの作品群は、転生時は確かに悪役側の人間ではあるものの、物語が進むにつれ善側に転がることが多い。
正に、今の俺の状況か。
こちらも基本的には「21世紀の日本人がノンストレスで楽しめる物語」として作り出されている為、悪役令嬢や悪役令息が最後まで悪を貫き善に制されるという作品は……ゼロとは言わないが少ないのは確か。
だから、異世界転生者が魔王側というのは……。
「そうか。だからメモリアはあんなことを言ったのか……」
異世界転生者が魔王側というのも、実は少なくないことに気がついた。
とはいえ、そのケースの場合『魔王側が善』として描かれることが多い。
戦いや戦争というのは、綺麗に善悪に別れるものではなく、正義と正義のぶつかり合いなのだ。
異世界転生ものであっても、結局その真理は変わらない。
「ありがとな、アルビオン。モチベーションが上がった。スピルスへの恋心を抜きにしても、俺は明日絶対にセオドアに勝つ。そしてスピルスと話す場を設けてもらう」
「うん、それがいいよー。あとさ、これは俺……かつての放浪の旅人アルビオンからの明日の決闘へのアドバイス」
アルビオンは得意気に片目を瞑り、ニヤリと笑った。
「セオドアは魔法や魔術のみの決闘って言ったけど、領域内での錬金術が可能なヴァニタスにとっては、剣を錬成して物理でセオドアを叩いても、それは“魔法”の範囲内だから。戦術は柔軟にね」
「それ……卑怯じゃね?」
「卑怯じゃない。これは戦術、もしくは戦略って言うんだよ」
ヴァニタスは真面目過ぎるよとアルビオンは笑う。
そうか、錬成した武器でセオドアを殴っても、それが錬金術で錬成したものであれば魔法は魔法か。
あるいは、セオドアに問い詰められた時に「これは魔法である」と押し通せばいいのだから……。
なるほど、確かにこれを戦術や戦略と考えれば、幅は広がる。
「ありがとう。俺は絶対に勝つ。俺は鳥籠の中の小鳥役も、囚われの姫君役も真っ平ゴメンだ。セオドアに繋がれた鎖を喰い千切ってやるぜ」
「それでこそヴァニタスだよ。君なら勝てると信じてる」
俺たちは顔を合わせて笑い合った。
前世では持てなかったが、同じ年の友達ってのも……結構、良いモンだな。
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