モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜

文字の大きさ
44 / 112
幕間5

02明日、私が救いを求めたら

しおりを挟む



「まだヴァニタス・アッシュフィールドも元ラスティル国王も捕獲できねぇのかよ。アンタそれでも元大学教授?生前50代の中身オッサン?マジで?」

 “魔王”と呼ばれる転生者は笑う。
 中学生で死んで転生した“魔王”は、100年以上もの間、この世界に存在し続けている。
 転生前の年齢と合算しても68歳にしかならない私よりも魔王の方が随分長生きな筈なのだが、魔王の精神は中学生のままだ。
魔王の心は、時を止めてしまっている。

「はい、申し訳ございません。魔王様」
「今回のラスティルの転生者の2人のうち、1人は役立たず。もう1人は低能低スペックのオッサンとはなぁ……」
「面目次第もございません」

 もう1人のラスティル王国の転生者……ヴァニタスの事には触れずに、私は魔王に頭を下げる。

 ヴァニタスをこちら側に巻き込む訳にはいかない。
 なぜなら、ヴァニタスは孝憲に似過ぎているのだ。

 最初は性格や口調が似ているだけだと思った。
 だが、彼の書く小説までもが、かつて孝憲の執筆した小説にあまりにも似すぎていた。
 高校時代、図書館で見せてもらった孝憲の小説よりもヴァニタスの小説は洗練されていたが……しかし、作品の主軸となる信念は孝憲のそれだった。

 ヴァニタスが孝憲本人か、似ているだけの別人なのかは、まだ判断できない。
 いや、……恐ろしくて聞けないという方が正しい。
 だが、ヴァニタスが孝憲本人でも、孝憲にそっくりなだけの別人の転生者でも、それでも私はヴァニタスを守らなければならない。
 馬鹿正直で正義感の塊のヴァニタスに、魔王の手先が務まる筈がない。
 私がヴァニタスよりも先に前世を取り戻し、魔王が先に私にコンタクトを取ったことは幸運だった。

「で、柚希さんは? ラスティルで見かけてない?」

 柚希颯志。
 魔王と共に100年以上の時を生きた転生者。
 だが、魔王と柚希颯志は思想が全く噛み合わない。

 魔王はこの世界の人間も前世同様醜悪だと断じて、人間に復讐することを望んでいる。
 柚希颯志は新たな転生者たちを“弟”と呼び、“弟”たちがこの世界で幸福である事を願う。

 柚希颯志が魔王ですら“弟”として接した事で魔王は柚希颯志に懐いている。
 だが、柚希颯志にとって魔王は、たくさんの“弟”のうちの一人でしかない。
 故に柚希颯志は魔王の意に反して自由に出奔して何処かに旅立ってしまうし、依存しているとも言える唯一無二の“兄”が自分を置き去りにして出奔する事に魔王は苛立つ。

 面倒なことになってしまっているとは思うが、私たちでは柚希颯志の捜索は不可能に近い。
 柚希颯志は人間ではなく、モンスターとしてこの世界に転生してしまっているのだから。

「見かけておりません」
「そ? じゃあ見つけたら即捕縛してこっちに送り返して」

 プツンという音と共に鏡が真っ黒になり、銀色に戻るとこの世界での私、スピルス・リッジウェイの姿を映し出した。

「ヴァニタスとの会談は明日……」

 ヴァニタスも元国王も私が魔王の手先であると気づいているのだろう。
 私も魔王の手先のような真似はしたくない。

「これではまるで、私が囚われの姫君のようではないですか……」

 鏡に手をついて苦笑する。

 ヴァニタス。
 明日私が救いを求めたら、貴方は手を差し伸べてくれますか?
 ヴァニタスを守りたいと思っているのに、ヴァニタスに助けを請う矛盾した自分の醜さに嘲笑する。

「孝憲…………」

明日、私が救いを求めたら……貴方は私を助けてくれますか?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

処理中です...