47 / 112
会談―午前―
03
しおりを挟むまた書斎に落ちる沈黙……を、ぶち壊すスライム男。
パンパンと沈黙を破るように手を叩いた後、ニヤリと笑う。
「はい、では自己紹介。まずはそこで剣を携えて立っているカッコいい英雄さんから」
「何で俺を巻き込むのかなー?」
いきなり呼びかけられたアルビオンはピクピクと引きつった笑みを浮かべる。
「お兄さんとぐっしょり濡れて絡み合った仲じゃない?」
「雨の中外に飛び出したお前を探しに行ってちょっとバトっただけじゃん!! 誤解されるような言い方しないでよ!!」
「あ、アルビオン……?」
俺とスピルスの視線を受けて、アルビオンは大きく息を吐く。
「何で今更自己紹介……名前はアルビオン。姓は不明。17歳。アリスティア王国出身。アリスの一族の生き残り。アリスティア王国がデュームズ王国とティアエラ王国に攻め滅ぼされてからは放浪の旅をしていた。前世の記憶を思い出したりしないから転生者ではないが、転生者を見ると前世の姿が見える時もある……これでいい?」
「うん、流石未来の大英雄!」
「…………斬るよ」
「いや、やめて。スライムの刺身なんて多分美味しくないよ」
スライム……刺身で食えるのか?
日本人はクラゲやナマコも食うからな……食おうと思えば食えるのか?
「やめてヴァニタス君。そんな食材を見るような目でお兄さんを見ないで。助けて英雄様」
「大人しく食われろ」
スライム男はアルビオンの世に隠れようとして、彼に蹴られていた。
痛い……と言って立ち上がると、スライム男はもう一度パンパンと手を叩いた。
「続いてお兄さんね。この世界でのお兄さんに名前はないんだ。スライムだからね。実はお兄さんの場合は『転生する前からスライムだった件』なんだけど、この事情については割愛するね。今のこの姿は転生前の姿だよ。柚希颯志、28歳。小さな美容室を経営していた美容師。今の身体に名前がないから、転生前の姓の柚希で呼ばれることが多いかな?颯志という名前はこの世界の人にはちょっと呼びにくいみたい。転生してからざっと100年くらい?モンスターだからわりと長生き。こんな感じかな?はい、次はヴァニタス君」
「質問というか、ツッコミ入れさせてくれねぇの!?」
「はい、リズミカル&スピーディーにGo!」
スライム改め柚希は、妙に発音が良い英語で俺に自己紹介を求める。
何だ、このノリの良い陽キャは……。
「あーっとぉ……この世界での名前はヴァニタス・アッシュフィールド。悪魔憑きとして幽閉されてるけど、一応アッシュフィールド家の長男。アルビオンと同じく17歳。転生前の名前は赤津孝憲。就職に失敗してコンビニの夜勤アルバイトをしていた。享年39歳」
陽キャのノリは無理……と半ば棒読みで自己紹介をすると、スピルスは目を見開いた。
え…………?
「死因は、小学生を助けてトラックに轢かれた?」
スピルスが問い掛ける。
「あぁ……ま、そうだけど…………」
「音倉市出身?」
「へ?」
つい間抜けな声を上げてしまった。
スピルスは言葉を続ける。
「私の名前はスピルス・リッジウェイ。16歳です。転生前の名前は虎田大和。心理学部の教授。享年52歳。音倉市出身。高校時代に図書館で赤津孝憲という同級生と知り合ったんだけど……」
「虎田大和……」
マジかよ。
スピルスが転生者であることは予測していた……が。
「生前の知り合いだったなんて…………」
俺は思わず両手で顔を覆う。
スピルスに、どれだけヴァニタスとしての外面を取り繕っても無駄なのだ。
彼は全てを知っている。
デブでキモオタだったかつての自分も、いじめられまくっていた惨めな自分も。
「俺は……お前を騙してたんだな、スピルス。本当の俺はあんなにも醜い姿なのに。この世界で容姿ガチャに成功しても、その過去は消せないのに……」
涙が溢れてくる。
まさか、こんな事で失恋が確定するなんて……。
恋って、こんなにも、苦しいんだな……。
25
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる