モラトリアムは物書きライフを満喫します。

星坂 蓮夜

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幕間9

空白の憤怒の行く末

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 優が殺された。
 サッカー部の連中に。

 第一発見者は俺だった。
 サッカーボールを収納する金属製の整理カゴ、キャスター付きの。
 その整理カゴをひっくり返した檻の中。
 整理カゴから出られないようにたくさんのダンベルを乗せられた、その中で。
 優は傷と痣と泥と砂と埃と精液塗れで、死んでいた。

 優の両親は『被害者の親』として騒いだ。
 連日ワイドショーに出演して、サッカー部の残虐な虐めと、まともに対応しようとしない学校や教師、顧問や教育委員会を激しく糾弾した。
 でも、俺にとっては優の両親も同罪だった。
 絵を描くのが好きで、運動が苦手で、美術部に入りたかった優を「絵なんかで稼げるわけがない」とぶん殴って、無理やりサッカー部に入れたのは優の両親だ。
 運動が苦手な優を運動部に入れたら、虐めの標的になることなんか目に見えていたのに。
 優の両親は自分たちの加害性は棚に上げて、私たちは『被害者の親』……即ち被害者なのだと叫ぶ。

 サッカー部の顧問と俺の担任教師は、第一発見者の俺を黙らせて事件を隠蔽しようとした。
 事件について口外したら内申を下げるとか、志望校に推薦しないとか言って。

 俺は絶望した。
 優を殺した世界と、自分に。
 俺が優の手を取って逃げれば、きっと優は死ななかった。
 でも、俺にはそれが出来なかった。
 俺自身も、両親に美術部に入るのを反対されて、反対を押し切る勇気もないまま弓道部に入った雑魚だったから。
 優の手を取って逃げる勇気が俺には無かった。

 だから俺は殺した。
 サッカー部の連中を、優の両親を、サッカー部の顧問と俺の担任を……そして俺自身を。
 小麦粉を使った粉塵爆発で木っ端微塵にした。
 許せない奴らを全員殺した。
 俺自身も含めて。




 けれど俺は転生してしまった。
 この世界に。
 前の世界の人間と大差ない人間が蔓延るこの世界に。

 絶望したさ。
 自死しようとも思った。
 それを止めたのが柚希さんだった。

 柚希さんは俺を抱き締めて言った。

「ごめんね。本当は俺たち大人が、響哉君と優君を助けなければいけなかったのに、助けられなかった」
「今度こそ、俺は響哉君を救うから。お兄さんが、君たち“弟”を絶対に守るから」

 なのに……。




「何故だ、柚希さん。どうして人間たちの味方をする。何故ラスティル王国に肩入れするんだ」

 柚希さんがラスティル王国に肩入れしたことで、スピルス・リッジウェイを絡めた計画も、マドリーン・アッシュフィールドを絡めた計画も破綻した。

「貴方は今までは人間と俺、どちら側にも加担しなかったじゃないか……」

 柚希さん。
 ずっと探していた。
 やっと姿を表した貴方は、俺を裏切っていた。
 人間側に加担して、ラスティル王国を救う為に動いている。

 何故だ。
 ラスティル王国にそこまでする価値があるのか?
 それとも、ヴァニタス・アッシュフィールドか?
 奴にそこまでの価値があるのか?

「許せない……」

 許せない。
 許せない。
 許せない。

 柚希さん、貴方が許せない。
 貴方を奪ったラスティル王国と、ヴァニタス・アッシュフィールドが許せない。

「ラスティル王国は必ず滅ぼす。ヴァニタス・アッシュフィールドには死よりも辛い苦痛を味あわせてやる……」

 そして柚希さん。
 今度こそ貴方を閉じ込める。
 もう何処にも行かないように、俺の傍から離れないように。

「柚希さん。後悔してももう遅いから」

 俺を一人にした貴方が悪いんだ。
 俺を裏切った貴方が悪いんだ。
 絶対に絶対に許さない。




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