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幕間10
悪堕ち刑事のレコレクション
しおりを挟む僕、黒須晶仁が初めて“いじめ”というモノを目の当たりにしたのは小学2年生の時だった。
僕は当たり前のようにいじめの被害者を庇い、加害者に立ち向かい……そして負けた。
誰かを守るには力が必要だ……僕はこの時学んだ。
力を得る為に僕は、空手と合気道を習い始めた。
正義を貫く為の力を得る為に。
誰かを守る為の力を得る為に。
僕はただひたすらに、鍛練を続けた。
高校生になると、不良ですら僕に敵う者は存在しなかった。
そんな僕は、当たり前のように警察官を志望した。
正義を貫く為に。
誰かを守る為に。
けれど、やがて僕は絶望した。
現代日本において、“正義”なんてものは存在しなかった。
警察ですら、弱者を嗤い、強者に忖度する。
性被害者女性に対しては「お前にも隙があるからだ」「そんな格好をしていれば性被害に合って当然だ」と嘲る。
そして、政府与党が絡む巨悪の宗教団体の摘発には尻尾を巻いて逃げる。
僕は一体、何を目指してきたのだろう……。
膝を折った僕に手を差し伸べてくれたのが楠木香代さんだった。
心理カウンセラーの香代さんは、その裏で、求めに応じてクライアントを安楽死させる非合法団体『アンジャベル』に所属していた。
『アンジャベル』において香代さんは、心理カウンセラーの知識や技術を活かし、安楽死を望むクライアントの最期の時まで寄り添う自殺付添人の役目を担っていた。
そして『アンジャベル』に安楽死を望むのは、僕が……警察が救えなかった被害者たちだった。
性暴力のトラウマから立ち直れず、働くどころか外出するのも困難な女性。
両親が宗教団体への献金を繰り返し、家庭が崩壊し、進学も就職も出来ず、非正規雇用を渡り歩いてきた宗教2世。
彼ら彼女らの最期に香代さんは親身になって寄り添い、安らかに眠るまでケアに尽力した。
『アンジャベル』の、香代さんの行っていることは日本では罪であり、彼女らは悪だ。
しかし、僕には彼女らを責めることなどできなかった。
日本の警察は安楽死を望む者たちを自己責任と嘲笑い、自助努力が足りないと一蹴してきたのだ。
僕は刑事として活躍する傍ら、いつの間にか『アンジャベル』にも所属していた。
香代さんと恋仲になり、そして……。
香代さんは自死した。
彼女の自死に自殺付添人はいなかった。
彼女は一人、孤独の中で死んだ。
優しい彼女は少しずつ、自殺付添人という重責に耐えられなくなり、やがて潰れてしまったのだろう。
そして愚かな僕は、彼女が壊れ始めていることにすら気付けなかった。
自暴自棄になった僕は、『アンジャベル』で使われていた安楽死の薬を街中にばら撒いた。
そして、ゴルフを楽しむ休暇中の政治家たちを、ゴルフ場ごと爆破した。
僕自身も、その爆破に巻き込まれて死んだ。
爆死した僕は、この『アルビオンズ・プレッジ』の世界にアレクシス・ピンコットとして生まれ変わった。
僕の記憶の中の『アルビオンズ・プレッジ』の物語は、古いゲームであるが故の勧善懲悪の物語だったのだが……。
しかし、ゲームと現実は違った。
両親は子供に無関心だった。
現代日本ならネグレクトだ。
両親は善人ではなかった。
僕を育ててくれたのは、姉のマドリーンだった。
僕はマドリーンに香代さんを重ねた。
今度こそ、守らなければならないと思った。
どのような理不尽に身を浸しても、悪と罵られようとも姉を守らなければならない。
けれど、マドリーンは幸せな結婚すら許されなかった。
アッシュフィールド公爵の愛妾となり、周囲から蔑まれる姉。
正妻レオノーラ様の自死のせいで、周囲から悪女と責められ続ける姉。
姉のお蔭で伯爵家からの異例の宰相就任となったが、少しも嬉しくなかった。
姉が幸せでなければ、僕は幸せにはなれない。
だから、僕は魔王の手を取った。
僕は悪と罵られようとも、姉を救い出し、今度こそ幸せにするのだ。
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