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『西園寺ルキアの考察』

 俺、赤津孝憲……いや、ペンネーム“遠野アウラ”が小説投稿サイトに投稿していた小説だ。

 ホームズ役の西園寺ルキア(女性のような名前だが男だ)とワトソン役の道満煌二郎が難事件を解決する、本格ミステリ小説。

 乙村直澄と天塚隆斗が登場するのはシリーズ第1話。

 話の展開はこうだった。
 天塚隆斗は学外の女子高生とつき合っていた。
 守屋綾乃だ。

 守屋綾乃はある日、部活の買い出しの為に街に出掛けた軽音部の生徒たちに追いかけ回され、逃げる為に下りた遮断機の中に入ってしまい、電車に轢かれて死亡してしまう。

 守屋綾乃の死は自殺として処理されたが、ある日、天塚隆斗は真実を知ってしまう。

 ちなみに、ただ一人真面目に買い出しをしていた乙村直澄は守屋綾乃の事件には加わっていないのだが、天塚隆斗は乙村直澄も共犯だと思い込んでしまった。

 そして……。
 冬休みに帰宅せず、寮に残った軽音部の生徒たちを、天塚隆斗は次々に殺害してゆく。
 西園寺ルキアが犯人を明らかにした時は既に天塚隆斗は乙村直澄と炎の海となった旧校舎の中。

 そこで天塚隆斗は、乙村直澄が守屋綾乃の事件とは無関係だと知る。
 だが既に、旧校舎は炎に包まれ、脱出は不可能……。





「自分の前世が、誰かの書いた物語の登場人物だった……か」

 アレクシスが呟いた。

「誰かに描かれた人生が凄惨なものなら、確かに描いた人物を殴ってやりたいとは思うかもしれない」

 柚希も生い立ちが凄惨な分、容赦がない。

「でも、バニーちゃんは今はヴァニタス・アッシュフィールドだ」

 フォローするように口にしたジェラルドと俺を柚希は睨む。

「今も書いてるんだよね……ヴァニタス君」
「…………あぁ」

 書いている。
 自分が固有グラなしのモブ敵、悪役令息のヴァニタス・アッシュフィールドとして主人公と敵対するまではモラトリアムだと決めて、この屋敷で書き続けてきた。

 領域魔法に血を使う方法も、元はこの屋敷限定で錬成した紙、それに書いた小説をスピルスが持ち出す為に編み出したものだ。

「俺は、彼らの“親”だ。俺には、彼らを生み出した責任がある」

 柚希がふわっと笑った。

「わかってるなら、もうこれ以上は責めないよ」
「柚希さん、彼らがアルビオンとシルヴェスターなのは、魔王の采配ですか?」

 スピルスの問い掛けに、柚希は首を横に振った。

「響哉君に前世が誰であったのか見る能力があったら、優君見つけて幸せに暮らしてる筈だもん。こちらを混乱させたかっただけ。アルビオン君とシルヴェスター君の過去が天塚隆斗君と乙村直澄君だったのは、たまたま……偶然だと思う」
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