残響迷夢―惨劇の母体たち―

星坂 蓮夜

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真相

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 園村奈津美の父親は現役の教師。
 母親は元教師だった。
 2人は職場で出会い、結婚したらしい。
 そして、奈津美には姉がいた。

 奈津美の姉、睦美は、中学に進学すると厳しい両親に反抗的な態度を取るようになった。
 派手な化粧をし、深夜に遊び歩く。

 教え諭す立場の自分に生意気にも反論する睦美に父、誠一が暴力を奮うのは日常茶飯事だった。
 母、由紀子も止めるどころか睦美の悲鳴が近所に聞こえないように、睦美の口にタオルを突っ込んだ。

 それでも睦美は派手な化粧や深夜の外出を止めず、傷だらけ、痣だらけの身体で果敢に両親に立ち向かった。
 そして、どんなに傷だらけ、痣だらけになりながらも、睦美はいつも、奈津美にだけは笑顔で優しく接した。

「父さんと母さんの仕打ちには腹が立つけど、それを理由に奈津美に当たり散らしてたら、ただの八つ当たりだよ。それじゃあの2人と変わらない。私はあんな大人には絶対にならないって決めたんだ」

 睦美の口癖だった。
 奈津美はそんな姉を心の底から尊敬していた。
 姉のように何者にも屈しない、強く、そして美しく、優しい女性になりたいと思っていた……だが。

 あの日、睦美が誠一に拳で頬を殴られた時、睦美の首はボキッと大きな音を立てた。
 睦美の首はおよそ人間ではあり得ない程の恐ろしい角度に曲がったまま、軽い身体を浮かせた。
 そして……睦美の身体は頭から壁に激突した。
 ピクピクと痙攣しながら床に落ちる睦美の身体。
 どう見ても手遅れだった。
 やがて睦美はピクリとも動かなくなった。

 誠一と由紀子は何を思ったのか、奈津美にも手伝わせて睦美の死体を壁に塗り込んだ。
 何日も、何日もかけて。
 睦美の身体を壁に埋め込んだ。

 奈津美は嫌だと泣いた。
 その度に誠一と由紀子に叩かれた。
 やがて、睦美の身体が完全に壁に埋まってしまうと、誠一と由紀子は睦美の捜索願いを出した。
 奈津美が小学2年生の時だった。
 そして、この出来事は奈津美にとって地獄の始まりに過ぎなかった。

 誠一と由紀子は、奈津美の口から真実が漏れるのを恐れた。
 現役教師が、元教師が、自分の子供を虐待死させたと世間に知られるのを恐れていたのかもしれない。
 奈津美は学校が終わり次第、一刻も早く帰宅するよう、誠一と由紀子に強要された。
 姉が壁に埋められた、自宅へ。

 帰宅した奈津美はすぐに由紀子に身体検査をされた。
 ポケットの中身から、時には下着の中まで、念入りに検査をされた。
 そして学校であったことを事細かに聞かれた。
 それは尋問に等しかった。
 少しでも嘘が混じると誠一からの折檻が待っている。

 奈津美の身体の服に隠れる部分は傷や痣だらけで、けれど家族以外と触れ合わない奈津美の傷や痣に誰も気づかない。
 奈津美が大好きだった姉を失ったことにも、その姉が自宅の壁の中に埋められていることにも、誰も気づいてくれない。

 社会人となっても、帰宅後の身体検査と尋問は続いた。
 奈津美には、生きているという実感がなかった。
 奈津美はいくつになっても誠一と由紀子に生かされている奴隷だった。

 踏切で、踊る少女と出会う前は。
 磯谷真里亜が起こした《ドグラマグラ》に巻き込まれるまでは。


 踏切での邂逅の後、奈津美は庭にあったスコップで誠一と由紀子を殴り殺し、壁に埋めた。
 奈津美は生まれて初めて自由を手に入れた。

 姉のように化粧をしてみた。
 同じ部署のあかりに誘われて美容室に行ってみた。
 憧れていた服に袖を通してみた。
 あかりは、服に合う化粧を、化粧に合う服を教えてくれる。
 まるで、かつての姉、睦美のように。

 しかし、やっと手に入れた煌びやかな日常とは裏腹に、帰宅した奈津美は飢えを感じた。

 もっと欲しい。
 もっと殺したい。
 もっと埋めたい。

 お姉ちゃんが寂しくないように。
 お父さんとお母さんが寂しくないように。
 私が、孤独と罪悪感に殺されないように。

 奇しくも、今まで男性に声を掛けられたことがなかった奈津美は、あかりに教えてもらい、美容やファッションに磨きをかけたことで、多くの男性に声を掛けられるようになった。
 
 奈津美は声を掛けてきた男性に、憧れのあかりの名前を名乗り、大好きな姉と両親が壁に埋まっている自宅へ誘い込み、そして……。

 暁市連続失踪事件が幕を上げた。


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