出〇転生～異世界でも充電させてもらえませんか？～異世界には電気がなくてヤバいよヤバいよ～

第三話 お風呂もいただいたけど、体質の違いでこの世界の住人は熱湯風呂がいい湯加減みたいでヤバいよヤバいよ

　晩御飯を満喫した哲朗とコリルは、朗らかな気分でおウチへ。
「おかえり哲朗ちゃん、どうだった？」
「いやぁ、もう最高でした。日本にいる知人とそっくりな奴にも出会えたし」
「それはよかったわ♪」
「哲朗おじさんにかわいいシール貰っちゃった♪」
　コリルは嬉しそうに例のステッカーをかざす。
「素敵なデザインね。うちの家宝にするわ。あのう、哲朗ちゃん、日本ってどの辺りにあるのかしら？　世界地図にも国名が載ってなくって、すごく気になるの。ワガデ王国はここなんだけど」
　コスヤは地球儀らしきものを持って来て、哲朗の眼前にかざした。
俺の知ってる世界地図と形が全然違うし、ここ完全に異世界だよ、これで確信だよ。ヤバいよヤバいよ。
「いやぁ、ちょっと、俺にも分からないっすね」
　哲朗はハハッと笑ってこう答えておく。
「そっか。日本はますます謎めいた国ね。哲朗ちゃん、長旅で疲れたでしょ。お風呂も沸いてるからどうぞ」
「すみませんお母さん、そこまでしていただいて」
哲朗はコスヤさんに脱衣所へと案内される。
「これがお着替えよ。大きめだから、哲朗ちゃんのサイズにも合うと思うわ」
「寝巻まで、用意していただいて、ありがとうございますお母さん」
「いえいえ」
　タータンチェック柄の服が用意されていた。
　これがこの国の一般的な寝巻らしい。
　全裸にタオル一枚になった哲朗は、浴室へ。
「うわぁ！　すげえじゃん。日本の温泉とよく似てるな」
広々として、檜風のもので作られた、大人でも一度に十人以上は入れそうな湯船があった。
「シャンプーとか、リンスとかボディソープってのは、この世界にはやっぱないかぁ。シャワーや水道もないし。井戸から汲んで来てるのかな？　洗い場は無いし、この世界だと、すぐに湯船に直行なのか？」
　哲朗が困っていると、
「哲朗おじさん、いっしょにはーいろう♪」
　ガラガラッと引き戸が開かれコリルがすっぽんぽんで入ってくる。
　つるぺたなお子様体型、哲朗とは娘どころか孫でも不思議ではないくらい年が離れているため彼は欲情するはずもない。
「コリルちゃん、日本では湯船に浸かる前に体を洗うのがマナーなんだけど、ここって洗い場ないよね？」
「日本ではそうやって入るんだ！　湯船に浸かったら勝手に汚れ落ちるのに不思議だね」
「やっぱそうかぁ。俺今めっちゃ汚れてるからそのまま入るのは湯船に汚れが浮いて悪い気がするんだけどなぁ、郷に入っては郷に従えってことか」
　哲朗が悩みながら呟いていると、ザブゥゥンと湯飛沫が――。
　コリルは言った通り直で湯船に浸かったわけだ。
　そして恍惚の表情を浮かべる。
「哲朗おじさんも早く早くぅ」
「分かった、分かった。ん？　これ、湯気がすごい出てるし、めっちゃ熱くない？」
「えっ？　ちょうどいい湯加減だと思うんだけど」
　コリルはきょとんとした表情。
「いやこれ絶対熱湯風呂だろ」
　哲朗は恐る恐る指先を突っ込んでみる。
「あちちちっ、めっちゃ熱い！」
　すぐに反射的に引っ込めた。
「やっぱり熱いよ。俺がバラエティでやらされてる熱湯風呂よりもさらに熱いしヤバいよヤバいよ。お母さん風呂沸かし過ぎだよ。って突っ込みたいけどこの世界の住人にとってはこれがちょうどいい湯加減なのか！　俺とは体質が違ってヤバいよヤバいよ」
「ゆっくりと浸かれば大丈夫だよ」
　コリルは恍惚の表情で言う。彼女にとってはとっても気持ち良いようだ。
「じゃあ、入りまーす」
　哲朗はそう言うも、足がすくんでしまう。
「押すなよ、押すなよ、“絶対”押すなよ」
　前かがみになり湯面をじーっと眺めながらそう命じると、
「え～い♪」
　いつの間にか背後に回ったコリルに腰の辺りをポンっと押されてしまった。
「うわっと！」
　哲朗は顔面から湯船へドボォォン！　とダイブ。
「あっ、ちちちちちっ！　ヤバいよヤバいよ」
　そしてすぐに湯船から反射的に飛び出す。
「哲朗おじさん、今の反応が面白ぉい！」
　コリルはアハハッと笑う。
「コラコラ、ダメだろコリルちゃん」
　彼のお家芸のためか、叱らず優しく注意。
「ごめんなさーい♪　押すなよって言われたら、すごく押したくなっちゃったの」
　コリルはてへっと笑う。
「そう感じる本能はこの世界の住人にも共通かぁ。俺にはこんな熱い湯無理だ」
　哲朗は苦笑い。
「ワガデ王国のお風呂はどこも温泉になってて、腰痛にもよく効くのに勿体ないなぁ」
「俺、ヘルニア持ちだから助かるなぁ。もう少しぬるかったらゆっくり浸かれるんだけどなぁ」
「ぬるくしたら効果が薄れちゃうよ。ところで、ヘルニアってなぁに？」
「立てないくらい腰が痛くなるヤバい病気だよ」
「日本にはそんな恐ろしい病気があるんだね」
　コリルの表情が若干強張ってしまう。
「いやぁ。病名がついてないだけでこの世界にもあると思うなぁ」
　哲朗はハハハッと笑う。
「わたし、ヘルニアにならないように毎日しっかり湯船に浸からなきゃ。ねえ、哲朗おじさん、わたしの宿題、ちょっとだけ手伝ってくれない？」
「ダメダメ、自力でやらないと。それに俺バカだし、この世界の文字なんて読めないから助けになれないよ」
「あ～ん。残念」
　コリルは湯船に浸かって、哲朗は浸からず湯船の横で、二人で親子のように楽しげに会話を弾ませていると、
「コリルちゃん、コリルちゃんちで泊まることになってる哲朗っていう旅人、めちゃくちゃ面白い芸人なんだってね」
「あたし、ヤバいよヤバいよのおじちゃんといっしょに遊びたぁい♪」
「興味深いです」
「あっ、あそこにいるぅ！」
　近所に住む同い年くらいの女の子達が大勢、すっぽんぽんで次々と入ってくる。
　コリルのお友達のようだ。
哲朗のいる世界の人と同じ耳の形の子、コリルと同じエルフ耳の子の他、尻尾が生えていたり、熊や猫や狸っぽい動物の耳の形をした子達もいていろんな種族が入り交じりだ。
「うわぁっ！　こんなに来られるとおじさん困っちゃうなぁ」
　哲朗は慌てて湯船にまた飛び込むも、
「あっちぃぃぃ～。ヤバいよヤバいよ」
　あまりの熱さにやはり反射的に飛び出してしまう。
「「「「「「「アハハハハハハッ！」」」」」」」
「お○ん〇ん丸見えだぁーっ♪」
「噂通りの面白い芸人さんだね♪」
　大勢の女の子達から大笑いされた。
「いきなりこんな大勢の女の子が入ってくるなんて聞いてないよォ」
　哲朗は困惑顔で同期の芸人のギャグも入れる。
「この国ではお風呂には大勢で入るのが普通だよ。わたしもよくお友達のおウチのお風呂入りに行ってるよ」
　コリルは爽やか笑顔で伝える。
「おじちゃん、もう一回やってぇ～」
「分かった、分かった。あと一回だけだぞ」
　声援に応え、哲朗はまた湯船のすぐ横へ。
「お嬢ちゃん達、押すなよ、押すなよ、“絶対に”押すなよ」
　今度は四つん這いになり湯面をじーっと眺めながらそう命じると、
「それそれ！」
「そりゃぁ」
「えいっ」
　何人かから尻を押されたり、蹴られたりもして、
「ぅわっととと」
　哲朗はバランスを崩し、湯船にダイブ。
「あちちちちちちちっ！　ヤバいよヤバいよ」
　そして反射的に飛び出る。
　女の子達からまたも大爆笑。
「こらぁ！　お嬢ちゃん達、押すなって言ったじゃないかぁ」
　哲朗は優しく注意。
「もう一回！」
「もうカンベンしてくださいよー！」
　と言いつつも、そのあと五回もあの芸を披露してあげた。
　　　　　　　　　　☆
「この世界の子達、熱さ耐性ヤバいよヤバいよ」
　湯船に浸かって気持ち良さそうにゆったりくつろぐ女の子達を後目に、哲朗は風呂場をあとにした。
「コリル、おっぱいまだ小さいから哲朗おじさん喜ばないよね」
「ひゃんっ、もう。哲朗おじさんはエッチなおじさんじゃないと思うよ」
　女の子達はその後もしばらく和気藹々と入浴タイムを楽しむのだった。


「ここが哲朗ちゃんのお部屋よ。狭くて悪いけど」
　コスヤさんは二階にある空き部屋をあてがってくれた。六畳ほどの広さであった。
　机にクローゼット、ベッドもついていた。
　本棚には何十冊かの書物が。
「いえいえ、めっちゃ豪華で、高級ホテルみたいに立派なお部屋っすよ。時計もアンティーク感溢れてて超恰好良いですし」
　哲朗の顔がほころぶ。
「喜んでもらえて嬉しいわ」
　コスヤさんはフフッと微笑み、哲朗の頭をなでてあげた。
「いやぁ、照れますわ」
　哲朗は頬をほんのり赤らめた。
「ではごゆっくり」
　コスヤさんは朗らかな気分で一階へと降りていく。
「……そういや、お父さんはいないのかな？　まあ、いろんな家庭の事情があるだろうし、そこは触れない方がいいよな。この世界、文明的には十七、八世紀のヨーロッパって感じだな。さてと」
　哲朗は本棚から適当に一冊の書物を取り出す。
「この本、やっぱ文字が日本語のひらがなカタカナ漢字じゃないのか。一文字も読めなくてヤバいよヤバいよ」
　そう呟いて、その本を本棚にしまうと、すぐにランタンの明かりを消して床に就いたのだった。
「このベッド、寝心地最っ高じゃないですか。ぐっすり眠れそうだよ。これ羽毛布団かな？　この世界の鳥って、チョ〇ボとかグリフォンみたいなファンタジーって感じのがマジでいそうだよな」
　こうして、哲朗の異世界生活初日の夜は、静かに更けていく。

「おやすみママ」
「おやすみ」
　コリルが寝たあと、
「コスヤさんち、哲朗っていう面白い芸人さんが泊まりに来てるんだってね」
「うん、朗らかで親しみやすくってなかなか素敵な方よ」
「ラバンナで魔物を鼻に挟んでふざけた芸をしたって聞いたわ」
「芸はふざけてるかもだけど、性格は真面目そうな感じだったわよ。賭け事ばかりしてた別れた旦那とは大違い」
「じゃあさあ、再婚したら？　哲朗さんと」
「いやぁ、それは」
「コスヤ、照れ笑いしてるね」
「してないって」
「またまたぁ」
「会ってみたいな」
「疲れてもう寝てると思うから、またそのうち♪」
「コスヤって、相変わらず変わり者好きだよね。コスヤが学生時代に気になってた男の子も、みんな見事に芸人や芸術家で普通とは違う道進んでたし」
コスヤさんはご近所のいろんな種族のおば様、いや、お姉様方達とゆったりと入浴タイムを楽しんだのだった。