イラスト趣味で漫画家夢見る女子高生の私が異世界では芸術家と評され、自由気ままに絵を描きながらサブカル文化を広めます

明石竜

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第十六話 この国の国民的スポーツ大会って、スポーツ得意な子はもちろん、私みたいな凄く苦手な子でも楽しめるようになってて最高のイベントだね。

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 ある日のコリル宅での朝食団欒時、こんな会話が交わされていた。
「今週末は、この国の国民的スポーツ競技大会を観に行くよ。夏と冬の年二回行われてるんだ。トップアスリートだけじゃなく、誰でも気軽に飛び入り参加出来るよ」
「私スポーツ苦手だから、見物するだけでいいな」
「この大会、競争が目当てって人ばかりでもないから。むしろ遊びで出る人が大半よ。順位を決める競技だけじゃなく、みんなで楽しめるスポーツの催しもやってるわ」
「ギムナジウムの生徒で勉強嫌いな子が、この大会で良い結果を残すと大学の体育学部に進むのに有利になるからそれ目当ての子もいるんだって。先生が言ってたよ」
「入試制度は日本と似てるとこもあるんだね。日本ではスポーツ推薦がそんな感じだよ」
「スポーツが専門的に学べる大学はリーチェ王国体育大学、略称リチェ体大が特に人気があるのよ。体育系の単科大学としては国内最難関になってて、プロスポーツ選手の他、学校の体育の先生やスポーツインストラクターさん、騎士なんかを目指すスポーツ好きな子達の憧れの大学になってるわ」
「日本でいう日体大的な存在なんだね。コリルちゃんとコスヤさんは出場するんですか?」
「順位を競うやつには出なぁい」
「わたくしも、順位を決める競技には出ないわ。スポーツは子どもの頃から苦手で、恥かくだけだから」
「みんなで楽しめる催しには参加するよ。桜子お姉ちゃんもきっと楽しめると思うよ」
「私でも楽しめそうな催しもやってるんだね。それは期待出来るね」
       ☆
「そのイベントは、あたしも毎回観に行ってるの。参加してみることもあるわ。あたしみたいにスポーツ凄く苦手な人からスポーツ大好きな人、プロスポーツ選手を目指してる人、現役のプロスポーツ選手まで誰もが楽しめるのが魅力なの」
「そう聞かされるとますます楽しみになって来たよ」
 リャモロンも同行することに。
オベロナとポポララは私的な活動で忙しいので不参加ということだ。

       ☆

大会当日、桜子、コリル、コスヤさんはいつものドラゴンに乗せてもらい、途中でリャモロンとも合流して王立運動競技場へ。晴れて絶好の運動日和だ。
「私のいた世界の陸上競技場と違って、古代ローマのコロッセオみたいな感じだね。決闘も行われてそうな雰囲気だよ」
 外観を眺め、桜子はやや強張った表情で呟く。
「殺し合いの決闘が行われてたのは、わたしが生まれるよりずーっと大昔の話だよ。今ではここで行われるイベントは平和の祭典になってるよ」
 コリルは朗らかな表情で呟く。
「学校でリーチェ王国史の授業でも教わるけど、かつてはこの場所やリーチェ王国各地の闘技場で人間同士や人間と魔物、魔物同士での殺し合いの決闘が行われてたの。百年以上前にはそういう残虐なことは行われないようになって、スポーツ大会が行われるようになったのよ。ただ、殺し合いまではいかない決闘は当初は行われてて、それが戦争を鼓舞する原因にもなってしまったから、戦後は廃止されて、エンターテインメントショーの要素がより強くなって、まさに平和の祭典って感じになったの」
 リャモロンが明るい表情で伝えると、
「そうだったんだ。私のいた世界の人々も大昔、こういう雰囲気の場所で殺し合いの決闘をしてたみたいだけど、この世界でも今は行われなくなってるみたいで安心したよ♪」
 桜子の顔がほころんだのだった。
      ※
 四人は競技場内へ。
「いろんな種目がいろんな会場で並行して行われるから、見たい競技が被っちゃうこともあるよ」
「私のいた世界のオリンピックや世界陸上と同じようなものかぁ。木登りとか、釣りとか、フルーツ狩りとかもあるんだね。ユニークで面白そうだなぁ」
「開会式ではトップアスリートさん達のパフォーマンスショーも見られるよ」
「そんなのもあるの! 楽しみだなぁ」
 桜子は入場口にて無料配布されたスケジュール表と会場案内が載せられたパンフレットを確認し、期待感たっぷり。
 見晴らしのいい観客席にリャモロン、桜子、コリル、コスヤさんの並びで座る。
 しばらく待っていると、
「本日は、リーチェ王国スポーツ夏季競技大会にお越し下さいまして、誠に、ありがとうございました」 
見るからに怪しい間抜け面のメイクをしたおじさんがご登場。ひょうきんな声でご挨拶する。
「「「「「「「ラムちゃぁ~ん」」」」」」」
「「「「「「「きゃぁぁぁ~ん、ラムラングル王子ぃ~」」」」」」」
 観客から歓喜の声。
 その正体は、ラムラングル王子だったのだ。
コカトリスの着ぐるみ姿だった。
「走り幅跳びって、鳥になった気分になれるから最高だなぁ」
 ラムラングル王子はそう告げて、砂場に向かって走る。
「うわぁ~~~~~~~」
 そして前のめりで派手にズッコケた。
 全身砂まみれになったラムラングル王子。
「あ~れぇぇぇぇぇぇぇ~」
間、髪を入れず砂場から噴水がドバァァァーッと噴き出して、ラムラングル王子は吹っ飛ばされてしまった。
「わあああああ~」
そこへ、タイミングを合わせるかのように、グリフォンが飛んで来て、ラムラングル王子をパクリ。
 パチパチパチパチパチッ!
 アハハハハハハハハハハハハハハハッ!
 ラムラングル王子のひょうきんな声も相まって、観客から拍手喝采大きな笑い。
「ラムラングル王子、お笑い芸も凄く面白いね!」
 桜子も大絶賛だ。
「みんなーっ、スポーツ大会思う存分楽しんでってね~」
 くわえられたラムラングル王子は、楽しげに呟いて退場していく。
「ラムラングル王子、とっても面白いお笑い芸、ありがとうございました」
 女性アナウンサーは楽しそうに感謝の意を表した。
「ラムラングル王子、あんなアクロバティックな芸も出来るんだね」
「ラムラングル王子のお笑い芸は、本職のコメディアンさん達も舌を巻くほどの実力を持ってるって言われてるの」
 リャモロンは楽しそうに伝える。
 少しのち、
 おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
 今度はどよめきが。
 トップアスリート達のパフォーマンスが始まったのだ。
「なんか、アニメやワイヤーアクション使った実写映像みたいな動きしてるし、私のいた世界のトップアスリート達より身体能力凄いかも。オリンピックに出たらみんな金メダル取れそう」
「ほんと、人間離れした動きよね。漫画のキャラクター作りの参考にもなるわ」
高速走り、大ジャンプ、後方宙返り、前方宙返りなどなど様々なパフォーマンスが繰り広げられ、開会式は終了した。
「まもなく、競技開始です。競技に出たい方は、遠慮せずにどんどんエントリーして下さいね」
 女性声優さんから伝えられ、老若男女種族問わず大勢の人々がそれぞれの競技参加者の集合場所へと向かっていった。
「せっかくだし、木登り競技、見てみたいな」
 桜子達四人は、木登りが行われる会場へ、体長二〇メートル以上はある、シャトルバスならぬシャトルドラゴンに乗せてもらって移動していく。
 馬車も臨時便が出ているとのことだ。
 ドラゴン渋滞を防ぐため、会場間の移動は自家ドラゴンを使わずなるべく公共の乗り物を使うように要請しているとのことである。

 森の中の一角が会場となっていた。
周囲には高さ三〇メートルから五〇メートルくらいの木々がたくさん立ち並ぶ。
 見物者や競技参加者の集合場所へ向かっていく途中、
「桜子さーん、お久し振りですね」
 ウッキキーッ♪
 背後から、若い女性の呼びかける声とサルのような鳴き声が。
「あっ、あなたはラムカオショーのお姉さんに、カシタ君も」
 桜子は思わず顔がにやけてしまった。
 ウキキキッ♪
 カシタ君は嬉しそうに桜子の元へトコトコ駆け寄っていく。
「カシタ君も木登り競技に参加するんだね」
 桜子が問いかけると、
 ウキッ♪
カシタ君はこくりと頷いた。
「カシタ君、頑張ってね」
 ウキキキッ♪
 桜子からエールが送られると、カシタ君は少し照れくさそうに、調教師のお姉さんのもとへと戻っていくのだった。
「この競技大会には、人間も魔物さんもいっしょに参加する競技も多いんだよ」
「そうなんだ! 私のいた世界のスポーツ大会とはそこも違うね」
 コリルから伝えられ、桜子は文化の違いにまたも驚かされた。

 カシタ君は、競技に使われる高さ三〇メートルを超える木の前に立つと、
 ウキ、ウキ、ウキ♪
 幹に飛び移ってひょいひょいひょいと軽々登っていきあっという間に頂上へ。
 パチパチパチパチパチパチッ!
 大勢の観客達から拍手喝采。
 下りる時も軽快な動きであった。
「カシタ君、さすがだねぇ。だがまだまだだよ。ではいっきまーす」
 このエルフ耳な若い女性の参加者は二メートル以上垂直飛びし、枝に飛び乗るとぴょんぴょんと枝の間を飛び移りながら登っていき、瞬く間に頂上へ。
「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」」」
「さすが木登り世界チャンピオン!」
 パチパチパチパチパチッ!
 観客達から拍手喝采。
「カシタ君よりも速いよ。この世界のトップアスリート、身体能力高過ぎるよ。私には最初の枝のとこまで登るのも無理そうだな」
 桜子はびっくり仰天。
「木登りの速さはあいつには絶対敵わねえ」
「さすがジャングル育ち。経験の差が違う」
 木登りアスリートらしき人も苦笑いで呟く。
 ウキィ。
 カシタ君はちょっぴり悔しそう。
 他の参加者達も、世界チャンピオンやカシタ君にタイムこそ及ばないものの頂上まで辿り着ける者は多かった。
 そんな中、
「木登りは、木登りが上手な魔物になり切ればいいんですよ」
 クワガタムシのような着ぐるみを着込んだおじさんがご登場。
 ラムラングル王子だった。
「「「「「「「ラムちゃぁ~ん」」」」」」」
「「「「「「「ラムラングル王子ぃ~」」」」」」」
 彼の現れる所、毎度ながらに大歓声。
 ラムラングル王子は幹にがっちりしがみ付き、登って行こうとする。
「あ~れ~」
 けれども滑って落下。
 パチパチパチパチパチッ!
 それでも拍手喝采である。
「もっと助走を付ければいけるはず」
 ラムラングル王子はムーンウォークのような感じで後ろに下がっていく。
「「「「「「「ラムちゃぁ~ん、うしろ、うしろ」」」」」」」 
 観客達が笑いながら注意を促すも、
「うわわわぁ~」
 ドボォォォン!
 池に落下してしまい、
 パチパチパチパチパチッ!
 アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
 観客達から再度拍手喝采大爆笑。
「あのコミカルでリズミカルな動き、凄いよ。コントの達人さんみたいだよ」
 桜子も楽しげに大絶賛する。
「では皆さん、また別の競技でお会いしましょう」
 浮かび上がったラムラングル王子は、なんと、ダンクルオステウスの着ぐるみ衣装へ変身していた。
 陸に上がるとトコトコ早足でどこかへ走り去っていく。
パチパチパチパチパチッ!
「「「「「すげえ、手品だぁーっ」」」」」
 アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
 観客達からまたも拍手喝采大爆笑で、ラムラングル王子を見送ったのだった。
「ラムラングル王子、多芸多才過ぎるよ」
 桜子は感激の眼差しで。
             ☆
「この近くでは、釣りも行われてるみたいだね」
「釣りは競技じゃなくて、誰でも楽しめるイベントとして行われてるんだ。この近くの森で行われてるフルーツ狩りもね」
「そうなんだ。私のいた世界じゃ見たことのないお魚さんも釣れそうだね」
「桜子お姉ちゃん、参加してみる?」
「そうだなぁ。せっかくだし」
ってなわけで、桜子達四人はこのあと釣りに参加することに。
 木登り会場近くの湖が会場となっていた。
 湖畔に老若男女種族問わず大勢の観客や参加者が集う。
 屋台もたくさん出展されていた。
「この湖で獲れる魔物の屋台も出てるよ」
 コリルから伝えられ、桜子はナマズ風の魔物の串焼きを早速購入。
「お顔は凄いけど、私のいた世界にいたウナギよりも美味しいかも♪」
 味わってみて、満面の笑みを浮かべる。
「ゴゴガンゴナマズさんは、リーチェ王国各地の湖に棲息してて、捕まえるのも簡単な五級魔物だけど、味は極級って呼ばれてるんだよ。わたしも大好き♪」
「わたくしは、塩焼きが一番好きよ」
「市場でも安価で手に入って、栄養満点なとこもこのナマズさんのいいところよ」
 他の三人もそのナマズの味を堪能したあと、手漕ぎ舟を借りて、少し沖合へ。

「異世界で釣り。のんびりスローライフって感じだね♪」
 桜子は楽し気な気分で釣り糸を垂らす。
 そんな中、
 ア~ォォォ。
 水中からうなり声。
 この舟のすぐ横をルヒブが泳いでいたのだ。
「キュプラちゃんかな?」
 桜子の質問に、
 ア~ォ。
 そうだよ。と答えるかのように低いうなり声を上げた。
「キュプラちゃんですよ」
 付近を通りがかった舟に乗っていたお方が伝える。
「あっ、あなたはルヒブショーのお姉さんじゃないですか。お久し振りですね♪」
 桜子は嬉しそうな笑みを浮かべる。
 キュプラちゃんで確定なようだ。
「キャプラちゃんは、湖に転落した参加者がいた場合に、速やかに救出してくれる役割を果たせるんですよ」
「それは頼もしいですね。あっ、なんかかった。うわっ、重いっ!」
「大丈夫? 桜子さん。手伝うわ」
 リャモロンは桜子の背中側に回り、腰のあたりを掴む。
「ひゃっ!」
 桜子も、
「わわわっ、きゃんっ!」
 リャモロンも、
ドボォン!
 と転落してしまった。
「ありがとう、キュプラちゃん」
「さっそく役に立ってくれたわね」
 桜子とリャモロン、キュプラちゃんが背中に乗せてくれて、すぐに救出されたのだった。
 全長二メートル以上はある、鯉のような魔物がかかったのだ。
「よくあることなので、大丈夫ですよ」
 調教師のお姉さんは伝える。
 他の参加者も思わぬ大物がかかり、転落する人もいた。
 そしてキュプラちゃんに救出されていく。
 ともあれ、桜子が釣った魚は屋台の人が調理してくれた。
「自分で釣った魚だけに、すっごく美味しいよ♪」
 ご満悦な桜子。
 このあとみんなは、フルーツ狩りの会場へ。
 広大な森の中の高木や低木に実った、桜子のいた世界では見かけなかった形のフルーツを楽しみながら幹を揺すって落としたり、もぎ取ったりしていく。
「フルーツ狩りはあたし、毎回参加してるわ。市場では見かけないレアなフルーツが見つかることもあるのが魅力なの」
「あ〇森をリアルでやってる気分ですっごく楽しい。これもスポーツっていうのは、なんか不思議な感じ♪」
「体を動かして作業してるから、スポーツだよ。わたしもフルーツ狩りのイベント大好き♪」
 ピュキュ♪
 キュププ♪
「わぁ。ありがとう。こんなこともしてくれるなんて、この世界最高だよ♪」
 翼の生えた、空飛ぶうさぎやリスのような魔物が高い所にあって獲れないフルーツを持って来てくれたりもした。
 元いた世界では絶対出来ない体験に、桜子の気分はますます朗らかに。
「ここから王立競技場までの道沿いも、いろんなイベントが行われてるから、帰りは歩いて帰ろう」
 コリルは提案する。
みんなはフルーツ狩り会場をあとにすると、王立競技場の方へ歩いて戻っていく。
付近の大きな公園では、スポーツ系を中心とした専門学校ブースが出展されていた。
「コスプレ祭りの時にリャモロンちゃんが言ってた通りだね。芸術・芸能系並みに賑わってるね」
 ブースの周辺では、桜子やリャモロンと同い年から一、二学年年上くらいの子達が大勢集まっていた。
「出来ればリチェ体大行きたいけど、学科試験もけっこう点取らなあかんのがきついわ~」
「リチェ体大はおれらには絶対無理やろな」
 こんな会話を友人同士で交わす子の姿も。
「やっぱ陽キャな感じの子が多めだね。特に右端のブースが凄い人込み。騎士養成学校って書かれてあるね」
「専門学校は基本的に大学より格下って世間では言われてるけど、騎士養成学校だけは特別。入学試験もあって、並の大学以上に入学するのが難しくて社会的評価が高いのよ」
 リャモロンが伝える。
「私のいた世界だと、防衛大学校みたいな位置付けかな? ここもお客さんがほとんどいない専門学校ブースもあるね。あっ、ソフィチアさん。今回も出展されたんですね」
「ああ、桜子ちゃん。ここでも相変わらず人気がないんだ」
「それは残念ですね」
「騎士養成学校も出展されているので、分が悪かったですね」
 リャモロンは苦笑い。
「このイベントですらこの客の入りじゃ、もう開校は諦めるよ」
ソフィチアさんは苦い表情で呟く。
「専門学校を開校する以外にも、魔物ハンターさんの魅力を広める方法はいろいろあると思うから、めげないで頑張って」
 コスヤさんから励ますように言われると、
「新たな広報の手段、考えてみますよ、コスヤ姉さん」
 ソフィチアさんの表情は少し明るくなったのだった。

 この近くの広場では、
「フライングボルトペンギンちゃん達と駆けっこ対決、参加者募集中でーす」
 女性声優さんからこんなアナウンスがあり、付近では子ども達を中心に多くの参加者達が。
「これもこの大会人気の催しよ。あたしもちっちゃい頃何度か出たことあったわ」
「桜子お姉ちゃん、これは出てみる?」
「走るのは自信ないから、観る方にするよ」
 というわけで、桜子達四人は観客席へ。
「よぉい、スタート! あっ、フライングボルトペンギンちゃん達、名前の通りフライングスタートしちゃったね」
 女性声優さんは微笑みながら伝える。
 天敵からいち早く逃げるための習性とのことで、競技はそのまま続行されることに。
 観客達も温かく見守っていた。
「あのペンギンさん、走るのめちゃくちゃ速いね。百メートル九秒台で走れそう」
 ほとんどの人々がフライングボルトペンギンの特に速い個体には負けていた。
「フライングボルトペンギンさんは走るのも泳ぐのもトップアスリート並みに速いよ」
 コリルは楽しそうに伝える。
走り終えたフライングボルトペンギンの中には、天に向かって弓矢を射るような独特なポーズをとる個体も。
参加者や観客達の中にもそれを真似する人々も多くいた。
この催しを見届けて、桜子達は付近の路上を歩き進む。
そこでは、ちょうどマラソンが行われていた。
「私のいた世界のマラソンは42.195キロだけど、こっちの世界は何キロ走るんだろ」
「百キロだよ。獰猛な魔物さんも出る険しい山道も走るの」
「私のいた世界のマラソンより過酷なんだね」
「完走出来るのはトップアスリートの人達だけだよ。大半の参加者は楽しみながら走れる所まで走るって目標でやってるよ」
「そうなんだ。それなら手軽に参加出来そうだね。コスプレ姿も人もいるね。私のいた世界だと神戸マラソンみたいな市民マラソンみたいな感じなんだね」
 フライングボルトペンギンや、シロヒネコも走っていた。
 他にも犬、猫、馬、羊なんかもたくさん。
「完走目指しますぞぉ~」
 桜子がこの世界に広めてしまったミャ〇ミャクの着ぐるみを身に纏った人まで走っていた。
「人間も動物さんもいっしょになって走るマラソン、素晴らしい光景だね」
 温かく見送って、次に見たい競技が行われる会場へと移動していく。
 道中では、
「この記録じゃリチェ体大のスポーツ推薦は無理だな。学科試験を頑張れ」
「マジかよ! 絶対イケる思ったのに」
「例年なら推薦貰えただろうけど、周りとの比較だからな。今夏の大会は上位層におまえより凄い奴らが多く集まっちまったんだ」
「おれ全然勉強してねぇしやべぇよ」
 教師らしき人から告げられる十代後半くらいの男子ギムナジウム生の姿も。
「スポーツ推薦を当てにして全然勉強せずに、結局ダメで嘆く学生さんの姿も、毎回見られる光景よ」
 コスヤさんはフフッと微笑む。
「このマラソン、コースの途中から参加してもオーケイだよ」
 参加者の一人から伝えられると、
「じゃあ、せっかくだし、私も走ってみよっかな」
 桜子は走り出す。
「桜子お姉ちゃん、待ってぇ~」
「わたくしも、走れる所まで走ってみるわ」
「あたしも走るのは、体育の講義以外では久し振り」
 他の三人もあとに続く。

「疲れたぁ~。やっぱ私運動苦手だよ」
「わたしも疲れたぁ」
「わたくしも」
「あたしももう無理。でも楽しいわ」
 桜子もコリルもコスヤさんも、リャモロンも数百メートルでリタイヤ。
 引き続きマラソンを眺めながら歩いていると、
「やっほー、桜子ちゃ~ん」
 上空からこんな呼び声が。
「パラグライダーをやってるのかな?」
 桜子が上を見上げてみると、
 なんと、グリフォンに掴まれた人々の姿が。
「桜子ちゃんこのイベント初参加でしょ。ぜひ乗ってみなよ。これは競うやつじゃなくて体験型のスポーツだから、手軽に楽しめるよ」
 その方々の一人から勧められる。
「この世界のパラグライダーはグリフォンさんに掴んでもらうんだね。めちゃくちゃ楽しそう。シンドバッドの冒険気分が味わえそう」
 桜子はわくわく気分で体験してみることに。
 乗り場に辿り着くと、
「大丈夫かな?」
 桜子は恐る恐るグリフォンに背を向ける。
 無事、がっちりと掴んでもらえて離陸成功。
「すっごぉい! 乗り心地最高だよ! こんな体験した日本の高校生、私しかいないだろうなぁ」
 旋回中、桜子は恐怖心もあったがそれよりも楽しさの方がずっと上回っていた。
「いい絵になりそうね」
 リャモロンはそんな桜子の姿をイラストに残しておいたのだった。
 写真も動画もない世界ならではの思い出の記録の残し方なのだ。
「グリフォンさん、私が今までに体験して来たアトラクションの中で史上最高にエキサイティングな体験ありがとう」
 桜子は感謝の意を表す。
 グァァァ! 
 グリフォンは喜んでくれているかのような鳴き声を上げ、空高く舞い上がっていった。
 
異世界パラグライダーも満喫し、マラソンコース沿いをさらに歩き進み、公園の近くに差し掛かったところ、
「この会場でもうすぐ夏ならではの水かけイベントが始まるんだ。これけっこう楽しいよ」
 コリルから伝えられる。
「U〇Jで真夏にやってるウォーターパレード的なことをやるんだね」
「桜子さん、涼めるからおススメよ」
「冬のスポーツ大会の時は、同じ場所で雪合戦が行われるのよ」
 四人は公園内の会場へ。
大きなステージが設けられていて、その周りには老若男女種族問わず多くの人々が。
「みんなーっ、いっぱいかかって暑さを吹き飛ばしちゃおう!」
「今日は特に暑いし、絶好の水かけ日和だね」
「大人の人も、子どもの頃に戻った気分で水浴び楽しもうぜ」
 大会の運営スタッフさんや男女の声優さん、アイドル達がステージ上から四方八方にいる観客達に向けてアンティークなデザインの水鉄砲や、水の入ったバケツを振り回したりして、観客と共に楽しむ。ステージ下にも降りて来て、より間近でも楽しませてくれた。
 パーオォォン♪
 象のような魔物もいて、長い鼻で水を散らし回っていた。
「これも魔物さんもいっしょになって楽しめるなんて、最高だね♪」
「あたし泳ぐのは苦手だけど、こういう水遊びは楽しめるわ」
桜子達はずぶ濡れにされるも、お日様の力ですぐに乾いていく。
みんな大満足な気分でこの会場をあとにした。

あのあと、桜子達四人は開会式が行われた会場に戻り、そこで行われるロブレンティア雑技団のショーを見物。
「私のいた世界の雑技団よりも身体能力高過ぎだよ」
三メートル以上は垂直飛びしたり、空中で五回転くらいしたり、高速綱渡りしたりしたアクロバティックな演技を見て、桜子は大興奮。
 次の百メートル競走では、
「魔物さんもいっしょに走るんだね。それに、男女いっしょなんだね」
 この世界ならではの光景にわくわく感が高まる。
 屈強なフライングボルトペンギンも参加していた。
 参加者達がスタートすると、
「人間もみんな速過ぎだよ。私のいた世界の百メートルのトップアスリートさん達よりも速いような……」
 参加者達の驚異的な速さに驚かされる。
「一着は8秒9、二着目9秒1、三着目も9秒1でした」
 女性声優さんからタイム記録が伝えられると、
「やっぱり速いんだ! 大阪・関西万博のジャマイカパビリオンに等身大の像もあったボルトさんもびっくりな記録だね」
 桜子はさらに驚かされた。
 他にも様々な競技が行われ、夕方に閉会式。
 初っ端、
「皆様、本日はリーチェ王国夏のスポーツ競技大会にご参加またはご覧下さいまして、誠に、ありがとうございました。また冬の大会でお会いしましょう!」
 ラムラングル王子がグリフォンの嘴に挟まれ旋回しながら登場し、
 アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
 観客から大きな笑いを誘った。
「ラムラングル王子、とっても楽しませてくれてありがとう」
 このパフォーマンスに桜子も大絶賛。
 このあと、成績上位者表彰式。
 人間も魔物もいっしょに表彰されていく。
 ラムカオのカシタ君は木登り競技で二位入賞。
「またあのお姉さんかよ」
「木登りが得意な猿の魔物より身体能力上って半端ないよな」
「まあ、あのお姉さんより身体能力高い魔物は獰猛だからこの大会に参加させるのは危険過ぎるもんな」
 観客からはこんな反応も。
続いて、ロブレンティア市長などからのご挨拶があり、夏季リーチェ王国民スポーツ競技大会は華やかに幕を閉じたのだった。

「桜子お姉ちゃん、このスポーツ大会すごく楽しめたみたいだね」
「想像以上にスポーツ苦手な人でも参加しても観るだけでも凄く楽しいイベントだったよ。魔物さんもいっしょってことが特に最高。冬の大会も参加したいよ」

 みんなは満足げにそれぞれの家路に就く。
そしてお風呂に浸かって疲れを癒したのだった。

 冬の大会は、雪と氷を利用したスポーツが盛んに行われるとのことだ。
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かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

暗算参謀は王国を追放される――戦わずして勝ち続けた男の失脚譚――

まさき
ファンタジー
現代日本から異世界へ転生した主人公。 彼に与えられた唯一の能力は、瞬時にあらゆる数値を弾き出す「暗算」だった。 剣も魔法も使えない。 だが確率と戦略を読み解くことで、王国の戦を幾度も勝利へ導いていく。 やがて王国の戦略顧問として絶大な信頼を得るが、 完璧すぎる功績は貴族の嫉妬を招き、巧妙な罠により不正の罪を着せられてしまう。 証明できぬ潔白。 国の安定を優先した王の裁定。 そして彼は、王国を追放される。 それでも彼は怒らない。 数字は嘘をつかないと知っているからだ。 戦わずして勝ち続けた参謀が、国を去るその日までを描く、 知略と静かな誇りの異世界戦略譚。

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