半神の守護者

ぴっさま

文字の大きさ
上 下
52 / 81

第44話 情報と計画(獣人の説明有)

しおりを挟む
ロッドは獣人の件などについて、どうせなら皆で情報を共有しようと考え、一旦また辺境伯城に戻って皆を〔瞬間移動テレポート〕で砦まで連れてきた。

そして砦の司令室に集まって少し早い夕食をとりながら、情報交換を行う事になったのである。

〈参加メンバー〉

■ロッド一行
ロッド、アイリス(変装なし)、マリー、ハム美、ピーちゃん

■ジュリアン一行
ジュリアン領主代行、ジョアンナ、リーンステア騎士団長代行、辺境伯家の家宰ローモンド、ジュリアンとジョアンナ付きの侍女2名

■獣人
狼獣人ドルフ


ロッドは丁度良いので、在庫として保存してあったホットドックを放出する事にした。

もうこれを街で売らなくても当分困らないだけのお金はあるのだ。

テーブルの上の大皿にホットドックを積上げ、マスタード、ケチャップ、そして飲み物としてオレンジジュース、レモンティ、ウーロン茶を出す。

ロッドは紙皿と紙コップを全員に配り、ホットドックにマスタードとケチャップを付ける例を皆に見せながら説明した。

「これはホットドックという異国の食べ物だ。パンに細長い肉を挟むような形になっている。ここに、こんな感じでマスタードという少し辛いソースを掛け、さらにケチャップという甘いソースを上から掛ける。辛いのが苦手な場合はマスタードは無理に付けなくても良いぞ」

そして完成したホットドックを狼獣人ドルフの皿に乗せ、ウーロン茶を入れてあげる。

同じようにして、マリーにはマスタード抜きホットドックとオレンジジュースを配膳し、ハム美とピーちゃんには餌と水とオヤツを配膳した。

辺境伯城から砦まで〔瞬間移動テレポート〕した後、転移未経験の者達は物凄くびっくりして緊張した様子であったが、ホットドックには興味深々となった。

ドルフは自分の皿に置かれたホットドックを、何も言わず端から嚙じる。
そして目を丸くしたかと思うと、瞬く間に全て食べてしまったのである。

「絶対に食べ切れないぐらいの量があるから、落ち着いて食べてくれ」
それを見たロッドは笑いながらそう言うと、ホットドックの補充をした。

ローモンドは恐る恐るソースを掛け、飲み物を入れる。

リーンステアは2本同時に準備して自分の皿に置いた。
慣れた手付きでレモンティーも入れる。

皆も準備が出来たので、食事を始めるのであった。

ーー

「お肉がプリッとしていて、ソースも甘辛くて美味しいです~」
「これは(もぐもぐ)美味しすぎて(もぐもぐ)またいくらでも食べられます!」
「うん! 美味しい(もぐもぐ)! こんな美味しい食べ物がまだあるとは!(もぐもぐ)」
ホットドックはジョアンナ、リーンステア、ジュリアンにも好評であった。

「これは! (もぐもぐ)この絶妙なソース! それとかなり高品質なパンと肉ですな! これは美味です!」
ローモンドや、侍女達も満足そうであった。

〈それぞれが食べた物〉
ロッド ホットドック2個、ウーロン茶2杯
アイリス ホットドック1個、レモンティ1杯
マリー ホットドック1個、オレンジジュース2杯
ジュリアン ホットドック2個、レモンティ2杯
ジョアンナ ホットドック1個、レモンティ2杯
リーンステア ホットドック4個、レモンティ3杯
ローモンド ホットドック2個、ウーロン茶2杯
侍女2名 ホットドック2個、オレンジジュース2杯
獣人ドルフ ホットドック6個、ウーロン茶4杯


ロッドも一時的に仮面を外し、皆も食べながらであるが情報を共有した。

・帝国軍3万、砦側が2千であり、増援は見込めない
・砦の司令官の要請で多大な犠牲を出し、攻城兵器を1機破壊した
・攻城兵器破壊の折り、リーンステアがあと一歩で死にそうになった
・残りの攻城兵器はロッドが全て魔法で破壊した
・対立していた砦の司令官はロッドが何処かへ飛ばして排除した
・ジュリアンが皆に演説し、その結果絶大な支持を得て砦を掌握した
・ロッドは戦闘に直接参加せず、門の防御と治療のみを担当している
・リーンステアの指揮で、本日の砦の防御はほぼ被害ゼロで終わった
・狼獣人ドルフをロッドが興味本位で生け捕った
・獣人は帝国で戦争の捨て駒とされている
・ロッドの事がなぜか獣人の言い伝えになっていた

リーンステアが死にそうになった件では、ジョアンナが涙目でリーンステアに今後は無茶をしないでと抗議する一幕もあった。

そして肝心の狼獣人ドルフの話である。
ドルフは自身が知る獣人の里の歴史をロッド達に語った。

ドルフの属する獣人の里は150年ぐらい前からあり、当初は凄く小さく村のような規模であったが、長い年月の中で国を持たない獣人達が自然と集まり、次第に大きくなって今のように獣人だけの社会を形成していった。

当初から人間とは敵対しない方針であり、人間達との交易等も多少行っていたが、突如80年ほど前に帝国の侵攻を受け、敗れてからは帝国に従属する事になった。

それから帝国に戦争に駆り出されたり、税の代わりに奴隷にされたりする事になったのである。

近年は代替わりした帝国皇帝の拡大政策による外征で、より多くの同胞が戦争に駆り出されるようになった結果、使い捨てにされた獣人の数は急速に減少しつつあった。

今から十数年ほど前に獣人の里が一度蜂起した事があったが、すぐに帝国軍により鎮圧され、その際は多くの者が見せしめのため処刑される事となった。

それ以降、警戒した帝国側は獣人の里に監視を置くと共に、各部族の族長達の家系の後継者を帝都に強制的に住まわせ、人質とする体制になったのである。

今は伝承に希望を託し、帝国の圧政からの開放を皆が待ち望んでいるという事であった。

ーー

獣人達の深刻な現状を聞き終わった後に、シンとする室内。

「しかし獣人達の伝承について、イクティス様は何も言っていなかったが、アイリスは何か知っているのか?」
ロッドが静寂を破り、アイリスに訪ねる。

わたくしもイクティス様から特に何も知らされてはおりませんでした。ですが未来を視られたイクティス様が、あらかじめロッド様の事を言い伝えるようにされていても、不思議では無いと考えます」

アイリスがロッドに答えた。

「そうか。そうなると獣人達を助けろというのがイクティス様の意志なのかも知れないな。邪神絡みで何か意味があるのか……」
ロッドが考えながら独り言のように呟いた。

リーンステアが恐る恐る手を上げ、こわごわとロッド達に質問する。
「あのう……今のお話しだと、お二人はイクティス神と会話した事があるという様に聞こえるのですが……」

皆の顔が強張る。

「……ありますよ。それが何か?」
ロッドとの会話に水を差された形となったアイリスが、刺々しく答えた。

ロッドはしまった!と思ったが、もう遅かった。
(せめてこれ以上突っ込まれないように言っておくか……)
「あ~皆、今の話は聞かなかった事にして忘れて欲しい……良いかな?」

「ロッド様。承知いたしました」
ローモンドがそう言って深々と頭を下げた。

ジュリアンとジョアンナ、リーンステアや侍女達もフンフンと無言で頷く。
マリーは何の事だか分かっていないようであった。

ーー

ロッドはその後の話し合いで、辺境伯家と協力関係になれるのであれば獣人の里をまるごと辺境伯領に移住させても良いという事を、ジュリアンに約束させた。

なにしろ辺境なので土地だけは有り余っているのだ。

領都アステルから2日ほどの距離にある草原に居住地も定め、その場所を見た事があるというリーンステアから場所のイメージも入手した。

獣人達は安寧を得る代償として、今後は辺境伯家に協力する。
但し、帝国の様に戦争に強制的に徴兵したり、奴隷にして酷使したりはしないという事を前提とした。

だが、まだこれは正式な取り決めには出来ない。

それは獣人ドルフが何の立場も権限も持たないからであった。
実はドルフが獣人の王子だった、などという都合が良い事は無かったのである。

その為、ロッドはこれから直ぐに獣人の里までドルフと共に行き、一旦口頭で話を纏めて来る事になった。

辺境伯家で誰が行くかで揉めたが、最終的には強硬に主張したジョアンナが、外交担当の立場として行く事になったのである。

ジュリアンとリーンステアは砦の守りがあるし、ローモンドは領都アステルの管理を疎かには出来ないためである。

だがそれだけではない。
ジョアンナもジュリアンに負けず、一連の騒動を経て成長していたのである。

ジョアンナは見てきた。

殺される寸前だった兄、逃げ惑う人々、煙を吹き上げるたくさんの建物、落ちてくる星、そして恐ろしい吸血鬼ヴァンパイアや魔物達。

自分には戦う力は無くその方面で役に立つ事は出来ないが、何かしら自分に出来る事で、人々の力になりたい、領民を護りたいとの想いを強くしていたのである。


ロッドは〔瞬間移動テレポート〕でローモンド、アイリス、マリー、ピーちゃん、侍女1名を辺境伯城に送った後、ハム美、獣人ドルフ、ジョアンナと侍女1名を連れて獣人の里に赴くのであった。


ーーーーー

■獣人について

獣人は人間と比較してほぼ同じ姿であり、人間のようで人間ではない事から、人間からは大きくは亜人と分類されている。

名前の通り獣の特性を多く持っており、容姿にも耳や目や鼻の形状、毛の生え方や毛深さにそれが現れている。

基本的に耳や尾は種族のそれであるし、男性は鼻や口にも種族的な特徴がある事が多い。

身体能力的には人間よりも優れた点が多く、兎の獣人であればジャンプ力が高い、虎の獣人であれば力が強いなど種族的な特徴を反映させた能力を持つ。

対して魔法適性を持つ獣人は人間よりも少ない傾向にある。

男女の違いも当然あり、男性は前述した鼻などの特徴が別れる事があり、女性は男性よりも総じて毛深さは控えめであるし、種族や個体によっては人間と一見して区別が困難な場合もある。

人間との交配は可能であるが確率は非常に低く、運良く生まれた場合には人間ではなく、必ず獣人となる。

獣人同士は基本的には同じ種族でないと交配出来ないが、近い種族間、例えば狼獣人と犬獣人、虎獣人と猫獣人などの近い種族間においては、低確率ではあるが交配が可能である。

但し、種族が混ざり合う事はなくランダムでどちらかの種族になる。

また、この世界の獣人は人間と同じく単胎たんたい動物であり、通常の犬猫とは異なり、多産ではない。

このため元々の数で勝る人間よりも総数は少なく、この世界では少数派である。

獣人には種族的な違いがあり、狼獣人や猫獣人、虎獣人といった具合に種族別に分かれる。

但し、狼獣人が犬獣人よりも上位となるような事はなく、獣人という枠の中では皆平等である。

能力が高い者の中で、稀に人間社会で冒険者となっている者も存在する。
しおりを挟む

処理中です...