上 下
4 / 16

4.お父様と朝食を

しおりを挟む
 翌朝客間のベッドで目覚めた。
 カーテン越しに窓の外を見ると明るくなってるので朝だろう。
 あまりに深く眠り過ぎて自分の状況が理解できない。
 沢山眠って疲労は少し回復したのだろうけど、
 長年蓄積した疲労は身体の芯に残り、
 だるさが抜けきれていない。

 寧ろ昨日よりダルいくらいだった。
 例えるなら物凄くこった肩を揉んでもらって、
 自分がこっていた事を中途半端に自覚した気分だ。

 客間を見渡すと誰もいない。
 お父様もいなかった、あれは夢だったのだろうか。
 だとしたらあまりにも残酷だ。

 そう思った直後にコンコンとドアが叩かれる。

「アイリーン、起きてるかい?部屋に入るよ?」
「はい、平気です」
「おはようアイリーン、良く眠れたかい?」
「はい、久しぶりにいっぱい眠れました」
「そうか良かった、食事を作って来たから、
 軽く湯浴みして準備が出来たら一緒に食べよう」
「食事を作ったって、お父様がですか?」
「まあ、本当に簡単な料理だけどね」
「凄いです、すぐお風呂に入ってきます」

 男のしかも貴族の人で料理を作る人は皆無だ。
 正直少し驚いた。
 私はベッドから出ると急いで浴槽に向かった。

 部屋を出ると執事のフレッドが待機して浴槽の前までついてきてくれた。
 義母義姉対策だろう。
 浴槽に入ると侍女が待っていて私の湯浴みを手伝ってくれた。
 猫足のバスタブの中のお湯は緑色だった。
 不思議そうに私が見ていると侍女が説明をしてくれた。

「旦那様から血行に良く、
 温まる薬草を入れたお湯の中に入れるように指示されましたので」

 お父様は、薬草にも詳しいのですね。
 料理も出来るし、朝見たお顔は凛々しかったですし。

 リシュール家は元々眉目秀麗、聡明叡知として名高いだけど、
 分家の人達からのお父様に評判はすこぶる悪かった。

 きっと見る目が無いのだろう。

「お父様、お待たせしました」
「では食事にしようか」
「はい!」

 お父様がカートに乗った銀のプレートの蓋を取ると色鮮やかな料理があった。
「この黄色いのと赤いソースは何でしょうか?」
「これは玉子で作ったオムレツだよ、中にチーズが入っている、
 赤いのはトマトソースと言ってトマトを煮込んだ物を調味料で味を整えたんだ」

「お野菜にのっているソースはなんですか?」
「マヨネーズという玉子をベースに作った調味料だね。
 両方ともあまり日持ちしないので調味料として販売は出来ないが、
 領の名物料理として料理店に卸そうかと思っている。
 味見を兼ねて感想を聞かせて欲しい」
「分かりました」

 まずは、チーズオムレツ。
「お、美味しい!」
「そうか良かった」
「外はしっかり火が通っているのに、中はトロトロでチーズもあっさりしているのに深みがあって、
 トマトの酸味がきいた味と良くあいます」

 次にお野菜を食べた。
「この白い調味料は凄いです。
 普通お野菜は、塩か柑橘類か、料理の付け合せのソースで食べるんですが、
 これなら新鮮なお野菜の味を楽しめます」
「後で調理方法を書いた紙を渡してあげるよ」
「ありがとうお父様!」

 私は淑女としてどうかと思うけど、ついついはしゃいでしまった。

「朝はフルーツで、昼寝が終わって夕食前のお茶時間にお菓子を食べると良い」

「お昼寝にお茶時間ですか......お義母様達が許してくれないと思います」
「彼女達の許しなど必要ない。
 昨日も寝ているアイリーンの所に行こうとしていたから、
 きつく注意したがどうも全く懲りない性格みたいで、
 今後も何かして来たら私に何でも相談しなさい。
 もしも黙っていたら、アイリーンにも罰を与えるよ」

 お父様の真剣な眼差しを見て、私はガクブルだった。

「罰は痛いのですか?痛いのは嫌です......」
「私がアイリーンに痛い事するわけ無いだろう、辛いことも酷いこともしない」
「それでは罰が出来ない気がしますが」
「うーん、確かに、困った…
 そうだ、ブクブクに太るまで脂っこい料理しか作らないとかどうだろう?」
「…それは女の子にとって一番酷い罰だと思います」

「まあ冗談は、ともかくとしてアイリーンはもっと体重をふやしなさい。
 基礎体力は、精神的にも肉体的にも必要だからね。
 夜に湯浴みをする前の軽い運動も教えてあげるから、体力をつけること」

 私が頷くと、二人でお話ししながら、朝食を再開した。

ーーーー
今日から一日一話、お昼毎の投稿になると思います
投稿出来ない日もあるかも知れません。
しおりを挟む

処理中です...