脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

文字の大きさ
29 / 442

彼女に贈る花束。

しおりを挟む

 さて、思ったより長居をしてしまいましたわ。イヴも迎えに来ないままでしたが、もうお暇することにしましょう。

「――あら?」

 私の目を惹いたのは、水辺にある一輪の大きな花。蕾の状態ですわね。私の視線の先に、ヒューゴ殿も気づいたようですね。

「ああ、あの花ですか。私が育てた花になります。もうじき開花予定となってます」
「まあ、そうですの。咲いた頃にまた、訪れたいですわ。よろしいかしら」
「……ええ、まあ。構いませんけど」

 あら、言ってみるものですわね。承諾してもらえましたわ。ですが、彼はどうやら気がかりなことがあるようですわ。

「……夜にだけ、咲く花ですから。忍び込む形になります」
「……まあ」

 夜、ですって。夜限定ですって。忍び込みときましたか。

「……夜、ですが。明かりは沢山持っていきますから」
「明かり?」

 ヒューゴ殿は逡巡してましたが、何やら結論づいたようです。相当暗いということでしょうか。私はつい、尋ねてしまいました。

「……いえ、こちらの話です。では、付き添わせていただきますので」

 私単独でというわけにも、いきませんし。育て主の付き添いも必要でしょうね……ヒューゴ殿の。別の婦人の方、というのもですわね。忍び込むわけですし。

「ええ、あなたさえよければ。伺わせていただきますわ」
「そう……ですか」

 あなたはもう反対されないのでしょう? でしたら、私とて乗じますわ。単純に開花も見たいですもの。

「ちなみに開花時期ですが、五月末頃となっております。前後することもありますので、またお知らせしますから」
「……!」

 ヒューゴ殿にとっては、何てことないことでしょう。だから、さらりと仰る。でも私に、私達にとってのその日は――。

「……どうかなさいましたか?」
「いいえ? 楽しみにしておりますわね」

 私の表情が陰ったのを、ヒューゴ殿は気づかれたのかしら。心配されていうようです。ここは何事もないように振る舞いませんと。


 外に出ると、またしてもでした。雨が降っておりました。

「雨季でもないのに。最近、よく降りますね」
「ええ、まったくですわ……」

 ヒューゴ殿のお言葉に私は同意する。準備の良い彼は、手に傘を持っておられました。

「……結局、こうなりましたね。お送りします」
「ええ、お願いしますわ」
「……はあ」

 今、溜息つきましたわね。ですが、この私。そのお言葉に甘えましてよ。傘持っておりませんもの。ずぶ濡れ確定ですもの。


 私達は正門まで歩いていく。傘の中、二人密着しながら……ということはありません。

「まあ、ヒューゴ殿……」

 ヒューゴ殿の肩が濡れてしまっていました。私は濡れずに済んでおりますが、そうもいきません。

「どうぞ、もっと寄ってらして?」
「え!」

 ヒューゴ殿の肩がびくっとなりました。ええと、拒絶反応かしら。まあ……傷つきはしますが、今はあなたの肩問題に意識を向けることにしますわ。

「濡れているではありませんの。なんでしたら。こちらがもう少しはみ出るようにしましょうか」
「それはそれで……困ります」

 ヒューゴ殿は気持ち少しだけ、体を寄せてきました。わずかです、わずか。譲歩してくださったのでしょう。私達はそのまま並んで歩くことにしました。

「……」
「……」

 やはり会話が上手くない私達。でも、そうですわね。そこにお花はなくても、香りを楽しんでなくても。そんなに苦痛ではなくなってきました。


 我が家の馬車が見えて参りました。立っているのは、イヴですね。傘をさしています。何やら剣呑とした雰囲気です。あまりにも待たせてしまったからでしょうか。

「……。では、私はこのへんで」
「ええ、ありがとうございました」

 ヒューゴ殿は頭を下げ、傘をさしたまま学園の方へと戻られました。まだご用事があったのかしら。

「ああ、イヴも。お待たせしました。さあ、帰りましょうか」
「……随分、打ち解けていらっしゃるのですね。きっかけにもなったでしょうし」

 イヴはにこやかです。あの殺伐さはなくなって……ませんわね。目が笑ってませんもの。それに実際に目にしてきたかのような。

「きっかけ? あなた、来てましたの?」
「……あ」

 イヴはしまったと言った様子でした。これはあれかしら。温室の近くまで迎えにきてくれていたのかしら。

「……ご心配にはお呼びません。お二人が温室に入られてからは、こちらで待機しておりましたから」

 邪魔しないように。彼はそう小声で言っていました。

「さあ、お入りください」

 イヴに誘われ、私は馬車に乗り込むことに。彼はもう、この話はして欲しくないようでした。
 イヴ。一度は迎えにきてくれたのに、私達の進展の為にって立ち去ったのですね。気を利かせてくれていたのでしょう。



 それからも定期的に温室に訪れるようになりました。ヒューゴ殿に会える日もあれば、別の方ということも。それはそれで、私は楽しんでおりました。花を愛でるのも交流も良いものですわね。
 サロンでの活動は自然消滅となりましたが、私の最近の楽しみはこちらとなっております。

 この日はヒューゴ殿がみえられてました。花束を作られています。

「……ふう」

 彼の作る様を見ながら、私は思いを馳せておりました。
 私の誕生日もそうですが、その後に控えているのが――婚約お披露目の会です。これもまた、五月末日というのですから、なんともまあ。
 殿下とブリジット様が、式に声明を出されるようです。それを聞いたからか、事前に渡したくなったと。

『本当は前日に渡そうと思いましたが。もう、済ませておこうかと』

 なんでしょうね。このさっさと渡したいといったような。私の穿った考えでしょうか。といはいえ、作るご様子は真剣そのもの。
 真剣でした。花もわざわざ彼女の出身国から取り寄せたのだとか。そちらでしか咲かない花であると、ヒューゴ殿は語っていました。
 ヒューゴ様が作られるのは、青を基調とされた高貴で品のありそうな花束。ブリジット様というイメージはそこまででしたわ。ええ、正直な話。
 サムシングブルー、でしたか。そういったものにちなんでいるのでしょうか。こちらの世界にもあるかは耳にしたことはありませわね。

 ヒューゴ殿はどこまでも真剣です。思いを込めているようでもありますわ。
 彼は――諦めることを選んだ。

「……」

 私はただ、そんな彼を見つめておりました。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

【完結】真面目系悪役令嬢、ワンコ系勇者と恋をする〜国より世界の方が宜しくなくて?

鏑木 うりこ
恋愛
お嬢様は婚約破棄される悪役令嬢です!と侍女に教えられてから王太子の婚約者のオデットは日々努力と研鑽を惜しまなかった。それでもオデットは婚約破棄をされるが、追放先はオデットの選んだ通り続編で勇者が誕生するという辺境の村だった。 「あら、王太子より勇者の方が素敵ね? 」  公爵令嬢のオデットが平民勇者カイとドキドキわくわくしながら進めて行ければいいなと思っております。  お返事が遅くて申し訳ございません!返し終えることができましたので完結表記に変えております。   ありがとうございました!

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました

瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。 そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。

【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音
恋愛
公爵令嬢アラベラは、階段から転落した際、前世を思い出し、 この世界が、前世で好きだった乙女ゲームの世界に似ている事に気付いた。 自分に与えられた役は《悪役令嬢》、このままでは破滅だが、避ける事は出来ない。 ゲームのヒロインは、聖女となり世界を救う《予言》をするのだが、 それは、白竜への生贄として《アラベラ》を捧げる事だった___ 「この世界を救う為、悪役令嬢に徹するわ!」と決めたアラベラは、 トゥルーエンドを目指し、ゲーム通りに進めようと、日々奮闘! そんな彼女を見つめるのは…? 異世界転生:恋愛 (※婚約者の王子とは結ばれません) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...