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級友たちとの交流。
しおりを挟む「――初々しいカップル。微笑ましいよね」
「……!」
こちらは来客者のお言葉。今の私達を見て――カップルだと。そう言った方だけではなく、通り過ぎる方々もそう。私達に温かい眼差しを向けていた。一様に私達が恋人同士であるという誤解をしている。
「カップルって……」
顔を赤くしたまま、オスカー殿は反芻していました。彼は否定することありません。
「……待って? 婦人の方、公爵家のご息女じゃない? ほら――王太子と婚約なさっている」
「……!」
高揚していた気持ちが。火照った顔が。一瞬にして――冷えていく。
それはオスカー殿もそう。彼も顔が青くなっていたから。それでも彼は――否定しようとしない。
「……そう、俺達は――」
それどころか、彼は何を言おうとしているの。
「……」
不貞だと思われている。早く、早く私が否定しないと――。
「――あれぇ? オスカー様、早いんだ。あ……アリアンヌ様もいたんだ」
清楚な長袖のワンピースを纏ったブリジット嬢。いつもの口ぶり、いつもの態度、いつも通りの彼女の姿が。
「……」
ブリジット嬢は黙ったまま、私を見ていた。すぐに視線は外されてしまったけれど。私には用がないと言わんばかりに。
「ほらぁ、みんなも早く早くー」
ブリジット嬢は我先にと駆けだしたのでしょう。一緒に来た方々も遅れてやってきます。
「おはよう、オスカー様っ」
「ブリジット……」
「えへへ、オスカー様かっこいい。今日、デート日和だね? 私、もっと進展したいなぁ」
「……」
ブリジット嬢は明るく話しかけています。オスカー殿がどれだけ沈んだ表情でいようとでした。
「オスカー様? ――腕、組んでほしいな? だって、私からじゃ出来ないし……」
体は触れ合わないまでも、かなり距離は近しいものだった。ブリジット嬢はその距離のまま、甘くねだっていた。
「ブリジット、それはちょっと。みんなで遊びにきたんだし……ごめん」
ブリジット嬢を傷つけないように心がけながら、断ったようです。
「もう、かわいいんだから。照れちゃって」
余裕があるのか、ブリジット嬢はくすくす笑っていました。そうなのかもしれません。傍目から見たら照れ隠しともとれる動きとであると。
「ごめーん、ぎりぎりだったー!」
「ううん、いいよ。あらら、焦らないで? 危ないから」
慌てて駆け寄ってくる少女を、ブリジット嬢は心配していました。これで全員は揃いました。
皆様は思い思いに目的の場所を巡っています。楽しみにしていたのは、私に限らず。楽しみたい、そうは思ってはいるのですが。
「……」
学友たちとの交遊だと思ってくれたようですが……私は注目されたまま。珍しいのもあるようですから。だから――これ以上、軽率に動いてはいけない、隙を見せてはいけないと。
「ねえねえ。前に品切れになったスイーツ、どうしてもリベンジしたいの。ほら、オスカー様も一緒に行こ?」
ブリジット嬢を中心に彼らは目的の店へと向かっていきました。
「……そう、良い機会ですもの」
店を巡るなんて、次いつ訪れられることか。道中お見かけしたら、声をかければいい。そうして一日を過ごせば良いのだと、この時の私は思っていました――。
なんということでしょう。
「――そうそう、推し冒険者なの。その人、あの若さにしてトップランカーなんだよ」
「まあ、そうでしたの。只者ではありませんわね。それで――」
私は婦人達と話が盛り上がっておりました。彼女達とは冒険者ギルドの出張店でばったり会いました。お互い、通じるところがあったのでしょう。喫茶スペースにて、私達は意気投合するに至ったのです。
机にあるのは、冒険者たちのグッズです。彼女達が購入したものです。こう、見ていると私まで購買欲に駆られそうですわ。
彼女達もそうですし、皆様全般に言えること。私と普通に話してくださいます。おかげでとても有意義な時間を過ごせたのです。
これもオスカー殿がきっかけをくださったから。帰る時間はもうじきではありますが、実りのある一日だったと思えたのでした。
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