脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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嫌がらせの首謀者を断罪せよ②

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「……謂れ、かぁ」

 殿下は笑いました。その表情は相手が相手ながらも、卑しいもので。

「あるんだろぉ? ――あの二人の仲、オスカー殿とブリジット嬢の関係が羨ましく、そして妬ましかったんだろ? だから悋気を起こしたんだろ? ……俺という婚約者がいながらな」
「違います!」

 私は苛立ってしまったのか、大きな声を出してしまいました。あなたが、あなたが仰るの……? あれだけ彼女に浮かれて、その婚約者を誤解で裁こうとしているあなたが! 

「私は殿下の婚約者です! 他の殿方に現を抜かすなど――」
「アリアンヌ。まだ、婚約関係が成立していると思っているのか?」
「……殿下」
「君は罪人だ。当然とも言えるが――婚約破棄だ」

 殿下にとって都合の良い展開、そんな風に私は思ってしまいました。狙ってではないでしょうが、嬉々としたあなたをみると考えてしまうのです。殿下……私は邪魔だったのでしょうか。

「それとな、オスカー殿にも期待しないようにな?」

 殿下は続けられます。私が意気消沈したのを確認した上で、追い打ちをかけるかのように。

「あわよくばって思っているかもだけどな? あっちは伯爵家の令嬢だからってのがあっただろうし。君にも取り入りたいだろうから、もしかしたらってな」

 それはすぐには否定できなかった。伯爵家というカードは強力だから。つながりを持っておきたいと考えるのも至極当然でしょう。

「……いいえ」

 オスカー殿と共に過ごしたからわかっています。彼はそのような方ではないと。
 殿下はまだ、私の心を折ろうとしているのでしょうか。話を続けています。

「この場には呼ばなかった。彼には然るべき『教育』が必要だと思ってな? ――男爵家の皆さんにみっちりとお願いしたんだ」
「……なんですって」

 私は唖然としてしまった。殿下はきっと――男爵家の実情をご存知で。わかった上でオスカー殿を男爵家に閉じ込めたのだと。教育というけれど、彼のトラウマを再発しかねないような状況。殿下がそうさせたのなら。

「あなたという方は……!」

 今まで明確にしなかったもの。今はもう、隠しきれなかった。それは、この人に対する――嫌悪だった。
 オスカー殿が万が一にでも私の味方をすることがあったのなら。そうはさせまいと、そこまでするというのですか。

「……」
 
 このような人に負けてはいられない。何とでも言えばいい、いくらでも折ろうとすればいい。私は屈しません。その意を込めて、私は姿勢を正しました。

「……はあ、まだわからないのか」

 殿下は溜息をつくと、改めてと宣告してきました。

「犯人は――アリアンヌ・ボヌール。それは免れないんだよなー」

 ああ、殿下。この国の王太子にして、私の婚約者であられるあなた。あなたのそのお顔、口元は笑んでらしても、目が笑っておりませんわ。余程、私にご立腹なのでしょうね。

 断罪しようとしているのは、殿下ですわね。それも。
 今、この場にはいない少女。あなたが愛する『彼女』に――危害が及んだから。
 私が犯人であると、調査報告も上がっているようです。証拠や証言もあるのだと。
 私は潔白ですもの、捏造されたものでしょう。

「君が彼女のこと、よく思ってなかったのはわかってる……わかってはいるがな」

 私を理解しているように仰っていますが、疑っているではありませんか。あれだけ聡明であったあなたが、判断を誤るほどに。

「しでかしたことがなぁ……度が過ぎているからな」

 底冷えするような笑顔の殿下。それだけあの少女のことを愛していらっしゃるのね。

「――殿下、申し上げます。私は誓って無実でございます」

 決して気持ちでは負けないように。殿下はいかようにも追い詰めてきますから。

「失礼ながら、殿下。私も――アリアンヌ様は濡れ衣を着せられていると。そう考えております」

 ああ……ありがとう、ヒューゴ殿。立っているのがやっとな私ではありますが、支えてくれるのですね。

「……なるほど、ねぇ」

 殿下はヒューゴ殿に目をやって、顎に手当てながら何かを考えておられます。

「でもなぁ? 君が聖女に危害を加えた証拠はあるからなぁ?」

 殿下は書類の一枚を手にとり、ひらひらとさせています。あなたがぞんざいに扱うそちらに、私の進退がかかっているとも言えますのに……! 私は唇を噛み締めました。

「それでも……本当に無実だと。誓って言えるのか」
「はい。誓って、私は無実ですわ」

 私は譲れません。これから何が待ち受けていようとも、揺るがないのです。

「そうかそうか……何かがあって覆ればいいな? 無理だろうけれどな、誰が君を信じると?」

 殿下は笑みを浮かべていました。とても晴れ晴れとした顔で、残酷なことを仰る。

「お言葉ながら、殿下。私はアリアンヌ様を信じています。彼女はそのようなことをする人ではない」

 変わらず私を信じ続けてくれるヒューゴ殿。

「……なんだよぉ。ヒューゴ殿ってもっと賢いと思ったんだけどなぁ? 呼ぶんじゃなかったなぁ!」
「それは失礼しました」

 殿下から敵意を向けられても、ヒューゴ殿は平然としていました。殿下はそれを面白くなさそうにしつつも。

「信じるくらいなら口だけでも言えるよなぁ」
「……」
「安心しろ、聞かなかったことにしてやるからな。なっ? ――おうちに迷惑かけたくないだろ?」

 殿下は寛大な対処をしたと言わんばかりでした。

「……失礼しました」

 ヒューゴ殿はこちらを見る事はありませんでした。そうですわね、充分ですもの。彼にも迷惑をかけるわけにはいきませんわ。

「……ということでぇ? ――連れていけ」
「!」

 おどけた様子から一変、殿下は冷酷に命じました。軍人たちも構える。私は対処しようと動こうとしたところ。
 近くにいたシルヴァン殿に薬をかがされた。意識が――遠のいていく。

「――」

 ああ、意識が朦朧とした中――シルヴァン殿は何かを呟かれたよう。
 ですが、それを聞き取れることはありませんでした――。



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