183 / 442
馬車に乗って空の旅。
しおりを挟む鬼のような教育の日々を経て、約束の日を迎えました。早朝よりシルヴァン殿とダンジョンに出かける予定となっています。
私たちはギルドの入口……だと目立つということで、例の地下室へと足を運んでいました。私は仮面を着用済みです。
「イヴ、今日もありがとうございます」
私は伊達眼鏡の彼に声を掛けました。結局付き合わせることになりましたからね。
「いいんですって。というか、お声がかからない方が嫌だって……ましてや、シルヴァン様と二人きりにさせるなんて」
イヴはかなり嫌そうな顔をしていました。換金の話もあって心証が良くないようですわね。もちろん……疑惑のこともありますわね。
「手紙も何事かと思ったけど」
シルヴァン殿はイヴの方に手紙にて連絡したようです。時間や待ち合わせの指定にまで至りませんでした。そういった内容のようですわね。余計なことは書かれてないかと――。
「……」
イヴが見ていますわ。私をじいっと見てますわ。私から何か怪しい点があるのではないかと、探ろうとしてますの?
「ささ、参りましょう? シルヴァン殿はいらしてるかしらー?」
私はそそくさと歩くことにしました。
怪しさが漂う地下室。雰囲気づくりの数少ない照明の中、シルヴァン殿を捜すことになります。
「あ」
シルヴァン殿はいらしてましたわ。彼は軽装姿です。髪も下ろしておられて、きっちりとした雰囲気を崩されていますわ。カウンター席に座っている彼は横顔を覗かせています……ですが。
「――へえ、そういう感じなんだ」
隣に婦人が座ってましてよ? ああ、お互いに顔を近づけているではありませんか……醸し出す大人なムード。誰にも邪魔だてなど出来なさそうな――。
「……うん、ありがとうね。それじゃ」
横目で私たちを確認したのか、長い前髪でわかりませんけれども。シルヴァン殿は会話を切り上げられ、こちらへと向かってきました。
「えっと……イヴ様と」
シルヴァン殿は私たちの目の前までやって来られました。ああ、そうですわね。今度は私の方から一歩踏み出してみせます。そして。
「ごきげんよう、シルヴァン殿。私はアリアンヌですわ。私はアリアンヌ。私はアリアンヌ――」
シルヴァン殿が気づかないとしても、致し方ないのでしょう。私は力技を試みることにしました。オスカー殿の時のように通用すればよいのですが。
「……わかってる、わかってるから!」
「良かったですわ」
今回も通用したのでしょうね。これで視認の問題はなさそうですわね。
「お待たせしましたわ。もう向かいましょうか?」
「だな。それで、乗り物だけど」
シルヴァン殿は正規のライセンスをかざしました。
「くっ……」
私に自慢するように振ってます。私はまたしても羨望の眼差しを向けました。
「ふっ」
シルヴァン殿は懐にしまいました。今の一連の動きはなんですの……?
「二人とも、こっち。まとめて乗せるから」
シルヴァンの手招きについていくように、私達は再び外へ出ることにしました。
「おお……」
私から漏れたのは感嘆の声。隣りにいるイヴも驚いています。
発着場にある乗り物、それは馬車でした。馬は本物ではないようですわね。とはいえ、彼らが引っ張っていってくれるのでしょう。
「レンタルだけどな。いつもは元々の支給品のやつ」
シルヴァン殿は早速馬車に乗り込みました。彼が手綱を引いて運転してくれるようです。
「レンタル。でしたら、おいくら支払えばよろしいでしょうか。割り勘といえど、シルヴァン殿は運転してくださいますもの。こちらで多めにお支払いしましてよ」
「はあ!?」
私からの提案にシルヴァン殿は驚愕していました。
「悪い話ではありませんでしょう? 節約にもなりますし」
「……いや、そうなんだろうけどな」
シルヴァン殿は額に手をあてています。あまり歓迎されてないようですわね……何故?
「ほら、さっさと乗る! イヴ様、お連れして」
「……まあね、そうだね。ほら、お嬢様。後部座席から乗り込みましょー」
私はイヴに先導される形となりました。その最中、こっそりと伝えてきます。
「銭ゲバながらも格好つけたいんじゃない? 知らんけど」
「……そういうものですの?」
私たちが後部に乗り込んだのを確認すると、シルヴァン殿は掛け声を上げます。途端、浮遊感が。後ろの布がめくれたので、私は覗いてみました。
「まあ……」
遠ざかっていく地上。ああ、私たちは本当に空を飛んでいますのね。
「アリアンヌ様、危ないですよ」
イヴは私のことを心配してますわね。ええ、戻らないと。
「ふふ、ごめんなさい。でも、ご覧になって?」
「もう……」
イヴも私に近づき、それでも体には触れない距離で。彼も地上の景色を見渡していたのです。
「ふふ、良い景色ですわね?」
「……うん」
注意してきたイヴも留まっているではありませんの。絶景ですものね、お気持ちはわかりますわ。いつまでも眺めていられますものね――。
「――二人きりだからっていちゃつくなよ? イヴ様ー?」
拡声器のような声がしました。シルヴァン殿によるものでしょうが、彼はイヴを名指しにしてきました。
「イヴはそのような――」
「いちゃつくっ!?」
あら、イヴと被ってしまいましたわ。彼は気が動転もしていました。
「……ふう、大人しく座ってます」
「ええ、私もそうしますわね」
息をついたイヴは、すごすごと着席していきました。私もそうすることにしました。
馬車による空の旅は続きます。
0
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!
白雨 音
恋愛
公爵令嬢アラベラは、階段から転落した際、前世を思い出し、
この世界が、前世で好きだった乙女ゲームの世界に似ている事に気付いた。
自分に与えられた役は《悪役令嬢》、このままでは破滅だが、避ける事は出来ない。
ゲームのヒロインは、聖女となり世界を救う《予言》をするのだが、
それは、白竜への生贄として《アラベラ》を捧げる事だった___
「この世界を救う為、悪役令嬢に徹するわ!」と決めたアラベラは、
トゥルーエンドを目指し、ゲーム通りに進めようと、日々奮闘!
そんな彼女を見つめるのは…?
異世界転生:恋愛 (※婚約者の王子とは結ばれません) 《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
『 私、悪役令嬢にはなりません! 』っていう悪役令嬢が主人公の小説の中のヒロインに転生してしまいました。
さらさ
恋愛
これはゲームの中の世界だと気が付き、自分がヒロインを貶め、断罪され落ちぶれる悪役令嬢だと気がついた時、悪役令嬢にならないよう生きていこうと決める悪役令嬢が主人公の物語・・・の中のゲームで言うヒロイン(ギャフンされる側)に転生してしまった女の子のお話し。悪役令嬢とは関わらず平凡に暮らしたいだけなのに、何故か王子様が私を狙っています?
※更新について
不定期となります。
暖かく見守って頂ければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる