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馬車に乗って空の旅。
しおりを挟む鬼のような教育の日々を経て、約束の日を迎えました。早朝よりシルヴァン殿とダンジョンに出かける予定となっています。
私たちはギルドの入口……だと目立つということで、例の地下室へと足を運んでいました。私は仮面を着用済みです。
「イヴ、今日もありがとうございます」
私は伊達眼鏡の彼に声を掛けました。結局付き合わせることになりましたからね。
「いいんですって。というか、お声がかからない方が嫌だって……ましてや、シルヴァン様と二人きりにさせるなんて」
イヴはかなり嫌そうな顔をしていました。換金の話もあって心証が良くないようですわね。もちろん……疑惑のこともありますわね。
「手紙も何事かと思ったけど」
シルヴァン殿はイヴの方に手紙にて連絡したようです。時間や待ち合わせの指定にまで至りませんでした。そういった内容のようですわね。余計なことは書かれてないかと――。
「……」
イヴが見ていますわ。私をじいっと見てますわ。私から何か怪しい点があるのではないかと、探ろうとしてますの?
「ささ、参りましょう? シルヴァン殿はいらしてるかしらー?」
私はそそくさと歩くことにしました。
怪しさが漂う地下室。雰囲気づくりの数少ない照明の中、シルヴァン殿を捜すことになります。
「あ」
シルヴァン殿はいらしてましたわ。彼は軽装姿です。髪も下ろしておられて、きっちりとした雰囲気を崩されていますわ。カウンター席に座っている彼は横顔を覗かせています……ですが。
「――へえ、そういう感じなんだ」
隣に婦人が座ってましてよ? ああ、お互いに顔を近づけているではありませんか……醸し出す大人なムード。誰にも邪魔だてなど出来なさそうな――。
「……うん、ありがとうね。それじゃ」
横目で私たちを確認したのか、長い前髪でわかりませんけれども。シルヴァン殿は会話を切り上げられ、こちらへと向かってきました。
「えっと……イヴ様と」
シルヴァン殿は私たちの目の前までやって来られました。ああ、そうですわね。今度は私の方から一歩踏み出してみせます。そして。
「ごきげんよう、シルヴァン殿。私はアリアンヌですわ。私はアリアンヌ。私はアリアンヌ――」
シルヴァン殿が気づかないとしても、致し方ないのでしょう。私は力技を試みることにしました。オスカー殿の時のように通用すればよいのですが。
「……わかってる、わかってるから!」
「良かったですわ」
今回も通用したのでしょうね。これで視認の問題はなさそうですわね。
「お待たせしましたわ。もう向かいましょうか?」
「だな。それで、乗り物だけど」
シルヴァン殿は正規のライセンスをかざしました。
「くっ……」
私に自慢するように振ってます。私はまたしても羨望の眼差しを向けました。
「ふっ」
シルヴァン殿は懐にしまいました。今の一連の動きはなんですの……?
「二人とも、こっち。まとめて乗せるから」
シルヴァンの手招きについていくように、私達は再び外へ出ることにしました。
「おお……」
私から漏れたのは感嘆の声。隣りにいるイヴも驚いています。
発着場にある乗り物、それは馬車でした。馬は本物ではないようですわね。とはいえ、彼らが引っ張っていってくれるのでしょう。
「レンタルだけどな。いつもは元々の支給品のやつ」
シルヴァン殿は早速馬車に乗り込みました。彼が手綱を引いて運転してくれるようです。
「レンタル。でしたら、おいくら支払えばよろしいでしょうか。割り勘といえど、シルヴァン殿は運転してくださいますもの。こちらで多めにお支払いしましてよ」
「はあ!?」
私からの提案にシルヴァン殿は驚愕していました。
「悪い話ではありませんでしょう? 節約にもなりますし」
「……いや、そうなんだろうけどな」
シルヴァン殿は額に手をあてています。あまり歓迎されてないようですわね……何故?
「ほら、さっさと乗る! イヴ様、お連れして」
「……まあね、そうだね。ほら、お嬢様。後部座席から乗り込みましょー」
私はイヴに先導される形となりました。その最中、こっそりと伝えてきます。
「銭ゲバながらも格好つけたいんじゃない? 知らんけど」
「……そういうものですの?」
私たちが後部に乗り込んだのを確認すると、シルヴァン殿は掛け声を上げます。途端、浮遊感が。後ろの布がめくれたので、私は覗いてみました。
「まあ……」
遠ざかっていく地上。ああ、私たちは本当に空を飛んでいますのね。
「アリアンヌ様、危ないですよ」
イヴは私のことを心配してますわね。ええ、戻らないと。
「ふふ、ごめんなさい。でも、ご覧になって?」
「もう……」
イヴも私に近づき、それでも体には触れない距離で。彼も地上の景色を見渡していたのです。
「ふふ、良い景色ですわね?」
「……うん」
注意してきたイヴも留まっているではありませんの。絶景ですものね、お気持ちはわかりますわ。いつまでも眺めていられますものね――。
「――二人きりだからっていちゃつくなよ? イヴ様ー?」
拡声器のような声がしました。シルヴァン殿によるものでしょうが、彼はイヴを名指しにしてきました。
「イヴはそのような――」
「いちゃつくっ!?」
あら、イヴと被ってしまいましたわ。彼は気が動転もしていました。
「……ふう、大人しく座ってます」
「ええ、私もそうしますわね」
息をついたイヴは、すごすごと着席していきました。私もそうすることにしました。
馬車による空の旅は続きます。
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