脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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殿下の望み。

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 私は今度は腰ではなく、手を繋がれることになりました。私も拒むことなく、殿下に連れて行かれてます。殿下が滞在なさっているというテント。そこに通されました。

「――このへんでいいか。立ち入り禁止、盗聴厳禁と」

 殿下は手をかざすと、宙に浮かび上がるは魔法陣。私は目を見開きました。そのような術を使えましたの? 

「……」

 それでもって、立ち入り禁止と。密室……二人きりですわね。

「……ああ、これはだな。とある賢者に――」

 殿下はそれとなく説明しようとするも、言いやめます。

「……譲り受けた術だ」
「そうですのね……」

 言い淀むような内容ではないでしょうに、何故だったのでしょうか? 

「うーん、座れそうなところはないなぁ。直座りか、よし! アリアンヌ、俺のお膝の上においで!」

 椅子に座り込んだ彼は、あろうことにも私を膝の上に座らせようとします。あなたという方は……どうしてそのような心境になれると思うのです。そこまでは許容できなくてよ。まあ、リュックは置かせていただきますけれども。

「ちえ、手繋ぎや腰までは許してくれたのに」
「――失礼ながら申し上げますわ、殿下」

 殿下は私に対し、普段通りであろうとしてくれようと。私はそうではいられないのです。彼から笑顔が消える、それでもです。

「殿下……レヴァンタジアは無実です。此度の進軍は殿下の思い違いによるもの。どうかお考え直しくださいませ」
「……ほう」

 立っている私に座っている殿下。それに威圧感が感じてならない。寛ぐように座っていても、彼は堂々としていて。

「そもそも何故なのです……! よき国交も築かれていたではありませんか! 今回の婚約関係も結ぶほど――」
「――アリアンヌ」
「……!」

 いつの間に立ち上がっていたのか、殿下は私に近づいては両肩を掴んでいた。痛みはない、けれど掴まれたそこに意識がいってしまう。

「君はいいのか? 俺がブリジット姫と婚約関係を結ぼうとも。俺と――未来を築くんじゃかなったのか?」
「……彼女との婚約は、正直望ましくはありません」
「だろ?」

 正直で良い子、と殿下は微笑まれます。ですが私はそれどころではなく。

「……そう、そうです! あなたは婚約者のいる国になんてことを――」

 私は自分で言っておいて、疑問を抱いていた――そもそもの前提が違っていたのだと。

「お、わかったか? そうだよ、事の発端は――ブリジット様側が婚約を持ちかけたからだ。な、邪魔だろ? 煩わしいだろ?」
「あなたは……」
「ああ、疑わしき点があったのは本当だぞ? あの国は薄ら暗いとこもあったからな? これはきっかけでもあったんだ!どっちみち――邪魔だったんだ。『君』と俺との未来の邪魔でしかない」
「邪魔って……」
「それとも――駆け落ちするか?」

 俺はそれでもかまわないぞ、と簡単に笑ってみせるのです。あっさりと王族という立場を捨てられると。ええ、一度は出奔されましたものね。

「レヴァンタジアが望ましくないなら――アルブルモンド? 政権とってかわるか? 今や俺の方が掌握しているくらいだからな。うん、こっちの方が簡単かもな」

 その言葉が何を意味しているのか。そこで起きる諍い事すらも平然と思っていて。

「……」

 あなたはどこまで知っていて――どこまで楽しそうなの。
 どこまで――狂人なの。

「……殿下、あなたのそれは私利私欲です。そんなことでどれだけの血が流れると――」
「そんなこと?」
「!」

 私の両肩から両頬へ。彼の手は添えられていた。

「……一番望んでいることだ。俺はな、望むがままに、欲しいがままに。多くのものを手にしてきた。幾千の時をも過ごし――数多の屍の上で」
「殿下……?」

 目の前におられるのは殿下、そのはずなのに。なのに、彼が遠く思えていた。齢十七の彼が語るには――重みがあり過ぎるかのよう。しかも屍、ですって? 

「――全てを手にしてきたのだ。一番の望みは君だ」

 ――ユイと。

「!」

 彼が私の本当の名を呼ぶ。
 殿下の様子がおかしい。私は――ある考えに至ってしまい。そう考えている内に……頬に口づけられていて。それから額へと。

「君が好きだ。俺は君を――」

 お互いの視線が重なる。今度こそ唇が合わさるのだと。

「……」

 この殿下は違う、違うのだと。私の中で警鐘が鳴り響く。
 なんて綺麗な瞳だと、見惚れそうになろうとも。このまま口づけあったなら、満たされるかもしれないだろうと。だとしても。

「――ごめんあそばせ、殿下!」
「っでぇ!?」

 ぶつかり合ったのは互いのおでこでした。私からの頭突きともいえましょう。殿下、悲痛なるお声を上げてますわね。ええ、私もかなりの痛みでしてよ……。

「な、なんだぁ!?」
「ええ、ごめんなさいまし――」

 ああ、まだ頭がジンジンしますわ。殿下もさぞ痛かろうと……殿下? 

「……そうか、『また』か」

 殿下は額に手をあててらっしゃる、でもそれは私からの痛みというわけでもなさそうで。

「……ああ、覚えてはいる。俺は――大それたことをしでかすところだったのか」

 苦悶の表情を浮かべるのまた、彼自身によるものだと。ええ、しでかすところだったと――。


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