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秘密の部屋、そこには。
しおりを挟むあれから。激動の数日でしたこと……。
シルヴァン殿は御自分で帰ると告げた後、消息を絶たれたと。ですがイヴが調べてくれました。彼は街の片隅で家を借り、ダンジョンで稼いでいるようです。孤児院には迷惑をかけないようとのことでした。息災ではあられるようです。
殿下とブリジット様の婚約。殿下が話し合いの場をもとうにも――中々応じなかったのは、ブリジット様の方でした。なんでも体調を崩されたということで自室に閉じこもっていたとか。今は快方ということで、じきに学園にも復帰されるようです。
イヴとシルヴァン殿が訳してくれた本、私の方でも拝読しました。名前の部分だけは最後まで読み取れなかったようですが、十分でしょう。ええ、狂王――彼の前世がしてきたことが記されていました。
「……」
あまりにも重くて。私は何度も中断してしまいつつも、なんとか読み終えました。
どれだけ重かろうと――私は受け入れるまでです。分かち合おうと誓ったではありませんか。
と、振り返りつつ。私は自室にて冒険の準備を終えました。私の手にはヒューゴ殿に復元していただいた鍵が。そう、あの秘密の部屋を訪れる手筈となっています。
あら、ノックの音。ええ、イヴ。こちらの準備は万端でしてよ。入室してきた彼もそうですわね。
「さあ、参りましょうか。ええと……イヴ?」
「……あ、ぼうっとしてました。ごめんなさい」
「いえ……」
イヴは疲れでもたまっているのでしょうか。激動の日からこうして心ここにあらずなことがありました。
「イヴ、休養日にしましょうか。なんでしたら、私単独でも――」
「いいえ、行きます。行きましょうか!」
イヴは身を乗り出してきました。ええと、体調面は問題ないと。互いに無理は禁物ということでひとまずは参りましょうか……?
イヴのお世話になって空中のダンジョンに到達しました。相変わらず魔物がいますわね。
「……?」
秘められた部屋に向かう途中、呻く声が聞こえてきました。すれ違う冒険者方もそう、気になっているようです。
「……そういうことでしたのね」
こうして歩いていると、時折覚えのあった感覚。私の推測ではありますが、ほぼ正解な気がしているのです。
――ここはかつてのアルブルモンドの都。遥か昔、狂王が治めていた都の跡なのだと。
聖水効果頼りに魔物を討っていきます。新たに購入したものです……新たに。
「……なるほど、ぼったくりと」
シルヴァン殿、ええ、わかりましてよ。まさか入り直したら効果切れとは。都度買い直すことになるとは……!
そうして私たちは目的の場所へ。私たちは開錠されると信じ、鍵穴に差し込みました。
「ああ、さすがですわね!」
さすがはヒューゴ殿です。見事にハマり、秘密の部屋は開かれたのでした。
「下がっていてくださいね」
「ええ……お願いしますわ」
理由があって閉じられていた部屋。何か危険が孕んでいるかもしれないと、イヴが先頭に立ちました。彼はスキルを駆使して危なくないかと感知しています。
「……とりあえずは大丈夫そうだけど」
とはいえ警戒しながら、イヴは部屋へと入っていきました。私も踏み入れましょう。
その部屋は損壊はほとんどなく、埃被った研究室といったところでした。暗くもありましたらのでイヴが明かりを灯しています。
「ひっ……!」
わ、私、思わず悲鳴を上げてしまいましてよ……! 照らされたことにより、ロッキングチェアに座り込んだ人物が、あ、現れたのですから!
「アリアンヌ様、人形です」
「に、人形……でしたの?」
こ、怖いに変わりはありませんけれども。ええ、ゆらゆら揺れてますけれども、人形でしたら。外套を被らされており、顔の部分は覆い隠されています。
『――あれ、お客さん? あの男ではないようだけど』
しゃべった。
「……」
と、突然のホラー展開ですの……? ああ……気合で立っておりますが、いつ気を失ってもおかしくなくてよ?
「アリアンヌ様、おそらくそういう仕組みだから」
「ああ、イヴ……ありがとう」
私よりとても冷静である彼が、間に立ってくれました。ええ、イヴの存在もあって私、落ち着きを取り戻せそうですわ。それに――。
『よくぞこの部屋に辿り着いたね』
冷静になったからこそわかること。この声、聞き覚えがありますわ。ええ、とても……。
「――セレステ?」
「……!」
私がそう呟くと、イヴが視線を向けてきました。ああ、あなたの前世でしたわね? そうでしょうイヴ? ……何をそんなに驚愕しているのかしら?
「……ああ、ごめんなさいまし。ええ、人形でしたわね。もしかしたらセレステに縁あるのかもしれませんわね」
ね、セレステ? と声を掛けようとも、反応はありませんわね。人形でしたわね。
『ここは――賢者の間。哀れな賢者の間。あの男が我らが一族を閉じ込めた。ああ、あの男が……憎らしい』
「……」
私の心、恐怖より勝ったのはやるせなさでした。『あの男』、誰を指すのかもわかるのです。殿下から伺っていたこと、彼の前世の人物がいかに賢者たる方に酷い仕打ちをしてきたのか。
『全て、全てをあの男に奪われた』
どこまでも憎んでいる、そのような声。それがセレステのような声で聞かされるのもまた、堪えるのです……。
『お客さんら、気をつけて。あの男は――彷徨っているのだから』
「彷徨っている、ですって……?」
さすがにそれは、と私は思いました。狂王は殿下に生まれ変わった。前世たる彼が何故?
『あの男の思いは――消えやしないのだから』
椅子に揺られながらも、人形の彼は語る。
――突如、地面が揺れ出した。時折聞こえてきた呻き声が、いくつも。四方八方から聞こえてくる。
それは無念の声、屈辱の声、悔恨の声――負の感情による。幾重に重なるかのように呼応していた。
「脱しましょう!」
「ええ……!」
揺れが激しさを増していく。イヴは迷うことなく帰還スキルを使った。
「あ……」
消えいく中、残された人形を見た。私は手を伸ばした。だって、声がセレステに似ていて。イヴの前世でもあって。どうしても――置いていけなくて。
私は人形を掴んだ。そのまま引っ張り上げて、胸に抱きとめた。
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