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彼女はブリジット。
しおりを挟む休み明けの学園でも話題がつきませんでした。教室の話題はダンジョン崩壊、そして――。
「……おはよう、みんな」
長らく欠席していたブリジット様、彼女は遠慮がちに教室に入ってきました。
「おはよう……心配したよ」
「体調大丈夫?」
級友たちは彼女を心配しながら迎え入れてくれます。優しき方々、ブリジット様の心情を汲んでいるのでしょう。
「うん、大丈夫……でも、席で大人しくしているね」
ブリジット様は席に座ると、一人俯いていました。彼らも――私も、どうお声がけしたらいいのか。
「あ……アリアンヌ様」
「……ええ」
ブリジット様は顔だけこちらを見ています。どこか迷いのあるような瞳……いつもの彼女ではないもの。
「私、お昼にね? ……殿下に誘われたの」
いつもならマウント台詞になるはずなのに、ここまで元気がないとなりますと……。
「私、そこで――」
「ブリジット様……?」
彼女の顔色はますます悪くなっていく。体調良くなってないではありませんの。
「私、私は……」
「ブリジット様!」
ふらつく彼女がこちらに倒れてくる。私は慌てて受け止めた。
「ああ……」
衰弱しきっている彼女は、瞳を閉じられていました――。
「ん……」
「――目を覚まされましたわね」
こちらは救護室。ブリジット様はベッドで眠られていましたが、目を覚まされたようです。
私はというと、近くの椅子で控えていました。ただでさえ、担当の先生が不在でしたもの。いざという時に緊急ボタンもありますので、待機もしておりましてよ。
「……」
体を起こしたブリジット様は天井を見つめていました。頭がはっきりとされていないのかしら。
「……なんでそういうことするの」
「……?」
私、責められているのでしょうか。余計なことだったのかと、心配になっていましたが。
「……なんで、どうしてなの。どうしていつも。いつも……助けてくれるの」
「ブリジット様……?」
いえ、責めているとは思えませんでした。いつもの棘はなく、彼女は戸惑っているのだと。
「……私がイヴ君のお父様に攫われた時も。リゲル商会で誘拐されそうになった時も――ダンジョンに取り残された時も」
ブリジット様はシーツを握りしめながらも、思い返されていて。ですが、それは――。
「え……」
……ブリジット様? あなたが覚えがあるのは、ヒューゴ殿、オスカー殿の時のことではなくて?
不可思議なのが――直近のこと。あなた……変装した私がわからなかったはずでは。
「もう……もうね、限界なの。私、どうしたらいいか」
ぽつりと水滴が落ちた。布団の上に涙の跡が。ブリジット様が泣いていたのです。
「こんな大それたことになっちゃって……それでも私は、何が何でも阻止しなくちゃいけないのに」
殿下の強行は、ブリジット様の想像を超えていたのでしょう。彼女たちがとりつけた婚約がこのような事態を引き起こしたなんて。最悪な事態を招きかねなかったこと。
「……」
彼女の涙は止まらない。私は……私は拭いたいのに。
ブリジット様。私はあなたとライバル関係だった。あなたの冷たい対応に打ちひしがれもした。それでも――あなたを憎めなかったんだ。
あなたが笑いかけてくれれば嬉しくなって。可愛いとも思っていて。
大好きだった彼女にも似ていて――似過ぎているから。
――あなたの前世が、あのブリジットだったらって。勝手に思っていたの。思っては、違うと思い知らされながらも。
「あなたのことが……気にくわないから。していることが……間違っているから」
強がるような言葉。それでも嗚咽をこらえた彼女は限界が来ていたようで。
「止めなくちゃって……私、必死で……」
涙でくしゃくしゃになった彼女は、私を見た。そして――。
「……ユイちゃんの為にもって」
そこにいたのは恋敵、ライバルではなかった。大樹のもとで一緒に過ごした彼女――ブリジットだった。
「……ブリジット」
ブリジット様……ブリジットは手を震わせながらも、胸元から取り出したのは――葉っぱの形の髪飾りでした。
彼女はブリジット……ブリジットだったんだ。私までもがそう、視界が涙で歪みそうになる。
私もそうだったよ。いつも持ち歩いていたんだよ――ほら。
「ユイちゃん……!」
ベッドからおりて、ブリジットが私に抱き着いてきた。私も受け止めた。
「ブリジット。私の為って……うん、そうだった。私が友愛を選ぶとそうだったよね。いつも安心していたのって――」
「うん……うん……」
ブリジットは嗚咽が止まらなくなっていた。上手く言葉に出来ないようで。
「……」
彼女の体温が伝わってくる。本当にいつぶりだろう。私は彼女の背中を撫で続けていた。
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