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いつものオスカー殿?
しおりを挟むさあ、今回もやって参りましてよ! 目指すは空中にあるダンジョン、の前にギルドにて準備ですわね。
私は冒険者ルックにお馴染みの仮面、変装もばっちりですわ。イヴはもう、執事の恰好はやめたようですわね。軽めの変装でしてよ。
「さて」
いつもはスタートダッシュでしたから。そちらのタイミングでしたら『彼ら』と上手くお会いできました。今回は日数が経ってますから、いかがなものかしら。
――あら? 入口前の階段を上っている、あちらの後ろ姿はオスカー殿? ですわね。
さあ、私たちはまともに面識もない。互いに存じている程度ですわね。ですが、ご心配は無用! 周回特典でさらりと仲間に加わってくださりましてよ! 普通にお声がけしましょう、普通に!
「ごきげんよう、オスカー殿。いきなりでごめんなさいまし。わたくし、アリアンヌ・ボヌールと申しますの」
といっても、挨拶はしましょう。そこからさらっと、さくさく展開でしてよ?
「あ……」
「……オスカー殿?」
こちらを振り返ったまでは通常通り。
「アリアンヌ様……公爵家の」
私とわかってくださったようです。でしたら、このまま話を進めましょう、そうしましょう――。
「……」
「……?」
それからのオスカー殿はなんでしょう、こちらをじっと見てきています。ええ、ずっと黙ったまま。私、どうしましょう。いえ、お声がけをしましょうか。
「どうなさいましたの?」
「わっ、上目遣い!?」
私は階段の下から彼を見上げました。それに動揺するオスカー殿。ええまあ……自然と上目遣いになってしまいましたわね。
「し、失礼しました。アリアンヌ様ですよね? 俺はフェル家の者で、オスカー・フェルと申します」
オスカー殿、次第に落ち着いていきましたわ。確かに、当初は朗らかであれど、よそよそしさもありましたものね。もの寂しいと思いつつも、それも当然であると――。
「……いや、違う」
「?」
オスカー殿、御自身の胸に手をあてて、何かを考えていて? それから視線を私へと?
「うん……アリアンヌ様。一緒にダンジョン、行くんだよね?」
「え、ええ……ご一緒できましたら」
驚きました。敬語もやめられたのもそう、一緒にダンジョンに向かう流れまで。ええ、さくさく展開ですもの。これまでと同様、そう考えておりましたのに。
「そっか、やった! それじゃ、アリアンヌ様。お手をどうぞ」
「まあ、お願いしましょうか」
差し出されたのは彼の手、エスコートですわね。深く考えることもないでしょう、ええ。
「早速、そうきたか……」
イヴが深刻な雰囲気を漂わせていますけれど、変哲もないエスコートでしょう? さあ、私もオスカー殿の手をとりましょう――。
「……やっぱりなぁ、なんか違う」
「え」
え、え? エスコート、違っていましたの? 私の先走りですの? オスカー殿、しきりに『違う』と。
「……?」
それでも不思議なのは、手は離さないこと。オスカー殿、優しいですから。私が傷つかないようにと?
「……俺、平気な気がする。アリアンヌ様なら、きっと――」
「平気って……それは」
「あ、ごめんごめん。何が何やらってな? でもさ……俺、本当に大丈夫だなって」
「そう、ですの……?」
……オスカー殿。あなたが『平気』になったこと。そして触れ合っている手。私が思いつくのはどうしても――あなたの『トラウマ』にまつわることで。
いえ、オスカー殿? それは、あの日々だからこそであって。あなたの想いはもう置いてきたはずでしょう?
「ひとまず入りませんこと?」
「それもそうだ。入ろ入ろ」
立ち尽くすのもですから。オスカー殿も応じてくださいました。
「ほら、イヴも」
「……は、はい」
考え事をしていたイヴも続いて。私たちはギルド内に入ることにしました。
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