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17、 闖入者
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賊だ!という声が上がり、女性たちの悲鳴が庭まで届いた。
まさかこんな明るい時間から。
ダリルと共にフィリアも駆け出す。その後ろから控えていたロイドが続いた。
「おいっ、フィリア!」
「師匠はブラントン様をお願いします!」
風の魔法は継続中だったので、ヒールでも楽々ダリルに追い付ける。
広間に飛び込むと複数の刃物を持った男達がフォルセの方へ突っ込んでいくところだった。
クラリッサを背に庇ったフォルセ、二人を守るように兵たちが盾になる。彼らの太腿に刺さったのは、鋭く尖った氷だ。
だが、さすが精鋭揃い。体制を崩しつつも振りかざした凶器を剣で受け止めた。
その隙に別の兵が第一王子夫妻を誘導しようとするも、肩に氷を刺されて倒れた。
「ダリル様、刃物男たちは陽動で魔法使いがどこかにいます!」
「ああ、分かっている!」
魔法使いの攻撃を防ぐように、フォルセ付きの魔法使いが対抗しているらしい。再び飛んだ氷を、炎で相殺している。
「どこか、ここが見えるところにいるはずです」
「おそらくバルコニーだ!」
「ダリル様、あちらを!」
ロイドが指した二階のバルコニーに人影がある。逆光にさらされているが、フードを被った姿は明らかに不審者だ。
「よし、行くぞロイド」
言うなり階段を駆け上がるダリル。だが、多分フィリアの方が早い。おいっ、とダリルの声が上がったが、フィリアは構わず風魔法で飛び上がる。
一直線に魔法使いらしき男の元にたどり着く。ぎょっとした男が、攻撃対象をフィリアに切り替えた。氷で作った何百もの針をフィリア目掛けて飛ばす。それをフィリアは炎を盾にして溶かした。
「遅いっ!」
次の魔法を使う前に風魔法で一撃。だが、相手は往生際悪くフィリアの足元を氷で覆った。バランスを崩したフィリア目掛けて振りかざしたのは、氷ではなく本物のナイフだ。
油断した。相手が魔法使いだからといって、魔法対魔法で応じてくれるわけじゃないのに。
だが、その背後からダリルが斬りつけた。断末魔の悲鳴を上げて男が倒れる。追い付いたロイドがすばやく縄をかけた。
「あ……ありがとうございます、ダリルさ」
「この馬鹿!」
足をとられて倒れこんでいたフィリアに、ダリルが開口一番怒鳴った。
「一人で突っ込む奴があるか! お前が有能な魔法使いなことは認めるが、戦闘の訓練を受けているわけじゃないだろう」
「で、でも夜の警備だってそれぞれ別の相手と戦うじゃないですか」
「夜はフォロー出来る距離に俺やロイドがいるだろうが!」
はあっ、とダリルが息を吐き出した。
「俺の手の届かないところで戦おうとするな。……肝が冷えた」
精悍な頬をつたう汗に、全力で駆けてきてくれたのだと分かり、フィリアは素直にごめんなさいと詫びた。
「……師匠と男物の靴も作りますね。ダリル様用に風魔法をかけて」
「そういうことじゃない……。まあいい、戻るぞ」
下で暴れていた男たちも無事に御用になったようだ。先ほど倒した魔法使いのバックアップがなければ、精鋭部隊によって簡単に取り押さえられるだろう。
「っていうか、他の王子たちが雇ってる魔法使いもいるんですよね? 手助けしてくれたっていいのに」
「それはないな。誰の差し金かわからないし、もしこれでフォルセが命を落とせば、その分王位継承権が繰り上がる」
「うわー……なんかやな感じですね」
自分が巻き込まれないように見ているだけで、棚ぼたラッキーな展開もあり得るということだ。……差し向けたのは一体誰だろう?
階下に降りると、パニックになって出入り口に殺到した貴族たちが中へと戻ってくるところだった。
ざわめく場内は混乱と――それだけではなく、そこかしこで小さく悲鳴が上がっていた。
「誰か切りつけられたらしい」「ご令嬢が怪我を」「さっきの奴等か」「誰が怪我をしたって?」――口々に広まるざわめきに、フィリアとダリルは顔を見合わせた。
「招待客でしょうか?」
「わからん。出入り口の近くだぞ? 奥にいたフォルセ狙いで入った連中が、こんなところで手当たり次第に人を傷つけるのは変じゃないか?」
「じゃあ、まだ仲間が紛れ込んでいたとか……」
人をかき分けるように進むと、騒ぎの中心は広くあけられていた。床には血痕と、広がったドレス。第二王子の婚約者・サラが腕を押さえてうずくまっていた。
「サラ様、しっかりなさって下さい!」
涙声で侍女達が取り囲む。医者を、とスカイレッドが命令し、サラの元へしゃがみこんだ。
「スカイレッド様……、私は大丈夫ですから……」
「すぐに医者に見せる」
痛みを堪えるサラをスカイレッドが抱えあげて出ていく。
残された血の量は大したことはない。毒でも塗られていないかぎり致命傷にはならないだろう。
――だがこれで、今回の件の首謀者はスカイレッドではないというアピールにもなったはずだ。実際、スカイレッドを悪く言っていたフォルセ派の貴族はサラに気の毒そうな視線を送っていた。
まさかこんな明るい時間から。
ダリルと共にフィリアも駆け出す。その後ろから控えていたロイドが続いた。
「おいっ、フィリア!」
「師匠はブラントン様をお願いします!」
風の魔法は継続中だったので、ヒールでも楽々ダリルに追い付ける。
広間に飛び込むと複数の刃物を持った男達がフォルセの方へ突っ込んでいくところだった。
クラリッサを背に庇ったフォルセ、二人を守るように兵たちが盾になる。彼らの太腿に刺さったのは、鋭く尖った氷だ。
だが、さすが精鋭揃い。体制を崩しつつも振りかざした凶器を剣で受け止めた。
その隙に別の兵が第一王子夫妻を誘導しようとするも、肩に氷を刺されて倒れた。
「ダリル様、刃物男たちは陽動で魔法使いがどこかにいます!」
「ああ、分かっている!」
魔法使いの攻撃を防ぐように、フォルセ付きの魔法使いが対抗しているらしい。再び飛んだ氷を、炎で相殺している。
「どこか、ここが見えるところにいるはずです」
「おそらくバルコニーだ!」
「ダリル様、あちらを!」
ロイドが指した二階のバルコニーに人影がある。逆光にさらされているが、フードを被った姿は明らかに不審者だ。
「よし、行くぞロイド」
言うなり階段を駆け上がるダリル。だが、多分フィリアの方が早い。おいっ、とダリルの声が上がったが、フィリアは構わず風魔法で飛び上がる。
一直線に魔法使いらしき男の元にたどり着く。ぎょっとした男が、攻撃対象をフィリアに切り替えた。氷で作った何百もの針をフィリア目掛けて飛ばす。それをフィリアは炎を盾にして溶かした。
「遅いっ!」
次の魔法を使う前に風魔法で一撃。だが、相手は往生際悪くフィリアの足元を氷で覆った。バランスを崩したフィリア目掛けて振りかざしたのは、氷ではなく本物のナイフだ。
油断した。相手が魔法使いだからといって、魔法対魔法で応じてくれるわけじゃないのに。
だが、その背後からダリルが斬りつけた。断末魔の悲鳴を上げて男が倒れる。追い付いたロイドがすばやく縄をかけた。
「あ……ありがとうございます、ダリルさ」
「この馬鹿!」
足をとられて倒れこんでいたフィリアに、ダリルが開口一番怒鳴った。
「一人で突っ込む奴があるか! お前が有能な魔法使いなことは認めるが、戦闘の訓練を受けているわけじゃないだろう」
「で、でも夜の警備だってそれぞれ別の相手と戦うじゃないですか」
「夜はフォロー出来る距離に俺やロイドがいるだろうが!」
はあっ、とダリルが息を吐き出した。
「俺の手の届かないところで戦おうとするな。……肝が冷えた」
精悍な頬をつたう汗に、全力で駆けてきてくれたのだと分かり、フィリアは素直にごめんなさいと詫びた。
「……師匠と男物の靴も作りますね。ダリル様用に風魔法をかけて」
「そういうことじゃない……。まあいい、戻るぞ」
下で暴れていた男たちも無事に御用になったようだ。先ほど倒した魔法使いのバックアップがなければ、精鋭部隊によって簡単に取り押さえられるだろう。
「っていうか、他の王子たちが雇ってる魔法使いもいるんですよね? 手助けしてくれたっていいのに」
「それはないな。誰の差し金かわからないし、もしこれでフォルセが命を落とせば、その分王位継承権が繰り上がる」
「うわー……なんかやな感じですね」
自分が巻き込まれないように見ているだけで、棚ぼたラッキーな展開もあり得るということだ。……差し向けたのは一体誰だろう?
階下に降りると、パニックになって出入り口に殺到した貴族たちが中へと戻ってくるところだった。
ざわめく場内は混乱と――それだけではなく、そこかしこで小さく悲鳴が上がっていた。
「誰か切りつけられたらしい」「ご令嬢が怪我を」「さっきの奴等か」「誰が怪我をしたって?」――口々に広まるざわめきに、フィリアとダリルは顔を見合わせた。
「招待客でしょうか?」
「わからん。出入り口の近くだぞ? 奥にいたフォルセ狙いで入った連中が、こんなところで手当たり次第に人を傷つけるのは変じゃないか?」
「じゃあ、まだ仲間が紛れ込んでいたとか……」
人をかき分けるように進むと、騒ぎの中心は広くあけられていた。床には血痕と、広がったドレス。第二王子の婚約者・サラが腕を押さえてうずくまっていた。
「サラ様、しっかりなさって下さい!」
涙声で侍女達が取り囲む。医者を、とスカイレッドが命令し、サラの元へしゃがみこんだ。
「スカイレッド様……、私は大丈夫ですから……」
「すぐに医者に見せる」
痛みを堪えるサラをスカイレッドが抱えあげて出ていく。
残された血の量は大したことはない。毒でも塗られていないかぎり致命傷にはならないだろう。
――だがこれで、今回の件の首謀者はスカイレッドではないというアピールにもなったはずだ。実際、スカイレッドを悪く言っていたフォルセ派の貴族はサラに気の毒そうな視線を送っていた。
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