上 下
7 / 7
悩みと神と僕と

歌声との対話と月

しおりを挟む
しかし、彼はその後も神に対して疑問を抱いていた。この世界は不公平で、誰かが救われるとき、別の人が苦しむことがあまりにも多かったからだ。

世の中の理不尽さに「そんなことはない」と、彼は自分自身に言い聞かせた。
しかし、自信に満ちた言葉が、彼の心の中で空洞に響いていた。

何もかもがうまくいかなかった。彼の人生は散り散りになっていた。彼は自分自身に挫けかけていた。

そんなとき、路地裏から聞こえる美しい歌声が耳に飛び込んできた。彼は歌声に惹かれ、近づいていった。

歌い手は、路地裏の片隅で腰を下ろし、荷物を広げていた。彼女の歌声は、優しさと温かさに溢れていた。

「素晴らしい歌声だ。あなたは本当に才能がある」と彼は言った。

彼女は彼を見上げ、微笑んだ。「ありがとうございます。私はただ、人々を幸せにしたいと思っています」と彼女は言った。

「幸せにすることができるのはあなただけじゃない。私も幸せになりたい」と彼は言った。

「あなたは、自分で幸せを掴むことができるんですよ」と彼女は微笑んで言った。

彼は彼女の言葉に心が動かされた。彼女の歌声は、彼に自分自身を見つめ直すきっかけを与えた。

彼は立ち上がり、彼女に手を差し伸べた。「ありがとう。あなたの歌声が私を救ってくれた」と彼は言った。

彼女は彼の手を取り、微笑んで言った。「あなたも、自分で救うことができるんですよ。頑張ってください」

彼は、押し黙りしばしの沈黙後、「救いはない」と口にした。

「でも、君がそこにいたから、私は少し救われたよ」と彼女が言った。

彼は驚いて彼女を見上げた。彼女の言葉に、彼の心にひそむ悲しみが軽くなるような感覚が広がっていくのを感じた。

「君が救われたって、どういうことだ?」と彼は尋ねた。

「私は、少し前まで、自分の人生に迷っていたんだ。でも、今日、あなたに出会って、そしてあなたが私にコートをくれたことで、私は自分自身を取り戻すことができたんだ」と彼女は語った。

彼は、彼女の言葉を聞いて、自分が意識していなかった何かを思い出した。彼女との出会いが、彼自身の救いでもあったのかもしれないと思った。

「ありがとう。君が言ってくれた言葉で、俺も少し救われた気がするよ」と彼は微笑みながら言った。

そこで、彼は再び彼女の手を握りしめた。この瞬間、彼は自分がこの寒い街で彼女と出会ったことが、何か偶然ではなく、必然的なものであったかのように感じた。そして、彼女との出会いが、彼自身の人生において、新たなスタートを切るきっかけになることを確信したのであった。

彼は目を覚ました。周囲は静かで、唯一聞こえる音は窓から差し込む風の音だけだった。彼は自分がどこにいるか分からなかった。

彼が和式の居間にいることに気付くと、彼は自分が昨日の出来事を夢で見たのかと疑った。しかし、寝ている間に服を着替えており、身の回りには彼が知らない物品が置かれていた。

「どうやってここに来たんだ?」と彼はつぶやいた。

その時、部屋の障子が開き、老人が入ってきた。

「おはようございます。お元気でしょうか?」と老人は穏やかに尋ねた。

彼は一瞬驚いたが、すぐに立ち上がって挨拶を返した。

「はい、ありがとうございます。ここはどこですか?」と彼は尋ねた。

「ここは私の家です。昨晩、あなたを路地裏で見かけたので、助けてあげたんですよ」と老人は答えた。

彼は、昨日の出来事を思い出し、自分が老人に助けられたことを思い出した。

「ありがとうございます。でも、私はもう一度、あの少女に会いたいんです」と彼は切なげな表情で言った。

「あの少女ですか?彼女はもう、あなたの元には戻ってこないと思いますよ」と老人は優しく言った。

「でも、彼女がどうなったか知りたいんです」と彼は必死になって言った。

老人は彼の様子を見て、何かを決心したように口を開いた。

「分かりました。私が少女のことを調べてみます。でも、あなたも今は体を休めてください。昨日の出来事はあなたにとっても大変なものだったはずですから」と老人は優しく言った。

彼は老人に感謝しつつ、自分の状態を見るために体を起こしてみた。すると、彼は自分の体に痛みを感じた。

「どうしたんですか?」と老人は心配そうに尋ねた。

「肋骨を折ったみたいです。でも、大丈夫です」と彼は微笑んで答えた。

老人は心配そうに見つめたが、彼は笑顔で老人に向かって手を振ってみせた。

「ありがとう。それじゃ、おじいさん、あなたは誰なんですか?」と彼は聞いた。

老人はしばらく彼を見つめた後、静かに口を開いた。「私はここの管理人で、あなたが借りたこの家の所有者の代理人です。私たちは、ここに来る人々に伝えるべきことがあるのです」と言った。

「伝えるべきこと?」と彼は問い返した。

「そうです。ここに来た人々には、ある条件が課せられています」と老人は答えた。

「条件?」と彼は疑問に思った。

「はい。ここに住むには、ある目的を持っている必要があります。この家は、人々が自分自身を見つめ直すための場所なのです。何かしらの迷いや悩みを抱えている人々が、この場所で自分自身と向き合い、新たな一歩を踏み出すことができるようにと、所有者が作ったのです」と老人は語った。

彼は老人の言葉を聞いて、自分自身を振り返っていた。自分がここに来るまでの出来事、自分の心の中にある迷いや不安、そして、美女や少女との出会いを思い出した。

「それは、自分を見つめ直すための場所か……」と彼はつぶやいた。

「はい。そのためにここは作られたのです。あなたにも何かしらの悩みがあるのでしょう?」と老人は優しく尋ねた。

彼はしばらく考えた後、うつむいて答えた。「はい。迷っていることがあります。でも、どうしたらいいか分からなくて……」

彼はしばらく考え込んだ後、老人に尋ねた。「おじいさん、50歳を超えて何をすべきか、悩んでいるんです。人生の半ばを過ぎた今、何か意味のあることをしたいと思っているんですが、何をすべきかが分からなくて……」

老人はうなずきながら、彼を見つめた。「50歳を超えて、何をすべきか。それは、多くの人が抱える悩みですね」と言った。

「そうです。でも、どうしたらいいんでしょうか?」と彼は不安そうに尋ねた。

老人は彼の手を取り、優しく語りかけた。「人生には、何度も迷いや悩みが訪れます。でも、重要なのは、その時に自分がどうしたいのか、自分の心の声を聞くことです。そして、自分自身を信じて、自分の道を進むことです」

「自分自身を信じる……」と彼はつぶやいた。

「そうです。神も、あなたがどうなろうと関心はないのです。あなたが望む未来を実現するために、自分の心に向き合い、自分の力で進むことが大切なのです」と老人は語った。


彼は老人の言葉を胸に刻み、何か新しい一歩を踏み出したいという強い気持ちを抱いた。しかし、その時、突然の出来事が起こった。

彼がいる部屋の窓が激しく揺れ、外からの光が部屋に差し込んだ。彼は驚いて窓を見ると、月面探査ロボットが窓から侵入してきていた。

「何が起きているんだ!?」と彼は叫び声をあげた。

老人も驚き、慌てて彼に近づいてきた。「どうしたのですか?何か起きたのですか?」と老人が尋ねた。

彼は慌てて答えた。「窓から月面探査ロボットが入ってきたんだ!これは一体、どういうことだ!?」

老人は驚いた表情で彼を見つめたが、その時、突然、ロボットから音声が流れてきた。

「こちら月面探査隊。突然の侵入にお詫び申し上げます。しかしこの家は、今後、月面観測基地の一部として使用されるため、我々の作業に支障をきたさないよう、退去していただく必要があります。ご協力をお願いいたします」

彼は呆然としていたが、老人はその言葉を聞くと、冷静に彼に話しかけた。「これは、ここでの滞在が終わったということですね。では、そろそろお帰りになりましょう」

彼は老人の言葉を受け入れ、荷物をまとめ、この場所を去ることにした。彼がこの家を出ると、月面探査隊が彼を待っていた。彼は彼らに話を聞かされ、退去することを了承した。

彼が月面基地を後にすると、心の中で老人の言葉を繰り返した。「自分自身を信じて、自分の道を進むこと。神も、あなたがどうなろうと関心はないのです」

彼は、自分自身を信じて、新しい一歩を踏み出す決意をした。彼は自分の人生を生きることを決めたのだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...