1 / 14
1
しおりを挟む前世の記憶を思い出し、自分が今いる世界が乙女ゲームの世界だと知ったとき。アリシアはひゃっほー!! と奇声を上げて小躍りした。
なにせ前世で大好きだった乙女ゲームのヒロインに転生したのだ。何周もして思う様楽しみのめり込んだ世界に、自分は今いるのだ。喜ばずにはいられない。しかもヒロインだ。これ以上ないベストポジションではないか。大好きなヒーローとリアルで恋愛できるなんて。
しかし、困ったことがある。
攻略対象者が全員素敵すぎて一人を選べないのだ。誰か一人を選んでしまえば、もう他の誰も選ぶことはできない。誰と恋をするか、慎重に選ばなくてはならなかった。
ゲームだったら全員と順番に恋ができたのに。それこそ一人ずつ、何回も何回も繰り返すことができた。
それなのに、現実となるとたった一人としか恋ができないなんて。
一人と、一度きり。
アリシアは懊悩した。
全員素敵なのだ。それぞれ違う魅力を持ち、顔も、声も、性格もなにもかもが素晴らしい。アリシアにとっては全員が推しであり、ナンバーワンでオンリーワンなのだ。
選べない。とてもじゃないが、一人になんて絞れない。
でも折角大好きなゲームのヒロインになれたのだ。恋をしないなんてもったいない。画面越しにしか出会えなかったヒーロー達が目の前にいるのに、恋をしないなんてあり得ない。
ヒロインとヒーローが出会い恋をするのは、魔法学校に通う三年間の間だ。
アリシアは悩んだ。後悔しない選択をするために、悩んで悩んで悩み続けた。
そして悩んでいるうちにあっという間に三年が過ぎ去り、気づけば卒業式を迎えていた。
そして何故かヒロインのアリシアが断罪されていた。
卒業式に行われる断罪イベントは、悪役令嬢が対象のはずだ。それなのに、何故ヒロインのアリシアが断罪されているのか。
そもそも、断罪イベントは何故発生したのだろう。
アリシアは悪役令嬢にいじめられた覚えはない。在学中の三年間、悪役令嬢とは殆ど関わることはなかった。だから断罪イベントは発生しないで終わると思っていたのに。
もちろん、アリシアだって断罪されるような行いはしていない。誰かを妬んで嫌がらせをしたり、そんなことは一切していない。
のだけれど。
「アリシア・ルーデルス、君は複数の男に近づき色目を使い、僕の婚約者であるエレオノーラに嫌がらせを繰り返し、婚約者の座から引きずり下ろそうとした!」
攻略対象者の一人である王太子がびしりとアリシアに指を突き付け言った。
エレオノーラとは悪役令嬢の名前である。
誓って言うが、アリシアは彼女に嫌がらせなどしたことはない。そもそも接すること自体ほぼなかったのだ。偶然にも故意にも、嫌がらせなどできるはずかない。
そして複数の男に色目も使っていない。確かに攻略対象者全員に声はかけた。けれど一言二言言葉を交わしただけだ。アプローチもしていない。ラッキースケベ的なハプニングも起きていない。
なにせ生で見る攻略対象者達が眩しくて尊すぎて、三年間まともに目も合わせられなかった。緊張しすぎて会話などできなかった。
比べることなんてできなきくらい全員が素敵で、近づくことさえ烏滸がましいと感じてしまっていた。
本当に乙女ゲームのヒロインなのかと疑うほどなにもなかった。改めて思い返すとなにもなさすぎてゾッとするほどだ。
それなのに否定の言葉など誰の耳にも届かず、あれよあれよという間に勝手に話は進み、アリシアはヒロインでありながら断罪され、国外へと追放されることとなった。
隣国へは明日連れていかれるらしい。地下牢に閉じ込められ、アリシアは呆然と立ち竦んでいた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
そんな、答えの出ない疑問がずっと頭に浮かんでいる。
誰も選べなかったから? 誰か一人を選んでいたら、こんなことにはならなかったのだろうか。
ぐるぐると同じことを考えていると、足音が聞こえてきた。現れたのはエレオノーラだった。
彼女は悪辣な笑みを浮かべてアリシアを見据える。
「あなたも、転生者なんでしょう?」
「えっ……」
「私もそうなのよ。色んな男に声をかけて、逆ハーでも狙ってた? 残念だったわね、あなたの思い通りにはさせないわよ」
「…………」
悪役令嬢が転生者かもしれない、なんて考えは全く頭になかった。攻略対象者を一人に絞ることに必死になりすぎて、他にまで気が回らなかった。
よく考えれば、ヒロインが悪役令嬢と接点が全くないなんておかしいのだ。それなのに、ゲームの中では何度も行われていた嫌がらせが一切なかったことに今まで疑問すら抱いていなかった。
だって仕方ない。誰を選び誰と恋をするか、アリシアにとってそれが最重要で、それ以外のことなど二の次だったのだ。
愕然とするアリシアを見て、エレオノーラは哄笑する。
「まあ、好感度は全然上げられてなかったみたいだけど、あなたはヒロインだし、なにが起こるかわからないから手を打たせてもらったわ。断罪されて国外に追いやられれば、さすがにもう手も出せないでしょうからね!」
疑問の答えは彼女に教えられた。どうしてこんなことになったのか。それは、エレオノーラが仕組んだからだ。
彼女は言うだけ言うと、とっとと去っていった。
答えを得て、アリシアは納得する。すっきりすると眠くなってきた。
牢の中に置いてある固いベッドに横になり、アリシアは朝までぐっすり眠った。
────────────
読んでくださってありがとうございます。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
408
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる