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4.魔王城の闇医者
12話
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◇
次の日、シオンとレヴィアスは再びシンシアの館へと向かっていた。
出来るだけ、今回で話をつけてしまいたい、というのが二人共通の見解だ。
「最悪、引きずってでも城へ連れていきます」
何食わぬ顔で物騒な決意を語るレヴィアスにシオンは思わず苦笑いする。
……が、確かにそう悠長なことを言っていられない状況になってきた。
昨日に引き続き、周囲を警戒しながら館へと向かう。
潮の香りが少しずつ遠ざかり、木の葉の青い香りが濃くなっていくのを感じる。
すると、ぴくりとレヴィアスの腕が何かに反応した。
「レヴィアスさん……?」
「少し、このままでいてください」
シオンの後ろで馬の手綱をとるレヴィアスが、その手を引いて馬を止める。
振り返ってレヴィアスの顔を見ると、彼は森の奥、シンシアの館とは違う方向をじっと見つめているようだった。
「道を変えます。私のそばから離れないようにしてください」
その物言いに、恐らく彼は何かの気配を感じ取ったのだろうと察する。
恐怖もあるが、何より彼の邪魔をしてはいけない、とシオンは口をつぐんで息をひそめた。
さく、さく、と馬の蹄が草を踏む音が鳴る。
それが徐々に、深い草むらを分け入る音へと変わっていく。
町からも、シンシアの館からも随分と離れたその場所で、二人が乗ってきた馬がピタリと歩みを止めた。
「……どうしたんでしょう」
何かを察知したかのように、馬は頑として動かない。
「野生の勘でしょうね。……ここからは歩いて近づきます」
馬から降り、深く、少し湿った草の上に着地する。
レヴィアスは馬を木につなごうとして、少し考えてからそれを止めた。
「いいんですか?」
「万が一の場合に、走って逃げられた方がいいでしょう」
万が一。
その言葉の重みをゆっくりと飲み込みながら、シオンはこくりと頷いた。
草木をかき分けながら、レヴィアスの後ろに続いて森の中を進んでいく。
すると、少し開けた場所に、まるで巨人が刀を振り下ろしたかのような削れ方をした大きな岩が現れた。
「これ……」
「昨日は無かった傷ですね」
あたりを改めて見回すと、『開けた場所』ではなく、そこは『何か』に木や草をなぎ倒された、その中心地であることが見えてくる。
そして足元には、木漏れ日を浴びて、てらてらと光る極太の糸がぴんと張られていることに気が付いた。
「これが、土蜘蛛の痕跡なんですか?」
「そう見えますが、いずれにせよ通常のサイズ感ではないですね」
レヴィアスが、後ろに下がる様に手でシオンを促す。
「……町に戻りましょう。この奥へは、私がひとりで向かいます」
馬を置いてきた場所へと足早に戻る。
ふっ、と。
太陽が何かに遮られ、辺りが一瞬暗くなった。
「っ!?」
その刹那、レヴィアスはシオンを抱えて横に飛ぶ。
ぐっと体を抱えられながら、シオンの視界の端には巨大で鋭利な何かが地面に向かって突き刺さろうとしているのが見えた。
ドッ、という鈍い衝撃音が耳を突き、はじかれて飛んできた物体が体をかすめていく。
鼻をかすめる湿った匂い。
どうやらそれは、抉られた土の塊だった。
レヴィアスがシオンを抱えて着地すると、その目の前には鋸のような刃が付いた、二本の巨大な鎌が突き刺さっている。
鎌の周囲には、立ち木ほどの太さのある棒状の何かがうぞうぞと蠢いていた。
よく見ればそこには昆虫の脚のような節がある。
シオンが恐怖におののきながら見上げると、そこにはまさに巨大な蜘蛛がのそりと鎮座していた。
「ひっ、」
シオンが叫び声をあげるその前に、レヴィアスは再びその体を抱えて後ろに飛び、巨大な蜘蛛から距離をとる。
『土蜘蛛は、大きなもので体高二メートルほど』
それを遥かに超え、倍ほどの大きさを誇る土蜘蛛が、二人を悠々と見下ろしていた。
異常なまでに発達した前脚の鎌は、蜘蛛というより最早蟹のようですらある。
「あなたを先に町へ送り届けたかったですが……少し難しそうです」
そう言いながら、レヴィアスが腰に挿していた剣を抜く。
「こちらに引き付けます。そこから動かないように」
短くそう言うと、レヴィアスの背に漆黒の羽根が現れ、瞬く間に上空へと飛翔する。
蜘蛛の目は、その間一瞬たりともレヴィアスの姿を逃さない。
ぎょろりと動く大きな水晶玉のような目が八つ。
そのうちのどれか一つは、こちらを睨んでいるのではないかと思うと恐怖に体がすくむ。
とにかく刺激をしてはいけない。
シオンは身を小さくかがめながら、立ち木の後ろに姿を隠した。
大きく振り上げられた蜘蛛の前脚が、鋭い刃となってレヴィアスを襲う。
風を切る音が鳴った瞬間、金属同士がぶつかる硬質な音があたりに響いた。
見れば、蜘蛛の一撃をレヴィアスが細い刀身で弾いている。
その間に彼の手元から放たれる炎は、蜘蛛の目の一つを焼いていた。
ギュウウウ!!という悲鳴を上げて蜘蛛が僅かにひるんだが、残り七つの目がレヴィアスを執拗に追い続けている。
ドドドッ、という鈍い音を立てながら、蜘蛛の脚が暴れるように地面を何度も突く。
硬く、重く変異した前足が、体のバランスを崩させているのだろうか。
前脚を使った思い切りの良い薙ぎ払いの後に、巨大な土蜘蛛は必ず体をふらつかせるように揺らめいている。
――まるで、急激に変化した体躯の扱いかたが解らないかのように。
レヴィアスは素早く地上に降り立つと、着地の衝撃をバネのように利用して蜘蛛の体へと切りかかる。
衝撃音と共に、蜘蛛の体から緑色の体液が飛び散った。
大きくのけ反った蜘蛛の体から、一本の脚がずるりと脱落する。
しかし、蜘蛛はすぐに腹部を地面から浮き上がらせるような姿勢をとった。
見るからに硬い筋肉に覆われた腹部が、内部に高圧をかけるように一斉に収縮する。
「毒か」
剣をひと振りし蜘蛛の体液を払うレヴィアスの小さな呟きが、シオンの耳に届いた。
糸を放出する穴と思われる個所から、どろりと黒い液体が漏れ出している。
その射出先にあたる方向を見やり、シオンは絶句する。
(……リヴィオさん!?)
レヴィアスの背後に茂る草むらの、立ち木の陰に見える人影。
それは間違いなく、恐怖に竦んだリヴィオの姿だった。
レヴィアスは、毒を噴射しようとする蜘蛛に一撃を与えようと前方に飛び出す。
毒液の充填に時間を要すると踏んだのだろう。
レヴィアスを切り払おうと、蜘蛛は二本の前脚を大きく振りかぶる。
(ここからじゃ、声が届かない……!)
シオンは弾かれたように立ち木の陰から飛び出した。
硬い草が足を切りつけるが、気にしていられない。
一目散にリヴィオのもとへと走り寄り、その体を引き寄せた。
「リヴィオさんっ!!」
シオンの叫びに、レヴィアスがビクリと反応する。
それは蜘蛛も同じだった。
高圧をかけた腹部を突き破るかのような勢いで、真っ黒な粘液を放出する。
その行先は、蜘蛛の目の前にいるレヴィアスではなく、シオンとリヴィオが隠れる草むらの方向。
粘度の高い液体がまるで銃弾のように二人を襲う。
バキバキ、と数メートル手前の立ち木が粘液の塊に貫かれていく様がスローモーションのように見えた。
(……来るっ……!)
シオンはリヴィオの体を覆うように抱えて、固く眼を閉じる。
せめて腕の中で震えるこの青年を、守りたい。
――レヴィアスが、何かを叫ぶ声が聞こえた。
チリ、チリ……と。
耳元で何かを擦るような微かな音がする。
薄っすらと瞼を開くと、目の前には薄い光の膜が張られていた。
刺激臭を放つ蜘蛛の毒はその光の膜に遮られぼたぼたと足元に落ちていく。
「何……これ……」
気付けば、首元を飾っているネックレスが、熱を持って輝いていた。
ドランからもらった、お守りの魔法石だ。
数秒呆気にとられていると、ネックレスは輝きを失い、目の前の光の膜は溶けるように消えてなくなった。
ギャアアア!!という蜘蛛の雄叫びに、シオンは我に返る。
魔法石の光に気をひかれたのだろうか。
蜘蛛は大きな体を異常なスピードで震わせながら、一直線にこちらへと突っ込んでくる。
両方の巨大な鎌を高く振り上げた。
ネックレスは反応しない。
力を使い切ってしまったのだろうか。
リヴィオを担ぎ、何とか少しでも障害物が多い場所へ体を動かす。
レヴィアスが素早く一太刀、大地を駆ける蜘蛛の脚に向かって叩きつける。
鈍い音と共に、脚が一本飛ぶ。
それでも蜘蛛の進行は止まらない。
バランスを崩しながら、転がる様にこちらへ突進してくるのだ。
(レヴィアスさん、ごめんなさいっ……!)
身を小さくかがめて、もう一度リヴィオの体を抱きしめる。
刃がこの身で少しでも防げるように。
甲高い金属音。
耳をつんざくような蜘蛛の叫び。
それから、
――頬や手に降り注ぐ、温かい液体。
「……レヴィアス……さん……?」
痛みは無い。
目の前には、真っ赤な血に濡れたレヴィアスの横顔があった。
ぎゅっと、体が締め付けられるような圧迫感。
レヴィアスが、両腕で守る様にシオンの体を抱き込んでいるのだと気付く。
その背に、そっと触れる。
僅かに、震えているだろうか。押し殺すような息遣いを感じる。
それから、ぬるりと生温かく湿った感触と、あたりを包む鉄のような匂い。
あたりに黒い羽毛が舞い散った。
そして、足元を濡らす血だまりの、そのすぐそばにひと際大きな黒い塊が転がっている。
シオンはすぐに悟った。
それは、レヴィアスの背にあったはずの翼だ。
次の日、シオンとレヴィアスは再びシンシアの館へと向かっていた。
出来るだけ、今回で話をつけてしまいたい、というのが二人共通の見解だ。
「最悪、引きずってでも城へ連れていきます」
何食わぬ顔で物騒な決意を語るレヴィアスにシオンは思わず苦笑いする。
……が、確かにそう悠長なことを言っていられない状況になってきた。
昨日に引き続き、周囲を警戒しながら館へと向かう。
潮の香りが少しずつ遠ざかり、木の葉の青い香りが濃くなっていくのを感じる。
すると、ぴくりとレヴィアスの腕が何かに反応した。
「レヴィアスさん……?」
「少し、このままでいてください」
シオンの後ろで馬の手綱をとるレヴィアスが、その手を引いて馬を止める。
振り返ってレヴィアスの顔を見ると、彼は森の奥、シンシアの館とは違う方向をじっと見つめているようだった。
「道を変えます。私のそばから離れないようにしてください」
その物言いに、恐らく彼は何かの気配を感じ取ったのだろうと察する。
恐怖もあるが、何より彼の邪魔をしてはいけない、とシオンは口をつぐんで息をひそめた。
さく、さく、と馬の蹄が草を踏む音が鳴る。
それが徐々に、深い草むらを分け入る音へと変わっていく。
町からも、シンシアの館からも随分と離れたその場所で、二人が乗ってきた馬がピタリと歩みを止めた。
「……どうしたんでしょう」
何かを察知したかのように、馬は頑として動かない。
「野生の勘でしょうね。……ここからは歩いて近づきます」
馬から降り、深く、少し湿った草の上に着地する。
レヴィアスは馬を木につなごうとして、少し考えてからそれを止めた。
「いいんですか?」
「万が一の場合に、走って逃げられた方がいいでしょう」
万が一。
その言葉の重みをゆっくりと飲み込みながら、シオンはこくりと頷いた。
草木をかき分けながら、レヴィアスの後ろに続いて森の中を進んでいく。
すると、少し開けた場所に、まるで巨人が刀を振り下ろしたかのような削れ方をした大きな岩が現れた。
「これ……」
「昨日は無かった傷ですね」
あたりを改めて見回すと、『開けた場所』ではなく、そこは『何か』に木や草をなぎ倒された、その中心地であることが見えてくる。
そして足元には、木漏れ日を浴びて、てらてらと光る極太の糸がぴんと張られていることに気が付いた。
「これが、土蜘蛛の痕跡なんですか?」
「そう見えますが、いずれにせよ通常のサイズ感ではないですね」
レヴィアスが、後ろに下がる様に手でシオンを促す。
「……町に戻りましょう。この奥へは、私がひとりで向かいます」
馬を置いてきた場所へと足早に戻る。
ふっ、と。
太陽が何かに遮られ、辺りが一瞬暗くなった。
「っ!?」
その刹那、レヴィアスはシオンを抱えて横に飛ぶ。
ぐっと体を抱えられながら、シオンの視界の端には巨大で鋭利な何かが地面に向かって突き刺さろうとしているのが見えた。
ドッ、という鈍い衝撃音が耳を突き、はじかれて飛んできた物体が体をかすめていく。
鼻をかすめる湿った匂い。
どうやらそれは、抉られた土の塊だった。
レヴィアスがシオンを抱えて着地すると、その目の前には鋸のような刃が付いた、二本の巨大な鎌が突き刺さっている。
鎌の周囲には、立ち木ほどの太さのある棒状の何かがうぞうぞと蠢いていた。
よく見ればそこには昆虫の脚のような節がある。
シオンが恐怖におののきながら見上げると、そこにはまさに巨大な蜘蛛がのそりと鎮座していた。
「ひっ、」
シオンが叫び声をあげるその前に、レヴィアスは再びその体を抱えて後ろに飛び、巨大な蜘蛛から距離をとる。
『土蜘蛛は、大きなもので体高二メートルほど』
それを遥かに超え、倍ほどの大きさを誇る土蜘蛛が、二人を悠々と見下ろしていた。
異常なまでに発達した前脚の鎌は、蜘蛛というより最早蟹のようですらある。
「あなたを先に町へ送り届けたかったですが……少し難しそうです」
そう言いながら、レヴィアスが腰に挿していた剣を抜く。
「こちらに引き付けます。そこから動かないように」
短くそう言うと、レヴィアスの背に漆黒の羽根が現れ、瞬く間に上空へと飛翔する。
蜘蛛の目は、その間一瞬たりともレヴィアスの姿を逃さない。
ぎょろりと動く大きな水晶玉のような目が八つ。
そのうちのどれか一つは、こちらを睨んでいるのではないかと思うと恐怖に体がすくむ。
とにかく刺激をしてはいけない。
シオンは身を小さくかがめながら、立ち木の後ろに姿を隠した。
大きく振り上げられた蜘蛛の前脚が、鋭い刃となってレヴィアスを襲う。
風を切る音が鳴った瞬間、金属同士がぶつかる硬質な音があたりに響いた。
見れば、蜘蛛の一撃をレヴィアスが細い刀身で弾いている。
その間に彼の手元から放たれる炎は、蜘蛛の目の一つを焼いていた。
ギュウウウ!!という悲鳴を上げて蜘蛛が僅かにひるんだが、残り七つの目がレヴィアスを執拗に追い続けている。
ドドドッ、という鈍い音を立てながら、蜘蛛の脚が暴れるように地面を何度も突く。
硬く、重く変異した前足が、体のバランスを崩させているのだろうか。
前脚を使った思い切りの良い薙ぎ払いの後に、巨大な土蜘蛛は必ず体をふらつかせるように揺らめいている。
――まるで、急激に変化した体躯の扱いかたが解らないかのように。
レヴィアスは素早く地上に降り立つと、着地の衝撃をバネのように利用して蜘蛛の体へと切りかかる。
衝撃音と共に、蜘蛛の体から緑色の体液が飛び散った。
大きくのけ反った蜘蛛の体から、一本の脚がずるりと脱落する。
しかし、蜘蛛はすぐに腹部を地面から浮き上がらせるような姿勢をとった。
見るからに硬い筋肉に覆われた腹部が、内部に高圧をかけるように一斉に収縮する。
「毒か」
剣をひと振りし蜘蛛の体液を払うレヴィアスの小さな呟きが、シオンの耳に届いた。
糸を放出する穴と思われる個所から、どろりと黒い液体が漏れ出している。
その射出先にあたる方向を見やり、シオンは絶句する。
(……リヴィオさん!?)
レヴィアスの背後に茂る草むらの、立ち木の陰に見える人影。
それは間違いなく、恐怖に竦んだリヴィオの姿だった。
レヴィアスは、毒を噴射しようとする蜘蛛に一撃を与えようと前方に飛び出す。
毒液の充填に時間を要すると踏んだのだろう。
レヴィアスを切り払おうと、蜘蛛は二本の前脚を大きく振りかぶる。
(ここからじゃ、声が届かない……!)
シオンは弾かれたように立ち木の陰から飛び出した。
硬い草が足を切りつけるが、気にしていられない。
一目散にリヴィオのもとへと走り寄り、その体を引き寄せた。
「リヴィオさんっ!!」
シオンの叫びに、レヴィアスがビクリと反応する。
それは蜘蛛も同じだった。
高圧をかけた腹部を突き破るかのような勢いで、真っ黒な粘液を放出する。
その行先は、蜘蛛の目の前にいるレヴィアスではなく、シオンとリヴィオが隠れる草むらの方向。
粘度の高い液体がまるで銃弾のように二人を襲う。
バキバキ、と数メートル手前の立ち木が粘液の塊に貫かれていく様がスローモーションのように見えた。
(……来るっ……!)
シオンはリヴィオの体を覆うように抱えて、固く眼を閉じる。
せめて腕の中で震えるこの青年を、守りたい。
――レヴィアスが、何かを叫ぶ声が聞こえた。
チリ、チリ……と。
耳元で何かを擦るような微かな音がする。
薄っすらと瞼を開くと、目の前には薄い光の膜が張られていた。
刺激臭を放つ蜘蛛の毒はその光の膜に遮られぼたぼたと足元に落ちていく。
「何……これ……」
気付けば、首元を飾っているネックレスが、熱を持って輝いていた。
ドランからもらった、お守りの魔法石だ。
数秒呆気にとられていると、ネックレスは輝きを失い、目の前の光の膜は溶けるように消えてなくなった。
ギャアアア!!という蜘蛛の雄叫びに、シオンは我に返る。
魔法石の光に気をひかれたのだろうか。
蜘蛛は大きな体を異常なスピードで震わせながら、一直線にこちらへと突っ込んでくる。
両方の巨大な鎌を高く振り上げた。
ネックレスは反応しない。
力を使い切ってしまったのだろうか。
リヴィオを担ぎ、何とか少しでも障害物が多い場所へ体を動かす。
レヴィアスが素早く一太刀、大地を駆ける蜘蛛の脚に向かって叩きつける。
鈍い音と共に、脚が一本飛ぶ。
それでも蜘蛛の進行は止まらない。
バランスを崩しながら、転がる様にこちらへ突進してくるのだ。
(レヴィアスさん、ごめんなさいっ……!)
身を小さくかがめて、もう一度リヴィオの体を抱きしめる。
刃がこの身で少しでも防げるように。
甲高い金属音。
耳をつんざくような蜘蛛の叫び。
それから、
――頬や手に降り注ぐ、温かい液体。
「……レヴィアス……さん……?」
痛みは無い。
目の前には、真っ赤な血に濡れたレヴィアスの横顔があった。
ぎゅっと、体が締め付けられるような圧迫感。
レヴィアスが、両腕で守る様にシオンの体を抱き込んでいるのだと気付く。
その背に、そっと触れる。
僅かに、震えているだろうか。押し殺すような息遣いを感じる。
それから、ぬるりと生温かく湿った感触と、あたりを包む鉄のような匂い。
あたりに黒い羽毛が舞い散った。
そして、足元を濡らす血だまりの、そのすぐそばにひと際大きな黒い塊が転がっている。
シオンはすぐに悟った。
それは、レヴィアスの背にあったはずの翼だ。
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