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7. 籠の鳥
5話
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目の前が、真っ赤に染まる。
頬にかかる温かな血の雨が、シオンの思考を鈍らせる。
いつかと同じ感触、匂い。
ただあの時と違うのは、レヴィアスの腕がシオンを突き飛ばしたということと……
――レヴィアスの体が、細い剣に貫かれているということ。
「れ……、レヴィアスさん……?」
震えながら伸ばした手は、降り注いだ赤に染まっている。
項垂れたレヴィアスの表情は見えない。
ただ、口元から流れる血が彼のシャツにいくつもの染みを作っていく。
「これが……あの日君が見た景色……?」
呆然とした様子で、血に濡れた剣を見つめながらエリオルが呟いた。
雨がいくつもの筋を作っているその顔は青白く、今にも倒れてしまいそうに見える。
見事な白い羽根も、水と血を吸ってその骨格がはっきりと浮き上がっている。
優美さとはかけ離れた、危うい造形美。
「……君の願いなんてかなえてやらない」
エリオルが震える声で、しかしはっきりと言い放った。
ぴくり、とレヴィアスの顔が僅かに動く。
「結局僕は選ばれなかった。……あの子にも……君にも」
すっとエリオルの瞳から光が消える。
心が、血を流している。
「……違う」
口元から血を溢れさせながら、レヴィアスが短く呟いた。
エリオルが目を大きく見開き、僅かに口を開く。
少しだけ視線をゆらがせて、エリオルは青ざめたその唇を引き結んだ。
それは、唯一レヴィアスがエリオルに伝えた言葉だった。
――赤い血を滴らせながら、天使は空へと舞い上がる。
シオンはレヴィアスの体を抱き締めながら、その姿を見つめていた。
今にも失われてしまいそうなレヴィアスの体温を体中で受け止める。
シオンは、持てる力全てを使ってレヴィアスの体を癒していく。
それが、彼の望むことなのか、今はまだわからない。
それでもシオンは、自分の心に従うことを選んだ。
「……嫌ですよ……いなくなったりしないで。消えてしまったりしないで」
言葉が彼に届いているのかは分からない。
ただ、静かに耳元を撫でる彼の吐息だけを頼りに、シオンは魔力を注ぎ続けた。
この力が、体にだけではなく心も侵食することが出来たらいいのに。
シオンの魔法石が淡く輝き、その魔力が体に流れ込んだ。
レヴィアスの魔力が、シオンの体を介して還っていく。
涙と雨がまじりあって、シオンの顔を濡らす。
それを拭うこともせず、震える指でレヴィアスの頬をそっと撫でた。
「……汚れますよ」
薄く眼を開けたレヴィアスが、小さく呟いた。
その声に、シオンはこらえきれずに嗚咽する。
「駄目じゃないですか……離れていかないでって言ったのに」
恐怖と安堵が一気にシオンを襲い、みっともなく声が震える。
レヴィアスはゆっくりと手を伸ばし、シオンの涙を拭おうとして……その手を止めた。
「どうして躊躇うんですか。……私を信じてくれないんですか」
責める口調になっていることはシオンもわかっていた。
それでも、どうしても悔しかった。
思いが伝わっていなかったのだろうか。
そしてそれは――十分に、伝えることをしなかったせいではないか。
目を細めて、レヴィアスが口を開く。
「私が、勘違いをしていたんです。触れるべきではなかった。……望んではいけなかった」
静かに、ただ後悔の色を含んだ呟きが虚空に消える。
開いてしまった傷の痛みが、彼を蝕んでいる。
シオンは拳を握り、レヴィアスの瞳をきっと見据えた。
「勝手に決めないで」
それから両手のひらを彼の両頬に添える。
互いに芯まで冷えた肌は、小さく震えていた。
そっと顔を寄せ、鼻と鼻を触れさせる。
それから――戸惑ったように薄く開いた、彼の冷たい唇に、ゆっくりと口づけた。
頬にかかる温かな血の雨が、シオンの思考を鈍らせる。
いつかと同じ感触、匂い。
ただあの時と違うのは、レヴィアスの腕がシオンを突き飛ばしたということと……
――レヴィアスの体が、細い剣に貫かれているということ。
「れ……、レヴィアスさん……?」
震えながら伸ばした手は、降り注いだ赤に染まっている。
項垂れたレヴィアスの表情は見えない。
ただ、口元から流れる血が彼のシャツにいくつもの染みを作っていく。
「これが……あの日君が見た景色……?」
呆然とした様子で、血に濡れた剣を見つめながらエリオルが呟いた。
雨がいくつもの筋を作っているその顔は青白く、今にも倒れてしまいそうに見える。
見事な白い羽根も、水と血を吸ってその骨格がはっきりと浮き上がっている。
優美さとはかけ離れた、危うい造形美。
「……君の願いなんてかなえてやらない」
エリオルが震える声で、しかしはっきりと言い放った。
ぴくり、とレヴィアスの顔が僅かに動く。
「結局僕は選ばれなかった。……あの子にも……君にも」
すっとエリオルの瞳から光が消える。
心が、血を流している。
「……違う」
口元から血を溢れさせながら、レヴィアスが短く呟いた。
エリオルが目を大きく見開き、僅かに口を開く。
少しだけ視線をゆらがせて、エリオルは青ざめたその唇を引き結んだ。
それは、唯一レヴィアスがエリオルに伝えた言葉だった。
――赤い血を滴らせながら、天使は空へと舞い上がる。
シオンはレヴィアスの体を抱き締めながら、その姿を見つめていた。
今にも失われてしまいそうなレヴィアスの体温を体中で受け止める。
シオンは、持てる力全てを使ってレヴィアスの体を癒していく。
それが、彼の望むことなのか、今はまだわからない。
それでもシオンは、自分の心に従うことを選んだ。
「……嫌ですよ……いなくなったりしないで。消えてしまったりしないで」
言葉が彼に届いているのかは分からない。
ただ、静かに耳元を撫でる彼の吐息だけを頼りに、シオンは魔力を注ぎ続けた。
この力が、体にだけではなく心も侵食することが出来たらいいのに。
シオンの魔法石が淡く輝き、その魔力が体に流れ込んだ。
レヴィアスの魔力が、シオンの体を介して還っていく。
涙と雨がまじりあって、シオンの顔を濡らす。
それを拭うこともせず、震える指でレヴィアスの頬をそっと撫でた。
「……汚れますよ」
薄く眼を開けたレヴィアスが、小さく呟いた。
その声に、シオンはこらえきれずに嗚咽する。
「駄目じゃないですか……離れていかないでって言ったのに」
恐怖と安堵が一気にシオンを襲い、みっともなく声が震える。
レヴィアスはゆっくりと手を伸ばし、シオンの涙を拭おうとして……その手を止めた。
「どうして躊躇うんですか。……私を信じてくれないんですか」
責める口調になっていることはシオンもわかっていた。
それでも、どうしても悔しかった。
思いが伝わっていなかったのだろうか。
そしてそれは――十分に、伝えることをしなかったせいではないか。
目を細めて、レヴィアスが口を開く。
「私が、勘違いをしていたんです。触れるべきではなかった。……望んではいけなかった」
静かに、ただ後悔の色を含んだ呟きが虚空に消える。
開いてしまった傷の痛みが、彼を蝕んでいる。
シオンは拳を握り、レヴィアスの瞳をきっと見据えた。
「勝手に決めないで」
それから両手のひらを彼の両頬に添える。
互いに芯まで冷えた肌は、小さく震えていた。
そっと顔を寄せ、鼻と鼻を触れさせる。
それから――戸惑ったように薄く開いた、彼の冷たい唇に、ゆっくりと口づけた。
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