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249. ドワーフ国から帰る俺
ドワーフ族の武器防具工房は、立派な物だった。
入ってすぐ、トルソーにずらりと飾られていたのは、ドワーフ族の体型に合わせた鎧や武器だった。
それは国内のコンテストで優勝した作品達で、どれもデザイン性と機能性を両立させ、精緻な装飾の施された、芸術品と呼ぶにふさわしい物である。
ドワーフ族は島外の情報にはあまり興味がなく、独自の文化を築いていたが、デザインは素晴らしいものだった。
「すごい…」
バージル達も感動した様子で見入っており、工房長も満足そうに頷いていた。
「気に入ったモンがあれば、言えばええ。似たようなコンセプトで作ってやるわい」
「いいんですか!?」
「おん。そん為に王さんはここに寄越したんじゃろうしな。三人分じゃろ?」
「ありがとうございます!」
バージルとアベル、ロベルトはそれぞれ、気に入ったデザインの鎧を指さして、工房長に頼んでいた。
ミカエルとシャリエル、ジーンは他の部分も見て回り、その技術力の高さとドワーフ族の器用さに感動した。
もっとゆっくりと見て回りたかったが、聖女達を待たせているので、あまりのんびりもしていられない。
ぐるりと工房を見学させてもらい、ミカエル達は応接室へと戻ったのだった。
「お待たせしました。戻りました」
バージルが聖女達に声をかけたが、二人から返事はなかった。
普段であれば「遅い」とか「暇」など、文句を言ってくるはずなのに、何もないことにミカエル達は一瞬不審に思ったものの、二人揃って眠そうな顔をしていることから、直前まで寝ていたのかもしれない。
ミカエル達が戻ったことで、王もまた応接室に戻って来て、見送りをしてくれることになった。
「神器は持ったな?ミカ坊」
「はい。お借りします」
「初代ドワーフ王が使った戦斧でな。神器ではあるが、魔王討伐で使ったことはない。ちっと人族が振るには重いかもしれんが、ええ斧じゃわい」
「ありがとうございます!大切に使います」
「おん。またいつでも遊びに来いや」
「はい!」
マジックバッグに収納した神器は、箱に入っていたが確かに重かった。
ご友人が乗る馬にくくりつける予定だったが、大きさからすると、冒険者の一人に斧を持ってもらい、他の神器を馬に乗せた方がいいかもしれない。
神器が出揃ってから配分を考えよう、とバージル達と話し合い、転移装置で帝国へ飛び、またジルに挨拶をしてから各自、自国へと戻った。
ミカエルとアベル、聖女とご友人がソウェイサズ王国へ戻って来たのは夕方のことであったが、転移の広間に到着した瞬間、侍女ミルラが悲壮な顔をして駆け寄って来た。
「殿下、大変でございます!!第二王子殿下が、…第二王子殿下が、事故に…っ!!」
「え…っ!?」
声を上げたのは、アベルだった。
愕然として、ミルラとミカエルの間を視線が行き来し、どう言葉をかけたらいいのか迷っている様子だった。
ミカエルは言葉をなくし、呆然と立ち尽くす。
「今、騎士団が第二王子殿下をお連れして、王宮に戻って参りました所でございます!どうか殿下、お急ぎ下さいまし…!!」
ミルラはすでに、泣いていた。
まさか、と、誰もが察した。
「…わかった…」
「あ、あの、ミカエル様、俺も」
アベルとアルヴィスは、クラスメートだった。
気になる気持ちは、わかる。
心配してくれていることも、伝わった。
だがミカエルは、ゆっくりと首を振った。
「…すまないが、私だけで行ってくる。何かあれば、連絡するから…」
声に力が入らなかったが、アベルにはちゃんと聞こえたようだ。
痛みを堪えるような顔をして、頷いた。
「…わ、わかりました。ミカエル様、顔色が悪いです。…どうか、お気を確かに」
「…ああ、ありがとう」
形ばかりの別れの挨拶をして、ミルラの後について歩き出したミカエルの背後から、聖女の笑いと、ご友人の他人事の発言が聞こえた。
「え、マジで?うわーかわいそ…」
「ちょっとやめなよー。ミカエルが可哀想。喪服って、言えば作ってもらえるのかな?」
「王室御用達で作ってもらえばいいじゃん」
「そだね。かわいいのにしてもらおっ」
彼らにとって、第二王子とはミカエルの後ろにいるだけの、目立たない王子だったことだろう。
思い入れもなく、攻略対象者でもないから興味もなかったことだろう。
それでも。
人の心がない。
ミカエルが思うのと同時に、アベルが声を上げた。
「第二王子殿下は、クラスメートでしょう。何でそんなことが言えるんですか?ミカエル様の、弟なんですよ!?もっと、配慮して物が言えないんですか!?」
アベルが激高するのは初めてだったが、聖女達の心には響かなかったようだ。
「勇者くーん、マジウゼーよ?配慮したら、第二王子が生き返るんですかー?無理だろー?じゃー、何言おうが関係なくね?」
「…な…っ」
「あ、ちなみに俺も、ちゃんと配慮は出来るぜ。ごしゅうしょーさまでしたぁ!はい論破」
「やっだゆずるん、ダッサ。論破とか、まだ使ってんの?」
「うっせ」
「……あなた達は…っ」
ミカエルは、端に控えていた聖女とご友人の侍女侍従、護衛騎士達に二人を連れて行くよう命令し、アベルには自分で声をかけた。
「アベル、今日は疲れただろう。ゆっくり休んで」
「…っ、ミカエル様…!…騒いで、すいません。戻って、休みます」
「ありがとう」
ここで、揉めている場合ではなかった。
勇者パーティーは、魔王討伐を、完遂しなければならないのだ。
それまでは、我慢しなければならない。
ミカエルはさすがに聖女達に声をかける気にはなれず、ミルラと共に広間を出て、アルヴィスの王子宮へと急いだ。
アルヴィスは早朝に、馬車で王宮を出た。
見送りに出たのはミカエルと宰相、そしてアルヴィスの宮の使用人達。
王子の輿入れだというのに、ひっそりとしていた。
身一つで来てくれ、とのことだったので、道中の着替え分しか用意はない。
馬車だけは立派だったが、王子の都落ちと思えば、あまりにも寂しい旅路である。
アルヴィスは平然と出て行ったし、ミカエルもまた、涙に濡れるような真似はしなかった。
二人がずっと一緒に育ったことを知っている宰相は、少しだけ意外そうな顔をしたが、別れは十分に済ませたのだろうと、勝手に納得してくれたようだった。
今後、ミカエルが第二王子と顔を合わせる機会と言えば、魔王討伐を完了し、凱旋パーティーの時だろう。
そう、思っていたのに。
第二王子は、遺体となって自分の宮へと戻って来たのだった。
馬車で、崖下に転落。
護衛騎士達の証言は、それだった。
御者は傾く馬車から危うく飛び降り助かったが、馬車に乗っていた第二王子は、助からなかった。
王宮の馬車は造りだけは立派だったので、破損はしたが大破はせず、第二王子の身体も、損傷は思ったよりは激しくなく、形を保っている、とのことだった。
そんな話を、事故調査を行った第二騎士団長に聞かされても、全く嬉しくなかった。
御者は捕らえられたが、不可抗力の事故だったと主張している。
石に乗り上げ、バランスを崩したと。
王が采配をせず、宰相が具体的な調査をさらにしようとした所で、王弟が協力を申し出て、すでに調査に加わっているという。
「…殿下。第二王子殿下は、こちらです…」
泣きながらミルラに道を譲られ、ミカエルは第二王子の寝室へと入った。
そこに横たわっているのは、全身を包帯で巻かれた男、だった。
皆には、第二王子アルヴィスに見えているのだろう。
だがミカエルには、赤の他人としか映らなかった。
背格好が似ているだけの、別人の遺体。
昨日、他国で死刑執行されて埋められたばかりの、死体。
アルヴィスの物に似せて作ったピアスは、第二王子の姿に見えるよう、認識阻害の魔術を記述した魔装具だった。
「あぁ…」
ミカエルは床に膝を付き、ベッドサイドに縋りつくように顔を伏せた。
周囲にいるのはミルラと、アルヴィスの侍女達、そして騎士団の面々だった。
まだ洗脳が解けていない侍女達は、顔を伏せて啜り泣いているが、騎士団の面々は白けた様子で立っているだけだった。
彼らに、気づかれてはいけない。
ミカエルは、誰かに「そろそろ」と声をかけられるまでその場に伏せ、泣けるように頑張った。
入ってすぐ、トルソーにずらりと飾られていたのは、ドワーフ族の体型に合わせた鎧や武器だった。
それは国内のコンテストで優勝した作品達で、どれもデザイン性と機能性を両立させ、精緻な装飾の施された、芸術品と呼ぶにふさわしい物である。
ドワーフ族は島外の情報にはあまり興味がなく、独自の文化を築いていたが、デザインは素晴らしいものだった。
「すごい…」
バージル達も感動した様子で見入っており、工房長も満足そうに頷いていた。
「気に入ったモンがあれば、言えばええ。似たようなコンセプトで作ってやるわい」
「いいんですか!?」
「おん。そん為に王さんはここに寄越したんじゃろうしな。三人分じゃろ?」
「ありがとうございます!」
バージルとアベル、ロベルトはそれぞれ、気に入ったデザインの鎧を指さして、工房長に頼んでいた。
ミカエルとシャリエル、ジーンは他の部分も見て回り、その技術力の高さとドワーフ族の器用さに感動した。
もっとゆっくりと見て回りたかったが、聖女達を待たせているので、あまりのんびりもしていられない。
ぐるりと工房を見学させてもらい、ミカエル達は応接室へと戻ったのだった。
「お待たせしました。戻りました」
バージルが聖女達に声をかけたが、二人から返事はなかった。
普段であれば「遅い」とか「暇」など、文句を言ってくるはずなのに、何もないことにミカエル達は一瞬不審に思ったものの、二人揃って眠そうな顔をしていることから、直前まで寝ていたのかもしれない。
ミカエル達が戻ったことで、王もまた応接室に戻って来て、見送りをしてくれることになった。
「神器は持ったな?ミカ坊」
「はい。お借りします」
「初代ドワーフ王が使った戦斧でな。神器ではあるが、魔王討伐で使ったことはない。ちっと人族が振るには重いかもしれんが、ええ斧じゃわい」
「ありがとうございます!大切に使います」
「おん。またいつでも遊びに来いや」
「はい!」
マジックバッグに収納した神器は、箱に入っていたが確かに重かった。
ご友人が乗る馬にくくりつける予定だったが、大きさからすると、冒険者の一人に斧を持ってもらい、他の神器を馬に乗せた方がいいかもしれない。
神器が出揃ってから配分を考えよう、とバージル達と話し合い、転移装置で帝国へ飛び、またジルに挨拶をしてから各自、自国へと戻った。
ミカエルとアベル、聖女とご友人がソウェイサズ王国へ戻って来たのは夕方のことであったが、転移の広間に到着した瞬間、侍女ミルラが悲壮な顔をして駆け寄って来た。
「殿下、大変でございます!!第二王子殿下が、…第二王子殿下が、事故に…っ!!」
「え…っ!?」
声を上げたのは、アベルだった。
愕然として、ミルラとミカエルの間を視線が行き来し、どう言葉をかけたらいいのか迷っている様子だった。
ミカエルは言葉をなくし、呆然と立ち尽くす。
「今、騎士団が第二王子殿下をお連れして、王宮に戻って参りました所でございます!どうか殿下、お急ぎ下さいまし…!!」
ミルラはすでに、泣いていた。
まさか、と、誰もが察した。
「…わかった…」
「あ、あの、ミカエル様、俺も」
アベルとアルヴィスは、クラスメートだった。
気になる気持ちは、わかる。
心配してくれていることも、伝わった。
だがミカエルは、ゆっくりと首を振った。
「…すまないが、私だけで行ってくる。何かあれば、連絡するから…」
声に力が入らなかったが、アベルにはちゃんと聞こえたようだ。
痛みを堪えるような顔をして、頷いた。
「…わ、わかりました。ミカエル様、顔色が悪いです。…どうか、お気を確かに」
「…ああ、ありがとう」
形ばかりの別れの挨拶をして、ミルラの後について歩き出したミカエルの背後から、聖女の笑いと、ご友人の他人事の発言が聞こえた。
「え、マジで?うわーかわいそ…」
「ちょっとやめなよー。ミカエルが可哀想。喪服って、言えば作ってもらえるのかな?」
「王室御用達で作ってもらえばいいじゃん」
「そだね。かわいいのにしてもらおっ」
彼らにとって、第二王子とはミカエルの後ろにいるだけの、目立たない王子だったことだろう。
思い入れもなく、攻略対象者でもないから興味もなかったことだろう。
それでも。
人の心がない。
ミカエルが思うのと同時に、アベルが声を上げた。
「第二王子殿下は、クラスメートでしょう。何でそんなことが言えるんですか?ミカエル様の、弟なんですよ!?もっと、配慮して物が言えないんですか!?」
アベルが激高するのは初めてだったが、聖女達の心には響かなかったようだ。
「勇者くーん、マジウゼーよ?配慮したら、第二王子が生き返るんですかー?無理だろー?じゃー、何言おうが関係なくね?」
「…な…っ」
「あ、ちなみに俺も、ちゃんと配慮は出来るぜ。ごしゅうしょーさまでしたぁ!はい論破」
「やっだゆずるん、ダッサ。論破とか、まだ使ってんの?」
「うっせ」
「……あなた達は…っ」
ミカエルは、端に控えていた聖女とご友人の侍女侍従、護衛騎士達に二人を連れて行くよう命令し、アベルには自分で声をかけた。
「アベル、今日は疲れただろう。ゆっくり休んで」
「…っ、ミカエル様…!…騒いで、すいません。戻って、休みます」
「ありがとう」
ここで、揉めている場合ではなかった。
勇者パーティーは、魔王討伐を、完遂しなければならないのだ。
それまでは、我慢しなければならない。
ミカエルはさすがに聖女達に声をかける気にはなれず、ミルラと共に広間を出て、アルヴィスの王子宮へと急いだ。
アルヴィスは早朝に、馬車で王宮を出た。
見送りに出たのはミカエルと宰相、そしてアルヴィスの宮の使用人達。
王子の輿入れだというのに、ひっそりとしていた。
身一つで来てくれ、とのことだったので、道中の着替え分しか用意はない。
馬車だけは立派だったが、王子の都落ちと思えば、あまりにも寂しい旅路である。
アルヴィスは平然と出て行ったし、ミカエルもまた、涙に濡れるような真似はしなかった。
二人がずっと一緒に育ったことを知っている宰相は、少しだけ意外そうな顔をしたが、別れは十分に済ませたのだろうと、勝手に納得してくれたようだった。
今後、ミカエルが第二王子と顔を合わせる機会と言えば、魔王討伐を完了し、凱旋パーティーの時だろう。
そう、思っていたのに。
第二王子は、遺体となって自分の宮へと戻って来たのだった。
馬車で、崖下に転落。
護衛騎士達の証言は、それだった。
御者は傾く馬車から危うく飛び降り助かったが、馬車に乗っていた第二王子は、助からなかった。
王宮の馬車は造りだけは立派だったので、破損はしたが大破はせず、第二王子の身体も、損傷は思ったよりは激しくなく、形を保っている、とのことだった。
そんな話を、事故調査を行った第二騎士団長に聞かされても、全く嬉しくなかった。
御者は捕らえられたが、不可抗力の事故だったと主張している。
石に乗り上げ、バランスを崩したと。
王が采配をせず、宰相が具体的な調査をさらにしようとした所で、王弟が協力を申し出て、すでに調査に加わっているという。
「…殿下。第二王子殿下は、こちらです…」
泣きながらミルラに道を譲られ、ミカエルは第二王子の寝室へと入った。
そこに横たわっているのは、全身を包帯で巻かれた男、だった。
皆には、第二王子アルヴィスに見えているのだろう。
だがミカエルには、赤の他人としか映らなかった。
背格好が似ているだけの、別人の遺体。
昨日、他国で死刑執行されて埋められたばかりの、死体。
アルヴィスの物に似せて作ったピアスは、第二王子の姿に見えるよう、認識阻害の魔術を記述した魔装具だった。
「あぁ…」
ミカエルは床に膝を付き、ベッドサイドに縋りつくように顔を伏せた。
周囲にいるのはミルラと、アルヴィスの侍女達、そして騎士団の面々だった。
まだ洗脳が解けていない侍女達は、顔を伏せて啜り泣いているが、騎士団の面々は白けた様子で立っているだけだった。
彼らに、気づかれてはいけない。
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