274 / 311
270. トラブルは突然に、な俺3
「君とは婚約を破棄するっ!!」
「…え、何が起こった…?」
「さぁ…」
ダンスを終え、ミカエル達が見たものは、聖女のご友人を囲む三人の貴族令息と、その婚約者と思われる令嬢三名が、広間中央で寸劇を繰り広げ始めた所だった。
聖女のご友人を中心としたトラブルグループが広間の中央に陣取っている為、ダンスは自然と中止となり、演奏も止まった。
王の御前で起きた出来事に、貴族達が固唾を呑んで見つめるが、王自身はと言えば、「なんか面白いことが始まった」と言わんばかりの顔で、止めることなく傍観していた。
王弟は令嬢とダンスを踊っていたのを止められ、不満そうに顔を歪めながらも、王の手前、黙って王族席へと移動している。
ミカエル達も壁際まで下がり、様子を窺うことにした。
どこからも制止の声が入らない中、ご友人の取り巻きの令息達は、ヒートアップしていた。
婚約者の令嬢達は、開いた扇を口元に置いて表情を隠してはいるものの、不快を隠さなかった。
一人は眉間に皺を寄せて令息達を睨み付け、一人は悲しみに眉を下げて今にも泣きそうな様子を見せており、残る一人は淡々と、婚約者と思しき令息をただ見ていた。
「俺達は、知ってしまったんだ。真実の愛を!!」
役者にでもなったつもりなのか、体格の良い令息が声を張り上げた。
ご友人は「スヴェン、カッコイイ!」と褒めており、あの男は初めて魔族領にレベリングで行った時、ご友人が連れて来ていた取り巻きの一人であると、思い出した。
「そうだ!僕達は、愛し合っているんだ!」
もう一人声を上げた男は、スヴェンと共にレベリングに参加していた、ドーガンである。
魔術師団長の息子であるが、確か四男だったはず。
その二人がご友人の両脇に立ち、もう一人はご友人の背後から両肩に手を添えて、守るように立っていた。
…誰だっけ、あれ。
「僕達は、ヒメノを守りたい…。魔王討伐から帰って来た後は、疲れた彼女のそばにいて、癒してあげたいんだ。…君ならわかってくれるよね、ナタリー?」
ナタリーと呼ばれた令嬢は、冷めた瞳のまま、冷めた返答をした。
「守りたいとおっしゃるのなら、魔王討伐に同行なさったらよろしいのに」
「なっ!無茶を言わないでくれ!僕にそんな力があるわけないだろう!?僕が出来ることは、彼女の健康を守ることさ!身体の隅々までしっかりと、診てあげたい!」
「やだぁフレディったら!隅々までって、どこまでぇ?」
「ひ、ヒメノ、僕は邪な気持ちはないよ…!?」
「えぇ~?じゃぁ~、フレディは、今日はナシでいいのね?」
「ええっそんなぁ」
「……」
広間内は、ドン引きだ。
公共の場で、しかも卒業生とその家族が集まるデビュタントの場で、する会話ではなかった。
ミカエルもドン引きしつつ、その会話で思い出した。
彼は、宮廷侍医団の団長、あの老伯爵の孫の一人だった。
Aクラスで医師志望ではあるが、どちらかと言えば薬品作りに定評があり、学生にしてすでに侍医団に出入りして、研究している生徒だった。
令息達の「真実の愛」とやらが、性欲と直結したモノであることを察したのは、大人達だった。
特に彼らの家族の怒りの形相は凄まじかったが、怒鳴り込んで止めなかったのは、ひとえに令息達の相手が、「聖女のご友人」だからだろう。
魔王討伐を済ませて帰って来れば、「ご友人」といえども英雄の仲間入りだ。
彼らは今、婚約を維持するか、ご友人の愛人として乗っかるか、どちらが得かを計算している。
「ドーガン様…本当に、わたくしを捨てて、ご友人様を選ばれますの…?」
婚約者の女性は、侯爵家の一人娘だった。
婿入りして侯爵の配偶者になれる未来を捨ててまで、その女を選ぶのか、と聞いていた。
「ごめんよグレーテル。私はヒメノを愛してしまったんだ…」
「…そう、ですか…わかりました…。婚約を解消したいのなら、こんな形ではなく、きちんと向き合って頂きたかったですわ。…残念です」
悲しげに瞳を伏せて、婚約者令嬢は一歩下がった。
代わりに一歩前に出たのは、スヴェンの婚約者だった。
「スヴェン様。わたくし、信じておりましたのに。ご友人様はただの友人だという言葉を、信じておりましたのに。嘘だったのですね」
静かに問い詰められ、スヴェンはわずかに怯んだが、ご友人に胸を押しつけるように密着して応援され、しっかりと婚約者の方を向いた。
「いいや、嘘ではない。あの時は、確かに友人だった。だが健気に頑張るヒメノを見て、そばにいてやりたいと、思うようになったのだ。君ならわかってくれるだろう、スザンナ?」
「ではあなたも、魔王討伐に同行なさったらよろしいのに」
「っ…ざ、残念ながら、すでにパーティーは決まってしまった。俺は、ヒメノを困らせたくない。それに、ヒメノが帰って来るまで待ってて、と言うから…俺は、待っていようと思う」
「…婚約を解消して?」
「ああ」
「ご友人様の、愛人の一人になりますの?」
「違う。ヒメノは俺達を、平等に愛してくれているんだ。どうしても一人を選べない、と泣くヒメノがあまりにも可哀想で、俺達は全員で、ヒメノの一番になろうと決めたんだ」
「……」
それを愛人というのでは?
一気に白けた空気が、広間に流れた。
あまりにも愚かな発言に、婚約者の令嬢達の表情は、一気に無になった。
あ、完全に男達が、切られた。
ミカエルにはわかる。
女性のあの表情は、相手を「同等の存在」として見なくなった証拠だった。
虫けら以下の、興味外の対象に格下げされた瞬間である。
「愚かですわね…」
隣で呟いたフランクリン侯爵令嬢の表情もまた、無であった。
わぁ、怖い。
女性にこんな顔をさせる男には、なりたくない。
フレディの婚約者ナタリーが扇を畳んで、一歩前に出た。
緩やかな微笑みは、冷たかった。
「ご友人様の愛人になりたい、とおっしゃるのなら、もっと早くおっしゃって下されば良かったのに。そうすればわたくしどもも、時間を無駄にせずに済みました。これから婚約者を探す苦労など、わかりはしないのでしょうね…。わかるのなら、個人的な問題を、陛下の御前に持ち込んで騒ぎ立てたりはしないでしょうし。今この瞬間、捕らえられないことを、陛下に感謝申し上げるべきですよ」
そう言って王族席に向かって礼をする令嬢に向かって、ご友人はスヴェン達に囲まれながら、怯えた声を上げた。
「え、やだぁ。こわぁい。そんな風に言わなくてもいいのにぃ。あなた達は婿が必要なだけで、フレディ達じゃなきゃダメってわけじゃ、ないんでしょ?だって、皆がえっちしたいって言っても、三人とも断ってたって言うじゃん。そんなの、愛じゃないよぉ!フレディ達は、ただ姫のことを好きになっちゃっただけなの…!わかってあげて…!」
広間内は、再びドン引きだった。
同性愛も婚前交渉も当たり前の世界とは言え、必ずしも全員が婚前交渉をしているわけではない。
政略結婚が存在する貴族間にあっては、婚姻してから初夜、ということも、ままあることだ。
合意のない性交は許されないし、断られたのならば焦らず、関係性を深めていくことを重視すべきであるのに、平たく言えば「ヤらせてくれないから、乗り換えた」と言ったも同然だった。
貴族の品格に欠けるし、恥ずべき言動である。
ご友人の言葉に答えたのは、ドーガンの婚約者グレーテルだった。
「何を申し上げた所で、もはや意味のないことですわ。婚約破棄を申し入れられた以上、後は家同士の話し合いになります。…侮辱された屈辱は、忘れることはございません。さようなら、ドーガン様」
王族席へと頭を下げ、ナタリーと共に広間を出て行く令嬢の頬を伝う涙が、雄弁に悲しみを物語っていた。
同情のため息が漏れる中、残る一人となったスヴェンの婚約者スザンナは、ご友人には見向きもせずに、スヴェンを見つめた。
「わたくしの気持ちがその程度だと、思われていたのですね。この一年、わたくしがどれ程訴えても、あなたは聞いてくれませんでした。いつかは目を覚まして下さる、そう信じて気持ちを殺し、我慢も致しました。…もう、その必要はないのですね。どうぞお幸せに。お父様、わたくしが訴えていたこと、信じて頂けましたでしょうか?婚約破棄を、お願い致しますね」
「あ、ああ…」
両親と思われる二人の表情は、蒼白だった。
おそらくスヴェンは、好青年だったのだろう。
まさかスヴェンが、と言いたげに、娘とスヴェンの間を視線が行ったり来たりしていたが、令嬢が広間を出ていくと、後を追うように両親も出て行った。
「やったね!スヴェン、ドーガン、フレディ!皆、ずっと一緒にいられるね!」
「あ、ああ…」
抵抗もなく、あっさりと婚約破棄を受け入れて去って行った婚約者の姿を目で追っていた令息達は、ご友人のはしゃいだ声に我に返った。
「これで姫達、公認だよ!ここでやろうって言って、正解だったねー!」
「そ、そうだね、ヒメノ!僕達はずっと、一緒だね」
「良かった。婚約解消されれば、俺達は自由だ」
「……」
何を言っているのだろう。
何を、見せられているのだろう。
デビュタントをぶち壊しておきながら、彼らは自分達のことしか考えていなかった。
物語の「婚約破棄モノ」になぞらえるなら、ご友人は、令嬢達に悪質な嫌がらせを受けていることを糾弾し、断罪の流れからの「婚約破棄だ!」でなければ、筋が通らない。
いや、筋は通ったとしても、デビュタントの場でやることは、おかしいのだが。
…何もなかった。
令嬢達に何の落ち度もないにも関わらず、突然彼らは広間の中心で、婚約破棄を叫んだのだ。
洒落にならない愚行だった。
令息側の家族は、卒倒しそうになっている。
そういえば聖女は、と探してみると、令嬢達の輪の中にいて、一人の令嬢の腰を抱き、二人の世界を作っていた。
勇者アベルは、令息達の輪の中にいて、意味が分からない、という表情をしている。
まぁ、そうだろうな。
ご友人が、あの三人もハーレム要員にしたいのだろうことは、理解した。
だが。
彼女達は元の世界に帰ってもらうので、彼らの将来は真っ暗であることが、確定したのだった。
完全に祝いムードは霧散して、気まずい空気が流れている。
ご友人と令息達はわきあいあいと広間を出て行き、聖女と令嬢も出て行った。
王も立ち上がり、後は好きにどーぞ、とお約束の言葉を残して出て行った。
瞬間、ばたばたと広間を出て行く貴族達は、おそらく渦中の令息達の家族だろう。
ぱらぱらと退出する者が出てきて、ミカエルも、フランクリン侯爵令嬢と合流してきた騎士レイヴンへと向き直った。
「では私もそろそろ、退出するとしよう」
「わたくしも、退出致します」
「私も、退出します」
「そう?では侯爵令嬢の馬車留めまで送ろう」
「ありがとう存じます、殿下」
広間を出てから、思い出した。
王弟の立太子宣言、聞いたっけ?
ま、いいか。
「…え、何が起こった…?」
「さぁ…」
ダンスを終え、ミカエル達が見たものは、聖女のご友人を囲む三人の貴族令息と、その婚約者と思われる令嬢三名が、広間中央で寸劇を繰り広げ始めた所だった。
聖女のご友人を中心としたトラブルグループが広間の中央に陣取っている為、ダンスは自然と中止となり、演奏も止まった。
王の御前で起きた出来事に、貴族達が固唾を呑んで見つめるが、王自身はと言えば、「なんか面白いことが始まった」と言わんばかりの顔で、止めることなく傍観していた。
王弟は令嬢とダンスを踊っていたのを止められ、不満そうに顔を歪めながらも、王の手前、黙って王族席へと移動している。
ミカエル達も壁際まで下がり、様子を窺うことにした。
どこからも制止の声が入らない中、ご友人の取り巻きの令息達は、ヒートアップしていた。
婚約者の令嬢達は、開いた扇を口元に置いて表情を隠してはいるものの、不快を隠さなかった。
一人は眉間に皺を寄せて令息達を睨み付け、一人は悲しみに眉を下げて今にも泣きそうな様子を見せており、残る一人は淡々と、婚約者と思しき令息をただ見ていた。
「俺達は、知ってしまったんだ。真実の愛を!!」
役者にでもなったつもりなのか、体格の良い令息が声を張り上げた。
ご友人は「スヴェン、カッコイイ!」と褒めており、あの男は初めて魔族領にレベリングで行った時、ご友人が連れて来ていた取り巻きの一人であると、思い出した。
「そうだ!僕達は、愛し合っているんだ!」
もう一人声を上げた男は、スヴェンと共にレベリングに参加していた、ドーガンである。
魔術師団長の息子であるが、確か四男だったはず。
その二人がご友人の両脇に立ち、もう一人はご友人の背後から両肩に手を添えて、守るように立っていた。
…誰だっけ、あれ。
「僕達は、ヒメノを守りたい…。魔王討伐から帰って来た後は、疲れた彼女のそばにいて、癒してあげたいんだ。…君ならわかってくれるよね、ナタリー?」
ナタリーと呼ばれた令嬢は、冷めた瞳のまま、冷めた返答をした。
「守りたいとおっしゃるのなら、魔王討伐に同行なさったらよろしいのに」
「なっ!無茶を言わないでくれ!僕にそんな力があるわけないだろう!?僕が出来ることは、彼女の健康を守ることさ!身体の隅々までしっかりと、診てあげたい!」
「やだぁフレディったら!隅々までって、どこまでぇ?」
「ひ、ヒメノ、僕は邪な気持ちはないよ…!?」
「えぇ~?じゃぁ~、フレディは、今日はナシでいいのね?」
「ええっそんなぁ」
「……」
広間内は、ドン引きだ。
公共の場で、しかも卒業生とその家族が集まるデビュタントの場で、する会話ではなかった。
ミカエルもドン引きしつつ、その会話で思い出した。
彼は、宮廷侍医団の団長、あの老伯爵の孫の一人だった。
Aクラスで医師志望ではあるが、どちらかと言えば薬品作りに定評があり、学生にしてすでに侍医団に出入りして、研究している生徒だった。
令息達の「真実の愛」とやらが、性欲と直結したモノであることを察したのは、大人達だった。
特に彼らの家族の怒りの形相は凄まじかったが、怒鳴り込んで止めなかったのは、ひとえに令息達の相手が、「聖女のご友人」だからだろう。
魔王討伐を済ませて帰って来れば、「ご友人」といえども英雄の仲間入りだ。
彼らは今、婚約を維持するか、ご友人の愛人として乗っかるか、どちらが得かを計算している。
「ドーガン様…本当に、わたくしを捨てて、ご友人様を選ばれますの…?」
婚約者の女性は、侯爵家の一人娘だった。
婿入りして侯爵の配偶者になれる未来を捨ててまで、その女を選ぶのか、と聞いていた。
「ごめんよグレーテル。私はヒメノを愛してしまったんだ…」
「…そう、ですか…わかりました…。婚約を解消したいのなら、こんな形ではなく、きちんと向き合って頂きたかったですわ。…残念です」
悲しげに瞳を伏せて、婚約者令嬢は一歩下がった。
代わりに一歩前に出たのは、スヴェンの婚約者だった。
「スヴェン様。わたくし、信じておりましたのに。ご友人様はただの友人だという言葉を、信じておりましたのに。嘘だったのですね」
静かに問い詰められ、スヴェンはわずかに怯んだが、ご友人に胸を押しつけるように密着して応援され、しっかりと婚約者の方を向いた。
「いいや、嘘ではない。あの時は、確かに友人だった。だが健気に頑張るヒメノを見て、そばにいてやりたいと、思うようになったのだ。君ならわかってくれるだろう、スザンナ?」
「ではあなたも、魔王討伐に同行なさったらよろしいのに」
「っ…ざ、残念ながら、すでにパーティーは決まってしまった。俺は、ヒメノを困らせたくない。それに、ヒメノが帰って来るまで待ってて、と言うから…俺は、待っていようと思う」
「…婚約を解消して?」
「ああ」
「ご友人様の、愛人の一人になりますの?」
「違う。ヒメノは俺達を、平等に愛してくれているんだ。どうしても一人を選べない、と泣くヒメノがあまりにも可哀想で、俺達は全員で、ヒメノの一番になろうと決めたんだ」
「……」
それを愛人というのでは?
一気に白けた空気が、広間に流れた。
あまりにも愚かな発言に、婚約者の令嬢達の表情は、一気に無になった。
あ、完全に男達が、切られた。
ミカエルにはわかる。
女性のあの表情は、相手を「同等の存在」として見なくなった証拠だった。
虫けら以下の、興味外の対象に格下げされた瞬間である。
「愚かですわね…」
隣で呟いたフランクリン侯爵令嬢の表情もまた、無であった。
わぁ、怖い。
女性にこんな顔をさせる男には、なりたくない。
フレディの婚約者ナタリーが扇を畳んで、一歩前に出た。
緩やかな微笑みは、冷たかった。
「ご友人様の愛人になりたい、とおっしゃるのなら、もっと早くおっしゃって下されば良かったのに。そうすればわたくしどもも、時間を無駄にせずに済みました。これから婚約者を探す苦労など、わかりはしないのでしょうね…。わかるのなら、個人的な問題を、陛下の御前に持ち込んで騒ぎ立てたりはしないでしょうし。今この瞬間、捕らえられないことを、陛下に感謝申し上げるべきですよ」
そう言って王族席に向かって礼をする令嬢に向かって、ご友人はスヴェン達に囲まれながら、怯えた声を上げた。
「え、やだぁ。こわぁい。そんな風に言わなくてもいいのにぃ。あなた達は婿が必要なだけで、フレディ達じゃなきゃダメってわけじゃ、ないんでしょ?だって、皆がえっちしたいって言っても、三人とも断ってたって言うじゃん。そんなの、愛じゃないよぉ!フレディ達は、ただ姫のことを好きになっちゃっただけなの…!わかってあげて…!」
広間内は、再びドン引きだった。
同性愛も婚前交渉も当たり前の世界とは言え、必ずしも全員が婚前交渉をしているわけではない。
政略結婚が存在する貴族間にあっては、婚姻してから初夜、ということも、ままあることだ。
合意のない性交は許されないし、断られたのならば焦らず、関係性を深めていくことを重視すべきであるのに、平たく言えば「ヤらせてくれないから、乗り換えた」と言ったも同然だった。
貴族の品格に欠けるし、恥ずべき言動である。
ご友人の言葉に答えたのは、ドーガンの婚約者グレーテルだった。
「何を申し上げた所で、もはや意味のないことですわ。婚約破棄を申し入れられた以上、後は家同士の話し合いになります。…侮辱された屈辱は、忘れることはございません。さようなら、ドーガン様」
王族席へと頭を下げ、ナタリーと共に広間を出て行く令嬢の頬を伝う涙が、雄弁に悲しみを物語っていた。
同情のため息が漏れる中、残る一人となったスヴェンの婚約者スザンナは、ご友人には見向きもせずに、スヴェンを見つめた。
「わたくしの気持ちがその程度だと、思われていたのですね。この一年、わたくしがどれ程訴えても、あなたは聞いてくれませんでした。いつかは目を覚まして下さる、そう信じて気持ちを殺し、我慢も致しました。…もう、その必要はないのですね。どうぞお幸せに。お父様、わたくしが訴えていたこと、信じて頂けましたでしょうか?婚約破棄を、お願い致しますね」
「あ、ああ…」
両親と思われる二人の表情は、蒼白だった。
おそらくスヴェンは、好青年だったのだろう。
まさかスヴェンが、と言いたげに、娘とスヴェンの間を視線が行ったり来たりしていたが、令嬢が広間を出ていくと、後を追うように両親も出て行った。
「やったね!スヴェン、ドーガン、フレディ!皆、ずっと一緒にいられるね!」
「あ、ああ…」
抵抗もなく、あっさりと婚約破棄を受け入れて去って行った婚約者の姿を目で追っていた令息達は、ご友人のはしゃいだ声に我に返った。
「これで姫達、公認だよ!ここでやろうって言って、正解だったねー!」
「そ、そうだね、ヒメノ!僕達はずっと、一緒だね」
「良かった。婚約解消されれば、俺達は自由だ」
「……」
何を言っているのだろう。
何を、見せられているのだろう。
デビュタントをぶち壊しておきながら、彼らは自分達のことしか考えていなかった。
物語の「婚約破棄モノ」になぞらえるなら、ご友人は、令嬢達に悪質な嫌がらせを受けていることを糾弾し、断罪の流れからの「婚約破棄だ!」でなければ、筋が通らない。
いや、筋は通ったとしても、デビュタントの場でやることは、おかしいのだが。
…何もなかった。
令嬢達に何の落ち度もないにも関わらず、突然彼らは広間の中心で、婚約破棄を叫んだのだ。
洒落にならない愚行だった。
令息側の家族は、卒倒しそうになっている。
そういえば聖女は、と探してみると、令嬢達の輪の中にいて、一人の令嬢の腰を抱き、二人の世界を作っていた。
勇者アベルは、令息達の輪の中にいて、意味が分からない、という表情をしている。
まぁ、そうだろうな。
ご友人が、あの三人もハーレム要員にしたいのだろうことは、理解した。
だが。
彼女達は元の世界に帰ってもらうので、彼らの将来は真っ暗であることが、確定したのだった。
完全に祝いムードは霧散して、気まずい空気が流れている。
ご友人と令息達はわきあいあいと広間を出て行き、聖女と令嬢も出て行った。
王も立ち上がり、後は好きにどーぞ、とお約束の言葉を残して出て行った。
瞬間、ばたばたと広間を出て行く貴族達は、おそらく渦中の令息達の家族だろう。
ぱらぱらと退出する者が出てきて、ミカエルも、フランクリン侯爵令嬢と合流してきた騎士レイヴンへと向き直った。
「では私もそろそろ、退出するとしよう」
「わたくしも、退出致します」
「私も、退出します」
「そう?では侯爵令嬢の馬車留めまで送ろう」
「ありがとう存じます、殿下」
広間を出てから、思い出した。
王弟の立太子宣言、聞いたっけ?
ま、いいか。
あなたにおすすめの小説
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません
カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」
ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。
(これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!)
妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。
スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。
スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。
もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます?
十万文字程度。
3/7 完結しました!
※主人公:マイペース美人受け
※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。
たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。