【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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294. 魔王城に到着した俺8

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「ミカエル!!」
「ミカエル様!!」
 
 ずっと誰かに呼ばれている、と気づいて、ようやくミカエルはそれが誰の声かを知覚した。
「……あ…?」
 目を開けると、バージル達が必死の形相でミカエルの名を呼んでおり、茫洋と周囲を見るミカエルに気づいて、さらに声を上げた。
「ミカエル!!良かった、目を開けた…っ!!」
「ミカエル様!!わかりますか!?しっかりなさって下さい!!」
「……あれ…?」
 ミカエルはバージルに抱えられており、ジーンがずっと治癒を唱えてくれていたようだった。
 温かな光が身体の中に流れ込んでくる感覚はあるものの、特に痛みはなかった。
 目を瞬くと、すぐ側にはアベルもロベルトも、シャリエルもいて、皆心配そうな顔で覗き込んでいる。
 ご友人はミカエルの手を握って、泣いていた。
 聖女は少し離れた所で床に直座りしており、冒険者二名はその傍らで立っていた。
「ミカエル、状況は理解しているか?」
 ロベルトに問いかけられ、ミカエルは緩く首を振った。
「えっと…」
 変な夢の印象が強すぎて、なぜ自分が寝ているのかが、思い出せない。
 皆の顔を見渡すと、バージルがため息をついた。
「ミカエルは魔王の攻撃を受けて、祝福が切れた。…さらに、ついさっきまで、心臓が止まってた」 
「…えっ?」
「一時間粘っても心臓が動かなかったら、諦めようっていう話が出てた」
「え、…えぇ…!?」
「今は、ミカエルの心臓が止まって、十分が経過した所だった」
「じ、十分も…?」 
 心肺停止し、脳に酸素が送られない状態が五分も続けば、重大な脳障害が残ると言われる。
 夢から覚めた感覚でしかないミカエル自身に、特に異常は感じられないのだが。

 それで皆、悲壮な顔をしていたのか。

「み、みかえるさま、良かった…よがっだ…っ」
 アベルが号泣し始め、ロベルトが目頭を押さえて顔を背けた。
 シャリエルも顔を背けて震えており、ジーンも眉間に皺を寄せ、顔に手を添えて表情を隠していた。
「…ミカエル…本当に、生き返ってくれて良かった…!」
 見下ろすバージルの瞳から涙が落ち、ミカエルの頬を濡らした。
 イケメンの涙は、温かかった。
「…ごめん、心配かけたね、皆」
「み、ミカエルうぅうぅうう!!」
 ジーンを押しのけてご友人が抱きついてきたが、ミカエルはバージルに抱えられているので避けられなかった。  
「ぐぇっ…」
「姫、姫の為にっミカエルがっミカエルが死んじゃうなんて、…っミカエルぅううう!!姫、ミカエルがずっとずっと、一番の推しだからねぇえええっ!!」
「…あ、ハイ…」
 
 死んでませんけど。

「こんなに姫、愛されてたなんて、嬉しい…っ!」
「……」
「ずっとずっと、一緒にいようね!!」
「……」

 嫌です勘弁して下さい。

 聖女はどうでも良さそうな顔をしていたが、茶化しては来なかった。
 多少なりとも空気は読んでいるらしい。 
「…ご友人殿、ちょっと離れて。ミカエルが苦しそうだから」
「…なによぉ…!…ミカエル、エンディングが終わったら、いっぱい愛し合おうね…!」
「……」

 嫌です勘弁して下さい。

 曖昧な微笑みでかわしながら身体を起こし、ご友人を引き剥がす。
「ミカエル様、体調はいかがですか?すぐに傷は塞いだので、出血多量、という程ではないと思うのですが」
 押しのけられたジーンが、ご友人の横から声をかけてきた。
 ミカエルは自身の身体を見下ろしたが、特に不調は見られなかった。
「…ありがとう。たぶん大丈夫じゃないかな」
「良かった。…出来れば、着替えを先にされた方がよろしいかと」
「…着替え…?」
「魔王に貫かれた胸の部分に、穴が…」
「……」

 なんということでしょう。

 ヴェルンドに作ってもらった魔装具満載の装備が破れ、素肌が露出していた。
 それほど大きな穴ではないが、これは確かに目立つ。
「わぁすごい。傷一つなく治してくれたんだね。さすがジーン」
「ありがとうございます。傷一つなく美しい肌が晒されておりますので、早く隠して下さい。風紀が乱れます」
「格好悪いだけで、風紀が乱れるなんておおげさな」

「……」

 全員無言が、怖かった。   
 ご友人の目が、特に危ない。
 ガン見はやめて下さい。
 
「ミカエルぅ、ちょっとだけ、触っていい…?」
「それは遠慮します。着替えますので離れて頂いて」
 笑顔で拒否すると、ご友人が地団駄を踏んだ。
「えぇぇ~!さっきどさまぎで触れば良かったぁ!!」
「……」

 やめて下さい風紀が乱れます。

 バージルの手を借りて立ち上がると、多少立ちくらみはしたものの、貧血という程の物でもなかった。
「テント立てる?手伝うよ」
「…ああ、…その方がいいかな?」
「ここで着替えはやめて。テントの中でやって」
「はい…」
 ミカエルに釘を刺し、バージルは皆の方に向かって言った。
「では三十分休憩しよう。魔王の戦利品の回収もしないとならないし」
「あ、魔王…」
 魔王は、アベルによって倒されていた。
 ミカエルが攻撃を食らったと同時に、バージルがアベルに指示を出し、アベルはしっかりと役目を果たしたのだった。
 アベルを見ると、目が合った。
「俺、やることちゃんと、やりました!」
「ありがとうアベル。立派な勇者だ」
「はい!」 
「ミカエルの着替えを待っている間に、帰還に向けての予定も詰めよう」
「はい!」
 皆がテーブルと椅子を出している間に、ミカエルはテントへと入った。
 




 テントへと入った瞬間、ミカエルはアルヴィスに抱きしめられた。
「…ミカエル、無事で良かった…!」
「アル。ごめん、見てた?」
「……危うく、世界を滅ぼす所だった」
「いやそんな、魔王じゃあるまいし」
「……」
 ぎゅうっと力を込めて抱きしめられ、アルヴィスの身体が震えていることに気づく。
 心配をかけてしまった、と思うと、ミカエルも申し訳なくなり、抱きしめ返した。
「…まさか祝福があってなお死にかけるとは思わなくて」
「……」
「変な夢を見ただけだと思ったら、まさか心臓が止まってるとは思わなかった」
「……」
「あれは走馬燈的なやつだったのかな。誰かに引っ張られて目が覚めたけど、あのままだったら死んで…たっい、いた、いたい、苦しい、アル…ッ!!」
 さらにぎゅうううっと力を込められ、ミカエルはアルヴィスの背中を慌ててタップした。
「…誓約を結んでいないから、俺は、…っ」
 ふっと力が抜け、アルヴィスが呟いた言葉には、力がなかった。
「…アル?」
「俺は、置いて行かれるのかと」
「…ごめん。ごめんね、アル。泣かないで」
「……ミカエルが悪い」
「う、そうだね、ごめん」
 アルヴィスの涙なんて、初めて見た。

 推定世界一の美形の涙は、心臓に悪い。
 
 アルヴィスの目元に指先を添えるが、手首を取られて唇を塞がれた。
 呼吸ごと奪われるようなキスは苦しかったが、アルヴィスの悲しそうな顔を見たらもう、何も言えなかった。
 
 

 

 あの時。
 腕を掴まれ引っ張られた時。

 聞こえたのは、アルヴィスの声だった。
 ミカエルをこの世界に呼び戻したのは、彼なのかもしれない。 
     
 もし誰も来なかったら。
 ミカエルはまた、あの世界で生きていたのだろうか。
 それとも、束の間の夢に過ぎなかったのか。

 答えはわからないけれど。

 それは悲しいことだと、ミカエルは思った。
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