【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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303. 帰還した俺4

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「俺は認めません」
「えっ?」
「認めないからね」
「…いや、でも、」

「ミカエルが欲しくば、俺を殺してみるがいい!!」
「いいだろう」
「ジル待って!!アルもやめて!!」

「…魔神様とミカエルの間に割って入ろうとする人、初めて見た」
「す、すごい。すごいけど止めないと。皇帝陛下が…」
「…ボコられればいいんじゃないか?」
「しゃ、シャリエルさんなんてことを!!」
「アベル様はお優しいですね。わたくし達はここで見ておりますので、アベル様どうぞ、止めに行って下さい」
「あ、無理です」
「ですよねー」
「ではなぜ止めようなどと言ったのだ…?」

 魔神様に喧嘩を売って、勝てる見込みは億に一つもない。

 唯一の弱点とも言える、ミカエルに任せるしか、方法はないのだ。
 勇者支援国回りの最後、オシウィアド帝国へとやって来た。
 パレード、授与式、舞踏会も、最後に登場するミカエル達までは順調だった。
 なぜミカエルが最後なのかと言えば、唯一パートナーを連れていて、おまけにそれが「魔神様」だからである。
 どの国でも、ミカエル達が入場すると長い沈黙に支配されていたので、もはやミカエル達も慣れたもので、皇帝の元へ行き、挨拶まで済ませた。
「…ミカエル、そちらが…?」
 動揺の見える声で問うた皇帝は、震えていた。
 「魔神様」がパートナーとして参加することは、聞いていた。
 その姿を目の当たりにして、動揺しない者など存在しない。
 ミカエルと同じくらい美しく、誰よりも強い「魔族」だった。
 瞳の色は変えてはいるが、その気配はただ者ではなかった。
 わざと気配を消していないことは明白で、ミカエルを狙う者達に対する牽制であることも、十分に伝わっていた。
 ミカエルは、皇帝のことを「友人」だと言っていた。
 だから友人に告げるように、少し照れながらも軽く言った。
「僕の伴侶になる人だよ」

「俺は認めません」
「…えっ?」
 
 皇帝にとって、ミカエルは「友人」ではなかったのだろう。
 誰もが、そう思った。
 
「待って待ってジル。なんでそうなるの。僕もう成人してるんだよ。大人だよ?」
「大人なのはめでたいね。でもダメです。認めません」
「なんで!?」
「俺よりミカエルを愛しているとは思えない!」
「えぇ!?」
  
 皇帝陛下、言っちゃった。
 堂々と告白しちゃった。

「…くだらないな。何を持って愛情を計るのか」
 鼻で笑う魔神様は、ムカつく程に美しかった。
「わかりきったことを。実力で示してみせよ」
「死にたいと見える」
「殺せるものなら、殺してみるがいい…!」
「ちょ…、ちょっと、何でそうなるんだよ!!宰相!止めて下さい!」
 魔神様と皇帝の睨み合いが、本格化している。
 パチパチと魔力がぶつかり合っており、会場は騒然とし始めた。
 最高司祭ジーンがひとまず、皇帝とミカエル、魔神様を囲む結界の魔道具を使った。
 魔神様にとっては、玩具にも満たぬ稚拙なものであろうが、周囲への影響を軽減する為には必要だった。
 ミカエルに助けを求められたオシウィアド帝国宰相は、丁寧に頭を下げた。
「申し訳ございません。わたくしではお力にはなれそうにございません」
「ええっ」
「陛下のお気の済むように。それがわたくしどもの総意と、お受け取り下さい」
「さすが専制国家ブレないな!」
 ミカエルのツッコミは、冴えていた。
 この帝国は、皇帝の意志で出来ている。 
 
 皇帝が不可と言えば不可であるし、可と言えば可になるのだ。

 その皇帝が、ミカエルの伴侶を「認めない」と言っているのなら、帝国もまた認められないということだった。
 アベル達は、どうすべきか考えた。

 戦ったら、皇帝が死ぬ。

 魔神様の強さは、言葉で言い表せる範疇にはなかった。
 皇帝が仮に、魔王より強かったとしても、勝てない。

 いやそもそも、魔王より強いのなら、勇者パーティーに入っているはずだ。

 やばい。
 皇帝が死ぬ。

「表に出ろ…!」
「雑魚の台詞が、お似合いだな」
「貴様その言葉、後悔するなよ…」
「落ち着いて。二人とも、落ち着いて。何で戦おうとするの。わけがわからないんだけど?」
 ミカエルの言葉は尤もだったが、男には引けない場面があるのだった。
 庭園へと歩き始めた二人に連れられるように、魔神様に腰を抱かれたミカエルも歩いてはいるものの、引き留めようと必死だった。
「ミカエル。その男が俺より弱かったら、捨てなさい。俺にしとこう?」
「…え、ジルどうしちゃったの。何でそんなこと言うの」
「俺は気づいたんだ。決められた制度なんかクソ食らえってさ」
「いやいや…いやいやいやいや…」
「遅くなったけど、俺の気持ちは変わらないから。そいつ、殺すから。いいよね?」
「いいわけないでしょ。アルも、やめて。何で喧嘩買おうとするの」
「ソレを殺しておけば、憂いがなくなる」
「ちょ、ジルをソレとか言わないで!ちゃんと名前で呼んで!」
「……」
「不満そうな顔しない。何でこんなことになってんだ?意味が…わからない…」
  
「「ミカエルの為だ」」

 二人に口を揃えて言われ、ミカエルは絶句した。
「……」
 アベル達もさすがに放置は出来ず、庭園へと出て、見守った。
 本格的な戦闘になったら、民間人を守らなければならない。
「…どうしましょう。皇帝陛下が亡くなったら、帝国が戦争起こすんじゃ…」
 アベルが不安そうな顔で呟き、ロベルトがため息をついた。
「戦争どころか…私達、勇者パーティーの立場も終わりだぞ」
「うわ…」
「魔王を苦労して倒しましたのに…」
 ジーンの嘆きには、バージルが答えた。
「いや、大丈夫でしょ」
「え」
 続いて、シャリエルが頷いた。
「ミカエルが、許すはずがない」
  
 皇帝とミカエルは、浅い仲ではない。
 
 魔神様が皇帝を殺すのを許すはずがないし、皇帝が魔神様を殺すことは…不可能だ。
 戦う前から、結果は見えている。
 それなのに、ミカエルが戦うことを許すか?

 …許すはずが、ないのだ。
 
 庭園に出て、魔神様はミカエルから手を離した。
 少し距離を開けて向かい合って立つ二人の態度は、対照的だ。
 皇帝は殺意に漲っているが、魔神様は何の感情も浮かばぬ顔で、ただ皇帝を見ていた。

 戦闘にもならず、一瞬で皇帝が死ぬ。

 会場内では、外には出ないもののぎりぎりまで人が押し寄せ、見学している。
 自分達の命もかかっているというのに、気楽なものだった。
 皇帝を信じているのかもしれないが、それはあまりにも無知だった。
 
 アベル達は、ミカエルが動くのを待った。
 皇帝が右手に魔力を集中し始めたのを見て、ミカエルが動いた。

 ミカエルは、二人の間に仁王立ちした。

「…ミカエル、危ないから。どいて」
「ミカエル。ソレの死を、特等席で見たいのか?」

 魔神様の台詞が、恐ろしすぎた。
 背筋に悪寒が走り抜けるアベル達を置いて、ミカエルは深呼吸をした。

「いいだろう。殺し合いをするというなら、僕を殺してから始めるがいい」

 ミカエルの目が据わっている。
 本気だった。

「ついでに言っておくが、嫌いになるからな。二度と口きかないから。覚えとけ」

 殺されたら口きくも何もないのだが、ミカエルはあえて言った。
 二人の動きが、止まった。

 勝利したのは、ミカエルだった。

「…勝負見えすぎでつまんないな」
 バージルの呟きに、シャリエルが感心したような視線を向けた。
「ミカエルが最強なのは、今に始まったことではない」
「そうなんだ…まあ、惚れた方が負けなんだよね」
「そうなんだろうな」
 どこか遠い目をする二人に、アベルはなんとなく、色々と察してしまった。

 固まった皇帝と魔神様を、ミカエルはさらに突き放した。

「僕の為っていうなら、仲良くして。僕の伴侶は、僕が決める。ジルも、子離れ出来ないお父さんみたいなこと言うのは、やめようよ」
「…お、…おとうさん……!?」
「アルも、反省して。そんなんじゃ、僕安心できないよ」
「……すまない…」
「舞踏会も台無しにして。二人とも反省して。しばらくそこにいなさい。喧嘩禁止!」
「……」
「……」
 ミカエルが会場へと戻っていくので、勇者パーティーも一緒に戻った。
 詰め寄せていた人々は潮が引くようにバラけていき、会場内はまた人のざわめきが戻ってきていた。
 ミカエルは統括している宰相の元へ行き、謝罪した。
「騒ぎを起こしてしまって申し訳ない。舞踏会を始めてもらえないだろうか」
「かしこまりました」
 さすがに宰相も、「皇帝陛下の意志が~」なんてことは、言わなかった。





 暗い庭園に残された二人の間には、重い沈黙がのし掛かっていた。

 ミカエルを殺せるはずがないし、嫌われたくもない。
 二度と口をきかない、なんて言われたら、手も足も出なかった。

 互いに「ミカエルの為」と口走ってしまったが、結局は自分の為であることを、痛烈に非難されたに等しい。

 ミカエルを愛していることは、共通だった。
 唯一だと認めていることも、共通だった。

 だがジルには、ミカエルが「番」である確信がない。
 それはアルヴィスが手を回した結果であり、最終的にミカエルが選んだのは、「番」ではなくアルヴィスだった。

 ミカエルが、番制度を持つ種族であれば良かったな。
 
 残念ながら、アルヴィスの方が早く、より近くにいることが出来たおかげだった。
 運、と言えるのか。

 否。
 ミカエルが、先にアルヴィスを見つけてくれたからだった。

 あの時ミカエルが後宮まで迎えに来なければ、アルヴィスが興味を持つことはなかった。
 ミカエルを知ることもなかったし、手に入れたいと思うこともなかった。
 そうすれば、この男は最も美しい「番」を手に入れることが出来ていたはずだった。
 
 ミカエルに、救われたのは、俺の方。

「……」
 アルヴィスは細く息を吐き出して、会場へと足を向けた。
 皇帝はまだ俯いて、その場にいた。
 
 この男の方が先に出会っていたら、ミカエルはこの男を選んでいたかもしれない。

 殺しておいた方がいいことは事実なのだが、ミカエルが望んでいない。
 …この男が、ミカエルを無理矢理番にすることは、ない。
 嫌われることを、恐れているからだ。
 
 残念だったな。

 だがアルヴィスは、勝ち誇る気にはなれなかった。
 
 
 
 
 
 広間に戻ったミカエルは、懐かしい人と再会していた。
 二メートルを超す長身に、黒衣の正装、黒髪黒目の厳つめイケメンは、かつてミカエルがお世話になった人だった。
「レスタール殿…じゃなかった、カノスズ王、大変ご無沙汰しております」
「ミカエル王子。覚えていて下さって、光栄です」
「忘れるはずがありません。お世話になりましたから。…ご無事で良かった。お会いできて嬉しいです」
「私も、お会いできて嬉しいです」
 七年程前、ミカエルが隣国カノスズへ留学する際、国境から護衛としてついてくれた金鷲騎士団の、元団長である。
 道中を穏やかに過ごすことが出来たのは、騎士団の皆が親切に接してくれて、気を遣ってくれたからだった。
 王宮に入る前にジルが変化したドラゴンに襲撃され、彼らとは別れてしまってそれきりだった。
 オシウィアド帝国の属国となり、彼の父である公爵が即位したが、王は二年で崩御した。
 それからはライオネル・レスタールが、カノスズの王である。
 無事であることは知っていたが、実際に顔を合わせるのは、あの日以来だった。
 ライオネルは四十を超え、渋みを増していた。
 苦悩は多いと見えて、眉間の皺は深く刻まれてはいたが、今ミカエルの前に立つ彼は穏やかに笑んでいた。
 あの頃と比べれば身長差は減ったものの、それでも見上げる程に彼は大きい。
「魔王討伐、おめでとうございます。世界を救って頂き、感謝申し上げます。…あの頃の殿下はとてもお小さくていらっしゃったのに、今は…本当に、ご立派になられましたね。…私が言うのは、おこがましいことですが」
「ありがとうございます。金鷲騎士団の皆さんが護って下さったおかげで、今があります。…あの時、私は心も救われたんですよ。感謝申し上げるのは、こちらの方です」
「……」
「落ち着いたら、カノスズ王国に遊びに行っても、いいでしょうか?」
「…う、…ぁ、はい。もちろん、お待ち、しております…」
 笑顔を向けると、カノスズ王は視線を彷徨わせつつ、頷いた。
 表情は平静だったが、耳は赤くなっていた。
 彼の人となりは、変わっていないようだった。
 懐かしくなり、さらにミカエルが話しかけようとした所で、後ろから腰に手を添えられ覗き込まれて視線を上げると、不機嫌そうなアルヴィスの視線とぶつかった。
「…アル、反省したの?」
「した」
「…じゃぁいいけど。もう喧嘩しないでね」
「…善処する」
「アルのそれ、アテにならないからなぁ…。あ、カノスズ王、紹介させて下さい。彼はアルヴィス。私の伴侶です」
 笑顔を向けたが、カノスズ王はもう、赤くなったりはしなかった。
 アルヴィスよりも少し身長の高い王は冷静に、手を差し出した。
「…どうぞよろしく」
「……」
 アルヴィスは無表情でちらりと王を見て、興味なさげにミカエルへと視線を移す。
「アル。ちゃんとして」
「…ミカエル、だが」
「だがじゃないよ。カノスズ王は昔、とても親切にして下さったし、お世話になったんだ」
「……」
 不満そうにしながらも、アルヴィスは王と握手を交わした。
 各国を回った中で、アルヴィスが王と握手したのは初めてのことである。
 
 あれ?
 そういやどの王も、アルヴィスと関わろうとしなかったな。
 
 「魔神様」と積極的に関わりたい者はそもそも存在しないのだが、複雑な胸中の王達の気持ちは、ミカエルにはわからなかった。

 カノスズ王は、いい人である。
 
 少なくとも、ミカエルにとってはそうだった。
「ではカノスズ王、改めて連絡させて頂きます。…もしよろしければ、魔封書のアドレスを交換しませんか?」
「喜んで」

 気軽に頼んでも、気軽に受けてくれる。
 やっぱりいい人だった。
 
 ミカエルは終始笑顔だったが、アルヴィスと遅れて広間に戻って来たジルは不満顔で、カノスズ王はミカエルしか見ないようにしていた。
 
「ミカエル様、どんだけー…」
「…ある意味、魔神様とくっついて良かったのかもね…」
「水面下の牽制し合い、面白いですねぇ」
 アベルとバージルは疲れたように呟き、ロベルトとシャリエルはため息をつき、ジーンだけは面白そうに笑っていた。
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