【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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43. 元愛人の末路3※

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 二十五歳男性。
 奴隷未経験、口は利けないが身体健康、病気なし。
 二年更新、生死問わず。
 
 ソウェイサズ王の元愛人ニコル・カッツが、闇オークションで紹介された経歴は短いものだったが、過去最高に並ぶ高値がつき、落札したのはオシウィアド王国の大富豪である、ケスマン男爵だった。
 ケスマン男爵は、奴隷を多数使役していた。
 人体実験が必要な商品開発事業に多く携わっており、契約で縛った口の堅い従業員として、奴隷を重宝していた。
 ニコルは買われてから工場へ着くまでに、何度も逃げ出そうと試みていたが、繋がれた鎖がぴんと伸びると雷に打たれる魔道具のせいで、逃げられずにいた。
 腕の立つ護衛に持たせた鎖は外れることなく、引っ張られ雷に打たれながら工場の一室に着いた頃には、ニコルはもはや逃げ出す体力を失っていた。
「おまえにはさっそく、商品開発の協力をしてもらう。二年後、生きていれば奴隷商人の元へ帰してやろう。死ねばすぐに帰れるぞ」
 そう言って笑う男爵の顔に、慈悲という言葉はなかった。
 引きずられるように壁際へと連れて行かれ、壁に鎖を繋がれたニコルは、まだ何が行われようとしているのか理解していなかった。
 工場と思しきこの場所は、とても巨大でがらんとしており、ニコルがいるこの空間も、結界を何重にも施してはいるものの、物がない倉庫のような場所だった。
 壁際にぽつんと立たされ、足元には五段式のジュエリーボックス程の大きさの箱が置いてあり、ちょっとした椅子に出来そうである。
 どうすればいいのかと佇んでいると、遠くの入口から巨大な何かを荷車に乗せて、歩いてくる従業員達の姿が見えた。
 書類を抱えて先頭にいるのは、見たことのない種族だった。
 蛇のような蜥蜴のような顔と身体をした、身長は軽く二メートルを超える亜人だった。
 その男?女?がおそらくリーダー格だと思われたが、ニコルは怯んで壁に背をつけ、身体を震わせた。

 何あいつ、気持ち悪い。

 十メートル程距離を置き、彼らは立ち止まった。
 大きな荷車に積まれていたのは、巨大な弩だった。
 正確には牽引式のバリスタだったが、ニコルには正式名称はわからなかった。
 とにかく巨大な弩が自分に向けられていることに恐怖し、自分の身体を抱きしめるようにしながら横へずれようとした。
 鎖がぴんと張られ、雷に打たれてニコルは悲鳴を上げた。
 声は出なかったので、苦痛の程は向こうの連中には伝わらなかったらしい。
 涙を流しながら床に蹲っていても、誰一人心配する声をかけてくることはなかった。

「サッサと立テ」

 ひび割れたような、空気が漏れるような音と共に発された言葉に顔を上げると、喋っているのは蜥蜴男だった。
 それどころじゃないんだよ、と睨みつけるが、蜥蜴男は表情の読めない顔で長い舌を出しては引っ込めてを繰り返す。
「…今日のオマエの仕事ハ、ソウェイサズ王国の魔道具の、強度限界ヲ調べることト」
「……?」

 何ソレ?

「ヒトが作る武器の、強度ヲ測ル。ソノ魔道具は最高級品ダ。理論上、Sランク魔獣の攻撃モ、防ぐことガ可能ダと言われテいる」
「…??」

 え、つまり?

「その魔道具ヲ破壊することガ出来れバ、Sランク魔獣モ殺せるトいうコトダ」
「……」

 だから?

 理解出来ていなかったが、蜥蜴男はそれ以上の説明をすることなく、横へとずれ、後ろに下がった。
 弩に鏃をセットし、まっすぐこちらを狙っているのを見て、血の気が引いた。

 待って!!
 嘘でしょ!?

 逃げなければと足を動かした瞬間、ガチャン、と音を立てて鎖が引っ張られ、また雷に打たれた。
 ニコルは床へと転がった。
「発動セヨ」
 魔道具が発動し、防御結界がニコルの周囲に張られたが、安堵する暇はなかった。
 鏃が発射されたが、防御結界に当たって甲高い音を立て、弾かれた。
 水晶で剣を弾いたような、透き通った音だった。
 目の前に巨大な鏃が落ち、呆然とそれを見つめる。
 ニコルは己が失禁したことにも気づかず、命が助かったことに感謝した。
「第二射用意」
「……!!」

 やめて、やめてよぉ!!
 何で俺が、こんなことさせられなきゃならないの!?
 魔道具なんだから、人形でも立たせておけばいいじゃん!!
 何で俺なの!?
 誰か代わってよ!!

 第五射まで試された時には、すでにニコルの意識は遠のきかけていた。
 床に転がり、ぼんやりと蛮行を見ていることしかできなかった。

「次、魔道具交換」

 もはや逃げる気力もなく、魔道具が交換されるのを眺めていた。
「発動セヨ」
 魔道具が発動し、
「発射」
 第一射。
 先程の魔道具とは違い、防御結界はびりびりと揺れ、ぐわん、と撓んだ。
「……ッ!?」
 反射的にニコルは身体を飛び跳ねるように起こし、壁に縋りつく。
 結界は、壊れてはいなかった。
 だが、壊れそうな音だった。
「第二射」

 やめて、壊れちゃうよぉ!!

 容赦なく第五射まで撃ち込まれたが、結界は壊れなかった。
 
「……」

 無理、もう無理。
 なんで俺が、こんな目に遭わなきゃなんないんだよぉ…。

 ぼろぼろと涙をこぼし泣いてみせるが、心動かしてくれる者は、誰一人いなかった。

「次、魔道具交換」

「……!!」

 待って、これ、ヤバイんじゃないの。
 いくら何でも、次、壊れちゃうんじゃ。

 魔道具の交換に来た男もまた、首にチョーカーをつけていることから奴隷と知れたが、ニコルは怒りの赴くまま殴りつけようとした。
 …が、出来なかった。
 拳を振りかぶっても、奴隷に届く前に力が抜けて、床へと落ちる。
 掴みかかろうと手を伸ばしても、相手に触れる直前で、力が抜けた。
 そんなニコルの行動を無視して、魔道具の交換をしていた奴隷の男は、ちらりと横目で見て馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「契約があるから無理だぜ。最下級のおまえが来てくれて助かった。この魔道具、生きた人間対象じゃねぇと、発動しねぇんだよな。俺らもさすがにやりたくねぇし、いやホント助かったわー」
 ぶふっ、とわざとらしく噴き出して見せ、奴隷の男は離れていった。
 
 自分がここに立たされた意味を理解し、ニコルはただ呆然とするしかなかった。

「発動セヨ」
「…!!…!!」

 待って!!
 無理!!
 無理だよ!!
 さっきの見て、わかるでしょ!?
 これ、一つランク落としたヤツでしょ!?
 俺だってわかる。
 これ、ヤバイって!!

 必死に訴えかけても、蜥蜴男に動じる様子は微塵もなかった。
 慌てて壁に縋りつきながら立ち上がるが、容赦なく声は上がるのだった。

「発射」
 
 ガラスが割れるような儚い音を立てて、防御結界は壊れ、鏃はニコルの左足を砕いて壁へと突き刺さった。

 あまりの衝撃と痛みで、ニコルは意識を失った。





 ニコルが目を覚ました時、身体に痛みはなかった。
 何もなく、暗く狭い部屋。
 粗末にすぎるベッド、簡易に設置されたトイレと思しき穴は吐き気がする程臭く、洗面所は洗面所と呼ぶのもおこがましい程カビと、埃と、何かの汚れで黒く染まっていた。
 床は湿っているのかぬらぬらと鈍く光を発し、小さく黒い虫が、床を這い空中を飛んでいる。
 ドアというよりは、一面の壁がなく、牢のように格子が下ろされ、まるで犯罪者扱いのようだった。
 部屋に灯りもなく、廊下の灯りだけが唯一だった。
 格子扉のすぐ側に、食事の乗ったトレーが置かれていたが、小さなパンは乾燥し、薄いスープに具は入っておらず、冷え切っているのが一目でわかる。
 
 不潔で、不衛生で、臭く、おぞましい。

 そこに自分がいるという事実に耐えられず、ニコルは声の出ない悲鳴を上げて身体をかき抱き、ベッドの上で丸まった。
 だがベッドのシーツ自体も、臭く、湿っている。
 全身に鳥肌を立たせ、身体を起こして壁に縋りついた。

 いやだ、いやだ、何なんだよここ!!
 気持ち悪い、臭い、吐きそう、いやだ!!

 本当に吐き気がこみ上げ、トイレ穴で吐こうかと思ったが、あまりにも臭く近寄れなかった。
 洗面所もまた汚く、近寄れなかった。
 我慢出来ず、床へと吐瀉物をぶちまけたが、幸い昨日の夜から何も食べていなかった為、胃の中の物はたいして出ては来なかった。
 それでも、吐瀉物は臭く、汚かった。
「…っ…っ」

 何で俺が、こんな目に。
 誰か助けて。
 ダミアン、助けて。

 ほんの少し前まで、愛人として何一つ不自由のない生活を送っていた。
 最高級品に囲まれ、イケメンな他国の王や王太子達に会い、幸せだった。
 
 どうして?
 俺、こんな目に遭わなきゃいけないこと、してないよ。

 一人で泣いている所に、奴隷が一人現れ、格子の扉を開けて鎖を引っ張られた。
 ゆっくり泣く暇もないことに憤慨したが、また雷を浴びるのは嫌だと思い、ベッドから下り男に従い歩き出そうとした。
 だが出来ず、無様に顔から床へと倒れ込んだ。

 あるはずのものが、なかった。
 
 薄暗い牢の中、自分の左足を見下ろして、ニコルは引きつった悲鳴を上げた。
 ズボンは股の半ばあたりでちぎれ、肝心の足もまた、なかった。
 傷口はミミズ腫れで膨れ上がり、痛みはないものの、逆にそれが違和感を覚える。
「…骨までぐちゃぐちゃになってて、回復魔術をかけたけど、それが精一杯だった」
 鎖を持った、ひょろりとやせ細った男が呟いた。
「……っ……!!」

 ひどい。 
 ひどい!!
 俺の、大事な、足が!!
 なんで!!
 なんでだよぉ!!
 
 悪夢だって、言ってよぉ!!
 はやく、はやく、目を覚まさなきゃ!!
 
 頭を抱え込み、蹲って泣き叫ぶが、声が響くことはない。
 カラン、と乾いた音を立て、男が細長い棒を床に転がした。
「抱えていく気はないからな。杖使って歩け」
「…!!…!!」

 ひどい!!
 俺が、こんなに辛い思いをしてるのに!!
 なんで心配してくれないの!?

 涙目で見上げても、男は不快げに顔を顰めるだけだった。
「うわ、ウザ。いい年した男が、女子どもみたいに泣くのやめろよ。キメぇよ。契約がなければ、ぶっ飛ばしてる所だぜ。…おら立て。時間が押してるんだよ」
 
 俺は、可愛いの!!
 本当は、すっごく可愛くて、王様の愛人だってやってたんだから!!
 何でわかってくれないの!?

 字を書いて訴えようにも、ここには何もなかった。
 目に付いたスプーンとスープで床に、と手を伸ばしかけたが、その腕を捕まれ、無理矢理引っ張り上げられた。
 杖を突きつけられ、受け取るしかなかった。 
 ひょろりと細いくせに、力は強い。
 気持ち悪かった。
 杖の使い方がわからないまま、ゆっくりと歩き出す。
 さすがに早く歩け、とは言われなかったが、止まると容赦なく鎖を引っ張られた。
 ただただ涙を零して泣いたが、鼻を啜っても何をしても、前を歩く男は振り向きもしなかった。
「真面目に仕事をしていれば、ちゃんとした食事も寝床も用意してもらえるし、理不尽に殴られたりもしない。年季が明けたら、ちゃんと解放されるしな。ここは、他に比べれば全然マシだぜ…。俺みたいな、普通の奴隷にとってはな」
 言外に、最下級奴隷はどうか知らない、と言われたのだが、ニコルは気づかなかった。
「一体何やったら、最下級奴隷なんてなるんだ?借金や窃盗くらいじゃ、最下級なんてならねぇ。殺人だって、一人二人くらいじゃ、犯罪奴隷として刑期を終えたら、解放されるのによ」 
「……」
 
 俺は、何もしてない。
 
 訴えたくとも、訴える手段がないニコルは、唇を噛みしめ、泣くしかなかった。
「おまえの次の仕事場は、ここだ」
 時刻はすでに二十二時を回っていたが、部屋に入るとそこには一人、マシな服を着てファイルを抱えた男と、十人程の奴隷が壁際に並んで立っていた。
 部屋の広さは五メートル四方といった所で、中央には簡素で清潔なシングルベッドが一つ、置かれていた。   
 社員と思しきマシな服を着た男が、眼鏡の弦に触れながら無表情に言った。 
「我が社では、避妊具も作っている。試作品の強度と感度、色々な状況でテストをしなければいけない」
「……!?」
 これはさすがに、何をやらされるのか、ニコルにもわかった。 
 逃げようとしたが扉は閉ざされており、鎖を持ったひょろ長い男に引っ張られるようにベッドへ引きずられ、肩を押されて仰向けに倒された。
 左足に力が入らず、抵抗は出来なかった。
「…!!……ッ!!」
 嫌だ、と訴えたが、聞き入れてはもらえなかった。
 鎖をベッドの足に繋がれ、両手に枷をつけられ繋がれた。
「今日はお互い浄化魔術をかけて、清潔な状態でやってもらう。潤滑油なしで挿入して、強度と感度の確認だ」
「…っ」
 ヒッ、と、喉がひきつった。
「明日は浄化魔術なしでやってもらう。性病も色々あるから、予防効果を確かめる」

 いやだ。
 俺は、そんな不潔なセックスなんて耐えられない!! 
 愛のある、気持ちのいいセックスしかやりたくない!!
 
 足をばたつかせるが、腹を殴られ息が詰まった。
「最下級奴隷のくせに、抵抗するなクソが」
「俺らの方が可哀想だぜ、なぁ?」
 奴隷の一人がため息混じりに呟くのを皮切りに、次々と男達が喋り出す。
「こんなキモイ男に、突っ込まなきゃならないんだぜ」
「勘弁してくれよ…顔隠してくれよ…萎えちまう」
「体位も試さなきゃならんのだろ?」
「袋被せとこうぜ。身体は悪くなさそうだしよ」
「あーあー。美人だったらまだしもなぁ」
「つか、性病持ちがいるのか?ここに?」
「ヨルガとヤったら、感染するらしいぜ」   
「げっヨルガかよ…所構わず声かけてるビッチじゃねぇか!」
「性病持ち兄弟だらけじゃねぇの?うわー引くわー」
「おいおまえらうるさいぞ。袋被せるならさっさと持って来い」

 外野がうるさい。
 俺は、こんなことをされる為に生きて来たんじゃない。
 キモイとか、言われるなんてありえない。
 ありえない。
 ありえない!!

 さらに腹を殴られ、胃液を吐き出す。
「うっわ汚ねぇしクセェし勘弁しろよ…。おいジョン、浄化してくれよ」
「一日目で壊すなよ。人間が終わったら、獣人やら亜人やらも試さないとならないんだからな」
「どうせ回復魔術かけるんだから、死ななきゃいいだろ」
「死ななきゃな」
「はぁ…。誰が最初いくー?潤滑油なしとか、こっちも痛ぇだろこれ」
「罰ゲームだなぁ。おら、ジャンケンするぞー」
「じゃーんけーん」

 なに。
 なんなのこいつら。
 なんで当たり前のようにヤろうとしてるの。
 
 こいつら全員、相手するの?
 俺が?
 …無理。
 無理だよ!
 俺、相手が誰でもいいわけじゃないんだから!
 
 止めて!
 アンタ、止めてよ!!
 
 順番を決めている男達の横で、ファイルを手に冷めた瞳で眺めている社員と思しき男は確か、「ジョン」と呼ばれていた。
 茶色の髪、茶色の瞳。
 特徴のない、平凡で、どちらかと言えばブサイクな顔。
 目が合うと、表情にあからさまな嫌悪の色を浮かべた。 
「……!?」

 まさか。
 ジョン…?
 十六で妹を連れて家を出て、行方不明になった、弟…!?
 
 いつもニコルに対して向けていた、顔に似ていた。
 
 うそ…?
 こんな所に…?
 
 呆然としている隙に布袋を被せられてうつ伏せにされ、慣らされることもなく突っ込まれた激痛に、ニコルはまた悲鳴を上げた。
 誰にも聞こえはしなかったけれど。

 どうして俺が、こんな目に。
 オースティンのプロポーズを、受けておけば良かった?

 反省する。
 反省するから、助けて。
 ちゃんとオースティンと結婚するから!!
 ジョンにも優しくしてあげるから!!
 助けてよぉ!
 
 助けは来ない。
 正気を手放すまで、もしくは死ぬまでこの苦痛が続くことを、まだニコルは認識できていなかった。
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