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45. 思い当たる俺
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妖精の落とし子、なんて言葉はミカエルは聞いたことがなかったが、わざわざ聖教の最高司祭殿が見舞ってくれたことから、得心がいった。
特別扱いはしないが保護してくれる、と言った彼の言葉と、動物と話の出来る魔力なしの子の話を思い出す。
妖精族は千年程前まで実在した種族で、一時期は人族との関係は良好だった。
妖精の血を引く「妖精王」もいたというが、蜜月関係は長くは続かなかった。
数が少なく、また美しい容姿と奇跡の業をいくつも使うことが出来た為、妖精狩りによって絶滅した。
王への貢ぎ物として捧げられたと、記録されている。
今では御伽噺でしか存在しない種族であるが、王族の血を引く者の中に、妖精の血が現れることも、あるのかもしれない。
しかし、魔力なしの子は殺されてもおかしくない扱いをされる世界だというのに、『妖精の落とし子』なんて、おかしな話だ。
首を傾げると、目の前のアルヴィスもまた、首を傾げた。
「どうした?」
「そんな言葉、初めて聞いたな、と思って」
「ここ数千年で数人いたはずだが、世界を変えるような能力を持っていたわけではないから、呼び名自体が廃れたんだろう」
「なるほど…。最高司祭殿に聞いた話では、昔保護した子は、動物と話が出来たそうだよ」
「そうか」
「それにしても、詳しいね?」
「……」
珍しく饒舌だと思っていたら、黙り込んでしまった。
「本宮の書庫にでもあった?」
「…探してみるといい」
「……」
歯切れの悪い返答で、視線を逸らしティーカップに口を付けている。
ばつが悪そうな表情は見たことのないもので、あまりの珍しさにまじまじと眺めていると、咳払いされた。
「…実際、おまえの能力も、世界を変えるような物じゃない」
話題を逸らされた。
そのうち本宮の書庫を見てみようと思いつつ、ミカエルは頷く。
「そうだね。じゃぁ僕は、デバフの完全耐性持ちってことなのかな」
「ああ」
「…言われてみれば確かに」
王弟に怪しげな薬を飲まされたが、特に体調の変化はなかった。
誘拐される時、自分には睡眠魔術がかからなかった。
目の前の彼も、認識阻害の魔術を使っているらしいが、効果がないようだし。
他にも…。
あ、エルフ族のお兄さん。
黄蘭の君ががっかりしていたけれど、フードの下にある顔は、素晴らしく美形なエルフ族だった。
反応がおかしいと思ったが、認識阻害は闇属性。
闇属性の睡眠魔術を使えるのなら、認識阻害を使っていてもおかしくない。
違和感が、解消された。
「なるほど。地味だけど、助かる加護だね!」
ありがたいねぇ、と頷けば、アルヴィスがうっそりと笑う。
今日の彼はよく笑うな、と思ったが、この笑みは怖かった。
「おまえには、魅了も洗脳も効かない」
「突然怖いこと言い出した」
「毒も瘴気も、腐敗も効かない」
「……」
「良かったな」
「いやいやいやいや…」
良かったと言う割りには、表情が不穏ですね???
「…厄介な加護だ」
「待って待って。僕を殺す気なの!?」
「はは、まさか」
心外だと言わんばかりに片眉を器用に上げて見せ、声を立ててアルヴィスが笑う。
初めて会った時に見せた、深淵へと引きずり込もうとするような、美しいのにぞっとする笑みだった。
「長生きしろ」
「ア、ハイ」
怖い怖い怖い怖い。
でも不思議と不快ではないのだった。
怖い顔で「長生きしろ」って、笑う所なのかな?
わけがわからず、ただただミカエルは困惑した。
聖ウィンユルス公国で開かれる五国間の親睦会に、ミカエルが呼ばれることはなかった。
その次の年も、呼ばれなかった。
さらに次の年もその次も呼ばれず、王は一人で参加したようだった。
誘拐事件が尾を引いているのか、はたまた後継者でない者を連れて行くことをやめただけなのか。
ミカエルにはわからなかったものの、各国の公子王太子とは定期的に手紙のやりとりをしていたし、第四王子ともやり取りはしていたので、残念ではあったものの、日々の勉強に邁進していた。
婚約者である侯爵家のソフィア嬢とは、友好を深めることもなく日々が過ぎ、本当に形だけ、虫除けの為の婚約だったのだと実感していた。
いやほら、婚約者とは月に一回とか、定期的に会うものじゃないの?
ミカエルが読んだ小説や漫画ではそうだった気がしたが、全くそんなものはなかった。
話ができないんじゃ、好きになりようもない。
解消が前提と言わんばかりで、いつしか意識を向けることもなくなってしまった。
王宮から出ることもなく、同年代の貴族子女達と交流することもなく、四年。
ミカエルとアルヴィスは、十歳になっていた。
特別扱いはしないが保護してくれる、と言った彼の言葉と、動物と話の出来る魔力なしの子の話を思い出す。
妖精族は千年程前まで実在した種族で、一時期は人族との関係は良好だった。
妖精の血を引く「妖精王」もいたというが、蜜月関係は長くは続かなかった。
数が少なく、また美しい容姿と奇跡の業をいくつも使うことが出来た為、妖精狩りによって絶滅した。
王への貢ぎ物として捧げられたと、記録されている。
今では御伽噺でしか存在しない種族であるが、王族の血を引く者の中に、妖精の血が現れることも、あるのかもしれない。
しかし、魔力なしの子は殺されてもおかしくない扱いをされる世界だというのに、『妖精の落とし子』なんて、おかしな話だ。
首を傾げると、目の前のアルヴィスもまた、首を傾げた。
「どうした?」
「そんな言葉、初めて聞いたな、と思って」
「ここ数千年で数人いたはずだが、世界を変えるような能力を持っていたわけではないから、呼び名自体が廃れたんだろう」
「なるほど…。最高司祭殿に聞いた話では、昔保護した子は、動物と話が出来たそうだよ」
「そうか」
「それにしても、詳しいね?」
「……」
珍しく饒舌だと思っていたら、黙り込んでしまった。
「本宮の書庫にでもあった?」
「…探してみるといい」
「……」
歯切れの悪い返答で、視線を逸らしティーカップに口を付けている。
ばつが悪そうな表情は見たことのないもので、あまりの珍しさにまじまじと眺めていると、咳払いされた。
「…実際、おまえの能力も、世界を変えるような物じゃない」
話題を逸らされた。
そのうち本宮の書庫を見てみようと思いつつ、ミカエルは頷く。
「そうだね。じゃぁ僕は、デバフの完全耐性持ちってことなのかな」
「ああ」
「…言われてみれば確かに」
王弟に怪しげな薬を飲まされたが、特に体調の変化はなかった。
誘拐される時、自分には睡眠魔術がかからなかった。
目の前の彼も、認識阻害の魔術を使っているらしいが、効果がないようだし。
他にも…。
あ、エルフ族のお兄さん。
黄蘭の君ががっかりしていたけれど、フードの下にある顔は、素晴らしく美形なエルフ族だった。
反応がおかしいと思ったが、認識阻害は闇属性。
闇属性の睡眠魔術を使えるのなら、認識阻害を使っていてもおかしくない。
違和感が、解消された。
「なるほど。地味だけど、助かる加護だね!」
ありがたいねぇ、と頷けば、アルヴィスがうっそりと笑う。
今日の彼はよく笑うな、と思ったが、この笑みは怖かった。
「おまえには、魅了も洗脳も効かない」
「突然怖いこと言い出した」
「毒も瘴気も、腐敗も効かない」
「……」
「良かったな」
「いやいやいやいや…」
良かったと言う割りには、表情が不穏ですね???
「…厄介な加護だ」
「待って待って。僕を殺す気なの!?」
「はは、まさか」
心外だと言わんばかりに片眉を器用に上げて見せ、声を立ててアルヴィスが笑う。
初めて会った時に見せた、深淵へと引きずり込もうとするような、美しいのにぞっとする笑みだった。
「長生きしろ」
「ア、ハイ」
怖い怖い怖い怖い。
でも不思議と不快ではないのだった。
怖い顔で「長生きしろ」って、笑う所なのかな?
わけがわからず、ただただミカエルは困惑した。
聖ウィンユルス公国で開かれる五国間の親睦会に、ミカエルが呼ばれることはなかった。
その次の年も、呼ばれなかった。
さらに次の年もその次も呼ばれず、王は一人で参加したようだった。
誘拐事件が尾を引いているのか、はたまた後継者でない者を連れて行くことをやめただけなのか。
ミカエルにはわからなかったものの、各国の公子王太子とは定期的に手紙のやりとりをしていたし、第四王子ともやり取りはしていたので、残念ではあったものの、日々の勉強に邁進していた。
婚約者である侯爵家のソフィア嬢とは、友好を深めることもなく日々が過ぎ、本当に形だけ、虫除けの為の婚約だったのだと実感していた。
いやほら、婚約者とは月に一回とか、定期的に会うものじゃないの?
ミカエルが読んだ小説や漫画ではそうだった気がしたが、全くそんなものはなかった。
話ができないんじゃ、好きになりようもない。
解消が前提と言わんばかりで、いつしか意識を向けることもなくなってしまった。
王宮から出ることもなく、同年代の貴族子女達と交流することもなく、四年。
ミカエルとアルヴィスは、十歳になっていた。
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