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52. 冒険者活動をする俺
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ミカエルとアルヴィスは全ての教育を終えた後、その時間を使って様々な場所を視察した。
大規模都市、中規模都市、田舎都市。
各都市の教会や孤児院、バザー。
国境警備。
知識として学んでいた場所へ、直接赴くことで気づきは多かったが、ある種の不便も感じるようになっていた。
行く場所は全て、宰相の息のかかった場所だった。
綺麗で、治安が良く、皆が笑顔の場所だった。
それだけ、宰相のフランクリン領が平和で豊かであるということなのだろうし、王子達の安全を考えれば、最善なのだと思う。
見ないよりは、見る方がいい。
視察は無駄ではない。
だが、都合の良い部分しか見せられておらず、隠されている。
宰相のフランクリン領の隣、マードック伯の領地では大規模な土砂崩れが発生し、多くの犠牲者が出ていることを、知っていた。
ロビンズ侯の領地では、隣国に接した国境付近に魔獣が大量発生し、甚大な被害が発生していた。
トラヴァース子爵の領地では、国境沿いの河川が氾濫し、民家や田畑に被害が出ていた。
慰問に赴きたいと希望を出しても、全て却下されていた。
『視察』という名目の限界を感じたが、だがやめるつもりはなかった。
「最終手段はあれかな、お忍びってやつ」
ソファで寛ぎながらミカエルがぽつりと呟くと、最近なぜか隣に座るようになったアルヴィスが、読んでいた本から視線を上げた。
「…どこへ?」
「今はとりあえず、日帰りで行ける範囲」
「わかった」
「いいんだ」
「二人でか?」
十歳とは思えぬ艶やかな流し目と笑みを向けられ、ミカエルは「殺傷力たっか…!」と思いつつ、表面上はにこりと笑んだ。
「護衛は絶対ついて来るから、二人っきりは無理だけどね。王都を出てすぐの森林地帯が、低ランクのレベル上げにいいんだって」
「そうか。いつ行く?」
本をテーブルに置いたアルヴィスの身体が、向かい合うようにこちらを向いて、左手を伸ばす。
そっとミカエルの頬を撫で、髪を撫でて毛先を弄び始めた。
「迷いなさすぎない?ていうか、どうしたの?」
「髪、伸びたな」
「そろそろ切らないといけないけども。いやそうじゃなくて」
最近、アルヴィスの距離感がバグっていた。
顔のガン見が減った分、直接的な接触が増えている。
あと、やたらと視線が優しい。
十歳の子どものやることだと思えば、気にする程のことではないのだろうか?
少なくとも、過去の自分がやったら確実に、セクハラ訴訟案件だった。
どう反応するのが正解なのか、わからない。
家族にこんな風に触れられた記憶はなかったし、同性の友人達も、こんな風に触れてくるヤツはいなかった。
ヒロインが意中の相手にされて、「トゥンク」するシーンにしか思えないのだが。
俺を「トゥンク」させてどうするのか。
この世界が十八禁ゲームだと教えてくれた第四王子の言によれば、ミカエルは攻略対象者であって、ヒロインではないのだった。
では取るべき対応は、一つだった。
ミカエルも同じように左手を伸ばし、アルヴィスの頬を撫で、髪を撫でた。
驚いたように動きを止めたアルヴィスに、いたずら成功と笑って見せた。
「ほら、くすぐったいだろう?それにびっくりするから、あんまり…」
髪に触れていた左手首を取られ、そのまま手の平に唇を寄せられ、言葉を飲み込んだ。
ちょ、何やってんの…!?
固まったミカエルを見上げるようにして、アルヴィスはそっと笑みを浮かべた。
「…なるほど、これは危ない」
「な、なにが????」
唇、離してもらえませんかね。
くすぐったいです。
背中がぞわぞわします。
「理性が」
「???わかって???もらえたなら???よかった???」
「ああ、気をつけよう」
「うん…」
左手を撫でながら言われても、あまり説得力はなかった。
その年で、セクハラなの?
それとも、愛情表現なの?
親しい家族間なら???
アリなのだろうか???
恋愛物語には、距離感のバグった家族が結構いたりする。
義兄だったり?
義弟だったり?
彼も、その延長線上にいるのかも???
しれない???
過去の自分の家族にはありえなかったし、今の家族でも、彼以外にはありえないことだ。
正直な所、嫌ではないし払い除ける程でもない。
ただ戸惑う。
「…事前に許可は取らないとうるさそうだから、最短で申請しておくね」
「わかった」
ようやくミカエルの左手を解放し、アルヴィスはまた本を手に取り読み始めた。
ぴったりくっつくような距離で横に座っていることについては、もはや指摘を諦めた。
体温を感じる距離は、慣れなくて落ち着かない。
だが、嫌ではない。
不思議である。
ティーカップに口をつけながら、話題を変えた。
「そういえば年末くらいに、五国同盟の親睦会が、この国で開かれるんだって」
「へぇ」
「参加は出来なくても、挨拶くらいは出来るかな…君を皆に紹介したいし」
「……」
無言のアルヴィスは、ちらりとミカエルに視線を向けたものの、すぐに本へと視線を戻した。
「そんな興味なさそうな顔しない」
「よくわかるな」
「そりゃわかるよ」
「そうか」
表情は変わらないのに、そこは嬉しそうだった。
「カノラド連邦の、第四王子の話はしたでしょ。今回は来ないだろうけど、また会いたいな」
「そうか」
「もー」
ミカエルにとって、アルヴィスは唯一の家族と言って良かった。
大切な存在だった。
王も王妃も、ミカエルには全く関わってこない。
第三王子とも、関わりがない。
ミカエルとアルヴィスだけが、まるで別世界に生きているかのように、隔離されていた。
そりゃ協力しないと、やってられない。
第四王子が言う、ゲームの世界の第一王子と第二王子は、面識があったのかどうかすら不明だ。
五歳から学園に入学する十五歳まで、第一王子ミカエルは他国を転々としていたようだし、第二王子に関しては、情報すらない。
どちらも孤独に過ごしていたはずで、それに比べれば今は遙かに幸せと言えた。
距離感がちょっと、おかしい気がしないでもないけど。
カップを置いて、アルヴィスの方へと凭れるように体重をかけてみるが、体幹がしっかりとしてきているのか、びくともしなかった。
アルヴィスの笑う声が身体に響くのは慣れないと思いつつ、ミカエルは目を閉じた。
「冒険者デビュー、楽しみだね」
「そうか」
「うん」
穏やかにいられる時間を過ごせることは、幸せだった。
剣が魔獣の腹に触れるとまずは皮の抵抗があり、内部へと食い込むと、肉を抉り筋を切る感触があった。
剣を振り抜けば血しぶきが飛び、ビシャ、と音を立てて小型の魔獣が地に落ちた。
「……」
王都外に出てすぐ、森林入口にいる魔獣は、Fランクの中でも最弱のフォレストラビットであり、剣の稽古を真面目にこなしてきたミカエル達の敵ではなかった。
少し離れた場所ではアルヴィスが、躊躇無く殲滅している。
護衛騎士はいつも通り四名いたが、これもまた、少し離れた所で見学していた。
もし危険があるようなら、彼らが敵を排除する。
鮮血の海に沈むフォレストラビットの毛は、血を吸って赤黒く、剣で斬られた箇所からは赤く染まった内臓がはみ出し、艶やかな肉を覗かせていた。
さくりと貫いた肉の感触は、鶏もも肉のようであり、程良く弾力があり、裂く角度を考えなければならなかった。
過去の記憶と合わせても、動物を殺した経験はない。
魔獣とはいえ、殺したのは初めてだった。
殺した後は、解体しなければならない。
解体経験も、なかった。
「……」
剣を握った手が、震えた。
血生臭さにつられたように、魔獣が数体近づいて来る。
足は動かなかったが、飛びかかって来る敵は斬り倒す。
足下に四体の死骸が転がり、外套は血に汚れた。
この日の為に用意した冒険者用のシンプルな服を、さっそく汚してしまい気が滅入る。
初めて魔獣の血の臭いを、嗅いだ。
胸がむかついて、吐き気が込み上げた。
血の臭気に耐えられず、少し距離を取る。
周辺の魔獣は一掃されたようだったが、あとの解体処理を考えると、ますます吐き気が強くなる。
「…大丈夫か?顔色が悪い」
「……」
動揺の欠片も見えないアルヴィスは、さすがと言うしかない。
何事も無かったように、剣を鞘に納めながら歩み寄って来るが、ミカエルは口を開くことが出来なかった。
吐きそう。
今すぐ蹲って胃の中の物をぶちまけたい気分だったが、深呼吸してやり過ごす。
そっと背を押され、大木の根本まで歩いて座るよう促された。
断る気力もなく座り込み、木の幹に背を預けた。
「……」
ヤバイ。
俺、超絶情けない。
「座ってろ。今日の解体は騎士にやらせる」
「…え、いや、…」
アルヴィスが視線を投げた先には、彼の護衛騎士達が、倒した魔獣を一カ所に集め始めていた。
ミカエルの護衛騎士は、近くで心配そうにこちらを見ている。
「無理するな。少しずつ慣れていけばいい」
「…ごめん。すぐ慣れる。一日で慣れるから」
「そうか」
「…一時間、休憩させて欲しい。そしたら解体、僕もやる」
「わかった」
冒険者デビューは、散々だった。
休憩後、まずは騎士達が手本として解体を見せてくれたが、そこでもまた吐き気に襲われ、まともに見ることが出来なかった。
魚を捌くことは出来るのに、魔獣を捌くのは気持ち悪いと思ってしまう。
「数をこなせば慣れる」
「そうだね…頑張るよ…」
そう言ってくれるアルヴィスは、ミカエルと同じく冒険者デビューのはずなのに…、と思えば、自分がとても情けない。
結局解体しようとすると吐き気に見舞われる為、見学に終始した。
事前に解体方法を調べていたというのに、この体たらく。
早く慣れなければ、と反省しきりのデビューを終え、魔石以外の素材をギルドで換金した。
最弱魔獣の素材は微々たる金額にしかならなかったが、初めて自分で稼いだ金だと思えば嬉しかった。
自分は、魔獣を倒しただけだけど。
いやもうホント、申し訳ない。
ギルドを出ようと踵を返し、歩き始めた時だった。
「…魔力なしの王子が…」
そんな噂話を、聞いたのだった。
大規模都市、中規模都市、田舎都市。
各都市の教会や孤児院、バザー。
国境警備。
知識として学んでいた場所へ、直接赴くことで気づきは多かったが、ある種の不便も感じるようになっていた。
行く場所は全て、宰相の息のかかった場所だった。
綺麗で、治安が良く、皆が笑顔の場所だった。
それだけ、宰相のフランクリン領が平和で豊かであるということなのだろうし、王子達の安全を考えれば、最善なのだと思う。
見ないよりは、見る方がいい。
視察は無駄ではない。
だが、都合の良い部分しか見せられておらず、隠されている。
宰相のフランクリン領の隣、マードック伯の領地では大規模な土砂崩れが発生し、多くの犠牲者が出ていることを、知っていた。
ロビンズ侯の領地では、隣国に接した国境付近に魔獣が大量発生し、甚大な被害が発生していた。
トラヴァース子爵の領地では、国境沿いの河川が氾濫し、民家や田畑に被害が出ていた。
慰問に赴きたいと希望を出しても、全て却下されていた。
『視察』という名目の限界を感じたが、だがやめるつもりはなかった。
「最終手段はあれかな、お忍びってやつ」
ソファで寛ぎながらミカエルがぽつりと呟くと、最近なぜか隣に座るようになったアルヴィスが、読んでいた本から視線を上げた。
「…どこへ?」
「今はとりあえず、日帰りで行ける範囲」
「わかった」
「いいんだ」
「二人でか?」
十歳とは思えぬ艶やかな流し目と笑みを向けられ、ミカエルは「殺傷力たっか…!」と思いつつ、表面上はにこりと笑んだ。
「護衛は絶対ついて来るから、二人っきりは無理だけどね。王都を出てすぐの森林地帯が、低ランクのレベル上げにいいんだって」
「そうか。いつ行く?」
本をテーブルに置いたアルヴィスの身体が、向かい合うようにこちらを向いて、左手を伸ばす。
そっとミカエルの頬を撫で、髪を撫でて毛先を弄び始めた。
「迷いなさすぎない?ていうか、どうしたの?」
「髪、伸びたな」
「そろそろ切らないといけないけども。いやそうじゃなくて」
最近、アルヴィスの距離感がバグっていた。
顔のガン見が減った分、直接的な接触が増えている。
あと、やたらと視線が優しい。
十歳の子どものやることだと思えば、気にする程のことではないのだろうか?
少なくとも、過去の自分がやったら確実に、セクハラ訴訟案件だった。
どう反応するのが正解なのか、わからない。
家族にこんな風に触れられた記憶はなかったし、同性の友人達も、こんな風に触れてくるヤツはいなかった。
ヒロインが意中の相手にされて、「トゥンク」するシーンにしか思えないのだが。
俺を「トゥンク」させてどうするのか。
この世界が十八禁ゲームだと教えてくれた第四王子の言によれば、ミカエルは攻略対象者であって、ヒロインではないのだった。
では取るべき対応は、一つだった。
ミカエルも同じように左手を伸ばし、アルヴィスの頬を撫で、髪を撫でた。
驚いたように動きを止めたアルヴィスに、いたずら成功と笑って見せた。
「ほら、くすぐったいだろう?それにびっくりするから、あんまり…」
髪に触れていた左手首を取られ、そのまま手の平に唇を寄せられ、言葉を飲み込んだ。
ちょ、何やってんの…!?
固まったミカエルを見上げるようにして、アルヴィスはそっと笑みを浮かべた。
「…なるほど、これは危ない」
「な、なにが????」
唇、離してもらえませんかね。
くすぐったいです。
背中がぞわぞわします。
「理性が」
「???わかって???もらえたなら???よかった???」
「ああ、気をつけよう」
「うん…」
左手を撫でながら言われても、あまり説得力はなかった。
その年で、セクハラなの?
それとも、愛情表現なの?
親しい家族間なら???
アリなのだろうか???
恋愛物語には、距離感のバグった家族が結構いたりする。
義兄だったり?
義弟だったり?
彼も、その延長線上にいるのかも???
しれない???
過去の自分の家族にはありえなかったし、今の家族でも、彼以外にはありえないことだ。
正直な所、嫌ではないし払い除ける程でもない。
ただ戸惑う。
「…事前に許可は取らないとうるさそうだから、最短で申請しておくね」
「わかった」
ようやくミカエルの左手を解放し、アルヴィスはまた本を手に取り読み始めた。
ぴったりくっつくような距離で横に座っていることについては、もはや指摘を諦めた。
体温を感じる距離は、慣れなくて落ち着かない。
だが、嫌ではない。
不思議である。
ティーカップに口をつけながら、話題を変えた。
「そういえば年末くらいに、五国同盟の親睦会が、この国で開かれるんだって」
「へぇ」
「参加は出来なくても、挨拶くらいは出来るかな…君を皆に紹介したいし」
「……」
無言のアルヴィスは、ちらりとミカエルに視線を向けたものの、すぐに本へと視線を戻した。
「そんな興味なさそうな顔しない」
「よくわかるな」
「そりゃわかるよ」
「そうか」
表情は変わらないのに、そこは嬉しそうだった。
「カノラド連邦の、第四王子の話はしたでしょ。今回は来ないだろうけど、また会いたいな」
「そうか」
「もー」
ミカエルにとって、アルヴィスは唯一の家族と言って良かった。
大切な存在だった。
王も王妃も、ミカエルには全く関わってこない。
第三王子とも、関わりがない。
ミカエルとアルヴィスだけが、まるで別世界に生きているかのように、隔離されていた。
そりゃ協力しないと、やってられない。
第四王子が言う、ゲームの世界の第一王子と第二王子は、面識があったのかどうかすら不明だ。
五歳から学園に入学する十五歳まで、第一王子ミカエルは他国を転々としていたようだし、第二王子に関しては、情報すらない。
どちらも孤独に過ごしていたはずで、それに比べれば今は遙かに幸せと言えた。
距離感がちょっと、おかしい気がしないでもないけど。
カップを置いて、アルヴィスの方へと凭れるように体重をかけてみるが、体幹がしっかりとしてきているのか、びくともしなかった。
アルヴィスの笑う声が身体に響くのは慣れないと思いつつ、ミカエルは目を閉じた。
「冒険者デビュー、楽しみだね」
「そうか」
「うん」
穏やかにいられる時間を過ごせることは、幸せだった。
剣が魔獣の腹に触れるとまずは皮の抵抗があり、内部へと食い込むと、肉を抉り筋を切る感触があった。
剣を振り抜けば血しぶきが飛び、ビシャ、と音を立てて小型の魔獣が地に落ちた。
「……」
王都外に出てすぐ、森林入口にいる魔獣は、Fランクの中でも最弱のフォレストラビットであり、剣の稽古を真面目にこなしてきたミカエル達の敵ではなかった。
少し離れた場所ではアルヴィスが、躊躇無く殲滅している。
護衛騎士はいつも通り四名いたが、これもまた、少し離れた所で見学していた。
もし危険があるようなら、彼らが敵を排除する。
鮮血の海に沈むフォレストラビットの毛は、血を吸って赤黒く、剣で斬られた箇所からは赤く染まった内臓がはみ出し、艶やかな肉を覗かせていた。
さくりと貫いた肉の感触は、鶏もも肉のようであり、程良く弾力があり、裂く角度を考えなければならなかった。
過去の記憶と合わせても、動物を殺した経験はない。
魔獣とはいえ、殺したのは初めてだった。
殺した後は、解体しなければならない。
解体経験も、なかった。
「……」
剣を握った手が、震えた。
血生臭さにつられたように、魔獣が数体近づいて来る。
足は動かなかったが、飛びかかって来る敵は斬り倒す。
足下に四体の死骸が転がり、外套は血に汚れた。
この日の為に用意した冒険者用のシンプルな服を、さっそく汚してしまい気が滅入る。
初めて魔獣の血の臭いを、嗅いだ。
胸がむかついて、吐き気が込み上げた。
血の臭気に耐えられず、少し距離を取る。
周辺の魔獣は一掃されたようだったが、あとの解体処理を考えると、ますます吐き気が強くなる。
「…大丈夫か?顔色が悪い」
「……」
動揺の欠片も見えないアルヴィスは、さすがと言うしかない。
何事も無かったように、剣を鞘に納めながら歩み寄って来るが、ミカエルは口を開くことが出来なかった。
吐きそう。
今すぐ蹲って胃の中の物をぶちまけたい気分だったが、深呼吸してやり過ごす。
そっと背を押され、大木の根本まで歩いて座るよう促された。
断る気力もなく座り込み、木の幹に背を預けた。
「……」
ヤバイ。
俺、超絶情けない。
「座ってろ。今日の解体は騎士にやらせる」
「…え、いや、…」
アルヴィスが視線を投げた先には、彼の護衛騎士達が、倒した魔獣を一カ所に集め始めていた。
ミカエルの護衛騎士は、近くで心配そうにこちらを見ている。
「無理するな。少しずつ慣れていけばいい」
「…ごめん。すぐ慣れる。一日で慣れるから」
「そうか」
「…一時間、休憩させて欲しい。そしたら解体、僕もやる」
「わかった」
冒険者デビューは、散々だった。
休憩後、まずは騎士達が手本として解体を見せてくれたが、そこでもまた吐き気に襲われ、まともに見ることが出来なかった。
魚を捌くことは出来るのに、魔獣を捌くのは気持ち悪いと思ってしまう。
「数をこなせば慣れる」
「そうだね…頑張るよ…」
そう言ってくれるアルヴィスは、ミカエルと同じく冒険者デビューのはずなのに…、と思えば、自分がとても情けない。
結局解体しようとすると吐き気に見舞われる為、見学に終始した。
事前に解体方法を調べていたというのに、この体たらく。
早く慣れなければ、と反省しきりのデビューを終え、魔石以外の素材をギルドで換金した。
最弱魔獣の素材は微々たる金額にしかならなかったが、初めて自分で稼いだ金だと思えば嬉しかった。
自分は、魔獣を倒しただけだけど。
いやもうホント、申し訳ない。
ギルドを出ようと踵を返し、歩き始めた時だった。
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