【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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156. 剣術大会に参加する俺

 なんで俺、こんなとこにいるんだろ。





 ミカエルが諦観を滲ませ呟いたのは、年に一度、春に行われる王室主催の剣術大会だった。
 一般に開かれているわけではなく、騎士団員の士気向上の為、希望参加制で腕試しをして、優勝者を決めるというものだった。
 成績上位者は出世コースに乗ることが約束され、多額の賞金も手にすることが出来る。
 観衆は騎士団関係者であり、平民から上位貴族まで幅広い。
 百年程前から毎年行われており、優勝者は次回から参加することは出来ない。
 騎士団員にとっては、夢のある大会だった。

 …今までは。

 ミカエルとアルヴィスは呼ばれたことがないので、観戦自体したことがなく興味もなかった。
 護衛騎士で最も信頼している騎士レイヴンとイアンも、希望参加制なので参加したことはなかったという。
 それが今年は参加するよう要請されたと言い、おかしいと思っていたら、ミカエルにも参加するよう要請が来た。

 王族席で観戦ではなく、参加、だった。

「嫌だなぁ」
 ミカエルはため息を隠すことなく、王族の観覧席で呟いた。
「…適当に負けるか?」
 隣の席から声をかけてくるのは、正装をして超絶美形に拍車がかかっている、アルヴィスだった。
 直視すると目が潰れそう、と思いつつ、ミカエルは首を振る。
 ミカエルは戦うことになっている為、黒地に金装飾の騎士服の豪華版、を着ていた。
 これは元々、王族が戦場に赴く際に着用するものだったが、現在王族が戦場に赴くことなどありえない為、今回のような剣術大会、狩猟大会に参加する際の衣装になったという。
 第三王子も参加している為、彼も似たような格好をしていた。
 ただし、彼は王太子なので、ミカエルよりも装飾が多く、白地に金だった。
 そう、第三王子も参加している。

 あの子、剣持ったことあるの?

 純粋に疑問だったのだが、前回前々回と、優勝していた。
   
 第三王子の接待大会、ご苦労様です。

 騎士団員の士気向上という名目で開かれているはずなのに、これでは向上しようがないのではなかろうか。
 一応、王子を抜いた順位で参加者の成績は考慮されるらしいのだが、優勝と準優勝では、ありがたみが違う。

 第三王子は実力で優勝した…わけがない。
 
 あの身のこなしで、まともに剣が振れるはずもない。
 参加者の団員に八百長させていると思うと、恥ずかしさと情けなさで眩暈を覚えた。
「僕に参加しろって言って来た理由、なんだと思う?」
 今は開会式の最中だった。
 騎士団関係者は、参加者家族でなくとも観戦することが出来る為、会場は満席だった。
 野球場、というよりは、コロセウムと言った方が形状は正確だ。
 収容人数はおよそ五千人程度、王族席はしっかりと囲いと屋根があり、周囲に護衛騎士が多数配置されている。
 カノラド連邦の第四王子と第六王女、そして勇者も貴賓として招待されているが、少し離れた席で護衛騎士に囲まれている為、会話することは出来ない。
 聖女とご友人は、王太子の取り巻きと共に観戦しているようだった。
 貴族席もまた、同じように囲いと屋根はあるが、護衛騎士はおらず、各自私兵分まで金を払って観戦する。
 屋根のない観覧席は、特別料金を必要とせず、通常料金のみである。
 今回の剣術大会は王族主催の為、参加者家族は無料で観戦することが出来た。
「…あの王太子にわざと負けろとは、言われてないんだろう?」
「言われてないよ」
「あいつらそもそも、おまえの強さを知っているのか?」
「そこなんだよね」
「?」
 
 彼らは、ミカエルの強さを知らない。

 十歳で冒険者を始めた頃のことは報告を受けていても、行方不明になっていた間のことは、知らないのだ。
「百名参加の、僕は第八シード。王太子は第一シード。決勝で当たる予定だけど…」
 ミカエルが最初に戦うことになるだろう相手は、第一騎士団の、副団長だった。
 王妃派の急先鋒である、ミレー伯爵の弟である。
 四男であった為に爵位を継げず、準男爵の位を頂いていたが、副団長になったのを機に男爵になっていた。
 実力は本物であるが、ボイル侯爵の口添えのおかげで男爵になれたので、彼もまた、王妃の忠実な下僕と言って良い。
「初戦敗退で恥をかかせたい、もしくは、事故死して欲しい、ってことじゃないかな」
「……」
 新聞社や雑誌社も、多数取材に来ていた。
 ここで王太子が華麗に優勝し、第一王子が初戦敗退しようものなら、いい笑い者になることだろう。

 ミカエルを、堂々と貶めたいのだ、彼らは。
 
 不快げに眉間に皺を寄せたアルヴィスに、笑ってみせた。
「大丈夫だよ。忖度しろとは言われてないし、するつもりもない」
「…そうか。派手にかましてやれ」
「そうする」
 第三王子が決勝までに当たる相手は、王妃派の騎士で固められている。
 約束された道が、すでに出来上がっていた。
 一方ミカエルが当たるだろう王妃派騎士は、副団長、師団長クラスだった。
 他派閥と、ミカエルの護衛騎士レイヴンとイアンも、混ざっている。
 彼らとは順調にいけば、準々決勝か、準決勝で当たることだろう。
 彼らと戦うのは、楽しみだった。
 第一から第三の騎士団長達から激励の言葉があり、宰相から事務的な説明があり、前回優勝者である第三王子からトロフィーが返却され、王の開会宣言で幕を開ける。
 王太子となった第三王子を目立たせ、ミカエルを貶める為の大会。

 目論見通りにさせるつもりは、なかった。

 



 大会は一日しか行われないので、準々決勝まではさくさくと進められる。
 会場内を四つに区切り、第一から第四シードまで、一戦十分で戦う。
 準々決勝出場者まで決まったら、第五シードから第八シードと交代し、同じように戦う。
 
 魔術の使用は禁止。
 武器のみで戦う。
 体術は可。
 武器を手放すか、折るか、意識を失うか、降参すれば負け。
 故意の殺人は許されないが、事故死は認められている。

 明文化されており、違反すれば失格だった。
 魔術師団員が魔術の使用を感知する魔道具を使用して、監視していた。
 王太子デューイはシード枠なので、準々決勝前、最後のご登場だ。
 音楽隊が高らかにトランペットを慣らし、ド派手な演奏と空から舞い落ちる光の花びらが会場中を埋め尽くし、大歓声の中王太子が登場した。
 ミカエルとアルヴィスはどん引きしつつ、その様子を観覧席から見ていた。
 王妃ははしゃいで手を振りながら王太子を応援しており、こちらにも引いた。
 王は見ることもなく、頬杖をついて寝ていた。
 王はミカエルの格好を褒め、王妃の椅子に座らせようとしたが、ミカエルは当然断った。
 それから王の視線を無視していたのだが、どうやら早くも大会に飽きたようだ。
 意気揚々と登場した王太子は、不釣り合いに立派な宝剣を腰に佩いていた。
「…あれ、宝物庫にあるやつじゃ…?」
 書庫で目録を見たことがある。 
 五百年程前、勇者が魔王討伐の為にレベル上げを頑張っていた際、瀕死の重傷を負い、意識を失った。
 怪我は回復したものの意識は戻らず、王宮に運ばれた。
 目を覚ますまでの数日間、我が国の王女が献身的に看護をし、目覚めるまでずっとついていたのだという。
 勇者と王女は恋人となり、魔王討伐後に王女を娶って自国へと戻る際、持っていた剣を、お礼として献上した。
 
 その勇者の剣を今、王太子が持っていた。

 なんの理由も貢献もなく、持っていていい剣ではない。
 宝物庫にあるということは、国の宝である。
 宝物を持ち出したければ、王と宰相、貴族院の承認を得なければ持ち出せないはずだった。

 …宰相も承認したのか。
 そういえば、侯爵令嬢は王太子の婚約者になったのだった。

 何とも言えず、気持ちが沈んだ。
 宝剣は、刀身も美しかった。
 虹水晶の煌めきが、離れた場所からも一目でわかる。
 宝剣は、ゲームに出てくる勇者の剣のようで、おそらく孔雀のような鳥をイメージして作られたと思しき柄部分は、キラキラごてごてと大きく、輝いている。
 鞘も鮮やかな青と赤と緑が混じり合い、派手だった。
 性能も文句なく素晴らしい傑作なのだが、実用品としてよりも、芸術品として評価が高いものだった。
 それを堂々と掲げて得意そうに笑う、王太子の剣の腕前は、一言で言えば評価に値しないものである。

 剣が泣いてる。

 対戦相手の騎士団員は全速でスライディングしながら、へっぴり腰の剣の軌道にわざと当たりに行っていた。
 剣術大会では、もはやない。

 コントだった。

 観衆は、王太子のドヤ顔勝利に歓声を上げて沸いていた。

 サクラかな?

 ミカエルとアルヴィスが虚無の顔でどん引きする中、王妃もまた歓声を上げて喜んでいた。
 第五シードから第八シードの出場者と交代し、会場を整備する為、十五分の休憩時間が与えられた。
「…じゃぁ僕、行ってくるね」
「ああ、気をつけてな」
「うん」
 ここで一言、王からも激励の言葉でもあれば、少しは好感度が上がったかもしれないが、王は気づくことなく菓子を食べていた。
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