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218. 学園祭が始まった俺4
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ミカエルが目を覚ましたのは、保健室だった。
ベッドに寝かされており、すぐそばには椅子に座ってこちらを見ているアルヴィスがいた。
「…アル」
「大丈夫か?」
ぎゅっと眉間に皺を寄せ、心配と怒りの混じったような顔をして見下ろしてくるアルヴィスを見て、問題は解決したのだろうと推測した。
身体を起こそうとすると、背に手を回して支えてくれたが、特に不調は感じなかった。
首の後ろに手をやるが、熱と衝撃を感じたそこにも、何もなかった。
「…もしかして、回復してくれた?」
「浄化も」
「あー…そう…」
「心配するな。未遂だ」
「…そう…」
つまり、そういうコトがあったのだろう。
ミカエルは深くため息をつき、手で顔を覆って俯いた。
椅子に戻ることなくベッドサイドに腰掛けたまま、アルヴィスはミカエルの髪を撫でる。
「ゴミどもは、風紀委員に渡しておいた。…殺してない」
「…ありがとう。殺すのはダメだよ」
「わかってる。…我慢した」
「……」
ミカエルは暗い顔のまま、考え込んだ。
アルヴィスはミカエルの頬を両手で挟んで上向かせ、視線を合わせて問いかけた。
「…あんな奴らが、おまえに勝てるわけがないだろう。何があった?」
「…庶務補佐、どこにいる?」
「……あの女が共犯か…?」
「そうみたい。彼女にやられた。たぶん、特殊な道具を持っている」
答えるミカエルの瞳にあるのは、悲しみと怒りだった。
生徒会役員として、半年以上共に行動してきたというのに、これは明確な裏切りだった。
「俺は見てない。…従魔を使え」
「…ノア?…何に?」
「探させる」
「なるほど。…ノア、お願い」
ミカエルの影の中に潜んでいるノアは、すぐに理解して姿を消した。
「すぐに戻って来るだろう」
「ノアって、捜索も出来ちゃうのか…優秀だなぁ」
ミカエルが感心しながら呟くと、アルヴィスに頬を撫でられた。
「…ミカエル。しばらくここにいるか?まだ学園祭は終わってない」
アルヴィスにとっては、学園祭などどうでもいいことだったが、ミカエルにとってはそうではない。
もし体調が悪いなら、代わりに仕事を引き受けるつもりだったが、ミカエルはふと目が覚めたような顔をして、視線を彷徨わせた。
「今何時?」
「十三時。一時間程気を失っていた」
「…そう。予定が狂っちゃったね。交代人員はどうなってる?」
ベッドから下り、制服の上着を手に取り着始めたミカエルを止めることなく、アルヴィスも立ち上がった。
「今は会計と副会長が、生徒会室で待機している」
「ああ、会計は休憩時間のはずだったのに…申し訳ないことをしてしまったな。急ごう」
「わかった。…体調は?」
「問題ないよ。大丈夫。…助けてくれて、ありがとう」
「当然だ」
向かい合って立つアルヴィスに抱きついたミカエルだったが、すぐに離れて廊下へと歩き出す。
感傷に浸っている時間は、なかった。
ミカエルのすぐ後ろを歩きながら、アルヴィスは内心の怒りをどう鎮めるべきか、迷っていた。
ミカエルに、よくも。
連中を殺さずにいられたことは、奇跡だった。
アルヴィスの方にも、油断はあった。
従魔がいつもそばについているし、何よりミカエルより強い者は、この学園には存在しない。
襲われたとしても、対処できるはずだった。
だが。
不意をつかれた。
ミカエルが帝国にいた頃は、アルヴィスは毎日暇を持て余していたから、従魔と同期して、日々成長していくミカエルを、すぐそばで見守っていた。
帰国してからは、アルヴィス自身がミカエルと行動することが増え、頻回に同期することはなくなっていた。
魔力のコントロールが出来なくなってからは、同期すること自体が困難になった。
従魔は、主人であるミカエルの意志を超えて行動する事は出来ない。
ミカエルが従魔に望んだことは、二つだった。
一つ、命の危機の時以外、勝手に出てきてはいけない。
二つ、命令なく、人に姿を見せてはいけない。
一瞬で意識を落とされたミカエルは、従魔に命令することが出来なくなった。
間違いなくピンチであるのに、命の危機ではない為、従魔は表に出ることが出来なくなった。
思わぬ命令系統の欠陥であり、アルヴィスはただ、従魔が一方的に伝えて来る主の危機に、焦燥感を募らせることしか出来なかった。
魔術が使えない不便さを、こんな形で思い知ることになるとは。
間に合って良かった。
が、良くない。
あんなゴミどもにミカエルの裸を見られ、好きなように弄ばれたのだ。
細切れに刻んでも足りない程に、許し難い。
強姦未遂の証拠として、男達から取り上げたカメラも提出しなければならないが、それはまだアルヴィスが持っていた。
なぜ、他人に見せねばならない。
ふざけるな。
せめてミカエルの意向を確認してからだ、とアルヴィスは憤っていたのだが、ミカエルはすでに冷静だった。
「証拠品は、ちゃんと提出しよう。僕も映像があるよ。とはいえ、まともに撮れているかは確認しないといけないけどね」
「……」
「え、なんでアルがそんな顔するの」
そんな顔、がどんな顔かはアルヴィス自身にはわからなかったが、不快がいい加減、耐え難いことだけは確かだった。
「…なんでおまえの裸を、不特定多数に見せなきゃならない」
「これは刑事事件にするから、見せるとしても担当の騎士団員と…裁判官くらいだよ」
「……」
「まぁ信用ならないのは確かだね。悪用されたくもないし。手は考えるよ」
「…それなら、まぁ」
一刻も早く成人し、本来の力を取り戻さねばならない。
アルヴィスはひたすらに、今の状況にもどかしい思いを抱えていた。
モンロー子爵令嬢は、ミカエルを置き去りにした後、部室棟の鍵をかけ直し、何食わぬ顔で生徒会室へと戻って、休憩時間に入っていた。
「会長に、問題のあった生徒を、風紀委員に渡して来るから、先に休憩に入ってくれと言われた」と言えば、普段真面目なモンロー子爵令嬢が、一人で戻って来ても不審に思われることはなく、他の役員から快く休憩に出してもらえた。
生徒会の腕章を外し、一人で歩いている子爵令嬢に目をやる者は、皆無だった。
昼時の為、カフェや飲食店をやっているクラスは大盛況で、人だかりが出来ている。
はしゃいだ女子生徒にぶつかられたり、男子生徒に足を踏まれたりしても、皆一瞬は視線を向けてくるものの、すぐに「あ、すんません」と心のこもらぬ謝罪の言葉を投げられるだけで、誰も子爵令嬢に関心を持つ者はいなかった。
出来るだけ人の少ない廊下を選んで、歩く。
空腹を感じてはいたが、物を食べられる気分ではなかった。
初めて人を、昏倒させた。
怪我をさせることすらも、生まれて初めての経験だった。
上に三人兄がおり、唯一の女の子ということで、大切に育てられてきた。
兄三人は活発で社交的な性格だったが、令嬢は反対だった。
家で本を読んだり、刺繍をさしたりすることが好きな、夢見がちな少女だった。
母は兄と同じく社交的で明るい性格で、父が物静かで内向的な性格だった。
母よりもむしろ父と仲が良かったが、父は娘にはとても甘く優しい人だった。
物語のような恋愛結婚をしたくて、父はそれを叶えてくれた。
子爵令嬢の婚約者は、写真部にいた男爵令息だった。
優しく朗らかで、いつも笑顔の男爵令息に、令嬢は恋をした。
彼の方も気に入ってくれて、婚約してくれたのだった。
彼は今、崖っぷちにいた。
家の商売が上手く行っておらず、令息自体も写真にハマってしまい、学業をおそろかにしてしまった。
一年の時にはCクラスだったのに、二年でFクラスに落ち、下から数えた方が早い成績だった。
このまま行けば留年だが、留年する金はないそうだ。
では休学すればいい、と言いたい所だが、それだといつまで経っても結婚が出来ない。
退学してしまうと、貴族としての未来は断たれてしまう。
貴族子女は、学園卒業が義務なのだ。
せめて我が家で、学園に通う金銭を援助出来ないかと父に打診したが、我が家は子四人を学園に通わせるだけで精一杯で、令息を援助する余裕はなかった。
そんな財政状況ならむしろ、婚約を解消してはどうかと薦められ、令嬢は親に頼るのを諦めざるを得なくなった。
そんな時に、救いの手が、現れたのだ。
それに縋らずして、どうするのか。
第一王子ミカエルと、合意の上での性交と思わせるような写真を撮ること。
手段は問わない。
優しい令息は、「婚約者の君がいるのに出来ない」と、最後まで反対していた。
説得したのは、令嬢の方だった。
「第一王子は、男女問わず、来る者拒まずで相手して下さるのよ。…わ、私は、あなたが退学になってしまう方が辛いもの。…第一王子なら、私、許せるわ。どうせ卒業してしまったら、雲の上の方になるのよ。あなたの未来の為だと思えば、我慢出来る」
私とあなたの幸せな結婚生活が、待っているの。
卒業してくれないと、困るの。
だから、お願い。
それでも最後まで悩んでいたようだったが、聖女様に素晴らしい魔道具を貸して頂いた。
どうせ第一王子は、そういう行為に慣れていらっしゃるのだから。
万が一断られたとしても、意識がない間に、やってしまえばいい。
婚約者は撮影に徹する、と言っていたし、彼の友人が王子の相手をしてくれるのなら、言うことはなかった。
第一王子は、意識を失った姿も美しかった。
婚約者が押さえつけられてしまい、性行為をさせて下さい、とお願いする状況ではなくなって、子爵令嬢は助けるつもりで、聖女様からお借りした魔道具を使用した。
一瞬で昏倒したことに驚いたと同時に、信じられない程の美貌を至近で見下ろし、圧倒された。
どんな人形よりも繊細で整っていて、触れれば生きて温かい、というその事実に驚愕する程の、人を超えた美を持っていた。
婚約者とその友人だけでなく、令嬢も思わず生唾を飲み込んだ。
令嬢はその場にいられず逃げるように出てきてしまったが、後悔はしていない。
行為を全て終えたら、彼らは逃げる予定だ。
後は自分が休憩時間の終わりに部室棟へ行き、事後のミカエル王子を発見してしまう、悲劇のヒロインになるだけだ。
そう、これで今まで通り、幸せな日々が続くのだ。
「庶務補佐」
声をかけられ振り返り、子爵令嬢は絶望した。
第一王子と第二王子が連れ立って、そこに立っていたからだった。
ベッドに寝かされており、すぐそばには椅子に座ってこちらを見ているアルヴィスがいた。
「…アル」
「大丈夫か?」
ぎゅっと眉間に皺を寄せ、心配と怒りの混じったような顔をして見下ろしてくるアルヴィスを見て、問題は解決したのだろうと推測した。
身体を起こそうとすると、背に手を回して支えてくれたが、特に不調は感じなかった。
首の後ろに手をやるが、熱と衝撃を感じたそこにも、何もなかった。
「…もしかして、回復してくれた?」
「浄化も」
「あー…そう…」
「心配するな。未遂だ」
「…そう…」
つまり、そういうコトがあったのだろう。
ミカエルは深くため息をつき、手で顔を覆って俯いた。
椅子に戻ることなくベッドサイドに腰掛けたまま、アルヴィスはミカエルの髪を撫でる。
「ゴミどもは、風紀委員に渡しておいた。…殺してない」
「…ありがとう。殺すのはダメだよ」
「わかってる。…我慢した」
「……」
ミカエルは暗い顔のまま、考え込んだ。
アルヴィスはミカエルの頬を両手で挟んで上向かせ、視線を合わせて問いかけた。
「…あんな奴らが、おまえに勝てるわけがないだろう。何があった?」
「…庶務補佐、どこにいる?」
「……あの女が共犯か…?」
「そうみたい。彼女にやられた。たぶん、特殊な道具を持っている」
答えるミカエルの瞳にあるのは、悲しみと怒りだった。
生徒会役員として、半年以上共に行動してきたというのに、これは明確な裏切りだった。
「俺は見てない。…従魔を使え」
「…ノア?…何に?」
「探させる」
「なるほど。…ノア、お願い」
ミカエルの影の中に潜んでいるノアは、すぐに理解して姿を消した。
「すぐに戻って来るだろう」
「ノアって、捜索も出来ちゃうのか…優秀だなぁ」
ミカエルが感心しながら呟くと、アルヴィスに頬を撫でられた。
「…ミカエル。しばらくここにいるか?まだ学園祭は終わってない」
アルヴィスにとっては、学園祭などどうでもいいことだったが、ミカエルにとってはそうではない。
もし体調が悪いなら、代わりに仕事を引き受けるつもりだったが、ミカエルはふと目が覚めたような顔をして、視線を彷徨わせた。
「今何時?」
「十三時。一時間程気を失っていた」
「…そう。予定が狂っちゃったね。交代人員はどうなってる?」
ベッドから下り、制服の上着を手に取り着始めたミカエルを止めることなく、アルヴィスも立ち上がった。
「今は会計と副会長が、生徒会室で待機している」
「ああ、会計は休憩時間のはずだったのに…申し訳ないことをしてしまったな。急ごう」
「わかった。…体調は?」
「問題ないよ。大丈夫。…助けてくれて、ありがとう」
「当然だ」
向かい合って立つアルヴィスに抱きついたミカエルだったが、すぐに離れて廊下へと歩き出す。
感傷に浸っている時間は、なかった。
ミカエルのすぐ後ろを歩きながら、アルヴィスは内心の怒りをどう鎮めるべきか、迷っていた。
ミカエルに、よくも。
連中を殺さずにいられたことは、奇跡だった。
アルヴィスの方にも、油断はあった。
従魔がいつもそばについているし、何よりミカエルより強い者は、この学園には存在しない。
襲われたとしても、対処できるはずだった。
だが。
不意をつかれた。
ミカエルが帝国にいた頃は、アルヴィスは毎日暇を持て余していたから、従魔と同期して、日々成長していくミカエルを、すぐそばで見守っていた。
帰国してからは、アルヴィス自身がミカエルと行動することが増え、頻回に同期することはなくなっていた。
魔力のコントロールが出来なくなってからは、同期すること自体が困難になった。
従魔は、主人であるミカエルの意志を超えて行動する事は出来ない。
ミカエルが従魔に望んだことは、二つだった。
一つ、命の危機の時以外、勝手に出てきてはいけない。
二つ、命令なく、人に姿を見せてはいけない。
一瞬で意識を落とされたミカエルは、従魔に命令することが出来なくなった。
間違いなくピンチであるのに、命の危機ではない為、従魔は表に出ることが出来なくなった。
思わぬ命令系統の欠陥であり、アルヴィスはただ、従魔が一方的に伝えて来る主の危機に、焦燥感を募らせることしか出来なかった。
魔術が使えない不便さを、こんな形で思い知ることになるとは。
間に合って良かった。
が、良くない。
あんなゴミどもにミカエルの裸を見られ、好きなように弄ばれたのだ。
細切れに刻んでも足りない程に、許し難い。
強姦未遂の証拠として、男達から取り上げたカメラも提出しなければならないが、それはまだアルヴィスが持っていた。
なぜ、他人に見せねばならない。
ふざけるな。
せめてミカエルの意向を確認してからだ、とアルヴィスは憤っていたのだが、ミカエルはすでに冷静だった。
「証拠品は、ちゃんと提出しよう。僕も映像があるよ。とはいえ、まともに撮れているかは確認しないといけないけどね」
「……」
「え、なんでアルがそんな顔するの」
そんな顔、がどんな顔かはアルヴィス自身にはわからなかったが、不快がいい加減、耐え難いことだけは確かだった。
「…なんでおまえの裸を、不特定多数に見せなきゃならない」
「これは刑事事件にするから、見せるとしても担当の騎士団員と…裁判官くらいだよ」
「……」
「まぁ信用ならないのは確かだね。悪用されたくもないし。手は考えるよ」
「…それなら、まぁ」
一刻も早く成人し、本来の力を取り戻さねばならない。
アルヴィスはひたすらに、今の状況にもどかしい思いを抱えていた。
モンロー子爵令嬢は、ミカエルを置き去りにした後、部室棟の鍵をかけ直し、何食わぬ顔で生徒会室へと戻って、休憩時間に入っていた。
「会長に、問題のあった生徒を、風紀委員に渡して来るから、先に休憩に入ってくれと言われた」と言えば、普段真面目なモンロー子爵令嬢が、一人で戻って来ても不審に思われることはなく、他の役員から快く休憩に出してもらえた。
生徒会の腕章を外し、一人で歩いている子爵令嬢に目をやる者は、皆無だった。
昼時の為、カフェや飲食店をやっているクラスは大盛況で、人だかりが出来ている。
はしゃいだ女子生徒にぶつかられたり、男子生徒に足を踏まれたりしても、皆一瞬は視線を向けてくるものの、すぐに「あ、すんません」と心のこもらぬ謝罪の言葉を投げられるだけで、誰も子爵令嬢に関心を持つ者はいなかった。
出来るだけ人の少ない廊下を選んで、歩く。
空腹を感じてはいたが、物を食べられる気分ではなかった。
初めて人を、昏倒させた。
怪我をさせることすらも、生まれて初めての経験だった。
上に三人兄がおり、唯一の女の子ということで、大切に育てられてきた。
兄三人は活発で社交的な性格だったが、令嬢は反対だった。
家で本を読んだり、刺繍をさしたりすることが好きな、夢見がちな少女だった。
母は兄と同じく社交的で明るい性格で、父が物静かで内向的な性格だった。
母よりもむしろ父と仲が良かったが、父は娘にはとても甘く優しい人だった。
物語のような恋愛結婚をしたくて、父はそれを叶えてくれた。
子爵令嬢の婚約者は、写真部にいた男爵令息だった。
優しく朗らかで、いつも笑顔の男爵令息に、令嬢は恋をした。
彼の方も気に入ってくれて、婚約してくれたのだった。
彼は今、崖っぷちにいた。
家の商売が上手く行っておらず、令息自体も写真にハマってしまい、学業をおそろかにしてしまった。
一年の時にはCクラスだったのに、二年でFクラスに落ち、下から数えた方が早い成績だった。
このまま行けば留年だが、留年する金はないそうだ。
では休学すればいい、と言いたい所だが、それだといつまで経っても結婚が出来ない。
退学してしまうと、貴族としての未来は断たれてしまう。
貴族子女は、学園卒業が義務なのだ。
せめて我が家で、学園に通う金銭を援助出来ないかと父に打診したが、我が家は子四人を学園に通わせるだけで精一杯で、令息を援助する余裕はなかった。
そんな財政状況ならむしろ、婚約を解消してはどうかと薦められ、令嬢は親に頼るのを諦めざるを得なくなった。
そんな時に、救いの手が、現れたのだ。
それに縋らずして、どうするのか。
第一王子ミカエルと、合意の上での性交と思わせるような写真を撮ること。
手段は問わない。
優しい令息は、「婚約者の君がいるのに出来ない」と、最後まで反対していた。
説得したのは、令嬢の方だった。
「第一王子は、男女問わず、来る者拒まずで相手して下さるのよ。…わ、私は、あなたが退学になってしまう方が辛いもの。…第一王子なら、私、許せるわ。どうせ卒業してしまったら、雲の上の方になるのよ。あなたの未来の為だと思えば、我慢出来る」
私とあなたの幸せな結婚生活が、待っているの。
卒業してくれないと、困るの。
だから、お願い。
それでも最後まで悩んでいたようだったが、聖女様に素晴らしい魔道具を貸して頂いた。
どうせ第一王子は、そういう行為に慣れていらっしゃるのだから。
万が一断られたとしても、意識がない間に、やってしまえばいい。
婚約者は撮影に徹する、と言っていたし、彼の友人が王子の相手をしてくれるのなら、言うことはなかった。
第一王子は、意識を失った姿も美しかった。
婚約者が押さえつけられてしまい、性行為をさせて下さい、とお願いする状況ではなくなって、子爵令嬢は助けるつもりで、聖女様からお借りした魔道具を使用した。
一瞬で昏倒したことに驚いたと同時に、信じられない程の美貌を至近で見下ろし、圧倒された。
どんな人形よりも繊細で整っていて、触れれば生きて温かい、というその事実に驚愕する程の、人を超えた美を持っていた。
婚約者とその友人だけでなく、令嬢も思わず生唾を飲み込んだ。
令嬢はその場にいられず逃げるように出てきてしまったが、後悔はしていない。
行為を全て終えたら、彼らは逃げる予定だ。
後は自分が休憩時間の終わりに部室棟へ行き、事後のミカエル王子を発見してしまう、悲劇のヒロインになるだけだ。
そう、これで今まで通り、幸せな日々が続くのだ。
「庶務補佐」
声をかけられ振り返り、子爵令嬢は絶望した。
第一王子と第二王子が連れ立って、そこに立っていたからだった。
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