【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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222. 冬を迎える俺

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 十一月に入り、風は冷たく陽光も弱まり、冬の足音が聞こえ始めた頃、紅葉した落ち葉を車輪で牽きながら、一台の馬車がボイル侯爵の屋敷へと入って行った。
 緊急の用件で、と至急の面会を求めたのは、侯爵が会長を務めるゴールドスタイン商会の事務局長で、侯爵が応接室に入った瞬間、足下へと走り寄り、縋り着いた。
「か、会長、大変なことが、大変なことが起こっております…!もう、もうどうすればいいのか、わたくし共が気づいた時にはもう、手のつけられない状況で…!」
「…なんだ突然、うっとうしい。離れんか!わしはただでさえ忙しいのだ、さっさと用件を話せ。わしを座らせろ!」
「痛っ、…た、…大変、失礼致しました…」
 侯爵に蹴られて床に尻餅をついた事務局長は、のろのろと起き上がり、詫びながら床に置いていた鞄から、数百枚に上る書類をテーブルに乗せた。
「…なんだこれは」
 侯爵は入室した時から不機嫌だったが、書類を見てさらに怪訝に片眉を吊り上げた。
 置かれた紅茶に手をつけることもなく、事務局長は蒼白になりながらも一番上の書類を手に取り、侯爵へと差し出した。
「訴訟です」
「…はぁ?これ全てとは言わんだろうな。そんな冗談、聞いている暇は…」
「冗談ではございません!これ全て、我が商会を相手取り、起こされている訴訟でございます!!」
「……おい、どういうことだ?」
 侯爵の顔が、不快に歪んだ。
 事務局長は竦み上がりながらも、現状を説明すべく、深呼吸をした。
「…我がゴールドスタイン商会の現在の主力は、結界の魔道具となっております」
「そんなことは知っておる。ヘンリーに実績を積ませ、ゴールドスタインの名をさらに高めさせる為に、いくつも事業を他の商会に移して、注力させたのだからな」
 ゴールドスタイン商会は、ボイル侯爵家が代々引き継いで大切に育ててきた商会だった。
 世界中に販路を持ち、多岐に渡る貿易を行って、国だけでなく世界にも知られる規模の、我が一族最大の稼ぎ頭と言っても過言ではない。
 結界の魔道具は、魔獣が絶滅でもしない限りは、未来永劫需要の絶えることのない、最高の商材だった。
 権利を奪ってからは、人手を増やし大量生産に乗り出して、売り上げも過去最高額を年々更新していたはずである。
「…その結界の魔道具が、不良品で発動せず、死者や怪我人が出た、ということで、返品と訴訟問題に発展しております…」
「はぁ?そんなことは、ある程度は織り込み済みであろうが。大量生産していれば、不良品はどうしても出る。さっさと交換対応をすれば良いだけの話だ」
「…それが…各国から、訴訟を起こされているのです」
「訴訟はどこでも起こるものだろう」
「いえ、それが、国から、訴訟を、起こされているのです…!」
「…何だと?」
「同盟国だけではありません。冒険者からも、ギルドからも、小国からも、傭兵からも、他種族からも、で、ございます…!しかも、それを、商会長が握り潰していらっしゃいました!おかげで、我々が知った時には大半が結審した後でして、賠償額が…賠償額…が…!」
 全身を震わせ、事務局長は貧血を起こしたのかふらついて、力なくソファに座り込み、手で顔を覆って泣き始めた。
 侯爵も、さすがにこれは冗談では済まないということに、気づいた。
「…なん…だと…?」
 書類を一枚取り、内容を確認し、血の気が引くのを自覚した。
「ば、…馬鹿な…カノラド連邦への賠償、白金貨千枚、…オシウィアド帝国への賠償、白金貨二千枚、聖ウィンユルス公国、白金貨五百枚、…なんだ、これは。…なんなんだ、これはぁあぁああっ!!」
 頭に血が上った侯爵が、書類を握り潰し、ソファを後ろ足で蹴飛ばしながら立ち上がった。
「ヘンリーは!?ヘンリーはどうしたっ!!あいつを、今すぐここへ呼べ!!直接説明させろッ!!」
「…いらっしゃいません」
「何だと…!?」
「どこにも、いらっしゃらないのです…!!一週間程前から商会に出勤されておらず、体調不良、とのことでした。…商会長宛の速達が届き、急ぎの内容かとわたくし共が確認した所、こ、このような…」 
「…なぜ、今まで気づかなかったのだ!!こ、これは、本来事務局長の職務ではないのか!!愚か者めがッ!!」
「そ、そうおっしゃられましても!!当初は、商会宛に訴状は届いておりました!!が、最近めっきり届かなくなり、職人達も品質向上に努めておりましたので、やっと実を結んだものとばかり…!!まさか、商会長が隠蔽しているだなんて、露程も…ッ」
 事務局長は、最後まで言い切ることが出来なかった。
 激怒した侯爵に殴られ、床へと打ち付けられたからだった。
「貴様っ!ヘンリーが、怖じ気付いて逃げたとでも言いたいのかっ!?」
「…っで、ですが、屋敷にもいらっしゃいません!!執事もメイドも、行方を知りません!!逃げたのでなければ、なぜいらっしゃらないのですか!?」
「わしが知るか!!馬鹿者めがっ!!ヘンリーは、…ヘンリーは、優秀な男だ。わしが跡継ぎと見込んで、育てて来たんだぞ!!それを、…それを貴様…っ!!」
 拳を握りしめ、さらに殴ろうとしてくる侯爵の腕を、事務局長は掴んだ。

 今は、それどころではなかった。

「会長!!ヘンリー商会長が不在の今、指揮を取る者がおりません!どうか、商会にお出まし頂き、ご指示をお願い致します!!」
「な、…っ」
「お願い致します!!このままでは、四百年以上続いたゴールドスタイン商会が、潰れてしまいます…!!」
「…っぐ…お、おのれ…ヘンリーめ…!!」
 侯爵は、商会最大の危機に直面していることを、認めざるを得なかった。
 このままでは商会が、…いや、商会だけでなく、侯爵家自体が、危ない。
 賠償金額は、莫大だった。
 侯爵家の資産を全て売り払っても、払いきれるかわからない。

 そんな馬鹿な。
 なぜそんな、握り潰すだなんて、愚かなことを?

 ヘンリーに問い正したくとも、行方がわからないという。
「…ヘンリーの捜索隊を出せ。すぐに商会へ向かう」
「あ、ありがとうございます、会長…!!」
 涙目で感謝している事務局長には目もくれず、侯爵は部屋の隅で待機していた秘書へと、視線を向けた。

「それから、例の件を進めろ」
「かしこまりました」

 なぜこんな。
 思い通りにいかない事態ばかりが、起こるのか。
 時期を見て、なんて悠長なことは言っていられなくなった。

 それから侯爵は、不始末の尻拭いに奔走することになり、王妃や王太子に構っている余裕はなくなった。
  
 
 
 
     
 ミカエルの元へ、正式に「勇者パーティーへの加入要請」が届いたのは、十一月の半ばであった。
 勇者支援を行っている最大の国、同盟四国とオシウィアド帝国からの連名であり、我が国に拒否権はなかった。
 魔王討伐は、この世界が目指すべき最大の目標であり、支援を惜しんではならないと、国際条約で決まっていた。
 これに反すると言うことは、あらゆる国から爪弾きにされることと同義である。
 ソウェイサズ王国内では、「顔だけの無能な嫌われ王子」であっても、要請があれば「勇者様の仲間になる栄誉」を、与えないわけにはいかなかった。
 議会で承認され、王にもすんなりと承認されたことには、ミカエルは意外な思いを隠せなかった。
 月に一度の面会では、相も変わらず「抱かせろ」の一点張りだからだ。

「あー?ああ、承認なー。おまえ、勇者パーティーのシモの世話してるんだろ?なら、連れてってやんねーと、勇者様達のテンション下がって、魔王討伐に失敗しましたってんじゃ、シャレになんねーじゃん?」
「……」
 承認した理由が予想を遥かに外しすぎて、ミカエルは絶句した。
 「勇者支援」の方向性が、違いすぎた。   
「魔王討伐はしてもらわなきゃ、困るしなー」
「…陛下でも、そう思われるのですね」

 意外だ。
 世界がどうなろうが自分さえ良ければそれでいい、という思考の持ち主だと思っていたのに。 

 ミカエルが素直に言うと、王はもちろんだと頷いた。
「俺も夢があるんだよ。魔王討伐しないと、叶わない夢が」
「…夢、ですか…」
「その為に、あの女と契約も結んだんだぜ」
「…あの女、とは?」
「こないだ訪ねて来たアイツだよ。名前なんてったっけ?聖女じゃない方」
「…ご友人殿ですか?」
「そうそう、ソレ」
「……」
 ミカエルは、ティーカップへと視線を落とす。
 温室の中は、色とりどりの花が咲き乱れており、暖かい。
 広場に置かれたお洒落なテーブルセットに王と二人向かい合い、恒例のティータイムだったが、思わぬ話題に興味を惹かれた。
 あからさまに反応を示すと、王に不審がられる恐れがある。
 自然な仕草で、ミカエルは軽く首を傾げた。
「どのような夢ですか?」
「おっ興味ある?俺に、興味ある?」
「…そうですね。陛下の夢には、興味があります」
「いいぜ。ベッドの中で教えてやるよ」
「それは遠慮致します」
「相変わらず、つれねぇなぁ。いい加減折れろよ。勇者達とは寝てるんだろ?」
 寝てはいないが、そういう話になっているので、否定はできない。
 ミカエルは曖昧な笑みを浮かべ、眉尻を下げた。
「…実の父親と、関係を持ちたいとは思いません」
「妊娠するわけでもあるまいし。優しくするからさぁ」
「…遠慮致します」
 いつものらりくらりとかわし、時間になったら退出して逃げる、を繰り返しており、最近では王もそれを面白がっている節があった。
 が、今日は引かなかった。
「俺が、おまえを次の王にしてやるって、言ったら?」
「…どういう、意味でしょうか?」
 思わず周囲を警戒した。
 聞こえる範囲に人はいないが、だからと言って聞かれていないとは、限らないのだ。
 慎重に問い返すと、王はにやりと笑って見せた。
「どうせ第三王子は、卒業するまで王にはなれねぇだろ。あいつが卒業するまでに、おまえが魔王討伐して帰って来たら、俺が推薦してやるぜ」
「…なるほど。ですが私は、王位には興味がありません」
「え、そうなん?王になりたいから、勇者達に媚びてるんじゃねぇの?」
「違います。彼らは真剣に魔王討伐に向き合っていますから、私もその手伝いをしたいだけです」
「何だよ、惚れたのか?勇者?それともどっかの王子?」
「違います。彼らは友人です」
「寝る友人…セフレかぁ」
「……」
 誰が上手いこと言えと…?と、思わずツッこみそうになった自分を律しつつ、ミカエルは軽く咳払いをした。
 王はしたり顔で頷きながら、クッキーを一つ、自分の口に放り込んだ。
「いやぁ、俺も夢が叶うかも、って思ったら、最近すげぇ寛大な気分なんだよ。手始めに、おまえに優しくしてやりてぇってな」
「…そ、そうですか…」
「まぁなんかあれば言えよ。俺が王のうちなら、なんとかしてやれるぜ」
「…それは、ありがとうございます」
「いっぺん寝てくれるのが一番だけどなぁ」
「それは遠慮致します」
「即答!」
 だが確かに、しつこい程に下ネタを連発していた頃に比べれば、王は随分と落ち着いた様子だった。

 夢、とは…?
 誰かに迷惑をかけるようなものでなければ、いいのだが。
 聖女のご友人と契約した、というのが、気になる所だった。
  
 時間になり、ミカエルが暇を告げると、王は今思い出したかのように呼び止めた。
「あ、そうそう。おまえ、ショックで泣くなよ。泣くなら俺の寝室へ来い。慰めてやっからな」
「…は…?」
 行くわけないだろ、と思いつつも頭を下げて御前を辞し、アルヴィスの宮に入って、王の言葉の意味を理解した。





「…アルの婚約が、決まった…?」





 ああ、最悪だ。
 本当に、最悪だ。
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