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エゴイズム
しおりを挟む今日、大樹が猫を拾って来た。
道端で段ボール箱に入れられ、捨てられていた猫だ。
それを知った大神さんは不機嫌になり、可哀想だから、家で飼っても良いでしょうと聞く大樹に、捨てるのも人間のエゴなら、拾うのもエゴだと言い放った。
大樹に、エゴなどと言う言葉は理解出来ない。
それでも大神さんの口調から、どちらも人の身勝手であると悟ったようで、汚れ、ガリガリに痩せ細った猫を抱いたまま、泣きながら自室に駆け込んでしまった。
あれから大神さんはずっと、イライラとしている。
見もしないTVをつけては消し、新聞を広げては放り投げた。
その真意が、猫とは別のところにある事を俺は知っている。
大神さんは、大樹の行動に自分を重ねているのだ。
二年前、行き場を失った大樹を引き取った自分に。
彼は今でも悩んでいる。
大樹を捨てた人間の身勝手と同じく、幸福を与える自信もないままに、大樹を引き取ると言う行動に自己満足を得たのではないのかと。
どうか気がついて。
難しい事など、何も要らない。
幸福は、あなたが大樹に手を差し伸べた時のような、単純で純粋な優しい気持ちに触れた時に感じるのだと。
そして、大樹は今、幸せなのだと。
その証拠に、大樹は、あの時あなたがしたように、行き場のない猫に手を差し伸べた。
それによって、どれだけの幸福がもたらされるのかを、大樹は身をもって知っていたからだ。
さあ。そろそろイライラが後悔に変わる頃だ。
俺は、ココアを三ついれると言った。
「大神さん。ココアを飲んだら、大樹と猫を洗って下さい。模様もハッキリ分からないようじゃ、大神さんも、名前を付け難いでしょう?」
明日は買い物に出かけよう。
器が必要だ。
新しい家族のための、小さな器が。
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