親友の距離感って僕には面倒臭い。

殿と殿

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21  男子塾生徒

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 合宿二日目。
 早朝に同室のトニーの寝相の悪さに叩き起こされ、侵入された寝床を諦めてトイレに向かうと、ララちゃんが日の光を浴びながらロビーに入って行くのが見えた。昨日の夜は落ち込んでいたが朝から会えたことにテンションが上がり、急ぎ足で後を追う。

 やはり希望を捨てちゃいかんな、彼女とはきっと赤い糸で繋がっているんだ!
 トニーの寝相の悪さに感謝しながら飛び込んだロビーには既に数名が寛いでいたが、目的のララちゃんはソファに近づき指を組んでもじもじしていた。

 ・・・おい、ちょっと待て。
 ソファの上で丸くなった体に規則正しい呼吸音。
 ―――なんでお前がそこにいるんだっ!

 「わあ、髪サラサラだなぁ」
 「ん、ん~・・・」
 「あ、起きた?」
 「ぅう・・・あれ、ここは」
 「ねぇ、どうしてこんな所で寝てるの、大丈夫?」

 「あぁ平気、ありがとう」と微笑んだ少年に嬉しそうに笑って、戻ってきたララちゃんは「近くで見ると肌も綺麗で可愛かった」と友達に興奮気味に報告している。
 かわいい?まだボーっとしている少年を繁々と眺め、「いや・・・綺麗系じゃないか?」と俺は首を捻る。
 そんなことよりララちゃんに起こされるとはなんと羨ましい男だ、くっそー黒髪ぃ!今日から俺もソファで眠ろうかな。

 しかし何故こんな所で寝ていたのか、疑問に思いもう一度見遣ると、少年の姿は忽然と消えていた。
 ――瞬間移動か!?


 その後の黒髪少年については驚きの連続であった。
 朝食を『黒ミイラ』と仲良さそうに食べ、楽しそうに会話しているのだ。それだけではなく、授業中やそれ以外も殆ど行動を共にし出した事に、全生徒や講師陣までもが驚愕する。

 「あいつ・・・しゃべれたのか!」
 「え、そこ?」と、マイクに突っ込まれながら近づき、お得意の聞き耳を立てる。

 「こっち塩辛、あっち生臭い」
 「へぇ、じゃあトイレのタイルは?」
 「スースー爽やか」
 「舐めたの!?・・・ミント味みたいなものか、石にも色々あるんだなぁ」
 「一緒食べる」
 「今度なー、試してみるよ。トイレの以外」

 ・・・・・・一体なんの会話だ。
 うむ、聞かなかった事にしよう。

 それぞれ目立っていた二人が一つにまとまり、周りは興味深そうに彼等を気にしているが、当の本人達はのんびりと過ごしている。
 そんな中、「あいつらが一位と二位だ」という噂が塾生の間で流れだした。俺はどうせ三十位以内に入ってないからと見に行かなかった昨日のテストの順位表。

 あの『ソーズ』が一位からまさかの三位に転落した事態は一瞬で塾生徒内を駆け巡り、今合宿内は重くギスギスした空気に包まれていた。
 嘘だろう?だって黒ミイラはあんなだし、黒髪少年は学校へ通っていないんだぞ。
 顔良し、頭良し、家柄良し・・・最悪だな。
 これはグレてもいいだろうか?

 『貴族』だと俺がララちゃんに流した情報で「家庭教師をつけてた」と広まり、二人はどんどん孤立していく。
 まあ、最初からあいつら孤立してたけどさ。
 2人のあまりにもリラックスした態度に金魚の糞達が噛み付き、火花が散り始めた合宿所には緊張が走った。
 ソーズが黙っているはずがない。この合宿所はもはや、奴の手で地獄絵と化すかもしれない・・・ララちゃんは必ず俺が守りきってみせる!
 でも出来れば絶対そんな事態にならないで下さいお願いします神様。



 三日四日と過ぎ、五日目の夜。
 かれこれ三度目となる黒髪少年とソーズグループとの修羅場に遭遇。
 うぉお、今回は金魚の糞じゃなくてツギとハギがきた!これはヤバいぞぉ。

 偶然と言うより、ジェノという少年を目で追っているため見つけてしまうのだが、どうも日が経つにつれてソーズ側が攻撃的になって来ているようだ。おそらく最終日の実力テストで「手を抜け」とジェノ少年に要求しているのだろう、苛立った様子が伝わってくる。
 無茶苦茶なこと言うなぁ、そんなので勝って嬉しいのか?

 「――だから本人連れてこいよ、話はそれからだ」
 「こんなことでソーズ君を煩わせるわけにはいかない」
 「だったらその『こんなこと』をのむ必要はないよな、話は終わりか?」
 「そんなわけないでしょう、貴方には頷いて貰わなきゃ困ります」
 「僕は困らないからな、ソーズ本人と話して八百長に納得ができたら間違えてやるよ」

 二人相手に堂々と嫌~な笑みを浮かべて反論する姿は背筋が凍るほど恐ろしいが、もの凄く格好良かった。
 俺もあんな風に言い返してみたい、無理だけどね。
 ハギが丁寧な言葉遣いで脅しをかけても「ソーズを連れてこい」の一点張りだが、徐々にツギハギの顔色が悪くなっていき不思議に思う。
 ソーズが出てきて本格的なイジメになったら、ジェノ少年の方が不利なのではないのか?貴族だから大丈夫なのだろうか?

 「僕の方からあんた等のトップに挨拶に行ったっていいんだぜ」
 「・・・貴方を一切近づかせはしませんよ。明日また来ます、では」

 もっと激しい罵りを予想していたため、すんなり終わったことに拍子抜けする。
 何故かジェノ少年の方が優位に見えるのはどうしてだ?よくわからんがさすが俺のライバルだな・・・あまり敵にまわしたくないが。

 その後、中庭で黒ミイラから死に物狂いで逃げ惑う金魚の糞達を二階の窓から目撃し、一目散に自室へ戻って布団を被った。
 なんだあれはっ!暗闇の中で奴との追いかけっこは間違いなくホラーだ、少年達の悲鳴が耳を離れない。
 3日目の夜も突如「光の柱が天に伸びるのを見た」なんて奴が数人出たし、もう怪奇現象は止めてほしい。
 俺が強気なのは彼女の前だけなんだ、実際はチキンなんだよ!

 11歳の二人組の余裕の態度にいじめっ子連中は苛立ち、合宿内では彼らに憧れを持つ者が増えてきた。俺は黒ミイラは何もわかっていないだけだと思っているが、一部の層から『謎多き黒死人くろしびと』と名付けられ人気が高い。死人ってイメージ悪い気がするがいいのか?
 「今後どちらが先に折れるのか」と賭けをする奴等まで出る始末で、本当に合宿はどうなってしまうんだろう。俺の恋愛も含めて心配だ。



 合宿最終日。
 ただ傍観するだけで終わりそうな7日目の朝。
 ララちゃんとの進展も泣きたくなるほど無く、勉強も一切手に付かなかった事を振り返ると、自分が情けなくて仕方がない。
 俺はここに一体何しに来たんだ・・・朝一の実力テストが憂鬱すぎる。そう俯きながらとぼとぼと1階の廊下を歩いていると、横の裏庭から話声が聞こえてきた。
 こんな朝早くから誰か庭に出ているのか?

 「俺の言いたいことは以上だ」
 「・・・なるほど」

 小さいがどちらも聞き覚えのある声が徐々に近づき、日に照らされた美しい黒髪が風に靡く。
 えっ、ジェノ少年? 相手は・・・

 深緑のジャケットを着こなした長身の影がすぐ横を通り過ぎ、息を飲んで身を隠す。
 嘘、まじかよ!

 「もちろんお礼はする。今日のテスト・・・わかってるな、モーズリスト」
 「――はい、わかりました。スフレにもそうするように伝えましょう」

 赤い髪から覗く鋭い眼光にジェノ少年は姿勢を正し、相手を見上げてはっきりと言った。

 「貴方の要望を受けると・・・お約束しますよ、ソーズさん」

 二人が立ち去った後もその場を離れることが出来ずに座り込み、今の会話は一体何だ・・・どうしてあの二人がここに?と混乱しながらも必死で考え、嫌な想像がチラつき天を仰ぐ。

 『約束する』とはどういうことなのか。

 脳裏をよぎった考えが信じられず頭を振り整理すると、一つの記憶が思い出された。


 『ソーズ本人と話して八百長に納得ができたら間違えてやるよ』


 ―――まさか。
 納得・・・・・・出来た、のか?
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