【完結】聖女ではないと追放されたので、カフェで働いています

佐倉穂波

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【後編】聖女ではないと追放されたので、カフェで働いています

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 その日から、魔王がカフェを訪れる日が多くなった。
 無口で、注文はいつも「珈琲を」だけ。
 けれど、飲み終えたカップの底を静かに見つめる横顔は、不思議と優しく見えた。

 加奈子は次第に、恐怖よりも「また来てくれて嬉しい」という気持ちの方が強くなっていった。

「珈琲を」
 聞き慣れた低い声。
 魔王は、いつしかカフェの常連になっていた。
 町の人達はまだ慣れないようで遠巻きだが、魔王が訪れはじめた当初に比べれば、張り詰めた雰囲気が軟化した気がする。
「まあ、ただ加奈子の珈琲を飲みに来るだけで、別に怖い思いをさせられたこともないしね」
 そうオーナー笑いながら言っていた。

 そのうち、少し砂糖を入れるのが好みだと気がついた。そして、ミルクを追加するときは、目元が疲れている変化にも気がついた。
 相変わらず無口だが、挨拶すれば返してくれるし、店を出る時には「今日も美味しかった」と言ってくれる……魔王は噂とは違い優しい人ではないか__魔王が店に訪れると、ついつい加奈子は目で追ってしまっている自分にも加奈子は気がついた。

(彼のことが気になる……でもこの気持ちが何なのかまだ分からないわ)

 気になるけど、好き未満の気持ちーー魔王に対する想いが恋心なのかはまだ分からないが、加奈子にとって気になる存在になっていた。

 ここでも加奈子の行動力は発揮された。
 これまでの会話は、「いらっしゃいませ」「ご注文は?」「ありがとうございました」だけだったが、少しずつ会話を増やしていった。
 はじめは天気の話から、それから日々のちょっと出来事など……積極的に話しかけてくる加奈子に、魔王ははじめ戸惑った様子だったが、次第に小さく笑うようになっていった。

「ジオルドさんって言うのね」
 そして、魔王を名前で呼ぶようになった。
 無口だけど、その瞳の奥には優しさが浮かんでいることに加奈子は気がついた。
 “好き未満”だった気持ちが、“好き”に育っていった。

 町の人達も、加奈子が話しかけるのを見て、以前のように遠巻きにすることはなくなり(加奈子のように話しかけることはないが)、ジオルドの存在はカフェに馴染んでいった。



 ある日の午後、加奈子がカフェの窓越しに夕日を眺めていたとき、石畳の通りがざわつきはじめた。
 何事かと見ていると、見覚えのある甲冑姿の兵士たちが列をなしカフェに近付いてきた。その中央には加奈子を「追放しろ」と言った王様の姿があった。

 カフェと扉を開けるや、王様は言った。
「聖女としての力を再判定するため、わざわざこのような辺境の地まで来てやったぞ」
 ものすごく偉そうな態度の王様の後ろには、神官も立っていた。

「え、どういうことですか? あのとき、私には何の力もないと言っていたじゃないですか」
 再判定とは一体どういうことなのか。
 王様は、加奈子の質問には答えず、カフェの中へ足を踏み入れてきた。
 そして、神官が加奈子の手を、あのときと同じように無理やり水晶に当てる。
 すると、前回は全くの無反応だった水晶が、今度は淡く光りだしたのだ。
「おお、やはり癒やしの力が……あのとき聖水晶に不具合が生じていなければ、もっと早くに聖女を迎え入れられたはずだったのにな」
 王様の言葉に、神官が「ーーっ、申し訳ございません」と神妙な顔つきで頭を垂れる。
 このやり取りで、何となく察することができた。
 要するに器具の不具合による誤判定だったということだ。
 加奈子は、間違いなく聖女の力を持っていたのだ。

 カフェの客たちが「加奈子ちゃんの淹れる珈琲を飲むと癒やされる」と言っていたのは、世辞ではなく本当に癒やされていたのだった。

「聖女であるならば、手厚く饗そう。さあ、王宮へ来るのだ」
 王様はさも当然かのように、加奈子を連れて行こうとする。だが、加奈子はこの王様のことを信用出来ない。何と言っても、異世界から突然召喚されたと思ったら、身一つで放り出されたのだ。
「い、いやです。行きません」
「なっ、拒否するのか? 高待遇で迎え入れると言っているだろう。何が不満なのだ」
 王様は、加奈子が拒否する理由がわからないという表情だ。加奈子の腕を掴み、無理やり連れて行こうと引っ張る。

「待て。その娘から手を離せ」
 王様相手にどうすることも出来ず遠巻きで見守っていたカフェのオーナーと客たちの中から声がした。
 王様の前に出てきたのはーージオルドだった。

「何者だ無礼な……なっ、どうして、隣国の王がこんなところに?」
 不快そうに顔をしかめ振り返った王様は、ジオルドの存在を認めると目を見開いた。

(ん? 隣国の王??)
 加奈子は王様のセリフに疑問を持ったが、それを尋ねる雰囲気ではなく、脳内に疑問符を浮かべる。

 ジオルドが、静かに王様に向かって一歩前に出る。
 紅の瞳が王様を射抜く。

「この娘は、私の保護下に置く」
 低く響く声に、王様の顔色が変わる。
「な、何を勝手な事を! これは我が国の問題だ。口を挟まないで頂きたい」
「聞くところによれば、勝手にこちらの世界に召喚したあげく、無能だからと放り出したらしいな。どちらが勝手なのだ?」
「ぐ……」
 王様はジオルドの言葉に言葉を詰まらせた。勝手だという自覚はあったらしい。
「この娘を無理やり連れて行くというのならば、それ相応の覚悟があるのだろうな」
 ジオルドが冷たく王様に言い放つ。
 王様はしばらく口を挟もうとしたが、隣国の軍事力がこの国を上回ることを重々認知しているため、口を閉ざすしかない。自分勝手な王様だが、自国を滅ぼされては困るのだ。
 悔しそうに言った。
「くっ……その代わり、穀物の流通制限を緩和を」

 ジオルドは軽くうなずき、それを承諾する。
 王様たちは悔しそうにしながらも撤収していった。

 通りには静寂が戻る。

 加奈子は戸惑いながらジオルドを見あげた。
「隣国の王子……? え、魔王じゃなくて?」

 加奈子の言葉に、オーナーが慌てて訂正する。
「加奈子! そうか、あなたは異世界人だから知らなかったのね。ジオルド殿下は隣国の王様――戦場ではその圧倒的な魔力から『魔王』と呼ばれているのよ」

 加奈子は目を丸くした。
 ――ジオルドは、実は隣国の王。
 魔王『魔王』というのは、渾名だったのだ。

 ジオルドは、加奈子の手を取った。
「加奈子……私は貴女が好きだ。一緒に来てくれるか?」

 ジオルドの告白に、加奈子の頬が赤く染まり、胸が高鳴る。
 周囲のオーナーや常連客も、ほほ笑ましそうに二人へ笑顔を向けている。

 加奈子はゆっくりとうなずいた。
「はい……一緒に行きます」
 ジオルドの瞳が、優しく、深く輝く。

 カフェは、祝福の雰囲気に包まれたのだった。


ー完ー
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みんなの感想(2件)

ぴ~助
2026.03.08 ぴ~助
ネタバレ含む
2026.03.11 佐倉穂波

途中まで、本物にする予定でした😄

解除
マイマイン
2026.02.13 マイマイン

いい雰囲気ですね、こういうカフェに行ってみたいです。加奈子さん、いい子ですね。
佐倉穂波先生の作品は読んでてほっこりします。
新シリーズの『その後のセプトクル―ル』もよろしくお願いします。

2026.02.16 佐倉穂波

いつも感想ありがとうございます!
新シリーズ、読みにいきますね。

解除

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