3 / 23
本編
3 魔法の薬
しおりを挟む
「じゃあ、気を付けていってくるんだよ」
海の底の魔女に見送られながら、ティナリアとルイは地上に向かって泳いでいきます。
今日は、地上のお祭りです。
ティナリアは、お祭りに行くのが楽しみで仕方がないみたいで、昨日からルイに「絶対、一緒に行ってね」と何度も念押ししていました。
「地上のお祭りって、どんな感じなのかな? 色々なお店があるよね? 楽しみだね」
「はぁ……そうだね」
ウキウキと楽しそうに話すティナリアとは対称的に、ルイの表情はすでに疲れていました。
「楽しみなのは分かるけど、はぐれないようにしてよ」
ルイは、ティナリアに念押しします。
「わかってるわ」
笑顔でルイの言葉にうなずくティナリアですが、ルイは「きっと忘れて好きに見てまわるだろうから、見失わないように、気をつけよう」と心の中で思いました。
浅瀬にたどり着いた二人は、海の底の魔女からもらった薬を取り出しました。
透明な瓶に入った、きれいなアクアブルーの薬です。
瓶の蓋を開けると、少し甘い匂いがしました。
「これを飲んだら、尾っぽが消えて、人間の足になるんだよね」
ティナリアは、瓶を太陽にかざして、わくわくした表情で薬を眺めています。
太陽の光を浴びた薬が、キラキラと輝いて見えます。
人魚を人間にする魔法の薬。
海の底の魔女だけが作れる、不思議な薬です。
「せーのっで飲もうよ」
「はいはい」
ティナリアの提案に、ルイはやれやれといった感じで頷きました。そして、ティナリアの「せーの」という掛け声で、二人は魔法の薬が入った瓶に口を付け、一気に中身を飲みほしました。
少し体の中が熱くなった気がしたあと、尾っぽの鱗が、ぽうっと輝き始めました。その輝きは少しずつ強くなり、眩しさに二人は目を閉じました。
ティナリアは、眩しさが消えた気配に、まぶたをそぅっと開けて見ました。
「わぁっ、本当に人間になってる!」
見下ろした下半身には、尾っぽではなく人間の足がありました。
足の裏に砂や石の感触がして、とても不思議な感じです。ティナリアは足踏みをして、感触を楽しみます。
「変な感じ。面白いねぇ」
ルイも足の指を動かして、砂や石の感触を確かめていましたが、はっと思いだしティナリアの手を取りました。
「ほら、早く海から出て服を着なきゃ」
そう、二人は裸でした。
地上に行くなら、人間の世界の常識を知っておかなければと、二人は海の底の魔女に色々と教えて貰っていました。
人魚は、女の人は胸を隠していますが、ほぼ裸に近い格好です。
でも、人間は裸で外に出ません。
裸で浅瀬ではしゃいでいる姿を人間に見られたら、変な人だと思われてしまうかもしれません。
「あっ、そうだね」
ティナリアも思い出しました。
二人は海から上がり、ちょうど近くに大きな岩があったので、影に隠れて用意していた服をカバンから取り出しました。
海の中には、人間が使っていたものが流れ着くことがあります。
いつか地上に行きたいと思っていたティナリアは、流れ着いた服や布を集めていました。その布で、ティナリアのお母さんに二人の服を作って貰っていたのです。
「ねぇ、そういえばさ、人魚になる薬を飲んだら、声が出なくなるんじゃなかったの?」
服に袖を通しながら、ティナリアは疑問に思ったことをルイに尋ねました。
そうです。人間になったのに、二人は声を失うことなく、今まで通り声が出せているのです。
「おばあちゃんの話、聞いてなかった? 色々と改良して、声も出せるようにできたって」
ルイのお婆さん、海の底の魔女はとてもすごい人魚なのです。
「そうなんだ! おばあちゃん、ありがとう! でも、声が出せるなら人間の文字を覚えなくても良かったのかな」
「……まあ、そうだね」
そもそも人間の文字を覚えなければ、お祭りの事が書かれた紙を見ても、そこに何が書かれているか分からなかったでしょう。ルイとしては、面倒に巻き込まれる回数が減っていたはずですが、そこは黙っていることにしました。
海の底の魔女に見送られながら、ティナリアとルイは地上に向かって泳いでいきます。
今日は、地上のお祭りです。
ティナリアは、お祭りに行くのが楽しみで仕方がないみたいで、昨日からルイに「絶対、一緒に行ってね」と何度も念押ししていました。
「地上のお祭りって、どんな感じなのかな? 色々なお店があるよね? 楽しみだね」
「はぁ……そうだね」
ウキウキと楽しそうに話すティナリアとは対称的に、ルイの表情はすでに疲れていました。
「楽しみなのは分かるけど、はぐれないようにしてよ」
ルイは、ティナリアに念押しします。
「わかってるわ」
笑顔でルイの言葉にうなずくティナリアですが、ルイは「きっと忘れて好きに見てまわるだろうから、見失わないように、気をつけよう」と心の中で思いました。
浅瀬にたどり着いた二人は、海の底の魔女からもらった薬を取り出しました。
透明な瓶に入った、きれいなアクアブルーの薬です。
瓶の蓋を開けると、少し甘い匂いがしました。
「これを飲んだら、尾っぽが消えて、人間の足になるんだよね」
ティナリアは、瓶を太陽にかざして、わくわくした表情で薬を眺めています。
太陽の光を浴びた薬が、キラキラと輝いて見えます。
人魚を人間にする魔法の薬。
海の底の魔女だけが作れる、不思議な薬です。
「せーのっで飲もうよ」
「はいはい」
ティナリアの提案に、ルイはやれやれといった感じで頷きました。そして、ティナリアの「せーの」という掛け声で、二人は魔法の薬が入った瓶に口を付け、一気に中身を飲みほしました。
少し体の中が熱くなった気がしたあと、尾っぽの鱗が、ぽうっと輝き始めました。その輝きは少しずつ強くなり、眩しさに二人は目を閉じました。
ティナリアは、眩しさが消えた気配に、まぶたをそぅっと開けて見ました。
「わぁっ、本当に人間になってる!」
見下ろした下半身には、尾っぽではなく人間の足がありました。
足の裏に砂や石の感触がして、とても不思議な感じです。ティナリアは足踏みをして、感触を楽しみます。
「変な感じ。面白いねぇ」
ルイも足の指を動かして、砂や石の感触を確かめていましたが、はっと思いだしティナリアの手を取りました。
「ほら、早く海から出て服を着なきゃ」
そう、二人は裸でした。
地上に行くなら、人間の世界の常識を知っておかなければと、二人は海の底の魔女に色々と教えて貰っていました。
人魚は、女の人は胸を隠していますが、ほぼ裸に近い格好です。
でも、人間は裸で外に出ません。
裸で浅瀬ではしゃいでいる姿を人間に見られたら、変な人だと思われてしまうかもしれません。
「あっ、そうだね」
ティナリアも思い出しました。
二人は海から上がり、ちょうど近くに大きな岩があったので、影に隠れて用意していた服をカバンから取り出しました。
海の中には、人間が使っていたものが流れ着くことがあります。
いつか地上に行きたいと思っていたティナリアは、流れ着いた服や布を集めていました。その布で、ティナリアのお母さんに二人の服を作って貰っていたのです。
「ねぇ、そういえばさ、人魚になる薬を飲んだら、声が出なくなるんじゃなかったの?」
服に袖を通しながら、ティナリアは疑問に思ったことをルイに尋ねました。
そうです。人間になったのに、二人は声を失うことなく、今まで通り声が出せているのです。
「おばあちゃんの話、聞いてなかった? 色々と改良して、声も出せるようにできたって」
ルイのお婆さん、海の底の魔女はとてもすごい人魚なのです。
「そうなんだ! おばあちゃん、ありがとう! でも、声が出せるなら人間の文字を覚えなくても良かったのかな」
「……まあ、そうだね」
そもそも人間の文字を覚えなければ、お祭りの事が書かれた紙を見ても、そこに何が書かれているか分からなかったでしょう。ルイとしては、面倒に巻き込まれる回数が減っていたはずですが、そこは黙っていることにしました。
35
あなたにおすすめの小説
【運命】と言われて困っています
桜 花音
児童書・童話
小6のはじまり。
遠山彩花のクラスである6年1組に転校生がやってきた。
男の子なのに、透き通るようにきれいな肌と、お人形さんみたいに、パッチリした茶色い瞳。
あまりにキレイすぎて、思わず教室のみんな、彼に視線が釘付けになった。
そんな彼が彩花にささやいた。
「やっと会えたね」
初めましてだと思うんだけど?
戸惑う彩花に彼はさらに秘密を教えてくれる。
彼は自らの中に“守護石”というものを宿していて、それがあると精霊と関われるようになるんだとか。
しかも、その彼の守護石の欠片を、なぜか彩花が持っているという。
どういうこと⁉
【親子おはなし絵本】ドングリさんいっぱい(2~4歳向け(漢字えほん):いろいろできたね!)
天渡 香
絵本
「ごちそうさま。ドングリさんをちょうだい」ママは、さっちゃんの小さな手に、ドングリさんをのせます。
+:-:+:-:+
ドングリさんが大好きな我が子ために作った絵本です。
+:-:+:-:+
「ひとりでトイレに行けたね!」とほめながら、おててにドングリさんを渡すような話しかけをしています(親子のコミュニケーションを目的にしています)。
+:-:+:-:+
「ドングリさんをちょうだい」のフレーズを繰り返しているうちに、子供の方から「ドングリさんはどうしたらもらえるの?」とたずねてくれたので、「ひとりでお着がえできたら、ドングリさんをもらえるよ~」と、我が家では親子の会話がはずみました。
+:-:+:-:+
寝る前に、今日の「いろいろできたね!」をお話しするのにもぴったりです!
+:-:+:-:+
2歳の頃から、園で『漢字えほん(漢字が含まれている童話の本)』に親しんでいる我が子。出版数の少ない、低年齢向けの『漢字えほん』を自分で作ってみました。漢字がまじる事で、大人もスラスラ読み聞かせができます。『友達』という漢字を見つけて、子供が喜ぶなど、ひらがなだけの絵本にはない発見の楽しさがあるようです。
+:-:+:-:+
未満児(1~3歳頃)に漢字のまじった絵本を渡すというのには最初驚きましたが、『街中の看板』『広告』の一つ一つも子供にとっては楽しい童話に見えるようです。漢字の成り立ちなどの『漢字えほん』は多数ありますが、童話に『漢字とひらがなとカタカナ』を含む事で、自然と興味を持って『文字が好き』になったみたいです。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
まぼろしのミッドナイトスクール
木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる