15 / 23
本編
15 理由
しおりを挟む
「ちょ、ちょっと待って、ローズマリーさん」
我に返ったルイがローズマリーに立ち止まるように声をかけますが、足を止める様子はありません。
腕を引っ張られていますが、女の子の力なのでルイが力を入れれば振りほどく事は簡単でしょう。しかし、人間の女の子相手に、どれくらい力を出せば良いのか加減が分からないので、ルイは引っ張られるままローズマリーについて行きます。
長い廊下を抜けて、中庭に出たところで、やっとローズマリーは足を止め、引っ張っていたルイの腕を離してくれました。
「ごめんなさい、ルイさん。勝手に連れ出してしまって……」
ローズマリーは、丁寧に頭を下げます。さっきまでヒューリックに対して怒っていた顔は、今は落ち着いたように穏やかになっていました。
「いえ、確かにびっくりしましたけど……そんなに舞踏会に参加したかったのですか?」
ローズマリーが溺れたというのは事実なのです。確かにヒューリックの言い方はトゲがあって、ローズマリーを拒絶しているように聞こえました。でも、ローズマリーが部屋に入って来る前のヒューリックの様子を見る限り、彼女のことを心配しているのは分かりました。
「だって、約束だったんですもの……」
小さな声でローズマリーが呟きます。
「約束ですか?」
「ええ。ずーと昔にヒューリックさまとした約束です。でも、あの様子じゃ、ヒューリックさまは、忘れてしまっているみたいですわね」
悲しそうにローズマリーは項垂れます。
ローズマリーの様子を見て、ルイは少し考えてから口を開きます。
「……良かったら、話を聞かせてもらっても良いですか?」
部外者のルイが関わることではないと思っていましたが、すでに巻き込まれてしまいました。このまま訳も分からずにローズマリーと舞踏会に参加するのは良くないと思ったのです。
「話を聞いてくださるの?」
中庭のベンチに並んで座ると、ローズマリーはポツポツと話し始めました。
「わたしとヒューリックさまが初めて会ったのは、婚約が決まったときでしたの。わたし、一目でヒューリックさまの事を好きになって、婚約者になれたことがとても嬉しかったですわ」
二人の婚約は親同士の決めた、政略的な婚約だということでしたが、ローズマリーにとっては、好きになった男の子との婚約です。とても嬉しかったに違いありません。
「ヒューリックさまは、とても優しくてかっこよくて、優秀な王子さまですわ。でもお茶目なところもあって、小さな頃は一緒にお忍びで町に遊びに行ったり、海や森を散策したりしていましたのよ」
今は顔を合わせれば難しい顔で、怒ってばかりですけど、とローズマリーは寂しそうに呟いています。
「小さな頃に、町人に変装してお祭りに遊びに行ったことがありますの。その時に、『ローズが成人して初めての舞踏会では、私にエスコートさせてね。もちろんダンスも』と約束してくださったのですわ」
この国では、女の子は成人するまでは、婚約者がいても親や兄弟がエスコートをするそうです。そして、今夜が、ローズマリーが成人して初めての舞踏会でした。ローズマリーは、ヒューリックにエスコートしてもらう日をとても楽しみにしていたのです。
「でも、あの様子では、小さな頃の約束なんてヒューリックさまは覚えていないみたいでしたわね……きっと私のことは、親の決めた婚約者としてしか見ていないのですわ。それで腹が立って、つい近くにいたルイさんにエスコートして貰うって言ってしまいましたの」
ローズマリーの目には涙が溜まっています。
ルイは考えます。
(僕にはヒューリックさまはローズマリーさんのことを気にかけているように見えたんだけどな。確かにローズマリーさんに対する言葉とか態度はツンツンしてたけど、なんか言いながら後悔してるようにも見えたし……そういえば、何で海に近づいたのか気にしていたな)
ルイの目には、ヒューリックがローズマリーに冷たい態度を取りながら、その事を後悔しているように見えたのです。
そして、ローズマリーが部屋に来る前にヒューリックに尋ねられたことを思い出しました。
「そういえば、どうしてローズマリーさんは海で溺れたのですか?」
「ちょっと落とし物をしてしまって……それを探しているうちに波に拐われてしまったのですわ」
ルイはローズマリーの言葉に「そうでしたか」と考えるように頷きます。
「話を聞いてくださって、ありがとう。ちょっとスッキリしましたわ」
ローズマリーの表情は、話をしたことで心のモヤモヤが少し取れたみたいで、さっきよりも明るくなっていました。
ローズマリーは、怖い海に近づいてでも探したい落とし物があったということです。それはヒューリックと関わるなにかではないかと、ルイは思いました。
我に返ったルイがローズマリーに立ち止まるように声をかけますが、足を止める様子はありません。
腕を引っ張られていますが、女の子の力なのでルイが力を入れれば振りほどく事は簡単でしょう。しかし、人間の女の子相手に、どれくらい力を出せば良いのか加減が分からないので、ルイは引っ張られるままローズマリーについて行きます。
長い廊下を抜けて、中庭に出たところで、やっとローズマリーは足を止め、引っ張っていたルイの腕を離してくれました。
「ごめんなさい、ルイさん。勝手に連れ出してしまって……」
ローズマリーは、丁寧に頭を下げます。さっきまでヒューリックに対して怒っていた顔は、今は落ち着いたように穏やかになっていました。
「いえ、確かにびっくりしましたけど……そんなに舞踏会に参加したかったのですか?」
ローズマリーが溺れたというのは事実なのです。確かにヒューリックの言い方はトゲがあって、ローズマリーを拒絶しているように聞こえました。でも、ローズマリーが部屋に入って来る前のヒューリックの様子を見る限り、彼女のことを心配しているのは分かりました。
「だって、約束だったんですもの……」
小さな声でローズマリーが呟きます。
「約束ですか?」
「ええ。ずーと昔にヒューリックさまとした約束です。でも、あの様子じゃ、ヒューリックさまは、忘れてしまっているみたいですわね」
悲しそうにローズマリーは項垂れます。
ローズマリーの様子を見て、ルイは少し考えてから口を開きます。
「……良かったら、話を聞かせてもらっても良いですか?」
部外者のルイが関わることではないと思っていましたが、すでに巻き込まれてしまいました。このまま訳も分からずにローズマリーと舞踏会に参加するのは良くないと思ったのです。
「話を聞いてくださるの?」
中庭のベンチに並んで座ると、ローズマリーはポツポツと話し始めました。
「わたしとヒューリックさまが初めて会ったのは、婚約が決まったときでしたの。わたし、一目でヒューリックさまの事を好きになって、婚約者になれたことがとても嬉しかったですわ」
二人の婚約は親同士の決めた、政略的な婚約だということでしたが、ローズマリーにとっては、好きになった男の子との婚約です。とても嬉しかったに違いありません。
「ヒューリックさまは、とても優しくてかっこよくて、優秀な王子さまですわ。でもお茶目なところもあって、小さな頃は一緒にお忍びで町に遊びに行ったり、海や森を散策したりしていましたのよ」
今は顔を合わせれば難しい顔で、怒ってばかりですけど、とローズマリーは寂しそうに呟いています。
「小さな頃に、町人に変装してお祭りに遊びに行ったことがありますの。その時に、『ローズが成人して初めての舞踏会では、私にエスコートさせてね。もちろんダンスも』と約束してくださったのですわ」
この国では、女の子は成人するまでは、婚約者がいても親や兄弟がエスコートをするそうです。そして、今夜が、ローズマリーが成人して初めての舞踏会でした。ローズマリーは、ヒューリックにエスコートしてもらう日をとても楽しみにしていたのです。
「でも、あの様子では、小さな頃の約束なんてヒューリックさまは覚えていないみたいでしたわね……きっと私のことは、親の決めた婚約者としてしか見ていないのですわ。それで腹が立って、つい近くにいたルイさんにエスコートして貰うって言ってしまいましたの」
ローズマリーの目には涙が溜まっています。
ルイは考えます。
(僕にはヒューリックさまはローズマリーさんのことを気にかけているように見えたんだけどな。確かにローズマリーさんに対する言葉とか態度はツンツンしてたけど、なんか言いながら後悔してるようにも見えたし……そういえば、何で海に近づいたのか気にしていたな)
ルイの目には、ヒューリックがローズマリーに冷たい態度を取りながら、その事を後悔しているように見えたのです。
そして、ローズマリーが部屋に来る前にヒューリックに尋ねられたことを思い出しました。
「そういえば、どうしてローズマリーさんは海で溺れたのですか?」
「ちょっと落とし物をしてしまって……それを探しているうちに波に拐われてしまったのですわ」
ルイはローズマリーの言葉に「そうでしたか」と考えるように頷きます。
「話を聞いてくださって、ありがとう。ちょっとスッキリしましたわ」
ローズマリーの表情は、話をしたことで心のモヤモヤが少し取れたみたいで、さっきよりも明るくなっていました。
ローズマリーは、怖い海に近づいてでも探したい落とし物があったということです。それはヒューリックと関わるなにかではないかと、ルイは思いました。
35
あなたにおすすめの小説
【運命】と言われて困っています
桜 花音
児童書・童話
小6のはじまり。
遠山彩花のクラスである6年1組に転校生がやってきた。
男の子なのに、透き通るようにきれいな肌と、お人形さんみたいに、パッチリした茶色い瞳。
あまりにキレイすぎて、思わず教室のみんな、彼に視線が釘付けになった。
そんな彼が彩花にささやいた。
「やっと会えたね」
初めましてだと思うんだけど?
戸惑う彩花に彼はさらに秘密を教えてくれる。
彼は自らの中に“守護石”というものを宿していて、それがあると精霊と関われるようになるんだとか。
しかも、その彼の守護石の欠片を、なぜか彩花が持っているという。
どういうこと⁉
【親子おはなし絵本】ドングリさんいっぱい(2~4歳向け(漢字えほん):いろいろできたね!)
天渡 香
絵本
「ごちそうさま。ドングリさんをちょうだい」ママは、さっちゃんの小さな手に、ドングリさんをのせます。
+:-:+:-:+
ドングリさんが大好きな我が子ために作った絵本です。
+:-:+:-:+
「ひとりでトイレに行けたね!」とほめながら、おててにドングリさんを渡すような話しかけをしています(親子のコミュニケーションを目的にしています)。
+:-:+:-:+
「ドングリさんをちょうだい」のフレーズを繰り返しているうちに、子供の方から「ドングリさんはどうしたらもらえるの?」とたずねてくれたので、「ひとりでお着がえできたら、ドングリさんをもらえるよ~」と、我が家では親子の会話がはずみました。
+:-:+:-:+
寝る前に、今日の「いろいろできたね!」をお話しするのにもぴったりです!
+:-:+:-:+
2歳の頃から、園で『漢字えほん(漢字が含まれている童話の本)』に親しんでいる我が子。出版数の少ない、低年齢向けの『漢字えほん』を自分で作ってみました。漢字がまじる事で、大人もスラスラ読み聞かせができます。『友達』という漢字を見つけて、子供が喜ぶなど、ひらがなだけの絵本にはない発見の楽しさがあるようです。
+:-:+:-:+
未満児(1~3歳頃)に漢字のまじった絵本を渡すというのには最初驚きましたが、『街中の看板』『広告』の一つ一つも子供にとっては楽しい童話に見えるようです。漢字の成り立ちなどの『漢字えほん』は多数ありますが、童話に『漢字とひらがなとカタカナ』を含む事で、自然と興味を持って『文字が好き』になったみたいです。
まぼろしのミッドナイトスクール
木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ハピネコは、ニャアと笑う
東 里胡
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞受賞
目が覚めたら昨日だった。知ってる会話、見覚えのあるニュース。
二度目の今日を迎えた小学五年生のメイのもとに、空から黒ネコが落ちてきた。
人間の言葉を話し魔法を使える自称ハッピーネコのチロル。
彼は西暦2200年の未来から、逃げ出した友達ハピネコのアイルの後を追って、現代にやってきたという。
ハピネコとは、人間を幸せにするために存在する半分AIのネコ。
そのため、幸せの押し付けをするチロルに、メイは疑問を投げかける。
「幸せって、みんなそれぞれ違うでしょ? それに、誰かにしてもらうものじゃない」
「じゃあ、ボクはどうしたらいいの? メイのことを幸せにできないの?」
だけど、チロルにはどうしても人間を幸せにしなければいけないハピネコとしての使命があって……。
幼なじみのヒューガ、メイのことを嫌うミサキちゃんを巻き込みながら、チロルの友達アイルを探す日々の中で、メイ自身も幸せについて、友達について考えていく。
表紙はイラストAC様よりお借りしました。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる