ねぇ、これ誰かわかる?

三嶋トウカ

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2月

第18話:ひとり作戦会議_3

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 問い詰めるだけならそこそこ有用な情報だが、いかんせんまだ肝心の『相手が誰なのか』がわかっていない。ここがわからなければ、きっと逃げられてしまう。いつから付き合っているのか知らないが、離婚もする予定だし慰謝料を請求してあげよう。舐めた態度を取るとしたら、わざと平均よりも高額な金額を吹っかけても良い。

 何度もスキャンしてもう終わりに近づいたとき、手帳の裏表紙のポケットに挟まっていた紙に気が付いて取り出した。裏を向いていたのでわからなかったが、表は女の子が好みそうなファンシーなメモ用紙だった。

 『あおくんへ。

 旅行、とっても楽しかったね!
 もっと長い時間あおくんのこと独り占めしたかったけど、しかたないよね。
 私の大好きなパークのチケットにホテル、予約してくれてありがとう!
 まさか、クリスマスに行けるなんて思わなかった。
 すごく嬉しかったし、とってもいい思い出になったよ。

 お揃いで買ったTシャツにキーホルダー、身に着けてくれたら嬉しいな。
 また旅行に行こうね。

 美味しいゴハンも、あおくんの好きなゴハンもいっぱい作るから、またおうちにきてほしいな?
 そのときは、仕事が終わった後に、一緒に食材買いに行こうね。
 これからもよろしくね。

 大好き!』

「……これは頭が痛いよ……」

 どう見てもラブレターだ。あのレシートの相手は、この人で間違いなさそうである。書き方が女性だから、女性なのはもう間違いないだろう。しかもこれを読む限り、彼はこの女性の家に何度か行っているし、少なくとも去年の出張だと偽った旅行の相手でもある。手料理も振る舞って、仕事が終わった後に一緒に食材を買いに行く……のならば、彼の会社の近く女性が住んでいるか、同じ会社の可能性もあると睨んだ。サトコの言っていた女性ならば、彼と同じ会社に勤めている。ピッタリ合うのではないだろうか。

 しかし、名前が書いていない。私にバレることを考えると、名前を書かないのは普通だろうがもったいない。名前が書いてあったら、社内報で調べることができたのに。

「あ、社内報……!」

 急いで社内報を探した。突然捨てられてしまってはかなわない。私は家にあった社内報をすべて印刷するべく、コンビニへと向かった。家のプリンタで印刷するには、社内報のサイズが大きいのだ。見開きの片面ずつ印刷するならば問題ないが、なんとなく開いた状態で印刷したい気分だった。データとして残すときは片方になるが、それは仕方がない。去年の社内報は、既に年度初めのモノを除いて捨てられてしまっていた。今年度の社内報も、四月になったら年度初めを残して捨てられてしまうだろう。それまで一緒に住んでいるのかどうかもわからないが、昨日サトコと話していたことを思い出して良かった。残っていた社内報を印刷したらサイズの関係でそこそこの印刷代になってしまったが、これは必要経費だ。家のプリンタをこのために買い替えるよりもずっとか安いし、いつのどの面の記事が私の助けになるかはわからない。

 私はついでにノンアルコールの缶とおつまみを買って家へ帰った。飲みながら作業を進めるのは不安がある。が、なにか飲んでいたい。気分をスッキリさせるために、ノンアルコールは無糖のレモンを選んだ。心なしか、ただの炭酸飲料よりもノンアルコールを謳っているほうが炭酸が強い気がする。この炭酸が好きで、ついこちらを買ってしまう。

 当然と言えば当然だが、この数十分コンビニへ出かけていた時間では、彼は帰ってこなかった。一日用事があると言って、こんなに早く帰ってくるはずもないことはわかっていて、もしかしたらを考えている。帰ってきたらどうということもないが、やっぱり帰ってくるわけがないと確認したいだけなのかもしれない。

「さぁ、次だ次!」

 昔の手帳があったということは、今の手帳もどこかにあるに違いない。しかも、あれは会社用ではないから、意図して持って行かない限り家に置いてあるはずだ。家にないということはわざわざ会社へ持って行くか、ないとは思うが実家に隠している可能性も考えられる。どちらも根底は『バレたらヤバイ』だとか『記録はしたいが見られたくない』という気持ちがあると思っている。つまりは『今の彼にとって都合の悪いことが書いてある物』に値するということで、より私の探してやろうという意欲が湧いてくる。

 ここからは総当たり戦だった。彼の使っている本棚からテーブル、ラックにクローゼット、郵便入れもすべて確認した。使っていない鞄の中に、衣類のポケットの中。パソコンや昔使っていたスマホの中身は見なかったが、ベッドのサイドテーブルや枕の下に、ソファについている引き出しや、食器棚とテレビラックの中も見てみる。一緒に使うところへ入れないだろうが、意外とそれが盲点になるかもしれない。前回見た場所ももしかしたら何かヒントがあるかもしれないし、見る物はたくさんある。本当は車の中を見たかったが、彼が乗って行ってしまったのか鍵が見つからなかった。不倫相手と言うならば、便利な車は必須なのかもしれない。早く逃げられるし、身を隠すこともできる。

「……ん?」

 ……と。ここでふと思い出した。彼宛の手紙は、前年度の手帳に挟んであった。ということは、少なくとも一昨年の十二月の時点で既にふたりは不倫の関係にあったということだ。手帳を見る限り、年度初めの四月の時点で、同じ日とかはわからないが旅行へ出かけたように見受けられる記述がある。もしかしたら、これよりも前から続いていたのかもしれない。

「え? ちょっと待って? 結婚してえーっと、二年七か月くらい……でしょ? この手帳の最初が、二年前の四月なわけだから、まだ結婚記念日迎えてなくて……? え、えぇ……? も、もしかして、結婚して一年も経たないうちから浮気してたってこと……?」

 頭の中が酷く混乱している気がする。そんなに早々に浮気をするくらいなら、どうして結婚なんかしたのだろうか。しかも、プロポーズは向こうからなのだ。私は仕事が楽しくなってきた時期ということもあって、当時はもう少しあとに結婚しても良いと思っていた。結婚すれば、両家から孫の催促が来る可能性がある。そこで期間限定でも仕事をできなくなるのは私だし、キャリアアップできるチャンスもどこかへ行ってしまうかもしれないと考えていた。幸い、去年の夏ごろに彼の家へ行ったときに少し言われたくらいで、気にするほどのことではなかったのだが。
 今となってはもう、彼の子どもを産みたいとは思えない。このタイミングで妊娠していたら渋々再構築を考えたかもしれないが、幸いその可能性はなさそうだった。

 ……同じ会社の人間なら、彼が結婚するという話を聞いていないわけがない。だから、確実に既婚者であることを知っているはずだ。わかっていたのならこちらも遠慮する必要はない。

「さ、さすがに……うん……ダメージ大きいな……」

 勘は良いほうだと思っていたのに、結婚して一年も経たないうちから夫が浮気して言事には気が付かなかった。ただただ、浮気の話を聞くまでは、幸せなんだと思っていた。仕事は忙しいが、上手くやっていると思っていた。蓋を開けてみたら、そんなことは一切なくて、ドロドロと煮詰まった嫌な物しか詰まっていなかったのだ。

 まだ、今日のうちにできることはあった。あると思っていた。が、もう頭が働かない。身体も熱が出たときのように怠くて重たいし、喉と胸の辺りは気持ち悪くてなにか引っかかっている気がする。今日はもう、これ以上のことができそうにない。
 飲みかけだったノンアルコールドリンクはそのまま流しに捨てた。おつまみは結局開封しなかったので、そのまましまっておく。きっと、辛いからと休憩する時間なんか無いのだろう。でも、私はこのあと帰ってくるだろう彼と、離婚まで毎日顔を合わせなければならないのだ。下手したら結婚前から続いているかもしれないその関係を知って、素知らぬ顔をして笑うことができるほど、私はまだ覚悟ができていなかったことが良くわかった。
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