そして僕等は絡み合う

藤見暁良

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宮脇 詞の場合

友情とつくね

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◆◇◆◇◆◇

「お疲れっ!」
「お疲れ様~!」
 行き付けの居酒屋のカウンター席で、グラス鳴らして乾杯する。
「あぁ~駆け付け一杯の一口目は旨いね!」
「おやじ化すんなよ!」
 笑いながら、御通し長芋のタラコ和えを箸で掴む。ちょっと和みムードに、ホッとする
 良かった~! 高橋さんが帰った後から、柴多微妙なんだもん! 私は大柄で気も強いが反面、小心者だ。
 どうでもいい人は気にならないけど、いつも落ち着いてる柴多の様子がおかしいのは、気になってしまった。
「柴多……高橋さんのこと、気にしてる?」
「えっ!」
 柴多は、予想外に驚いた。
「何そんなに驚いて~!」
 バシバシと、柴多の背中を叩く。
「痛いよ! たく……豪快だな~詞は!」
「飲みに誘ったんだから、盛り上げてよ!」
「はいはい!じゃあ、唐揚げと~」
 いつもの柴多だよな――――。私は、お互いのバランスが崩れるのを異常に恐れた。
 どこかで同じ事を繰り返さないようにしてるのかもしれない――――。
 オーダーを追加した、柴多は冷静に考えて話し出す。
 基本的に、こうゆう奴だ。でも、高橋さんが絡むと違う顔が見える――――。私自身も何かが、掻き回されてしまう。それが無性に腹ただしい、入り込まれないように壁を作りたくなるのだ。

「高橋さん……詞のこと、良く見てるよなって」
 はぁ~? まさか、そんな事言われるとは思わなかった!
「見てる? からかわれてるだけな気がするけど!」
「矢尾さんの……コーディネートの事、言っていったろ」
「うん……」
 でも、矢尾さんは納得して喜んでくれた。
「俺も気になってたんだ……」
「柴多も? 柴多もつまらないと思ったの?」
 生中を一口飲んで、ジョッキを置く。
「悪くはないよ。詞のコーディネートはね。ただ最近、無難過ぎるかなって」
「だってそれは! うちのブランド的に、あんまり冒険的な事はしないじゃん」
「ああ……でも、詞は基本的に冒険したいんだろ?」
「うっ……」
 なによ、いきなり――。胸の内を見透かすようなことを――――。
「柴多は……冒険するの?」
「俺? 俺はしないよ」
 ――――はいぃ~?
「意味解んないよ!」
「俺は今のがスタイルなの! でも詞は違う……詞らしいスタイルを押し殺してる」
「押し殺す……」
「どこか不完全燃焼だと、思ってないか?」
 え――――急に、そんなことを言われても――――。
「へい! 柴ちゃん、焼き鳥!」
「おっちゃん、ありがとう!」
 私は呆然としてしまった。
 柴多は、解っていたんだ――――。私がやりたいスタイル通りに、コーディネートが出来てない事を――――でも、それには訳がある。
「詞! 焼き鳥、食えよ!」
「あっ……うん」
 ――――今更、どうしろって言うのよ。

「メンズに移る時に……凄い勉強したし、努力したつもりだけど……」
「知ってる……」
「最初に店長に、言われた通りにブランドイメージを生せるようにしたよ」
「ああ……そうだな」
 私の不安を柴多は、静かに受け止めていく。
「じゃあ、何がイケないの!?」
「……詞、それは自分で考えろ。自分のスタイルをもう一度見直して、店長に伝えてみろよ」
 拳を作る手に、力が入る。
 良く解らないけど、意味なく柴多がこんなことを言ってくる訳がない。
「分かった……。やってみる………」
「よし! 頑張れ!」
 柴多は満面の笑顔で、自分事のように喜んで私の頭に手を置いた。

「わっ!!」
 つい条件反射で、身を引いてしまうと
「はは……そんな驚くなよ。ほら、つくね好きだろ!」
「ごめん……ちょっと大袈裟だったよ。有難う」
 柴多をあの日と同じく、寂しそうな表情にしてしまった――――。
 まだ深い意味は解ってないけど、私の為に一生懸命になってくれてるのに申し訳ない。雰囲気を変えようと、話題を戻した。
「でも、高橋さん何の目論みがあるんだろう~?」
「そ……だな……」
 柴多の顔が曇る。
 しまった! 高橋話題は、逆に悪かった!
「そうだ、新しいデザインさあ~」
 ――――と、話題を変えようとしたのに、柴多がまた戻してきた。
「詞……高橋さん、どう思う?」
「へ? どうって……胡散臭い!」
 その回答に柴多は一瞬キョトンとなったが、直ぐに苦笑いを浮かべるが、さっきの曇っていた顔よりかは、表情が明るくなったみたいだ。
「胡散臭いって~ハッキリ言うな~」
「だって、数回しか来てないのに、馴れ馴れしいしさぁ。あの軽さが苦手! お客様に失礼だけどさ」
 本音だった。高橋さんは、お客って言うより同業者だ。
「柴多にも絡んでくるよね! まったく、何なんだろう!」
「まあ…解らなくもないけど…。」
 えぇっ!! 解るんだ! 流石、柴多! ――――てか、同性だからかな?
「何で? 何で!」
「詞は……知らなくていいよ。その内……解ると思うよ」
 かなり本気で食いつくと、柴多は歯切れの割言葉で濁す。
「そうなの?」
 解るって何かある訳じゃないと思うけど、柴多の顔が少し苦しそうなのは気のせいかな――――。

「好みじゃないの?」
 更に柴多は、聞いてきた。
「好み~?」
「詞のスタイルに……合わせ易いとかさ」
 ――――成る程!
「そう言われてみれば」
 多分、うちのブランドを高橋さんに着せたら、私のスタイルは合うかもしれない。 
「そう言われたら、意識するか?」
「そうだね……やっぱりモデルにしちゃうかも」
「ふ~ん、だから言いたくなかっんだよ……」
「へっ! 何で?」
 柴多はカウンターに肘を付いて頬杖付いて、私をジッと見る――――。
「恋愛対象にも、なんのか?」

 ――――恋愛対象。
「はぁ? 高橋さんを! 何、言っちゃってるの?」
「モデルとして理想なら、見てくれが好みなんじゃないの?」
「……いや……それは、ないな」
「えっ、違うの?」
 珍しい質問してくるな~今日の柴多は。
「恋愛は、やっぱりフィーリングだな! 気さくに話せる方がいいし! 高橋さんだと、イライラしちゃうからさぁ~」
 私は手をヒラヒラさせて、めっちゃ笑いながら言うと、柴多は優しく微笑んだ。
「じゃあ……俺は?」
「ほえ?」
 つくねを頬張ったところで、間抜けな返事になる。想像もしていなかった質問に、一瞬目が点になる。
「俺は、詞とが一番気さくに話せるけどさ……」
「ひょら、ひゃひゃひみょ」
 焦りながら、モゴモゴして答えたけど言葉になっていない。
「はは! 何言っての?」
 口の中のつくねをゴクリと飲み込む。
「はぁ~。そりゃ、私もそうだよ! 柴多が一番気さくに話せるよ~!」
 同期の中じゃ、ピカ一だ!
「そっか…。なら焦る事もないかな」
「何を~?」
 私は、つくねを卵黄に絡ませながら気軽に聞き返した。
「男の勘……てか、つくねに夢中になり過ぎじゃないか?」
「柴多も食べなよ! ここに来たら、やっぱりつくね食べないと!」
 私の本気に、柴多は屈託なく笑った――――。

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