7 / 16
宮脇 詞の場合
強引ぐ我が道
しおりを挟む
「乾杯!!」
何故かあの余韻と、流れで打ち上げまで参加してしまってる。
「宮ちゃん、良かったよ~! 久々に遣り甲斐があって楽しかったわぁ~!」
そう言って悦ちゃんさんが、私のグラスに再度乾杯してきた。
他のスタッフさんからもいっぱい誉められて、何がなんだかただ照れ臭かった。
「いい勉強になりました」
「畏まらないで~飲んで飲んで~!」
楽しい人たちだな~ついつい和んでしまう。
こんな人達がファッション業界に携わってるのかと思うと、自分のやるべき事をもって逞しく見詰め直していこうと思えた。
それにしても高橋さんって、そんなに権限あったんだ?
ちょうど斜め向かいに座ってる保科さんに、聞いてみる。
「保科さん……今日は本当に有り難うございました。勉強になりました」
保科さんは穏やかに微笑みながら、言葉を返してくれた。
「良かったです。こちらもいきなり協力頂いて、有り難うございました」
――――協力?
「あの、ただ不思議なんですが……ただの一アパレル販売員に、何でここまでしてくれたんでしょうか?」
私の質問に、保科さんは冷静に返してくる。
「そうですね……。僕は高橋に頭を下げられただけなんで、本人に聞くのが一番かと」
頭を下げた?
高橋さんが、私にこんな事する為に?
怪訝な表情を浮かべた私に、保科さんは透かさず言葉を続けた。
「ただ、僕が知り得る範囲として……高橋は本当に身体を張って仕事してます。体型崩さない為に凄い努力もしたし、時間だって厳守する。気配りも細かいから、現場の信頼は厚いんですよ。だから今日のイレギュラーも、能に出来たと思います」
保科さんの目は、高橋さんへの信頼と期待に満ちていた。
だからこそ、尚更だ!
高橋さんが、皆を動かせる程の信頼と実力があるのは分かった。
その高橋さんが、皆に頭下げてまで何でなんだろう? どうしても腑に落ちない――――。
高橋さんの方を見ると、スタッフと盛り上がっている。
帰りにでも聞いてみるか――――そう思った時に、高橋さんと目が合ってしまった。
――――ギックゥ~!
反射的に肩がすくむ私に、高橋さんは面白そうに笑う。
「高ちゃん、どうしたの?」
「いやぁ~別に」
高橋さんの隣にいたスタッフが不思議そうに聞くと、意味深な視線を残して話に戻った。
なっ、何だ――――! 今の流し目は~!
でも――――今までだったら確実に鳥肌が立っていたが、ドキドキと胸に響く。
私は生搾りチューハイを一口飲み込み、ふっと思い返す。
『俺に、委ねろ……』
真剣な瞳――――。
的確な指示――――。
私はフワフワと、自分じゃない快楽に近い感覚に襲われていた――――。
「お疲れ様~!」
居酒屋で解散して、駅に高橋さんと一緒に歩く。
「宮脇ちゃん、楽しかったろ!」
「うん。楽しかった! 有り難う高橋さん!」
答えありきな質問だったが、本当に色々学べたし、もう二度と出来ない体験だろう。
「あれ? 妙に、素直じゃない?」
「はは……高橋さんも見直した……てか普段の軽々しさに人間性を誤解してたよ。見た目で判断しちゃいけないと思ってたのに……」
そんな私の言葉に、高橋さんは優しく微笑んだ。
「そっ! 役立ったなら良かった」
私は高橋さんを見上げた――――。
「でも、何で私に声掛けてくれたんですか?」
これが一番の本題だった。
「あ~やっぱり気になる?」
「当たり前じゃん!」
「じゃあ、連絡先交換しよ!」
「はいぃぃ?」
何故、その展開!?
「今度デートしてくれたら、教えてあげる~!」
「なっ! やっぱり軽いじゃん!」
高橋さんは、楽しそうにニヤッて笑っている。
「まあ、まだ若いんだから、堅苦しい事言わないの! こうゆうノリもたまには大事だよぉ~!」
「嘘だ! 今のは、高橋さんが勝手にそう思ってるだけでしょ!」
「ハイハイ! これQRだから読み取って!」
「えっ! あぁはい……って! 聞いてるの?」
私の露骨な態度に、怯む様子もなく強引に押してくる。
「あ~出来たね! じゃあ、俺にメール送って!」
「メール! ちょっと待って……」
メールに連絡先を載せて送信――――。
「あ~来た来た! サンキュ~!」
「あれ?」
私はすっかり高橋さんの術中に、ハマっていた。
そんなやり取りをしている内に、駅に着く。
「じゃあ宮脇ちゃん、次の為にまたアイディア考えておきなね~!」
「えっ! 次って?」
焦って聞き返したが、高橋さんは今朝と同じく手をヒラヒラさせて――――
「お休み~!」
一言残して、ちょうど来た電車に乗り込んで行ってしまった。
ポツーン――――と、一人取り残された私――――。
高橋樹――――やっぱり理解不能だ。次って、ちょっとの気紛れが、何回も出来る訳ないだろうに!
そんな諦めが先に立ったが――――保科さんの言葉が過る。
『僕は、高橋に頭を下げられただけなんで……』
頭を下げるって、相当な事だと思うんだけど――――。
電車が髪を靡かせる中に、漠然と思った。
そして――――この数週間後に『相当な事』が起きてくるのだった――――。
何故かあの余韻と、流れで打ち上げまで参加してしまってる。
「宮ちゃん、良かったよ~! 久々に遣り甲斐があって楽しかったわぁ~!」
そう言って悦ちゃんさんが、私のグラスに再度乾杯してきた。
他のスタッフさんからもいっぱい誉められて、何がなんだかただ照れ臭かった。
「いい勉強になりました」
「畏まらないで~飲んで飲んで~!」
楽しい人たちだな~ついつい和んでしまう。
こんな人達がファッション業界に携わってるのかと思うと、自分のやるべき事をもって逞しく見詰め直していこうと思えた。
それにしても高橋さんって、そんなに権限あったんだ?
ちょうど斜め向かいに座ってる保科さんに、聞いてみる。
「保科さん……今日は本当に有り難うございました。勉強になりました」
保科さんは穏やかに微笑みながら、言葉を返してくれた。
「良かったです。こちらもいきなり協力頂いて、有り難うございました」
――――協力?
「あの、ただ不思議なんですが……ただの一アパレル販売員に、何でここまでしてくれたんでしょうか?」
私の質問に、保科さんは冷静に返してくる。
「そうですね……。僕は高橋に頭を下げられただけなんで、本人に聞くのが一番かと」
頭を下げた?
高橋さんが、私にこんな事する為に?
怪訝な表情を浮かべた私に、保科さんは透かさず言葉を続けた。
「ただ、僕が知り得る範囲として……高橋は本当に身体を張って仕事してます。体型崩さない為に凄い努力もしたし、時間だって厳守する。気配りも細かいから、現場の信頼は厚いんですよ。だから今日のイレギュラーも、能に出来たと思います」
保科さんの目は、高橋さんへの信頼と期待に満ちていた。
だからこそ、尚更だ!
高橋さんが、皆を動かせる程の信頼と実力があるのは分かった。
その高橋さんが、皆に頭下げてまで何でなんだろう? どうしても腑に落ちない――――。
高橋さんの方を見ると、スタッフと盛り上がっている。
帰りにでも聞いてみるか――――そう思った時に、高橋さんと目が合ってしまった。
――――ギックゥ~!
反射的に肩がすくむ私に、高橋さんは面白そうに笑う。
「高ちゃん、どうしたの?」
「いやぁ~別に」
高橋さんの隣にいたスタッフが不思議そうに聞くと、意味深な視線を残して話に戻った。
なっ、何だ――――! 今の流し目は~!
でも――――今までだったら確実に鳥肌が立っていたが、ドキドキと胸に響く。
私は生搾りチューハイを一口飲み込み、ふっと思い返す。
『俺に、委ねろ……』
真剣な瞳――――。
的確な指示――――。
私はフワフワと、自分じゃない快楽に近い感覚に襲われていた――――。
「お疲れ様~!」
居酒屋で解散して、駅に高橋さんと一緒に歩く。
「宮脇ちゃん、楽しかったろ!」
「うん。楽しかった! 有り難う高橋さん!」
答えありきな質問だったが、本当に色々学べたし、もう二度と出来ない体験だろう。
「あれ? 妙に、素直じゃない?」
「はは……高橋さんも見直した……てか普段の軽々しさに人間性を誤解してたよ。見た目で判断しちゃいけないと思ってたのに……」
そんな私の言葉に、高橋さんは優しく微笑んだ。
「そっ! 役立ったなら良かった」
私は高橋さんを見上げた――――。
「でも、何で私に声掛けてくれたんですか?」
これが一番の本題だった。
「あ~やっぱり気になる?」
「当たり前じゃん!」
「じゃあ、連絡先交換しよ!」
「はいぃぃ?」
何故、その展開!?
「今度デートしてくれたら、教えてあげる~!」
「なっ! やっぱり軽いじゃん!」
高橋さんは、楽しそうにニヤッて笑っている。
「まあ、まだ若いんだから、堅苦しい事言わないの! こうゆうノリもたまには大事だよぉ~!」
「嘘だ! 今のは、高橋さんが勝手にそう思ってるだけでしょ!」
「ハイハイ! これQRだから読み取って!」
「えっ! あぁはい……って! 聞いてるの?」
私の露骨な態度に、怯む様子もなく強引に押してくる。
「あ~出来たね! じゃあ、俺にメール送って!」
「メール! ちょっと待って……」
メールに連絡先を載せて送信――――。
「あ~来た来た! サンキュ~!」
「あれ?」
私はすっかり高橋さんの術中に、ハマっていた。
そんなやり取りをしている内に、駅に着く。
「じゃあ宮脇ちゃん、次の為にまたアイディア考えておきなね~!」
「えっ! 次って?」
焦って聞き返したが、高橋さんは今朝と同じく手をヒラヒラさせて――――
「お休み~!」
一言残して、ちょうど来た電車に乗り込んで行ってしまった。
ポツーン――――と、一人取り残された私――――。
高橋樹――――やっぱり理解不能だ。次って、ちょっとの気紛れが、何回も出来る訳ないだろうに!
そんな諦めが先に立ったが――――保科さんの言葉が過る。
『僕は、高橋に頭を下げられただけなんで……』
頭を下げるって、相当な事だと思うんだけど――――。
電車が髪を靡かせる中に、漠然と思った。
そして――――この数週間後に『相当な事』が起きてくるのだった――――。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる