レゾナンス・ファミリアの約束

弓チョコ

文字の大きさ
1 / 8

その1

しおりを挟む
 知らない人が『家に来る』ことを。我々は『攻めてきた』としている。
 その『知らない人』が友好的かどうかを判断するには材料が足りない。
 今ある材料で判断せざるを得ないのならば。

 やはり『こいつら』は敵なのだろう。

——

「『揺り籠』」
「ああ。……レゾニアとも言う」
 鉄に囲まれた狭い部屋の壁に貼り付けられた古い地図。その中心部に描かれている丸い印を指差して、少年は呟いた。覚えたての言葉を使うように、噛み締めるように。
「レゾニア」
「ああとも。我々の悲願だ。いつか、そこへ辿り着く。否……『還る』。ご先祖様の故郷だよ。我々はもう、始まりが分からないほど遥か昔から、レゾニアを目指している」
 答えるのは老齢の男性。少年を膝に抱え、寝物語のように優しい口調で囁く。
「どんなところ? いつ着くの? なにがあるの? なんで帰りたいの?」
 少年の質問は絶え間無く、マシンガンのように続けられた。男性も嬉しくなり、毎日のように夜遅くまで。少年が疲れて眠りつくまで話していた。
「約束があるんだ。私達の祖先の、『友人』が、レゾニアで待っている」
「約束?」
「ああとも。友人の顔も声も、色々と忘れてしまった私達だが。きっと受け入れてくれる。『大変だったな』と悼んでくれる。偲んでくれる」
「友達がいるのか! 会いたいな!」
「もうそろそろだと言われている。まあ、私が子供の時からだがな。……お前の代で着けると良いな。……アヤム」

——

「アヤムっ!」
「うおっ!」
 バン、と激しい音とともに耳元で響いた声。アヤムは慌てて飛び上がり、勢い余ってハンモックから落ちてしまった。
「ごえっ! 頭ァ!」
「はっはっは! 情けないぞアヤム!」
 声の主は得意気で、高らかに笑う。そのままアヤムの手を引いて立ち上がらせた。
「——ったく、何なんだよセイジ」
 頭を撫でながら起き上がり、セイジの方を見る。背の高い女性だ。だがセイジはアヤムに眼もくれず顔を上げ、上方を見ていた。
「見ろ。いや、見上げろ」
「?」
 ここは草原。アヤムの趣味で、彼の『区画』を『草原にしている』。地面各所に、短く生える草を掻き分けるように備え付けられた『照明』が、地面と空間を照らしている。
 空は透明なドーム状の天井に覆われており、その先——外に見えるのは暗黒。
 アヤム達の住む『宇宙船』は、球形をしている。
「『ベルゼブ界』だ。いよいよ——レゾニアに一番近い銀河団に入る」
 だが今日の暗黒は、いつもと少し違った。
「…………『蝿の銀河』ね。ばっちい」
 まるで羽虫の羽ばたきのような見た目の『光の粒の集まり』が、アヤムの視界を埋め尽くす。これからは草原の照明は使わずとも良いくらいの光の中に、この宇宙船は晒されることになるだろう。
「綺麗じゃないか。ははっ!」
 セイジはその両目も銀河のように輝かせて笑っていた。

——

『我々の種族は?』
「——ニンゲン」
『故郷は?』
「——レゾニア」
『いつから旅をしている?』
「——100万年前から」
『ニンゲンの寿命は?』
「——約200年」
『全部で何人居る?』
「——今は、1億人」
『お前は何者だ?』
「——アヤム・セマニ」
『年齢は?』
「——19歳」
『アヤム・セマニは何代目だ?』
「——…………俺は孤児だよ」

——

 1日に1度、この『テスト』を行う。理由は知らない。もうずっと、毎日だ。疑問を持つことも無くなった。
 毎日、自分が孤児だと自覚するのだ。
「セイジは15代目だっけ」
「おう。まあ私の家は結構新しいからな」
 レゾニアを離れた当時、太古のニンゲンには8の『家族』があった。現在の人々は、その家族から派生したのだ。
「『セマニ』は直系の家だろ? 確か」
「……滅んだ家だよ。俺を拾ったじいさんが洒落で付けたんだ」
 現在残っている『直系』は5つ。ふたつはこの100万年の間に滅んでしまった。
「そっか。なあアヤム、お前レゾニアに着いたらどうするだ?」
「? なんだその質問」
「『楽園』って話じゃないか。私は家を作りたい。自分が『初代』って言える家を。だから今、レゾニアの土地を買う権利を得られるよう、カーヌス総督の元で勉強中なんだ」
「まだまだ先の話じゃないか。そもそも俺達の代で着くとは限らないだろ。ベルゼブ界に入ったと言っても、まだこれからだ」
「私は夢の話をしているんだぞ。アヤム。お前もそろそろハタチだろ。決めろよ、進路」
「…………ああ、そうか」
 宇宙船はとても巨大だ。人口の増加と共に何万年も掛けて増築され、今や下手な小惑星より大きくなった。うっかりどこかの惑星に着陸しようものなら、様々な影響をその星に与えてしまうだろう。
 例え目的地に辿り着かなくても。人々は生きねばならない。その願いを、子孫に託して。
「……俺は結婚できれば良いや」
「ぷはっ! なんだそれ!」
「いやいや、真面目にさ。孤児の俺は家の『格』的には最下位だから。それでも女の子ならマシだったけど。……俺に嫁いでもメリット無いからさ」
「…………」
 宇宙船には、宗教がある。それは専ら、自分を慰める為に存在する。暴漢に襲われた女性や、社会に嫌われた者。地位を失った家の生き残り。そして孤児出身の者達。
 レゾニアとの『約束』を果たす役目を負えなくなった者達の受け皿となっている。
「確かに俺の血は受け継がれるだけ子供が可哀想だ。だけどレゾニアに着いてしまえば、もう関係無くなるだろ。俺はレゾニアに着いたら、結婚がしたい」
「良い夢だ! 応援するぜ!」
「ありがとう」
 レゾニアに着いたら。
 『その』夢は、太古の時代から願われ続けてきた。苦しむ者全ての救済。願いを叶える約束の地。
 希望を見出だせるから、人々は。この暗黒の世界の道標として、泳いで行けるのだ。

——

——

「~k/dp」
「$&#%?」
 遠い空を眺める。ずっと。朝から、朝まで。それだけをして、もうどれほど経ったか。だが退屈に思ったことは無い。苦しく感じたことも無い。
 空はそれだけで美しく楽しく、素晴らしいのに。
「-gem『&$"#$#%』」
「&#%G%E$#」
 きらびやかな衣裳を身に纏う。『』内は彼らの言葉を訳すと、最も相応しい意味で『巫女』という意味だ。彼女は自らの立場を再度呟き、会話する相手の男性はそれを肯定した所。彼らは兄妹であるらしい。
 彼女はヒトの見た目に限りなく似せているが、節々に異なる部分が見える。
「#$&%&(WE"#$」
「'%$%%%HH#$""%」
 ニンゲン達……アヤム達には初見で理解できないだろう言語で彼らは話す。
 彼らの手先や足先からは毛が生えている。動物のような毛皮に見える。腕や脚自体は綺麗な白人のものだ。丁度肘、膝から先が『動物』となっており、指や爪もアヤム達の知る肉食獣に近い。
 髪の毛も同じような毛で、巫女の方はしなやかな猫科を思わせる絹のような白い毛が、まるで川のように流れている。
 白い肌。その胸元には機械のようなものが眼に見えて埋め込まれている。丁度心臓の位置に、心臓のサイズの機械。稼働しているようで、細かいパーツがモーターのように動いている。
「(#$#$aepf。ha/:hk『DFSWWQW$$』a、%&%&」
「…………"$%634,000a?」
「/-。+ESF&'$(((」
 その日。巫女の予感は皆に知れ渡ることとなる。
 このレゾニアに、『友人』が訪れると。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...