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第7話 作戦会議!地球の事情とアーシャの考え
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ワープ装置。
アークシャイン達の文明で使われていた、最強の移動装置。
『最強』である。言ってしまえば、瞬時にどこへでも移動できるというものだ。
音もなく敵の背後に移動し、不意打ちで暗殺。気付かれても瞬時に撤退できる。世界中どこへでも行けるため、誰に追われようが捕まることはない。
例えば、日本に居て、『ロンドンに怪人が出現した』とする。対抗できる戦力が地球上でシャインジャーのみの場合、通常どんなに急いでイギリスへ向かったところで、東京の羽田からロンドンのヒースローまでは飛行機で『約12時間半』かかる。そうなれば、怪人はもうロンドンを破壊し尽くしているだろう。
それを、移動時間を準備を含んで僅か『数秒』で済ませる反則級の装置。それがワープだ。それによる移動と、怪人出現頻度の低さもあり、今までたった5人のシャインジャーで世界を守ってこれた。
だが、ワープ能力は万能だが『ワープ装置』は万能ではない。どこへでも自由自在に飛べる訳ではなく、『装置から装置へのワープ』を可能にしているものだ。東京にあるワープ装置から、ロンドンに設置してあるワープ装置まで。
アークシャインは世界中の主要都市や国、地域にこの装置を設置している。ひとえに現地の協力であったり、大国からの経済的援助によるものだ。装置を操るアーシャは毎回、発生した怪人のもとへ辿り着く最短ルートを計算し、一番近い装置へひかりを誘導している。ワープ装置自体はアークシャイン限定ではあるが地球に公開されているものの、科学と理解が追い付かないため制御と運用は博士ではなくアーシャが担っている。
「……ワープ装置は!?」
「そっちの道に曲がって!公衆トイレの裏手にある!」
よって、この退却戦は、ワープ装置までの戦いである。
ーー
「大人は狡いよね。車とかバイクとか、移動が楽で」
「あたし免許持ってるよ。今度ドライブ連れてったげよっか」
エクリプスと彩はロンドンの街を走って追いかけていた。
「多分逃げられるけど、どうする?」
「ワープ装置の特定はしたいな。それができれば、大量の下位アビスを奴等の基地に直接送り込めるし。もうちまちま都市の破壊しなくても、アークシャインを壊滅されられれば早くて良いじゃない」
「それは魅力的だけど、普通対策してるんじゃない?承認が必要みたいな。アークシャインの独占運用みたいだし」
「それをクラックするのがあたしの仕事でしょ♪」
彩は自前のノートパソコンでロンドン市内の監視カメラをハッキングする。
「南に逃げてる。装置は郊外なのかな」
「取り合えず、僕たちもタクシーに乗ろうか」
ーー
「……ふぅ。取り合えずは逃げ切れたか」
「…………!」
ひかりとブラックライダーはどうにか基地へ撤退していた。通常の戦争でいう、地獄の退却戦を覚悟していたが、『バイク』という機動力に改めて感謝したブラックライダー。
「……ありがとうブラックライダー。助かったわ」
「当然さ、ひかりちゃん。今日はゆっくり休みなよ」
ふうと息を付くブラックライダーに、疲れ果てた様子のひかり。
そこへ、アーシャがやってくる。
『お疲れ様ですふたり共。すぐに休息を取って準備してください』
「……どうした?アーシャちゃん」
アーシャはいつになく焦った様子であった。
『「エクリプスが来ました」。最悪の状況です。今戦える戦力はあなたがたのみ。すぐにでも出撃できるようにしておいてください』
「……??今日はもう疲れたぜ」
この日、世界に同時に出現したアビス達はブラックライダーが全滅させた。今日はもう無いだろう。と、彼は経験から思う。
しかし。
ほっと息を付かせた時、基地内に警報が鳴り響いた。
「……え?」
『怪人です』
ひかりは力無く、信じられないといった風に訊ねた。
「……嘘だろ?」
『カイロ、ニューメキシコシティ、ミラノ。3ヶ所です。ブラックライダー、行けますか?』
「…………っ」
さすがのブラックライダーも息を飲んだ。
『これが「エクリプスの恐怖」です。今まで微弱なアビス粒子による自然発生でしか覚醒しなかったお陰で怪人の発生頻度は極端に少なかった。しかしエクリプスは、彼自らが感染源となり同族を意図的に増やすことができる。それもスタアライトのように経口感染ではなく、空気感染を可能にする。そして始めにアビス粒子が地球へ来たように、彼らは「意志」により距離を問わず粒子を飛ばすことができる』
「……そんな……!!」
『これが、超科学を持った私達を滅ぼした「アビス」の侵略能力、その一端です。ブラックライダー、戦えますか?』
「……!」
ブラックライダーは、ヘルメットの奥で歯軋りしながら立ち上がった。
「やるよ……。案内しろアーシャちゃん」
ーー
「……疲れた」
ロンドンにある、ホテルの一室。彩の潜伏先である。そこでエクリプスは、どさりとベッドに倒れ伏した。
「感染源か。凄いね」
ノートパソコンから3都市を世界同時中継で見る彩は、その威力に感心していた。
「でもすごい疲れるんだ。今日はもう駄目。寝るよ」
「良いけど、あたしに床で寝ろって?」
「一緒に寝る選択肢は?」
「はっ。15のお子様は対象外」
「泣きついてきたくせに」
「あれで勘違いしたの?英国紳士のくせに」
「お子様だから紳士じゃないし」
言いながらなんとかベッドから降りたエクリプス。そのまま冷蔵庫へ行き、水を取り出して飲む。
「改めて、"日蝕(エクリプス)"のエドワード・ジェラードだよ。エドって呼ばれてる」
「じゃあ『えっくん』ね。あたしは星野彩。よろしくね」
「……えっくん」
「嫌なの?」
「……別に」
エドと彩はがちりと握手を交わした。
「ワープ装置の特定は?」
「えへへ、ばっちりできてるよ。奴等の消失ポイントから割り出して、さっきこの目で確認したからね」
「ずいぶん有能だ。さすがスタアライトの姫様」
「えへへー」
「じゃ、僕の回復次第下位アビスを量産し、アークシャイン基地を襲撃しよう。そうだな、1週間欲しい」
「その間も同時多発的にアビスを作れる?敵戦力を消耗させておきたいの」
「なら2週間貰うよ。それでも、自然発生のアビスと含めて同時に3体まで。あのね、本当にしんどいんだからね?感染て」
「分かった。えっくんのペースで良いよ。現状超有利だしね、うちら」
ーー
「…………い……!」
ブラックライダーは、大の字になって基地の廊下に寝転がった。倒れたといっても良い。
「いつか……死ぬぞ俺っ」
『お疲れ様です』
大量の汗を掻き、自慢のライダースーツはボロボロ、破れた所から血も見えた。
いつも余裕で帰ってくるのだが、今回は違った。
「……もう来ないよな?」
『分かりません。ですが相手にも限界、もしくは制限があるようです。でなければ一瞬で地球をアビス粒子で覆ってしまえば終わること』
アーシャは目を閉じたまま、祈るようにモニターを見た。
『……新たな戦力が、必要ですね』
ーー
その3日後のこと。アークシャイン基地内で、会議が行われた。出席者はアーシャと博士、そして『ボス』と呼ばれる責任者、さらに営業部長や広報部長など、国際企業としての『アークシャイン』の幹部陣である。
「『シャインジャー』の量産は、何故できないのでしょう、アーシャ殿」
営業部長が切り出した。戦闘員5人の内4人が怪我で入院中のこの状況での、エクリプス参戦は最悪だ。ひかりとブラックライダーもこのまま酷使されてはいずれ戦えなくなるだろう。
だがアーシャは、今までアビスと戦う戦士は増やしていない。
『「シャインジャー」の装備を扱えるのは、正義の心を持った者でなければならないからです』
「では、この世で正義の心を持った者は彼ら5人しかいないと?」
『詳しくお話ししましょう』
アーシャは肯定も否定もしなかった。
『我々の科学、文化は「精神」を活用した技術から成り立ちます。シャインジャーの装備は装着者の精神力を消費します。戦闘後は、肉体的疲労より精神的疲労の方が大きい』
「それは知っています」
『そして、複数の装着者はお互いに精神的干渉を可能にします。これにより、所謂「息の合った」動きで効率的な戦闘が可能です』
「らしいですな」
『ですがそれには、お互いの信頼関係が非常に重要です。一瞬の攻防の中で、相手を心から信頼し、命を委ねることができなければなりません。そうしなければ戦えない。怪人アビスは、基本的にシャインジャーひとりより戦闘スペックは上なのです』
「科学武器を使用しても、か」
『はい。だからこそ、連携を密に取らなければならない。それができる信頼関係の構築された、複数人の戦士。我々の文化では、それを「正義」と呼んでいます』
「!」
アーシャは淡々と、機械音声で語った。正義とは、信頼であると。それは地球の考えとは少し違っていた。その錯誤がこの状況まできてしまった原因であった。
「ならばそのような団体を見付ければ良いのですな」
「ふむ。ここは『戦争の星』地球。背中を預けられる軍隊などいくらでも居るだろう」
「良い案ですな。軍隊に宇宙科学の武器を与え、訓練させる。現行のシャインジャーより期待できそうですな」
それを聞き、顔を綻ばせる営業部長と広報部長。しかし、責任者の男は無表情のままだ。
「……外国の軍隊に、我々でも解明しきれていない超科学を渡す、と?」
「!」
「世界の軍事バランスが崩れる。軍人達は正義の心を持つだろうが、それを運用する国は正義なのか?もしテロ組織や国連非加盟国に渡ったら?」
『……「地球は一枚岩ではない」。これはアビスに対し大きな弱点となります』
「アーシャ殿の言う通りだ。人類は共通の敵を前にしても、協力などしない。諸外国は超科学を手にしようと躍起になっている。日本を恐れているのだ。アビスに勝利した後も、さらに『内戦』は続くだろう」
「……!」
『たまたま……初めに会った地球人が池上太陽……後のシャインソーラーだっただけです。今の世界情勢で日本の立ち位置はそこまで高くない。ですが己の利のみを考えてアビスではなく外国を敵視していては、アビスに勝てない。諸外国にはなんとかして協力してもらいたいのですが』
「無理だな。日本は外国と戦争はしない。だが、地球を守る為に外敵とは戦争する。自衛隊を借り受けられないのは、「世界中に軍隊が展開される」という印象を出さないためだ。自衛隊をシャインジャーとして使えば、どこから恨みを買うか分からない」
「それでは外国の軍隊の線も無理ですな」
営業部長と広報部長の案は却下された。
「正義の団体も、国内で探してはいる。だが、当人達の都合や生活を考えると、色良くは無い。家族の反対もある」
『実際に被害に遭っていないと侵略者の実感が無いのでしょう』
「以前出た案の、AIと無人機による戦力増強はどうなんですか?」
『人工知能は我々の種族では禁じられていました。よって宇宙科学ではその分野で力になれません』
少しの沈黙が流れた。
「手詰まり……か。池上太陽らの快復を待ちつつ、長谷川ひかりとブラックライダーになんとか奮闘してもらうしか……」
『いえ。まだ手はあります』
「?」
アーシャはこの雁字搦めの星で、まだ希望を失っていなかった。
『ですがこの「新戦力」には、メディア展開はしないでください。「彼女ら」は祭り上げられることを苦手としています。この基地にも来ません。アークシャインとは別行動で、アビスに対抗します』
「……彼女ら?」
『まだ実戦は出来ませんが……あと2週間ほど、待っていただきたい。それまでどうにか、ひかりとブラックライダーで持ちこたえることを納得して欲しい』
アーシャはぺこりと頭を下げた。元々この会議の目的は、現状確認と近況報告、そしてアーシャからの新戦力の発表であったのだ。
「詳しくはわしが把握しておる。あなたがたは今まで通り仕事をしていてくれ」
それぞれの部での報告をしてから、博士の一言で会議は終了した。
ーー舞台説明⑦ーー
これが『組織力』という数の暴力。世界中で展開して無差別に攻撃する組織相手に、たった5人かそこらでは相手になりません。シャインジャーがどれだけ強かろうと、その数を上回る怪人を出せば良いだけのこと。
今まではそれができなかっただけ。
『日蝕』だとソーラーエクリプスになるんですが、ソーラーエクリプスだと長く、しかし『蝕』1文字だと短い。よって『エクリプス』だけど『日蝕』になりました。
アークシャイン達の文明で使われていた、最強の移動装置。
『最強』である。言ってしまえば、瞬時にどこへでも移動できるというものだ。
音もなく敵の背後に移動し、不意打ちで暗殺。気付かれても瞬時に撤退できる。世界中どこへでも行けるため、誰に追われようが捕まることはない。
例えば、日本に居て、『ロンドンに怪人が出現した』とする。対抗できる戦力が地球上でシャインジャーのみの場合、通常どんなに急いでイギリスへ向かったところで、東京の羽田からロンドンのヒースローまでは飛行機で『約12時間半』かかる。そうなれば、怪人はもうロンドンを破壊し尽くしているだろう。
それを、移動時間を準備を含んで僅か『数秒』で済ませる反則級の装置。それがワープだ。それによる移動と、怪人出現頻度の低さもあり、今までたった5人のシャインジャーで世界を守ってこれた。
だが、ワープ能力は万能だが『ワープ装置』は万能ではない。どこへでも自由自在に飛べる訳ではなく、『装置から装置へのワープ』を可能にしているものだ。東京にあるワープ装置から、ロンドンに設置してあるワープ装置まで。
アークシャインは世界中の主要都市や国、地域にこの装置を設置している。ひとえに現地の協力であったり、大国からの経済的援助によるものだ。装置を操るアーシャは毎回、発生した怪人のもとへ辿り着く最短ルートを計算し、一番近い装置へひかりを誘導している。ワープ装置自体はアークシャイン限定ではあるが地球に公開されているものの、科学と理解が追い付かないため制御と運用は博士ではなくアーシャが担っている。
「……ワープ装置は!?」
「そっちの道に曲がって!公衆トイレの裏手にある!」
よって、この退却戦は、ワープ装置までの戦いである。
ーー
「大人は狡いよね。車とかバイクとか、移動が楽で」
「あたし免許持ってるよ。今度ドライブ連れてったげよっか」
エクリプスと彩はロンドンの街を走って追いかけていた。
「多分逃げられるけど、どうする?」
「ワープ装置の特定はしたいな。それができれば、大量の下位アビスを奴等の基地に直接送り込めるし。もうちまちま都市の破壊しなくても、アークシャインを壊滅されられれば早くて良いじゃない」
「それは魅力的だけど、普通対策してるんじゃない?承認が必要みたいな。アークシャインの独占運用みたいだし」
「それをクラックするのがあたしの仕事でしょ♪」
彩は自前のノートパソコンでロンドン市内の監視カメラをハッキングする。
「南に逃げてる。装置は郊外なのかな」
「取り合えず、僕たちもタクシーに乗ろうか」
ーー
「……ふぅ。取り合えずは逃げ切れたか」
「…………!」
ひかりとブラックライダーはどうにか基地へ撤退していた。通常の戦争でいう、地獄の退却戦を覚悟していたが、『バイク』という機動力に改めて感謝したブラックライダー。
「……ありがとうブラックライダー。助かったわ」
「当然さ、ひかりちゃん。今日はゆっくり休みなよ」
ふうと息を付くブラックライダーに、疲れ果てた様子のひかり。
そこへ、アーシャがやってくる。
『お疲れ様ですふたり共。すぐに休息を取って準備してください』
「……どうした?アーシャちゃん」
アーシャはいつになく焦った様子であった。
『「エクリプスが来ました」。最悪の状況です。今戦える戦力はあなたがたのみ。すぐにでも出撃できるようにしておいてください』
「……??今日はもう疲れたぜ」
この日、世界に同時に出現したアビス達はブラックライダーが全滅させた。今日はもう無いだろう。と、彼は経験から思う。
しかし。
ほっと息を付かせた時、基地内に警報が鳴り響いた。
「……え?」
『怪人です』
ひかりは力無く、信じられないといった風に訊ねた。
「……嘘だろ?」
『カイロ、ニューメキシコシティ、ミラノ。3ヶ所です。ブラックライダー、行けますか?』
「…………っ」
さすがのブラックライダーも息を飲んだ。
『これが「エクリプスの恐怖」です。今まで微弱なアビス粒子による自然発生でしか覚醒しなかったお陰で怪人の発生頻度は極端に少なかった。しかしエクリプスは、彼自らが感染源となり同族を意図的に増やすことができる。それもスタアライトのように経口感染ではなく、空気感染を可能にする。そして始めにアビス粒子が地球へ来たように、彼らは「意志」により距離を問わず粒子を飛ばすことができる』
「……そんな……!!」
『これが、超科学を持った私達を滅ぼした「アビス」の侵略能力、その一端です。ブラックライダー、戦えますか?』
「……!」
ブラックライダーは、ヘルメットの奥で歯軋りしながら立ち上がった。
「やるよ……。案内しろアーシャちゃん」
ーー
「……疲れた」
ロンドンにある、ホテルの一室。彩の潜伏先である。そこでエクリプスは、どさりとベッドに倒れ伏した。
「感染源か。凄いね」
ノートパソコンから3都市を世界同時中継で見る彩は、その威力に感心していた。
「でもすごい疲れるんだ。今日はもう駄目。寝るよ」
「良いけど、あたしに床で寝ろって?」
「一緒に寝る選択肢は?」
「はっ。15のお子様は対象外」
「泣きついてきたくせに」
「あれで勘違いしたの?英国紳士のくせに」
「お子様だから紳士じゃないし」
言いながらなんとかベッドから降りたエクリプス。そのまま冷蔵庫へ行き、水を取り出して飲む。
「改めて、"日蝕(エクリプス)"のエドワード・ジェラードだよ。エドって呼ばれてる」
「じゃあ『えっくん』ね。あたしは星野彩。よろしくね」
「……えっくん」
「嫌なの?」
「……別に」
エドと彩はがちりと握手を交わした。
「ワープ装置の特定は?」
「えへへ、ばっちりできてるよ。奴等の消失ポイントから割り出して、さっきこの目で確認したからね」
「ずいぶん有能だ。さすがスタアライトの姫様」
「えへへー」
「じゃ、僕の回復次第下位アビスを量産し、アークシャイン基地を襲撃しよう。そうだな、1週間欲しい」
「その間も同時多発的にアビスを作れる?敵戦力を消耗させておきたいの」
「なら2週間貰うよ。それでも、自然発生のアビスと含めて同時に3体まで。あのね、本当にしんどいんだからね?感染て」
「分かった。えっくんのペースで良いよ。現状超有利だしね、うちら」
ーー
「…………い……!」
ブラックライダーは、大の字になって基地の廊下に寝転がった。倒れたといっても良い。
「いつか……死ぬぞ俺っ」
『お疲れ様です』
大量の汗を掻き、自慢のライダースーツはボロボロ、破れた所から血も見えた。
いつも余裕で帰ってくるのだが、今回は違った。
「……もう来ないよな?」
『分かりません。ですが相手にも限界、もしくは制限があるようです。でなければ一瞬で地球をアビス粒子で覆ってしまえば終わること』
アーシャは目を閉じたまま、祈るようにモニターを見た。
『……新たな戦力が、必要ですね』
ーー
その3日後のこと。アークシャイン基地内で、会議が行われた。出席者はアーシャと博士、そして『ボス』と呼ばれる責任者、さらに営業部長や広報部長など、国際企業としての『アークシャイン』の幹部陣である。
「『シャインジャー』の量産は、何故できないのでしょう、アーシャ殿」
営業部長が切り出した。戦闘員5人の内4人が怪我で入院中のこの状況での、エクリプス参戦は最悪だ。ひかりとブラックライダーもこのまま酷使されてはいずれ戦えなくなるだろう。
だがアーシャは、今までアビスと戦う戦士は増やしていない。
『「シャインジャー」の装備を扱えるのは、正義の心を持った者でなければならないからです』
「では、この世で正義の心を持った者は彼ら5人しかいないと?」
『詳しくお話ししましょう』
アーシャは肯定も否定もしなかった。
『我々の科学、文化は「精神」を活用した技術から成り立ちます。シャインジャーの装備は装着者の精神力を消費します。戦闘後は、肉体的疲労より精神的疲労の方が大きい』
「それは知っています」
『そして、複数の装着者はお互いに精神的干渉を可能にします。これにより、所謂「息の合った」動きで効率的な戦闘が可能です』
「らしいですな」
『ですがそれには、お互いの信頼関係が非常に重要です。一瞬の攻防の中で、相手を心から信頼し、命を委ねることができなければなりません。そうしなければ戦えない。怪人アビスは、基本的にシャインジャーひとりより戦闘スペックは上なのです』
「科学武器を使用しても、か」
『はい。だからこそ、連携を密に取らなければならない。それができる信頼関係の構築された、複数人の戦士。我々の文化では、それを「正義」と呼んでいます』
「!」
アーシャは淡々と、機械音声で語った。正義とは、信頼であると。それは地球の考えとは少し違っていた。その錯誤がこの状況まできてしまった原因であった。
「ならばそのような団体を見付ければ良いのですな」
「ふむ。ここは『戦争の星』地球。背中を預けられる軍隊などいくらでも居るだろう」
「良い案ですな。軍隊に宇宙科学の武器を与え、訓練させる。現行のシャインジャーより期待できそうですな」
それを聞き、顔を綻ばせる営業部長と広報部長。しかし、責任者の男は無表情のままだ。
「……外国の軍隊に、我々でも解明しきれていない超科学を渡す、と?」
「!」
「世界の軍事バランスが崩れる。軍人達は正義の心を持つだろうが、それを運用する国は正義なのか?もしテロ組織や国連非加盟国に渡ったら?」
『……「地球は一枚岩ではない」。これはアビスに対し大きな弱点となります』
「アーシャ殿の言う通りだ。人類は共通の敵を前にしても、協力などしない。諸外国は超科学を手にしようと躍起になっている。日本を恐れているのだ。アビスに勝利した後も、さらに『内戦』は続くだろう」
「……!」
『たまたま……初めに会った地球人が池上太陽……後のシャインソーラーだっただけです。今の世界情勢で日本の立ち位置はそこまで高くない。ですが己の利のみを考えてアビスではなく外国を敵視していては、アビスに勝てない。諸外国にはなんとかして協力してもらいたいのですが』
「無理だな。日本は外国と戦争はしない。だが、地球を守る為に外敵とは戦争する。自衛隊を借り受けられないのは、「世界中に軍隊が展開される」という印象を出さないためだ。自衛隊をシャインジャーとして使えば、どこから恨みを買うか分からない」
「それでは外国の軍隊の線も無理ですな」
営業部長と広報部長の案は却下された。
「正義の団体も、国内で探してはいる。だが、当人達の都合や生活を考えると、色良くは無い。家族の反対もある」
『実際に被害に遭っていないと侵略者の実感が無いのでしょう』
「以前出た案の、AIと無人機による戦力増強はどうなんですか?」
『人工知能は我々の種族では禁じられていました。よって宇宙科学ではその分野で力になれません』
少しの沈黙が流れた。
「手詰まり……か。池上太陽らの快復を待ちつつ、長谷川ひかりとブラックライダーになんとか奮闘してもらうしか……」
『いえ。まだ手はあります』
「?」
アーシャはこの雁字搦めの星で、まだ希望を失っていなかった。
『ですがこの「新戦力」には、メディア展開はしないでください。「彼女ら」は祭り上げられることを苦手としています。この基地にも来ません。アークシャインとは別行動で、アビスに対抗します』
「……彼女ら?」
『まだ実戦は出来ませんが……あと2週間ほど、待っていただきたい。それまでどうにか、ひかりとブラックライダーで持ちこたえることを納得して欲しい』
アーシャはぺこりと頭を下げた。元々この会議の目的は、現状確認と近況報告、そしてアーシャからの新戦力の発表であったのだ。
「詳しくはわしが把握しておる。あなたがたは今まで通り仕事をしていてくれ」
それぞれの部での報告をしてから、博士の一言で会議は終了した。
ーー舞台説明⑦ーー
これが『組織力』という数の暴力。世界中で展開して無差別に攻撃する組織相手に、たった5人かそこらでは相手になりません。シャインジャーがどれだけ強かろうと、その数を上回る怪人を出せば良いだけのこと。
今まではそれができなかっただけ。
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