遥かなるマインド・ウォー

弓チョコ

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第13話 幹部撃破!ブラックライダーの切り札!

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 『エクリプス』とは、勿論地球の言葉である。宇宙の存在だが、地球での呼称である。英語では『日本』を『ジャパン』と呼ぶように、『その能力』のことを、地球ではエクリプスと呼ぶ。精神での意思疏通を行うアビス達に元々言語が無いため、彼らが元人間のハーフアビス達に合わせているのだ。
 彼は異種族を同族に変える能力を持つ。エドではない、クリアアビスのエクリプスが居る。地球へは、そのアビスが粒子を飛ばしていた。スタアライトを始め、地球生まれのハーフアビスは大体がそのエクリプスの能力によりアビスと成った。

 アビスの種族特性として、『より下位のアビスを支配できる』というものがある。スタアライトはこれにより下位アビスを支配でき、またクリアアビスからの命令には逆らえなかった。

 しかし、例外は存在する。
 人間が100人居ればひとりふたりは例外が居るように、一定の確率で発生する。予想もできない完全なイレギュラー。主に、『感染しても覚醒しない体質』や『支配できない体質』などだ。アビスにとっても地球の生命体は未解明生物であり、何が起こるか分からない。文明を支配すると言いつつ、動物ばかりで人間にはほぼ感染しなかったように。……それでも侵略しなければならないのだが。

 その男は例外であった。まず『人間が感染する』こと自体、地球上での例外である。スタアライトこと星野影士も、人間で感染した例外であったが、感染後はアビスの使命に忠実な戦士だった。
 その男は、感染し、ハーフアビスと成った。しかし、クリアアビスからの呼び掛けには応えず、単独行動を始めた。実際には呼び掛けに応えなかったのではない。クリアアビスからの呼び掛けが届かなかったのだ。精神を媒介するアビス同士の連絡だが、その男はそれを受信することができなかった。つまり、クリアアビスはその男の感染も覚醒も把握できなかった。浮いた駒ができてしまったのだ。
 その男は、ハーフアビスと成ってから、苦しんだ。既に人間ではない。身体能力や、精神をエネルギーとする未知のパワーの使用。人間を見ると自分より下の存在だと確信してしまう違和感。加えて『精神を食べる』という食性の変化。
 そして、自分について調べ始めた。何ができて、どうなっているのか。精神エネルギーを使用して何かできないか。……自分をこんな風にしたのは一体何なのか。
 その男は発見した。自分の体内にある粒子に刻まれた名前を。

『エクリプス』

 それが、自分を変えた。こんな風にした。この苦痛を与えた。人間の摂る食物は受け付けず、ふとしたことで家屋や町を破壊してしまい、親でさえ感情抜きに見下してしまう。

『エクリプス……!』

 男は精神エネルギーを研究し、とある者達と共同でワープ装置を発明した。想像すれば、世界中どこへでも行ける夢の装置。不安定な人間の精神ではできず、エネルギー自体を外部へ留めておく貯蔵庫を作り、そのエネルギーを使ってワープする。
 武器も作った。太陽光を集め、精神エネルギーに乗せて打ち出す兵器。光線銃である。
 そしてもうひとつ。溜め込んだ精神エネルギーを、自身に還元し、パワーアップを図る秘密兵器。
 男は時を待った。エクリプスに復讐する時を。このまま何も無ければ、宇宙へ飛び出していただろう。しかし、アビスは地球を侵略し始めた。
 出番である。アークシャインと行動を共にしていれば、いつかエクリプスへと辿り着く。
 前へ前へ、進み続けてきた。
 彼はこれからもそうするだろう。

ーー

「エクリプスっ!!」
 その扉は勢いよく蹴り飛ばされた。作戦指令室である。基地の構造はよく知っている。
「…………」
 エドは振り返り、彼が来た道を細目で見る。道中のアビスは全て蹴り殺され、あるいは撃ち殺されていた。10や20ではない数なのだが、その全てが。
「……ブラックライダーか。今日はヘルメットしてないね」
「ああ。見ろよこの醜悪な面を。変わり果てた形相を。俺は人間じゃない」
 燃え尽きたような灰色の髪。泣いているような赤い瞳。目元の傷は、流れる涙のように線が走っている。
「人間じゃない?面白いことを言うね」
「てめえを殺す。そのために生きてきた」
 エドは、彼らが基地へ乗り込んでくることは当然予想していた。いくつかのゲートはアビスに見張らせていたが、ブラックライダーだけは、バイクにより自力でワープすることができる。
「だけど『君だけ』だね。他の誰かをそのワープに巻き込めない。だからロンドンのあの時、必死にシャインヴィーナスを連れて逃げたんだ」
「どうでも良いから、辞世の句でも考えてろ」
「お客さんだよブラックライダー」
「!」
 怒りを露にエドへ向かう。しかし、その背後で気配がした。他のアビスとは比べ物にならない威圧感があった。
「やっと来たわねぇ」
「……あ?」
 つかつかと、通路を打ち付けるヒールの音が鳴る。まるでモデルのような歩き方で現れたのは、女性型のアビス…マインであった。
「うふん。やっぱり良い男」
「ふざけてんなよ。今お遊びに付き合ってる暇はねえ」
「大真面目よ。相手してもらうわぁ」
「……」
 指令室の入り口はひとつしかない。挟み撃ちの形であると共に、逃げ場も無い。
 彼は仕方なく、標的をエクリプスからマインへ変えた。
「君は女性と戦えないんだろ?ブラックライダー。この状況ではどうだ?」
 エドが訊ねる。ブラックライダーの弱点が女性であることは、既に分かりきっている。
「……変身っ!」
「!」
 ここは敵の本拠地。海水浴場でのような出し惜しみはあり得ない。ブラックライダーは腰のベルト……『貯蔵庫』に手を当て、そのエネルギーを解放した。

ーー

 アビスですら迂闊に近寄れない、膨大な精神エネルギーに包まれる。それは形を成し、彼の身体へ『蒸着』される。
 アンテナの役割を持つ2本の触角、複眼のような大きな眼のある『仮面』。
 体軸のバランサーになり、無駄なエネルギーを逃がすアースにもなる『マフラー』。
 全身を覆う黒い特殊ライダースーツは、シャインジャーのものと比べても遜色無い性能を発揮する。
「……へぇ」
 その完成度はエドも感心するほどであった。
「覚悟しろエクリプス。追い詰められたのはてめえだよ」
 ブラックライダーはエドの命を一直線に貫くように、指を差してロックオンした。

ーー

「アタシを無視しないでよぉっ!」
 マインは駆け出した。鞭のようにしなる爪を展開し、ジャンプしてブラックライダーへ襲い掛かる。彼はエドの方を向いたままだ。背後からの奇襲になる。
「!」
 のだが。
「邪魔だ」
 マインは見た。ブラックライダーの右足が、白熱しているのを。黒いブーツが、何故か青白く熱を発している。
「!?」
 右足から火花が散った。奇襲ではない。始めから、彼に対してそんなことは出来ない。あの触角は、複眼は、マフラーは。『ひとりで多人数の敵と戦うことを想定した装備である』と。

 彼の身体が回転を始めた。その顔はまだエドを見据えている。だが複眼には、マインの顔も確かに映し出している。

 もうマインの爪は、彼へ辿り着く。瞬間、切り裂かれ、彼は死ぬ。だというのに、寧ろマインの方が、自身の死を悟り、世界のスピードが遅くなっていた。
「(……なに……これ)」

 振り向いた彼の表情は、仮面のせいで窺い知れない。それは無慈悲な感情にも、同族を殺すことへ涙しているようにも見えた。
 マインの思考は、死を前に冷静であった。だから、彼の右足が瞬時に音速を越え、自身の左肩に食い込む様子がはっきりと分かった。

「(……こんな……ライダー……キッ……)」

 ナイフでバターを切るように、その白熱した右足は深々と突き刺さる。そこでマインの命は潰え、世界は再びスピードを取り戻した。

ーー

 爆発。激震。振り抜かれた右足はバチンと音を立て、熱を放出した。打ち砕かれたマインはプラズマを帯びて爆発四散し、跡形もなく消えた。
「……」
 ブラックライダーは再び指令室内を見渡す。エドは既に消えていた。
 この状況で、『女性だから』と手加減すれば、あっという間に敗北、そして死だ。ロンドンでひかりを追い詰めた彩と同様、個人的感情でそこをあやふやにしては負ける。
 ブラックライダーは、初めて女性に手を挙げた事を悲しむように、仮面から一筋の線が浮き出ている。
「ちっ」
 舌打ちをひとつ打ち、その部屋を後にした。

ーー

「はああああ!」
「たあああ!」
 激戦の海水浴場。らいちのキック、かりんのパンチを正面から食らい、アイスバーグの右腕と腰辺りの一部が抉られ、吹き飛んだ。
「ぐぉおおぉ……!」
 残った左腕で傷口を抑え、悶えるアイスバーグ。鉄壁の防御は、彼女らの前では最早機能していなかった。
「……ふざけろよ……!なんなんだよこの威力…!俺は計算上、戦車砲も耐えるんだぞ!?」
 膝を突く。だが憎しみを瞳に宿したアイスバーグは、まだ闘志を燃やしていた。
「ちゃちゃっと終わらせるよかりん!」
「うん」
 パニピュアは手を突き出し、必殺技の構えを取った。
「「弧を描く、純粋なる光の神罰!」」
 精神エネルギー。一言で片付けられるそれは、実はとても奥が深い。本人の精神の昂りに合わせて増減し、戦闘ではそれを冷静に扱える精密コントロールを要する。
 今のパニピュアは中学生と言えど、そこだけに関しては特に秀でていた。
「畜生が……この、家畜どもがああああ!!」
 所詮。
「「アーク・シャイニング・パニッシュメント!」」
 ハーフアビスでもない、下位アビス。多少強化されようと、ふたりに取ってはアビ太郎と変わり無い。
 『防御力』だけに特化したアイスバーグでは、音速で戦闘機動をこなすパニピュアの動きは追えはしない。さらにふたりだ。近接戦闘に於いて、『数』という有利はとても強力である。特撮アニメなどのように、『順番にかかって来てくれる』ような戦闘には決してならない。ブラックライダーのように銃でも持っていなければ、多人数相手など無謀の極みである。
 さらに……そのふたりのコンビネーションは、アーシャにより極限まで高められている。精神を相互干渉可能にする『信頼という正義』が、彼女らの勝利を確定させた。
「さあ、行くよ、本拠地!」
「うん。絶対、アーシャを助けるんだから」
 小さな英雄、パニピュアの進撃は止まらない。彼女らは滅したアイスバーグの破片などに眼もくれず、ワープ装置へ急いだ。




ーー舞台説明⑬ーー
 マインの戦闘力(とスリーサイズ)は一応シャインヴィーナスより上です。
 しかし、ハーフアビスの繁殖方法が『他種族の雌を使う』こと(もしくはエクリプスの能力による感染後に他種族の精神を喰らって成長すること)である以上、マインは厳密には女性(雌)では無いのです。
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