33 / 68
第32話 目指せ!決戦の舞台は中国大陸!
しおりを挟む
「……次の感染場所は……」
『中国だ』
「!」
日本。星野家の別荘。アビス最後の隠れ家である。
この日、クリアアビスと通信していたのは彩ではなく、ハルカであった。
いつもビールを空けるテラス。洋風の装飾が施された円形テーブルの真ん中に、腕時計型の通信機を囲み、数人の男女が席に着く。
「……よりによって、今、中国?」
『こればかりはどうしようもない。純然たる運だ』
当然、彼女らも中国の騒動は耳にしている。できれば今は近付きたくない場所である。
「……分かった。フィリップ、コロナ。行くわよ」
ハルカの号令で、立ち上がったふたりの人物。ひとりは″七星(グランシャリオ)″フィリップ。『砲と砲台、砲弾、その他補助装置を精製できる能力』を持つ火力トップクラスのハーフアビスだ。クリアアビスからの支配を受けない例外固体であるが、状況を受け入れ彩達に協力している。
「オーケー。……しかし、中々進まないモンだな。仲間集めって」
彼は自身以降、1ヶ月間でひとりしか増えていないことを憂慮する。その目線の先には、露出度の高いアラビアン風の衣装を着た少女が居る。
「私は少人数の方が良いけどねー。人混み嫌い」
浅い褐色肌に、宝石のような蒼い瞳の彼女は、彩より少し年齢が低いがパニピュアよりは大人びている。
「その格好で人混み嫌いは嘘だろ」
「そうかな?可愛くない?これ」
少女はくるくると陽気に回り、踊り子のような衣装を見せ付ける。
「……目のやり場に困る」
発達途上の身体を、無自覚にも惜しげ無く晒す彼女に目を剃らしながら、フィリップはそう答えた。
「あっはは。彩にハルカに私。ほぼ女所帯でフィリップハーレムだもんね」
「はぁ……次の仲間は男でありますように」
『ああ、あと。今度は「感染」ではない』
「?」
アビス一同、中国へ発つ。
ーー
基本的なことだが、『ラウム』自体、世間では批判の対象である。特に『そうなってしまった』中国では、それが顕著だ。
アメリカは、サブリナが周到に根回しして回避している部分。たった5人という「被害」の少なさから、問題にはなっていない。
イギリスは、純然たる志願兵であるため、通常の軍隊ほどの摩擦しか起きていない。本人の意思を尊重するため、家族の理解も多少はある。
だが中国は違う。
元々軍人でもなんでもない、殆どが農家の者だ。徴兵の名の元に父親や兄や、息子が連れていかれるならばまだ理解できただろう。
だが中国は違う。
『母や姉や、娘』まで、果ては幼子に老夫婦までもが『見境無く』ラウム兵に『された』。ある日突然、家族が、恋人が、隣人が、『人間ではなくなっている』。そんな大事件が、『中国全土で起きた』。洗脳され支配された家族は、恋人は、隣人は、1ヵ所に集められ、隔離され封印された。
意味が分からない。
許せる筈が無い。100万の実被害者と、その家族を計上すれば、総被害者は一体どれだけの数に上るのか。
前代未聞のテロリスト『アウラ』を巡り、中国は揺れていた。即ち、ラウム兵達はアウラを神と呼び、人間を思想誘導する。人間はアウラをテロリストと呼び、その処刑を望む。
中国政府は『アウラを殺せば洗脳は解かれ、人間に戻る』といった主張を国民に述べ、彼女の身柄引き渡しを日本へ要求していた。
『まあ無駄ですね。彼らの洗脳は既に解かれています。だから暴動を起こしたのですから』
「ならばなぜ、彼らは人間に戻らない?ああ、肉体ではなく、精神的にだ」
基地ではらいちの代わりに、博士が尋問していた。
『人間とラウムでは精神力が違う。最高級のビーフを食べればもうスーパーの安物は受け付けない』
「……ではこの問題をどう解決する?」
『その「人間の家族」に面会させたら良いでしょう。こちらから何か訴えるのではなく、本人同士で語り合えば良い。結果憎悪が私に向くとしても、「彼女の国」と中国で摩擦は減る筈』
「……やけに協力的になったな」
博士はやや驚いた。何を言っても通じないと思っていたからだ。だがアウラは、らいちと話して以降、「会話」ができるようになっていた。
『ええ。……やはり「器」ですね。悔しいけれど、サブリナもイヴもダクトリーナも、彼女には敵わない。「民を想う」のが王であり、既に彼女のひとり勝ちですから』
ーー
この1ヶ月、らいちは特に目立った動きをしていない。実際は寝る暇も無いほど働いていたのだが、行った政策は、アウラのアドバイスによる「家族面談」を除いてはひとつ。
「……ふう」
市民館…もとい『王宮』の目の前に設置された、石畳の舞台があった。1m四方のタイルが整列されて敷き詰められた、50m四方の舞台。四隅には柱が建てられ、中国の伝統的な装飾が施されている。
その中心に、らいちは立っていた。ピュアホープの金の衣装を中華風に改造した、新しいきらびやかな『戦闘服』を着て。
そして舞台の端には、ひとりの青年ラウム兵が倒れていた。
『勝負あり!女王の勝ち!』
四隅の柱に備え付けられたスピーカーから、女性の声で勝鬨が上がる。それを合図に、『周囲から拍手喝采が上がった』。
……舞台の周りには、今や数万人の観客が押し寄せていた。
「……ぐ……やっぱつええ……」
倒れた青年がどうにか起き上がろうとし、らいちが手を差し伸べた。
「ハオランさん。良い勝負だったね!」
「!……俺の名前」
「私はらいち。よろしくね!」
「……」
らいちは正に太陽のような笑顔を咲かせる。名を呼ばれたハオランは、無意識にその手を取って立ち上がる。
「……あんたまさか、これ100万人分やるつもりか?」
「あはは。流石に無理だよ。ひとり10分、1日18時間戦ったとして25年掛かっちゃう。……地域や家族の代表とだけ、あとは個人で希望者が居れば。それでも2~3年は視野に入れてるよ」
「……」
国民と戦い、名を覚える。邪気の無い無垢な少女と正面から相対することで、国民は新しい女王への警戒心を解き始めていた。
1ヶ月前に始まった、らいちの最初の国策。血の気の多いラウム兵を相手取り、暴動や内乱にせずに無力化し、懐柔する。実力を以て国民から信頼を得る方法である。『ここまで強い者が王なら、少なくとも外敵からは守ってくれる』という安心感。そしてひとりひとり顔と名を覚えようとする『国民への関心』。話せば明るく笑う『花のような少女』。戦う姿はまるで踊っているようで、そして大の大人でも敵わない『最強』。
国民と理解を深める『女王演武』は、エンターテイメントと化して人気を博し、挑戦者以外からも評判を集めていた。
『本日の演武はこれまで!なお次回開催は未定である!解散!』
高らかに銅鑼が鳴り響き、その日のらいちの公務は終わった。
ーー
「お疲れ様です、らいちちゃん」
「うん」
王宮へ戻ると、間宮家の専門家達が挨拶もそこそこに怪訝な表情をしていた。
「……避けられなかったようで」
らいちも理由は知っている。
「分かってる。明日休んで、備えるよ」
イギリスラウムの進軍に対し、らいちは真っ向から抵抗するつもりだった。
「おひとりでですか?」
「勿論。ていうか、まだ軍も無いんだから、私しか戦闘員いないし」
「ハルカ・ギドーと互角に渡り合った『サンダーボルト』を相手にですか。……片腕で」
心配する彼らを余所に、だがらいちは覚悟を決めていた。
「うん。……といっても、勝算はあるよ」
「……?」
「勝算というか、打算だね。前に『お姉ちゃん』が言ってたから」
「……お姉ちゃん?」
首を傾げたところで、らいちへ通信が入る。精神干渉だ。らいちは頭に手を当て、にやりと笑う。
その通信相手は、勿論。
『ーー……』
『……ーー』
彼らには分からない通信を終えたらいちは、振り替えって会話を続ける。その表情は、申し訳なさそうにしつつも、嬉しさを隠せてはいなかった。
「『困ったら大人を頼れ』ってね!」
ーー
ラウムの国と、中国の西の『国境』。元は中国の土地である。その国から西側は、ほぼ未開拓の不毛の大地が続く。畑にも影響せず、人的被害も無い。正に、『戦争』にうってつけの場所だった。
国境には、特に塀があるわけでもない。ただ街が途切れているだけだ。水汲みに使う道はあるが、舗装はされていない。
街の住民…らいちの言う『民』達は、基本的には人間の時と同じ生活をしている。王が替わっただけでは生活は変わらない。だが人間とラウムの違いだけは、普通ではない生活に変わっている。
「……ふう」
その農家の男性は、畑仕事にキリを付け、息を吐いて街の外を見た。
「……なんだかんだ、やっぱり俺らは農民なんだよな」
「不満かよ」
突然、目の前にもうひとり男性が現れる。隣の農家の者だ。向こうからワープしてきたのだろう。
「まあな。王っつってもガキだろ。そんな急に世の中は変わんねえべ」
「ま、中央の奴らと俺らでまた考え違うしな」
「何が『演武』だよなあ。ようするにガキ大将じゃねえか」
「アウラ様を奪って、独裁して、次は喧嘩ってなあ……。頭おかしいよな」
「んだんだ。シャンヤオも捕まっちまったし、もう何を信じたら良いかわかんねえよ」
彼らの視線の先には、『スーツ姿』の『日本人』が、何やら大きな機械のようなものの前で作業をしている。畑には触らないということで、彼らはそれを承諾したのだ。
「女王が日本から呼んだ技術者だな。何かすんのか?」
「さあな。女王は『まず国防』とか言ってたから、砦でも建てるんじゃねえの」
「でもここ、中国から借りてる土地だろ?」
「いや、元は俺らの農地だろうが。国とか関係無く」
「そうだね。あなた達の土地だよ」
「!?」
「うわっ!」
彼らは心臓も飛び跳ねるかと思うほど吃驚した。つい今の今まで貶していた女王が、目の前に出現したのだ。
「じょ……女王!」
「(き、聞かれた……よな)」
ただの子供。目の前にしてやはり思う。ただの子供である。しかし、事実として彼らは、彼女に全く逆らえない。精神も肉体も、完全に支配されているのだ。その気になれば今のこの自我さえ奪われる。らいちの「殺したくない」「操りたくない」という『個人の感情』以外のものに守られていない。今自分が生きて、自我を持っている理由がそれだけであることを実感し、ふたりは恐怖した。
「この土地が、侵略されようとしている。それは、私たちの存在を許さない勢力。私たちの国は、私たちで守らないといけない」
「……?」
らいちの言葉の意味が分からない。ふたりはただ、怯えて押し黙る。なにもされていないのに、身体が動かない。
「説明責任は果たすよ。でも何よりも、優先すべきことがある。『国民の生存』。本当はあなた達全ての声を聞きたいけど、時間が足りない。ごめんなさい」
「…………!!」
らいちはそう言い残し、スーツ姿の日本人達の元へ向かって歩いていった。
残された農家の男性は、ただほっと安心した。それは恐怖の女王が去ったからなのか、もっと別の事に、無意識に悟ったからなのかは、本人にも分からない。
『中国だ』
「!」
日本。星野家の別荘。アビス最後の隠れ家である。
この日、クリアアビスと通信していたのは彩ではなく、ハルカであった。
いつもビールを空けるテラス。洋風の装飾が施された円形テーブルの真ん中に、腕時計型の通信機を囲み、数人の男女が席に着く。
「……よりによって、今、中国?」
『こればかりはどうしようもない。純然たる運だ』
当然、彼女らも中国の騒動は耳にしている。できれば今は近付きたくない場所である。
「……分かった。フィリップ、コロナ。行くわよ」
ハルカの号令で、立ち上がったふたりの人物。ひとりは″七星(グランシャリオ)″フィリップ。『砲と砲台、砲弾、その他補助装置を精製できる能力』を持つ火力トップクラスのハーフアビスだ。クリアアビスからの支配を受けない例外固体であるが、状況を受け入れ彩達に協力している。
「オーケー。……しかし、中々進まないモンだな。仲間集めって」
彼は自身以降、1ヶ月間でひとりしか増えていないことを憂慮する。その目線の先には、露出度の高いアラビアン風の衣装を着た少女が居る。
「私は少人数の方が良いけどねー。人混み嫌い」
浅い褐色肌に、宝石のような蒼い瞳の彼女は、彩より少し年齢が低いがパニピュアよりは大人びている。
「その格好で人混み嫌いは嘘だろ」
「そうかな?可愛くない?これ」
少女はくるくると陽気に回り、踊り子のような衣装を見せ付ける。
「……目のやり場に困る」
発達途上の身体を、無自覚にも惜しげ無く晒す彼女に目を剃らしながら、フィリップはそう答えた。
「あっはは。彩にハルカに私。ほぼ女所帯でフィリップハーレムだもんね」
「はぁ……次の仲間は男でありますように」
『ああ、あと。今度は「感染」ではない』
「?」
アビス一同、中国へ発つ。
ーー
基本的なことだが、『ラウム』自体、世間では批判の対象である。特に『そうなってしまった』中国では、それが顕著だ。
アメリカは、サブリナが周到に根回しして回避している部分。たった5人という「被害」の少なさから、問題にはなっていない。
イギリスは、純然たる志願兵であるため、通常の軍隊ほどの摩擦しか起きていない。本人の意思を尊重するため、家族の理解も多少はある。
だが中国は違う。
元々軍人でもなんでもない、殆どが農家の者だ。徴兵の名の元に父親や兄や、息子が連れていかれるならばまだ理解できただろう。
だが中国は違う。
『母や姉や、娘』まで、果ては幼子に老夫婦までもが『見境無く』ラウム兵に『された』。ある日突然、家族が、恋人が、隣人が、『人間ではなくなっている』。そんな大事件が、『中国全土で起きた』。洗脳され支配された家族は、恋人は、隣人は、1ヵ所に集められ、隔離され封印された。
意味が分からない。
許せる筈が無い。100万の実被害者と、その家族を計上すれば、総被害者は一体どれだけの数に上るのか。
前代未聞のテロリスト『アウラ』を巡り、中国は揺れていた。即ち、ラウム兵達はアウラを神と呼び、人間を思想誘導する。人間はアウラをテロリストと呼び、その処刑を望む。
中国政府は『アウラを殺せば洗脳は解かれ、人間に戻る』といった主張を国民に述べ、彼女の身柄引き渡しを日本へ要求していた。
『まあ無駄ですね。彼らの洗脳は既に解かれています。だから暴動を起こしたのですから』
「ならばなぜ、彼らは人間に戻らない?ああ、肉体ではなく、精神的にだ」
基地ではらいちの代わりに、博士が尋問していた。
『人間とラウムでは精神力が違う。最高級のビーフを食べればもうスーパーの安物は受け付けない』
「……ではこの問題をどう解決する?」
『その「人間の家族」に面会させたら良いでしょう。こちらから何か訴えるのではなく、本人同士で語り合えば良い。結果憎悪が私に向くとしても、「彼女の国」と中国で摩擦は減る筈』
「……やけに協力的になったな」
博士はやや驚いた。何を言っても通じないと思っていたからだ。だがアウラは、らいちと話して以降、「会話」ができるようになっていた。
『ええ。……やはり「器」ですね。悔しいけれど、サブリナもイヴもダクトリーナも、彼女には敵わない。「民を想う」のが王であり、既に彼女のひとり勝ちですから』
ーー
この1ヶ月、らいちは特に目立った動きをしていない。実際は寝る暇も無いほど働いていたのだが、行った政策は、アウラのアドバイスによる「家族面談」を除いてはひとつ。
「……ふう」
市民館…もとい『王宮』の目の前に設置された、石畳の舞台があった。1m四方のタイルが整列されて敷き詰められた、50m四方の舞台。四隅には柱が建てられ、中国の伝統的な装飾が施されている。
その中心に、らいちは立っていた。ピュアホープの金の衣装を中華風に改造した、新しいきらびやかな『戦闘服』を着て。
そして舞台の端には、ひとりの青年ラウム兵が倒れていた。
『勝負あり!女王の勝ち!』
四隅の柱に備え付けられたスピーカーから、女性の声で勝鬨が上がる。それを合図に、『周囲から拍手喝采が上がった』。
……舞台の周りには、今や数万人の観客が押し寄せていた。
「……ぐ……やっぱつええ……」
倒れた青年がどうにか起き上がろうとし、らいちが手を差し伸べた。
「ハオランさん。良い勝負だったね!」
「!……俺の名前」
「私はらいち。よろしくね!」
「……」
らいちは正に太陽のような笑顔を咲かせる。名を呼ばれたハオランは、無意識にその手を取って立ち上がる。
「……あんたまさか、これ100万人分やるつもりか?」
「あはは。流石に無理だよ。ひとり10分、1日18時間戦ったとして25年掛かっちゃう。……地域や家族の代表とだけ、あとは個人で希望者が居れば。それでも2~3年は視野に入れてるよ」
「……」
国民と戦い、名を覚える。邪気の無い無垢な少女と正面から相対することで、国民は新しい女王への警戒心を解き始めていた。
1ヶ月前に始まった、らいちの最初の国策。血の気の多いラウム兵を相手取り、暴動や内乱にせずに無力化し、懐柔する。実力を以て国民から信頼を得る方法である。『ここまで強い者が王なら、少なくとも外敵からは守ってくれる』という安心感。そしてひとりひとり顔と名を覚えようとする『国民への関心』。話せば明るく笑う『花のような少女』。戦う姿はまるで踊っているようで、そして大の大人でも敵わない『最強』。
国民と理解を深める『女王演武』は、エンターテイメントと化して人気を博し、挑戦者以外からも評判を集めていた。
『本日の演武はこれまで!なお次回開催は未定である!解散!』
高らかに銅鑼が鳴り響き、その日のらいちの公務は終わった。
ーー
「お疲れ様です、らいちちゃん」
「うん」
王宮へ戻ると、間宮家の専門家達が挨拶もそこそこに怪訝な表情をしていた。
「……避けられなかったようで」
らいちも理由は知っている。
「分かってる。明日休んで、備えるよ」
イギリスラウムの進軍に対し、らいちは真っ向から抵抗するつもりだった。
「おひとりでですか?」
「勿論。ていうか、まだ軍も無いんだから、私しか戦闘員いないし」
「ハルカ・ギドーと互角に渡り合った『サンダーボルト』を相手にですか。……片腕で」
心配する彼らを余所に、だがらいちは覚悟を決めていた。
「うん。……といっても、勝算はあるよ」
「……?」
「勝算というか、打算だね。前に『お姉ちゃん』が言ってたから」
「……お姉ちゃん?」
首を傾げたところで、らいちへ通信が入る。精神干渉だ。らいちは頭に手を当て、にやりと笑う。
その通信相手は、勿論。
『ーー……』
『……ーー』
彼らには分からない通信を終えたらいちは、振り替えって会話を続ける。その表情は、申し訳なさそうにしつつも、嬉しさを隠せてはいなかった。
「『困ったら大人を頼れ』ってね!」
ーー
ラウムの国と、中国の西の『国境』。元は中国の土地である。その国から西側は、ほぼ未開拓の不毛の大地が続く。畑にも影響せず、人的被害も無い。正に、『戦争』にうってつけの場所だった。
国境には、特に塀があるわけでもない。ただ街が途切れているだけだ。水汲みに使う道はあるが、舗装はされていない。
街の住民…らいちの言う『民』達は、基本的には人間の時と同じ生活をしている。王が替わっただけでは生活は変わらない。だが人間とラウムの違いだけは、普通ではない生活に変わっている。
「……ふう」
その農家の男性は、畑仕事にキリを付け、息を吐いて街の外を見た。
「……なんだかんだ、やっぱり俺らは農民なんだよな」
「不満かよ」
突然、目の前にもうひとり男性が現れる。隣の農家の者だ。向こうからワープしてきたのだろう。
「まあな。王っつってもガキだろ。そんな急に世の中は変わんねえべ」
「ま、中央の奴らと俺らでまた考え違うしな」
「何が『演武』だよなあ。ようするにガキ大将じゃねえか」
「アウラ様を奪って、独裁して、次は喧嘩ってなあ……。頭おかしいよな」
「んだんだ。シャンヤオも捕まっちまったし、もう何を信じたら良いかわかんねえよ」
彼らの視線の先には、『スーツ姿』の『日本人』が、何やら大きな機械のようなものの前で作業をしている。畑には触らないということで、彼らはそれを承諾したのだ。
「女王が日本から呼んだ技術者だな。何かすんのか?」
「さあな。女王は『まず国防』とか言ってたから、砦でも建てるんじゃねえの」
「でもここ、中国から借りてる土地だろ?」
「いや、元は俺らの農地だろうが。国とか関係無く」
「そうだね。あなた達の土地だよ」
「!?」
「うわっ!」
彼らは心臓も飛び跳ねるかと思うほど吃驚した。つい今の今まで貶していた女王が、目の前に出現したのだ。
「じょ……女王!」
「(き、聞かれた……よな)」
ただの子供。目の前にしてやはり思う。ただの子供である。しかし、事実として彼らは、彼女に全く逆らえない。精神も肉体も、完全に支配されているのだ。その気になれば今のこの自我さえ奪われる。らいちの「殺したくない」「操りたくない」という『個人の感情』以外のものに守られていない。今自分が生きて、自我を持っている理由がそれだけであることを実感し、ふたりは恐怖した。
「この土地が、侵略されようとしている。それは、私たちの存在を許さない勢力。私たちの国は、私たちで守らないといけない」
「……?」
らいちの言葉の意味が分からない。ふたりはただ、怯えて押し黙る。なにもされていないのに、身体が動かない。
「説明責任は果たすよ。でも何よりも、優先すべきことがある。『国民の生存』。本当はあなた達全ての声を聞きたいけど、時間が足りない。ごめんなさい」
「…………!!」
らいちはそう言い残し、スーツ姿の日本人達の元へ向かって歩いていった。
残された農家の男性は、ただほっと安心した。それは恐怖の女王が去ったからなのか、もっと別の事に、無意識に悟ったからなのかは、本人にも分からない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる