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第54話 ラウム建国!国の名は……!
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少し時間が過ぎた。
怪人の出現頻度は以前に戻り、日に1、2度程度になった。ラウムの居ない今、怪人被害から人類を守れるのは再びシャインジャーのみとなった。今や大勢の戦士が持ち回りで防衛しているため、ひとりひとりの戦士の負担は大幅に少なくなり、過労問題も改善された。
ひかりは毎月、この墓地へ足を運んでいた。この日はかりんの車椅子を押しながら、いつもの道を歩いていた。
「なんか久し振りだね、お姉ちゃん」
「……そうだね。基本的に中国だから」
両足を失ったかりんは、今は主にシャインジャーの人事を任されていた。デスクワークが殆どなので、彼女の負担も少ない。
ひかりはまだらいちの国の警察を代行していた。それに併せて自国での警察組織、軍隊を立ち上げる動きもあり、日本へ戻るのはそう遠く無いだろう。
「ゆりちゃんは大丈夫そう?」
「うん。……まだふとした時に表情が暗くなるけど、一応立ち直ってるよ。前へ進むことだけが私のできることって言ってた」
「……そう」
目的の墓所へ着く。ラウムアビスとの戦争の記念碑と、その隣にあるふたつの墓石だ。
『星野影士』
『優月良夜』
その名前が一番に彼女らの目に入る。
「花が新しい。ゆりちゃんも来たのね」
「ねえ、このふたり、お姉ちゃんとゆりちゃんの恋人だったんでしょ?」
「そう、ね。私の方は昔に振られちゃったけど」
「どんな人だったの?」
「……もう余り思い出せないわね。賢くて、格好良かったと思うのだけど」
「それは、お姉ちゃんは太陽お兄ちゃんと結婚するから?」
「!」
かりんの言葉に、ひかりははっとした。
「違うの?」
ひかりは考える。太陽と一緒になる。不自然には思わないし、どこかでそんなことを思っていた自分も居ただろう。
「まだ、プロポーズはされていないわ」
やっと出した言葉がそれだった。この前のクリスマスもふたりで過ごした。気付けば個人では最も連絡を取り合っているかもしれない。昔から、一番近くに居たのが彼だった。
「ふたりとも忙しいもんね」
「そうね。でも……」
命のバトンを繋ぐのは、生き残った者の使命である。しかし彼の肉体は、もうそれが叶わない。
「大丈夫だよ。きっとうまく行くよ」
「……ありがとう」
ーー
「……どうじゃ?動かしてみろ。お主の精神に合わせたものじゃ」
南原博士は中国へ出張に来ていた。間宮家の技術を用い、アーシャの科学力を合わせ、とある開発に着手していた。
「…………」
研究室に呼ばれたらいちは、その金色の機械を身体に装着する。無くなった両腕の先に、その機械はあった。
「……動く」
「そうだろう」
初めは恐る恐る。徐々に指から動かしていく。グーとパーを数度繰り返してから、らいちの表情は明るくなった。
「凄い!動くよ!何これ!」
機械の腕は、らいちの思い通りに動いて見せた。物を触った感覚もある。本物の腕のように、細かな作業も苦ではない。
「機械義肢の技術は地球でも進められていた。そこへ宇宙科学を持ち寄れば、ほれ。まるで映画のサイボーグだろう。こんなに滑らかに動く」
博士も笑顔を見せていた。こんな小さな少女が敵との戦闘により腕を無くしたのは見ていられるものではなかった。
「これ、脚もある?」
「!」
博士は驚いた。らいちがまず心配したことを。やはりこの子は、賢く強く、とても優しいのだ。
「勿論じゃ。日本へ戻ったらすぐにかりんにも見せるわい」
「凄い!ありがとう博士!大好き!」
らいちは早速、新たな腕で博士に抱き付いた。
ーー
『AIか。ほんまにやるとはな』
らいちが小躍りしながら研究室を出てから、心理が呟いた。彼もこの開発に協力していたが、元々は余り賛成してはいなかったのだ。
「そう言えば、お主らの所では機械知能は禁止じゃったそうじゃな」
『そうや。「本末転倒」になるいう結論になった。機械が全部やって代わるなら、俺ら要らんやないかい、ってな』
「利便性と合理を突き詰めると生き物は無駄が多いという話か。ラウムで『ターミネーター』が起こったのか?」
『いや。起こる前に禁止になったからな。作業自体は楽で便利にした方がええけど「考える」ことだけは俺らがやるべきやってな。何せ「考える」のも「精神」や。そこを怠けさせたらアカンやろ』
「……確かにな。ではこれから地球は滅びるのか?」
『それは知らん。俺らがそういう選択を取ったいうたけで、まだ結果は分からんよ。AIも上手いことやれば全然大丈夫かも知らんし』
「……まあ、国際社会は今更止まらんな。人類最後の敵がアビスでも暴走AIでも」
『変わらん、か。ほんまに強欲な種族やで』
ーー
そして。
ついにこの日がやってきた。
「…………」
強い風が吹く、中国大陸。前年の夏にあった異常気象の爪痕ももうすぐ癒える。
「そろそろ春節だってね」
らいちの隣に立つ未来が呟いた。目の前の巨大な鉄の怪物には、既に国民が全員乗り込んでいる。
「……うん。色々あったけど、ここからが出発だよ」
怪物を背に、振り向く。後ろには実に様々な所からやってきた人達が居る。この歴史的瞬間を一目見ようと集まったのだ。
「ミス・ライチ・イガラシ」
「はい」
らいちに話し掛けたのは、集まった大勢の記者の内のひとりだった。
「国連はあなた方を承認しないそうです」
「……そう、でしょうね。簡単にはいかないことくらい分かっています」
「ですが例え加盟国でなくとも、多くの国から承認を得る国もある」
「……はい。ヴァチカンや台湾のように」
「人界からの隔絶を公約にしていると聞きましたが」
「はい。だから加盟しなくても、未承認でも良いのです。それを意に介さない『武力』と、『友人』が、私たちにはあります」
「……では最後に、あなた方の国の名前を、世界へ公表してください」
勿論この記者はらいち側の仕込みである。今の会話、つまりらいちが伝えたいことは全て、全世界へ報じられる。
「……」
深く深く深呼吸をした。ついにこの日が来たのだ。元中国ラウム100万人。元イギリスラウム700人。ラウムアビス4人。ラウムひとりに、人間の女性ひとり。
そして、女王らいち。
らいちは惜しむように大地を踏み締め、そして飛び上がった。未来は心理に担がれ、らいちと供にする。
聳え立つ山のような鉄の怪物の上に着地したらいちは、それの『起動』を管制官へ告げる。すると怪物は不協和音を嘶かせて動き始める。
強風が烈風になる。近くに居た者達は、煽られて倒れる。
見上げると、もうそれは地上から数メートル浮いていた。
「……これが、ラウムの技術かっ……!」
初めて見る者達は、興奮を隠しきれない。『地平線まで続く』機械の山が、丸ごと空中に浮いているのだ。
「円形らしいな。半径は確か……約15km」
「東京23区とほぼ同じらしい。『それ』が、丸ごと『空中都市』だぜ」
らいちの国が抱える土地の問題。種族国家が違う以上、いつまでも中国には居られない。そこはもう借り物になってしまった。ならばどこへ行けば良いか。難民として国を持たず、世界に散ってしまうことも考えられた。しかし、彼女らは『全員が』『優秀な』科学者である。
土地が無い?。
要らないではないか。
飛べば良いのだ。
『……ふん。ベースは私のサンダーボルトでしょう』
『ええ。感謝しているらしいわ。あの小さな女王は』
『……永住権と罪の不問。国内軟禁と…そして無意識下支配による完全服従。今更だけど、女王の頭の中はどうなっているのかしら』
空中都市の天辺にある、花が植えられた庭園にて。イヴがぼやき、ダクトリーナが微笑む。サブリナが首を傾げた所で、らいちは世界へ向けて、新品であるその金色の腕でマイクを持った。
「国の名は、『アウローラ』!都市の名は『アウラ』!皆、良かったら遊びに来てねーー!」
由来は勿論、「教祖」から。彼女から全ては始まった。人間性や犯した罪は無視できないが、その「功績」自体は称えるべきだとらいちは言う。本人がどう思っていたかすら関係なく、結果的に「他者への貢献」を果たしていたと。それは間違いなく種族ラウムを前進へと導いたと。
意味は『知性の光』『曙の女神』。ローマ神話とギリシア神話に出てくる『黄金の腕を持つ』と云われる女神である。
「いや、行けねーよ」
記者達は揃って突っ込んだ。
ーー
「……じゃ、わたしも行くね」
「うん」
その日かりんはラウムアビス達の庭園に居た。彼女らとは因縁はあれど、もはや敵ではないのだ。アウラと同じく、彼女らは多くを殺したが、より多くの命をこれから救い、護るのだ。
『ミス・カリンはアウローラに住まないのですか』
ダクトリーナが訊ねた。
「うん。わたしは……らいちとは違うから。普通にこれから、学校へ通って、卒業する。就職もしたいな」
『ですがラウムの肉体は精神と比べて成長が著しく遅い。人間と同じスピードでは居られませんよ』
「だろうね。もう既に、背の順じゃわたしが一番小さいよ。だけど」
かりんは立ち上がった。その脚は陽光に照らされ白く輝いている。らいちの腕と同じく、彼女の精神とリンクさせたAIにより、まるで本当の肉体のように自由に動く脚だ。
「ラウムは人間の友達だよ。それを社会で証明し続ける。あんなことがあったけど……科学は、間違いなく地球の文明を発展させられる」
『……と言うことは、ドクター・ナンバラの後を追うと?』
「えへへ。いっぱい勉強しないと」
かりんはその脚で、らいちのもとまで歩み寄る。
「じゃあね、らいち。あんまり遅刻しちゃ駄目だよ」
「私の台詞だよ。……あ」
その時庭園に、もうひとり役者か現れる。今回のアウローラ建国について最大の功労者のひとりである老人だ。
「おじいちゃん!」
博士はゆっくりと階段を登り、彼女らの居る所まで歩いてくる。
「やれやれ。ようやく安定したきたわい。このまま高度を上げるぞ。人間は中へ入れ。凍えるぞ」
「うん。ありがとう博士」
「なんじゃらいち。お主最近それが口癖になっておるぞ」
「……あはは。そうだね。ここ最近は、なんだか皆に感謝しっぱなしかも」
『ドクター・ナンバラ』
「ん?」
話し掛けたのはイヴだった。
『貴方はこの半年、殆ど無償で働き続けました。その博愛と自己犠牲の精神の源はなんなのですか?』
地球の為に、アークシャインで。らいち為に、中国へ。アウローラの為に、今ここで。
アーシャ亡きワープ装置の解明。ワープ妨害装置の発明。宇宙科学兵器の量産。全ての影に、この男が居る。この男なくして地球の勝利は無いと、誰もが断言できるほど、人類へ貢献している。
「……孫が可愛い。それだけじゃ」
博士はかりんとらいちの頭をぽんと撫でた。イヴは得心した。サブリナとダクトリーナも、同じことを思った。
『「それ」こそが正義』
『あなた方なら勝てるでしょう。深淵の侵略者にも』
そのままかりんは手を振って、博士と共にワープした。
ーー
「さて。これから忙しいよ。まず『演武』まだ終わってないしー」
『アレ必要ですか?』
「必要だしー。強い人を上から軍隊に入れるつもりだしー」
新国家アウローラは、『天使の住まう国』『天空王国』として世界から注目を浴びる。
怪人の出現頻度は以前に戻り、日に1、2度程度になった。ラウムの居ない今、怪人被害から人類を守れるのは再びシャインジャーのみとなった。今や大勢の戦士が持ち回りで防衛しているため、ひとりひとりの戦士の負担は大幅に少なくなり、過労問題も改善された。
ひかりは毎月、この墓地へ足を運んでいた。この日はかりんの車椅子を押しながら、いつもの道を歩いていた。
「なんか久し振りだね、お姉ちゃん」
「……そうだね。基本的に中国だから」
両足を失ったかりんは、今は主にシャインジャーの人事を任されていた。デスクワークが殆どなので、彼女の負担も少ない。
ひかりはまだらいちの国の警察を代行していた。それに併せて自国での警察組織、軍隊を立ち上げる動きもあり、日本へ戻るのはそう遠く無いだろう。
「ゆりちゃんは大丈夫そう?」
「うん。……まだふとした時に表情が暗くなるけど、一応立ち直ってるよ。前へ進むことだけが私のできることって言ってた」
「……そう」
目的の墓所へ着く。ラウムアビスとの戦争の記念碑と、その隣にあるふたつの墓石だ。
『星野影士』
『優月良夜』
その名前が一番に彼女らの目に入る。
「花が新しい。ゆりちゃんも来たのね」
「ねえ、このふたり、お姉ちゃんとゆりちゃんの恋人だったんでしょ?」
「そう、ね。私の方は昔に振られちゃったけど」
「どんな人だったの?」
「……もう余り思い出せないわね。賢くて、格好良かったと思うのだけど」
「それは、お姉ちゃんは太陽お兄ちゃんと結婚するから?」
「!」
かりんの言葉に、ひかりははっとした。
「違うの?」
ひかりは考える。太陽と一緒になる。不自然には思わないし、どこかでそんなことを思っていた自分も居ただろう。
「まだ、プロポーズはされていないわ」
やっと出した言葉がそれだった。この前のクリスマスもふたりで過ごした。気付けば個人では最も連絡を取り合っているかもしれない。昔から、一番近くに居たのが彼だった。
「ふたりとも忙しいもんね」
「そうね。でも……」
命のバトンを繋ぐのは、生き残った者の使命である。しかし彼の肉体は、もうそれが叶わない。
「大丈夫だよ。きっとうまく行くよ」
「……ありがとう」
ーー
「……どうじゃ?動かしてみろ。お主の精神に合わせたものじゃ」
南原博士は中国へ出張に来ていた。間宮家の技術を用い、アーシャの科学力を合わせ、とある開発に着手していた。
「…………」
研究室に呼ばれたらいちは、その金色の機械を身体に装着する。無くなった両腕の先に、その機械はあった。
「……動く」
「そうだろう」
初めは恐る恐る。徐々に指から動かしていく。グーとパーを数度繰り返してから、らいちの表情は明るくなった。
「凄い!動くよ!何これ!」
機械の腕は、らいちの思い通りに動いて見せた。物を触った感覚もある。本物の腕のように、細かな作業も苦ではない。
「機械義肢の技術は地球でも進められていた。そこへ宇宙科学を持ち寄れば、ほれ。まるで映画のサイボーグだろう。こんなに滑らかに動く」
博士も笑顔を見せていた。こんな小さな少女が敵との戦闘により腕を無くしたのは見ていられるものではなかった。
「これ、脚もある?」
「!」
博士は驚いた。らいちがまず心配したことを。やはりこの子は、賢く強く、とても優しいのだ。
「勿論じゃ。日本へ戻ったらすぐにかりんにも見せるわい」
「凄い!ありがとう博士!大好き!」
らいちは早速、新たな腕で博士に抱き付いた。
ーー
『AIか。ほんまにやるとはな』
らいちが小躍りしながら研究室を出てから、心理が呟いた。彼もこの開発に協力していたが、元々は余り賛成してはいなかったのだ。
「そう言えば、お主らの所では機械知能は禁止じゃったそうじゃな」
『そうや。「本末転倒」になるいう結論になった。機械が全部やって代わるなら、俺ら要らんやないかい、ってな』
「利便性と合理を突き詰めると生き物は無駄が多いという話か。ラウムで『ターミネーター』が起こったのか?」
『いや。起こる前に禁止になったからな。作業自体は楽で便利にした方がええけど「考える」ことだけは俺らがやるべきやってな。何せ「考える」のも「精神」や。そこを怠けさせたらアカンやろ』
「……確かにな。ではこれから地球は滅びるのか?」
『それは知らん。俺らがそういう選択を取ったいうたけで、まだ結果は分からんよ。AIも上手いことやれば全然大丈夫かも知らんし』
「……まあ、国際社会は今更止まらんな。人類最後の敵がアビスでも暴走AIでも」
『変わらん、か。ほんまに強欲な種族やで』
ーー
そして。
ついにこの日がやってきた。
「…………」
強い風が吹く、中国大陸。前年の夏にあった異常気象の爪痕ももうすぐ癒える。
「そろそろ春節だってね」
らいちの隣に立つ未来が呟いた。目の前の巨大な鉄の怪物には、既に国民が全員乗り込んでいる。
「……うん。色々あったけど、ここからが出発だよ」
怪物を背に、振り向く。後ろには実に様々な所からやってきた人達が居る。この歴史的瞬間を一目見ようと集まったのだ。
「ミス・ライチ・イガラシ」
「はい」
らいちに話し掛けたのは、集まった大勢の記者の内のひとりだった。
「国連はあなた方を承認しないそうです」
「……そう、でしょうね。簡単にはいかないことくらい分かっています」
「ですが例え加盟国でなくとも、多くの国から承認を得る国もある」
「……はい。ヴァチカンや台湾のように」
「人界からの隔絶を公約にしていると聞きましたが」
「はい。だから加盟しなくても、未承認でも良いのです。それを意に介さない『武力』と、『友人』が、私たちにはあります」
「……では最後に、あなた方の国の名前を、世界へ公表してください」
勿論この記者はらいち側の仕込みである。今の会話、つまりらいちが伝えたいことは全て、全世界へ報じられる。
「……」
深く深く深呼吸をした。ついにこの日が来たのだ。元中国ラウム100万人。元イギリスラウム700人。ラウムアビス4人。ラウムひとりに、人間の女性ひとり。
そして、女王らいち。
らいちは惜しむように大地を踏み締め、そして飛び上がった。未来は心理に担がれ、らいちと供にする。
聳え立つ山のような鉄の怪物の上に着地したらいちは、それの『起動』を管制官へ告げる。すると怪物は不協和音を嘶かせて動き始める。
強風が烈風になる。近くに居た者達は、煽られて倒れる。
見上げると、もうそれは地上から数メートル浮いていた。
「……これが、ラウムの技術かっ……!」
初めて見る者達は、興奮を隠しきれない。『地平線まで続く』機械の山が、丸ごと空中に浮いているのだ。
「円形らしいな。半径は確か……約15km」
「東京23区とほぼ同じらしい。『それ』が、丸ごと『空中都市』だぜ」
らいちの国が抱える土地の問題。種族国家が違う以上、いつまでも中国には居られない。そこはもう借り物になってしまった。ならばどこへ行けば良いか。難民として国を持たず、世界に散ってしまうことも考えられた。しかし、彼女らは『全員が』『優秀な』科学者である。
土地が無い?。
要らないではないか。
飛べば良いのだ。
『……ふん。ベースは私のサンダーボルトでしょう』
『ええ。感謝しているらしいわ。あの小さな女王は』
『……永住権と罪の不問。国内軟禁と…そして無意識下支配による完全服従。今更だけど、女王の頭の中はどうなっているのかしら』
空中都市の天辺にある、花が植えられた庭園にて。イヴがぼやき、ダクトリーナが微笑む。サブリナが首を傾げた所で、らいちは世界へ向けて、新品であるその金色の腕でマイクを持った。
「国の名は、『アウローラ』!都市の名は『アウラ』!皆、良かったら遊びに来てねーー!」
由来は勿論、「教祖」から。彼女から全ては始まった。人間性や犯した罪は無視できないが、その「功績」自体は称えるべきだとらいちは言う。本人がどう思っていたかすら関係なく、結果的に「他者への貢献」を果たしていたと。それは間違いなく種族ラウムを前進へと導いたと。
意味は『知性の光』『曙の女神』。ローマ神話とギリシア神話に出てくる『黄金の腕を持つ』と云われる女神である。
「いや、行けねーよ」
記者達は揃って突っ込んだ。
ーー
「……じゃ、わたしも行くね」
「うん」
その日かりんはラウムアビス達の庭園に居た。彼女らとは因縁はあれど、もはや敵ではないのだ。アウラと同じく、彼女らは多くを殺したが、より多くの命をこれから救い、護るのだ。
『ミス・カリンはアウローラに住まないのですか』
ダクトリーナが訊ねた。
「うん。わたしは……らいちとは違うから。普通にこれから、学校へ通って、卒業する。就職もしたいな」
『ですがラウムの肉体は精神と比べて成長が著しく遅い。人間と同じスピードでは居られませんよ』
「だろうね。もう既に、背の順じゃわたしが一番小さいよ。だけど」
かりんは立ち上がった。その脚は陽光に照らされ白く輝いている。らいちの腕と同じく、彼女の精神とリンクさせたAIにより、まるで本当の肉体のように自由に動く脚だ。
「ラウムは人間の友達だよ。それを社会で証明し続ける。あんなことがあったけど……科学は、間違いなく地球の文明を発展させられる」
『……と言うことは、ドクター・ナンバラの後を追うと?』
「えへへ。いっぱい勉強しないと」
かりんはその脚で、らいちのもとまで歩み寄る。
「じゃあね、らいち。あんまり遅刻しちゃ駄目だよ」
「私の台詞だよ。……あ」
その時庭園に、もうひとり役者か現れる。今回のアウローラ建国について最大の功労者のひとりである老人だ。
「おじいちゃん!」
博士はゆっくりと階段を登り、彼女らの居る所まで歩いてくる。
「やれやれ。ようやく安定したきたわい。このまま高度を上げるぞ。人間は中へ入れ。凍えるぞ」
「うん。ありがとう博士」
「なんじゃらいち。お主最近それが口癖になっておるぞ」
「……あはは。そうだね。ここ最近は、なんだか皆に感謝しっぱなしかも」
『ドクター・ナンバラ』
「ん?」
話し掛けたのはイヴだった。
『貴方はこの半年、殆ど無償で働き続けました。その博愛と自己犠牲の精神の源はなんなのですか?』
地球の為に、アークシャインで。らいち為に、中国へ。アウローラの為に、今ここで。
アーシャ亡きワープ装置の解明。ワープ妨害装置の発明。宇宙科学兵器の量産。全ての影に、この男が居る。この男なくして地球の勝利は無いと、誰もが断言できるほど、人類へ貢献している。
「……孫が可愛い。それだけじゃ」
博士はかりんとらいちの頭をぽんと撫でた。イヴは得心した。サブリナとダクトリーナも、同じことを思った。
『「それ」こそが正義』
『あなた方なら勝てるでしょう。深淵の侵略者にも』
そのままかりんは手を振って、博士と共にワープした。
ーー
「さて。これから忙しいよ。まず『演武』まだ終わってないしー」
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