遥かなるマインド・ウォー

弓チョコ

文字の大きさ
61 / 68

第59話 幕間 過去と未来の仮説③

しおりを挟む
『馬鹿な』
 声を挙げたのは、イヴだった。その声は大空に吸い込まれ、太平洋に飲まれて行った。
『……アビスとは人間の精神が生み出した怪物であり、10年前に星野兄妹がそれを認知した時、我々ラウムへの侵略を含めた「1万年の歴史」が出現した……と?』
 イヴの感情を言葉に纏めたのは、頬杖を突いて興味の無さそうに聴いていたサブリナだった。
『まるで「オムファロス仮説」のようね。全く荒唐無稽で意味不明な誇大妄想……にしか聞こえないけれど』
「だから仮説って言ったじゃん。でも根拠はあるよ」
 未来は痛烈なサブリナの言葉にも動じなかった。
「アビスが『古代の地球』に居た『証拠』がある。見付かり始めたのは丁度10年前から」
『!』
「アビスは確実に『居た』。そして地球を出て、あらゆる星を侵略して、戻ってきた。だけど時間軸が合わないの。彼らが地球を出て戻ってくるまでの期間じゃ、こんなに色んな種族を滅ぼせない」
『では仮説は立証できないのでは?』
「いや。それこそが仮説を裏付ける。やっぱり世界は『人間の意識』が創ってるってね」

ーー

【我々は、元々この惑星の住人だった】
 彩の中の王は、静かに告げる。
【実際の事実とは関係無く、「皆が『そう』信じれば世界は『そう』なる」という社会の本質を見抜き、それにより文明を発展させてきた】
 それは彩が、ここのところ毎日見る夢だった。彩は、彼が何かを伝えようとしているのだと思い、必死にそれを聴いていた。
【やがて思い通りに世界を動かす為、支配階級を除いて全ての精神を支配した。……ああ、思い通りというのは、何も利己的なものではない。種族が繁栄しそれを維持するための施策だ。利己的な者などアビスには存在しない。それはお前が一番分かっているだろう】
 言葉ひとつ漏らさず、仲間へ伝えるため。勿論メモなど持ち込めない。彩自身が理解できなくとも、仲間の誰かが分かれば良い。
【やがて我々は、社会を持続させる『精神』が、足りないことを察した。外部から精神力を取り込まなければ生存ができない。このエネルギー問題が発覚した時には、地球上に『知的生命』は我々しか居なかった】
 アビスの歴史は1万年といつか聞いた。ならばそのくらい前に、彼らは地球に居たのだろうか。
【我々は地球を棄てた。それからはお前の知る通り、侵略種族だ。″アルラフ″、″アミタュス″。″テオス″…″ラウム″。実に4種族を侵略し滅ぼした】
 彩の脳内に、4つの種族を侵略するシーンが浮かんだ。王の記憶だろうか。どれも悲惨な戦争であった。
【そして次の標的としたのが″テラ″。地球の人間を我々はそう呼んでいる。…その呼称は人間の言葉だがな。お前達は元テラだ。この言葉の方が理解しやすかろう】
 彩はここでひとつ、疑問を持った。彼らをテラと呼ぶのなら、アビスとは。
【元々は我々がテラだったがな。この世界は人間の精神に合わせて変化する以上、区別するために″スタアライト″が新しくアビスと名付けたのだ】

「……だったら」

 彩はもうひとつ、疑問を持った。

「今、私たちは6人にまで減ったけど、そのお陰でエネルギー問題は出てないよ。これからも下位アビスが人間を拐うだけで保たれるなら、もう一度戦争を仕掛ける意味は無いんじゃないかな」

【私は地球へ来てより、死ぬまで。常に『空腹』であった】

「えっ」

【着地で″スーパーノヴァ″。仲間の元へ向かう途中で″フェニックスアイ″。仲間達から″グランシャリオ″の砲撃能力、″サテライト″の飛行能力。そしてクリアラウムから特殊ワープ能力。それらを食してなお、私の消費に見合わなかった】

「……」

【アヤ。アビスを存続させるには、『姫』が必要だ】

「分かってるよ。……もうお腹、結構おっきくなったよ」

【『子』が欲する精神力とは、人間がどれだけ必要だと思う】

「!」

 子とは、アビスの子。彩のお腹に宿る、アビスの子。それは王の血を受け継いでおり、勿論消費量は、今しがた王が説明したように。
【『姫』はクリアアビスと『姫』を産む。急がなくては、大事な子が死んでしまう。アヤ。お前も必要になる】
 彩は名を呼ばれてびくりと身体を震わせた。嫌な予想が当たる時のような感覚。まさか…という恐怖。
【早急に戦争に勝利しテラの文明を終わらせ、家畜として管理しなければ我々は滅ぶ。アヤお前は、『子』と『他種族』、どちらを選ぶ?】

「……」
 彩は強ばった表情を見せてから固く目を閉じ、そして開けた頃には瞳に決意が宿っていた。
「そんなの決まってる。大丈夫。子供達は私に任せて、ゆっくり休んでよ。私もら、そっちに行くから」
【……そうか】
 彩の目の前に立つランスは。
 膝を折って、彩を抱き締めた。

【言葉も無い……!】
「……」
 ランスの手と声は震えていた。
 それは彼が彩を心から信頼し、初めて出した感情であった。
「あっ」
 しばらくそうしていると、ランスの身体が光に包まれ、存在が薄く消えかかる。
 これからどうなるのか。彩は察した。
「ランスさん」
【!】
 彩も抱き返す。細い腕で彼の頭を優しく包む。
「月並みだけど、最後に言わせて」
 そしてゆっくりと離し、目を合わせる。
「大好きだよ。愛してる。11年前からずっと、見守ってくれてたんだね」
『……アヤ』
「お兄や皆によろしく。義兄だからって気を遣わなくて良いからね」
 そうして彼は消えた。

ーー

「……ん」
 目を覚ます。昨日のことはきちんと覚えている。だが恐らく、もう夢には出てこないだろうことを、彩は直感していた。そして感じた。昨日までとは比べ物にならない程の空腹を。
「……お節介だよね。死んでも色々出てくるなんて」
 本当のお別れである。一抹の寂しさはあったが、彩もまた、その身に宿る未来へ向けて動き出す。

ーー

 同時刻。地球の地下深く。
「……これは」
 フィリップ達はそれを見付けていた。ランスの指示したものを。
「『人類が未確認』のものは、『存在する』。『無い』と実証されなければ『有る』。世界の在り方を逆手に取ったってこと?」
「……すまん、よく分からん」
 コロナが呟くが、実はフィリップは王の説明を深くは理解していなかった。
「つまりは『人間に勝つ秘策』でしょ。歴史の話なんかしても戦争に勝てる訳じゃないしね。王様が夢枕にまで立って伝えたかったことはーー」
 大昔に神や宇宙人が飛来し、数々の逸話を残して消えた。そんな伝説は世界各地で散見される。
 『それ』はどこへ行ったのか?
 ずっと、地球に在ったのか。
 人類が探しても、1000年や2000年では見付けられない場所とは。
 『何』が在るのか。
 それはーー

ーー

「『ロマン』だよ。皆さん」
 未来は得意気に紡ぐ。彼女自身の研究成果を。
「本当はこの場にお姉ちゃんと、出来れば向こうの王様と姫も居たら良かったんだけど」
「悪いな。逃がしちまって」
 太陽が頭を掻く。だが彼の責任では無いことはこの場の全員が理解している。
『だけど、このメンバーである理由は聞きたいですね。ミス・ユリや、ドクター・ナンバラは良いのですか。それにシャインジャー……ミスター・サイゴーやミスター・オノヅカも』
 続いてダクトリーナが疑問を口にする。
「…これはアウローラもアークシャインも関係無い。『ラウム関係者』のトップ達に集まって貰ったの。『アビス代表』としてあの3人も欲しかったってだけ。『人間』には、あまり話したくなくてね」
 そう言う未来は、ラウムと結ばれた女性。相手は純ラウムの心理。
 イヴ、サブリナ、ダクトリーナは当事者。
 太陽とかりんは、アーシャの血を承けた眷族。
「私は?」
 ひかりが手を挙げた。それを見た未来はぽかんとして首を傾げた。
「あれ?私と一緒でしょ?」
「!」
 その場の全員の視線がひかりへ向き、そして太陽へ注がれ、またひかりへ戻った。
「…………分かったから、もぅ」
 真っ赤になったひかりは小さく肩をすぼめた。
「はい。続けるよ?そんなわけで、私達ラウムは地球の侵略戦争には基本『部外者』だから、客観的にこの戦争を考察できる。当事者も居るけど、私と心理は客観だから安心して?」
 未来が手をぱんと叩き、視線を再度集める。
「さて。何故『人間』が世界を作れるのか。もっと言うと、『人間の精神』が世界を作り変えるのか。アビスやラウムの高度な知性ではなく人間が。それは単純に『数』だよ。今、80億もの同じ種族の知的精神が集まる銀河はここだけだから。精神力の『総量』でいうとアビスもラウムも敵わない。『地球人類』がぶっちぎりでトップ。だから世界は、彼らを中心に廻る」
『…………ふむ』
 妙に納得した表情のダクトリーナは、しかし疑問を投げ掛ける。
『それは実際に起こっている事象から仮説を立てたのでしょうけど……ミス・ミライ。貴女の「根拠」はアビスの旧地球人類説のみでしょう。どうやってそこまで行き着くのですか?』
 宇宙科学の一人者である彼女らでも、未来の仮説には懐疑的になっていた。
「日本と中国に『あった』からね。『宇宙人飛来の過去』と『精神力を用いる技術』が、1000年以上前に」
『……あった?』
「出雲大社の宮司家に残る『宇宙船の設計図』。そして皆ご存知『中国拳法』。このふたつが決定的かな」
「宇宙船の、設計図?」
 ひかりが反復する。
「うん。それがーー」
「ちょっと待って」
「!」
 未来の説明を遮る声がした。凛と鳴る鈴の音のような、意志の強い美しい声。
 らいちだ。今まで黙って静観してた彼女が、遂に口を開いた。
「地球とアビスの関係も気になるけど、問題は『そこ』じゃない。未来ちゃんがこの話を私達にして、何を目的にしているか、だよ」
「……」
 らいちは、未来を自国へ置きながら、その『厄介さ』を常に計っていた。通常の会話ならばただの仲の良い友人だが、『こういう話をする時』の彼女は、何か『きなくさい』と、らいちの嗅覚が告げていた。
「意志の伝達により人の行動は変わる。『共感』を伴ってね。映画を見て泣くのと一緒。未来ちゃん。私達をどうしたいの?」
 鋭く問うらいち。
「要は『いまいち要領を得ない』ってことだよ。答え合わせって言ってたけど、ただの情報共有な訳無いよね?」
 ずばりと言う。受けた未来は不敵に笑った。
「……うんごめん。じゃ結論言うね」
 皆の視線が改めて未来へ向いた。
「『人間とアビスは共存できる』。何故なら。彼らは元『地球人』だから。だから……殺し合うような戦争を止めて、お互い手を取り合って生きていこう?そして私達から、歩み寄ろう?」
「!」
『……馬鹿な』
 再びイヴが声を挙げた。



ーー
※オムファロス仮説
 人からは産まれず、神に創られた筈のアダムとイヴが、へそ(オムファロス)を持っていた(親から産まれた証拠)ことから、『初めからそのような状態で産まれた』という議論のひとつ。
 ここでは『1万年の歴史を持った状態』で10年前にアビス達が産まれたと未来は唱えている。
 世界五分前説やスワンプマンなども参考に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

異世界で農業を -異世界編-

半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。 そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...