GLACIER(グレイシア)

弓チョコ

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第78話 ローゼ帝国の怪盗アルコ

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「せーの♪」

 最強の武器。
 それが持つべき特徴は何か。少なくとも、このミェシィという少女が振るう大剣『海を割る剣』は、候補に挙がるだろう。ひと振りで、『街』を半壊させる威力がある。
 三度、それが振るわれた。建物もその瓦礫も根こそぎ力づくで滅茶苦茶に、更地になった。

「……避けるの上手いねー♪」

 額に手を当てて、キョロキョロと見渡す。恐らくサーガにもマルにも、この攻撃は当たらなかった。

「一撃放つごとに大量の砂塵が舞う。その剣の使用者は、自ら視界を遮ってしまうことになる。当たらなければ、それはもう致命的ですよ」
「そこかー♫」

 破壊を免れた建物の屋上に、サーガが目立つように立っていた。ミェシィが大剣を構える。地面と屋上で距離があるが、この程度ならば『海を割る剣』の破壊の波は届く。

「せーの♫」

 一瞬で、建物は粉々になった。だが寸前で、サーガが飛び上がったのを確認した。またミェシィがキョロキョロする。別の建物に、サーガは居た。

「身軽だねー♪」
「『怪盗アルコ』。一応、帝国首都では名が知られていたんですけどね。貴女は若いですし、知りませんか」
「知らなーい♬ 帝ーこくって、この剣の?」
「その通り。私はローゼ帝国出身なのですよ。サーガ・アルコ。実は生まれは貴族でした。エフィリス達には、内緒ですよ」

 ミェシィの持つ『海を割る剣』は、ローゼ帝国から盗まれたものだ。その所持者と戦っていることに、サーガは数奇な運命を感じていた。

「せーの♪」

 ズドン。また破壊される。だが、サーガはやはり躱していた。ミェシィの背後の建物の上に飛び移っていた。

「だからかなー? ずっと避けられてるね♬」
「それ、昔私が見付けたトレジャーですからねえ」
「ふーん♪ ……へっ?」

 サーガは。
 エフィリスが『雇った』と言っていた。エフィリスが、サーガの能力を必要としたのだ。それまでは別にチームではなかった。

「怪盗してましたがヘマをして捕まり、この身軽さを買われて帝国に強制的にトレジャーハンターをさせられていました。斥候としてね。その時のトレジャーです。エフィリスと出会う前ですから、彼も知らないことです。ああ、内緒でお願いしますね」

 サーガも、傷だらけである。余裕そうに振る舞っているが、限界寸前だ。もう、そう何度も躱せないだろう。

「ふふーん。でも今はわたしに『適応』してるよ♫ 残念だったね♪」
「(やはり子供。既にもう、マルさんのことは頭から離れている。しかし、まだ引き付ける。完全に隙を見せるまで)」

 いくら『適応』しているとは言え。あの剣は使い手も酷く消耗する。サーガはそれを知っているのだ。向こうも避けられると分かって乱発はできない筈。そもそも『一撃必殺』の剣だ。何度も振るうものではない。

「せーの♪」

 だが、ミェシィは屈託の無い笑顔を崩さず剣を振るう。自身を省みない攻撃だ。破壊の規模も、徐々に小さくなっている。

「そろそろ疲れてきませんか?」
「なんのっ♫」

 さらに追撃。サーガはなんとか直撃を防いだが、破片が背中に当たってしまった。

「……ぐっ」

 だが、弱味は見せない。幸い背中なら隠せる。

「……ふぅ。まだまだ行けるよっ♪」
「(ようやく息が切れてきましたか)」

 身体はガタガタである。このまま続けていれば、サーガの方が先に潰れるのは確実だ。攻撃をするより、避ける方が不利なのは当然である。1回でも避け損なうと即死するのだから。

「(マルはまだ、複雑な作戦は理解できない。シンプルに、私が囮になるしか無い。これしか無いんです)」
「よいしょっ♫ せーっのっ!」

 ミェシィの動きも、段々と遅くなってくる。次の攻撃では威力が殆ど半分程度になった。

「……——!」

 だが、サーガも足が限界だった。避け損なってかすってしまい、遂に倒れた。

「(……ここまでですか)」
「よーし♫ やっと当たったぁ! じゃあトドメだね♪」

 ミェシィが近付いてくる。その大剣は、何も能力を使わずとも良い。普通に剣として使うだけで強力な凶器だ。

「じゃあねおじさん♫」

 無慈悲な笑顔のまま、大剣が振り下ろされた。

「!」

 瞬間に。

「——あれ?」

 ミェシィの胸から、銃弾が貫通した。

「…………っ!!」

 が、剣の勢いは止まらない。サーガを両断しようと、刃が彼の肩に食い込んだ。
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